近年は撮影機材の技術進歩やSNSの普及により、フィールドで観察・採捕した生物の写真を撮影する機会が増加しています。特にタナゴ類は美しい色彩や種の多様性といった魅力から人気が高く、SNSやインターネット上でも多くの写真を見かけます。
一方、納得のいく写真を撮影するためにはある程度の”コツ”を掴む必要があり、中には「どういった点に気を付ければよいのか分からない」「ハードルが高い」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本ページでは、今後の写真撮影に資することを目的として、当Webサイトでご紹介しているタナゴ類の”白バット写真”について、撮影手法と留意点を整理・紹介します。管理人の考えやこれまでの試行錯誤に基づく一例にすぎませんが、ほんの一部でも撮影の参考となれば幸いです。
(更新日:2024/8/19)
タナゴ類をはじめとする淡水魚生体の撮影手法としては、大きく分けて以下の4つの手法が主流となっています。
① 白バット写真・・・水を張った白色バットに魚をのせて撮影する手法(図-1)
② 観察ケース写真・・・アクリル製の観察ケースに魚を入れて撮影する手法(図-2)
③ 手乗せ写真・・・手のひらに魚をのせて撮影する手法(図-3)
④ 水中写真・・・防水対策を施した機材で水中の魚を撮影する手法
図-1 白バット写真
図-2 観察ケース写真
図-3 手乗せ写真
これらの撮影手法は各々異なる強みを持っているので、撮影の目的に応じて適切な手法を選択するとよいです。例として、手乗せ写真では「採捕した個体に対する愛着」や「採捕者の達成感」といった心情がよく表現できることから、「体験の記憶」を目的とした撮影に適しています。また、水中写真では採餌行動や繁殖行動など「観察個体の行動」を表現できるため、他の手法では難しい「生態の記録」を目的とした撮影に適しています。
当Webサイトでご紹介している白バット写真は、一言でいえば「標本写真と生体写真のいいとこ取り」であり、採捕個体を生かしたまま体型や色彩などの形態を客観的に表現することに長けているため、「形態の記録」を目的とした撮影に適しています。特に、個体・水系・種ごとの形態差を比較する場合など、標本写真と同じように活用できる点が強みです(図-4)。また、標本写真や水中写真のように特殊な技術・機材を必要としないため、初心者でも比較的チャレンジしやすい撮影手法だと言えます。
図-4 九州地方の4水系で採捕したカネヒラの形態比較
白バット写真の撮影を行う際には、以下の機材を用意します。
①カメラ
②白バット
③水汲みバケツ(2つ)
<カメラ>
各々好みのメーカー・機種を使用すればよいですが、画質を重視する場合はフルサイズ一眼+単焦点マクロレンズの組み合わせをお勧めします。特に、タナゴ類のような最大10cm程度の個体を対象とした白バット写真撮影では、「描写力に優れていること」「被写体に近寄れてトリミングを最低限に抑えられること」から、100mm前後のマクロレンズが絶大な威力を発揮します。(※管理人はEOS 5D Mark IV+EF100mm F2.8Lマクロ IS USMを使用しています。)
<白バット>
白バットは、100円ショップで入手できる樹脂製のもので十分です。なお、製品によっては中央に丸い成型痕が残っており、写真の仕上がりにも影響するため、予めサンドペーパーで削り平滑にしておきましょう。また、何度か使用するうちに表面に傷が入った場合にも、同様にサンドペーパーで傷消しを行います。
<水汲みバケツ>
水汲みバケツは、採捕した魚の収容に用いるバケツと白バットへの給水に用いるバケツを別に用意します。1つのバケツを兼用すると、収容した魚の糞などが混入して写真の仕上がりに大きく影響するため、白バットへの給水専用のバケツを用意し、清浄な水を用いて撮影を行うことが重要です。
白バット写真の大まかな撮影手順は以下のとおりです。
① 水平な場所に白バットを設置し、給水用のバケツを用いて予め水を薄く張っておく。
② 魚を採捕したら、収容用のバケツで糞などの汚れを落とし(釣りの場合は針を外す)、素早く白バット上へ魚を移す。
③ 魚の位置を調整し、撮影する。
(1)撮影のタイミング
採捕時の色彩を忠実に記録するため、写真撮影は採捕直後に手早く行います。タナゴ類の場合、特にヤリタナゴやバラタナゴの婚姻色は採捕直後から色落ちが始まり、腹部の黒い縁取りや朱色が早々に失われる上に、バケツに収容することで全体的に白っぽく退色してしまいます。タビラ類では、逆にバケツに収容すると不自然に黒ずんだ体色に変わってしまうことが多いです。採捕時の色彩は、個体の成熟度や生息場所の違いが反映されたものであると考えられますので、その個性を最大限写真に落とし込むためにも、採捕直後の撮影をお勧めします。また、生体を対象とした撮影であることから、個体へのダメージを最小限とするため、同一個体の撮影はごく短時間で終えるようにしましょう。
(2)天候
撮影を行う天候は、発色およびカメラの設定面から、晴天がベストです。ここではニッポンバラタナゴを例として、晴天時と曇天時の写真比較を図-5,6に示しますが、晴天時(図-5)は太陽光によって魚体の発色が最大限に引き出されていることが分かります。一方で、曇天時(図-6)は発色がややくすんでしまっており、カメラの設定もISO感度を上げるなど全体的に条件が厳しくなります。また、風が強い日は白バットに張った水が波立ち、舞い上がった砂埃が混入するなど、こちらも撮影条件としては厳しくなるため、極力風のない穏やかな日を選ぶとよいです。
図-5 晴天時の写真
図-6 曇天時の写真
(3)時間帯
撮影を行う時間帯は、概ね「日の出時刻の3~4時間後」および「日の入時刻の3~4時間前」がよいです。晴天時の撮影は、太陽高度によって反射や影の状況が変化します。太陽高度が低すぎる朝夕の時間帯は、魚体がやや陰って暗い発色となり、周囲に大きく伸びた影に隠れて鰭などが暗くなってしまいます(図-7)。逆に太陽高度が高すぎる真昼の時間帯は、反射によって魚体の発色が非常に悪くなってしまいます(図-8)。
図-7 太陽高度が低すぎる場合(朝夕)
図-8 太陽高度が高すぎる場合(真昼)
(4)光線の向き
特に意図がない場合、撮影時は真正面に太陽が来るように位置取りし、魚の背側から太陽光が当たるように撮影するとよいです。魚の発色は光を当てる向きによって大きく異なりますが、背側から光を当てることで自然な発色となります。また、撮影者自身の影が写り込むことも防げます。
図-9 背側から光を当てた場合
図-10 腹側から光を当てた場合
(5)白バットの水量
タナゴ類のように比較的平たい体型の場合、白バットに張る水量は魚体の厚みの半分程度とすることで、鰭が上手に開き、なおかつ尾鰭側に生じる影を最小限に抑えることができます。一方で、アブラボテは魚体にぬめりがあり、通常の水量では魚体が鏡のように反射してしまいます(図-11)。この場合、水量を増やして魚体を完全に水没させて撮影するとよいです(図-12)。ただし、水量が多いとシビアな水平取りが要求されるほか、魚が撮影位置から動いてしまうリスクも高まるため、撮影の難易度は上がります。また、汚れの混入は写真の仕上がりに大きく影響するため、白バットに張った水は1尾撮影するごとにこまめに交換します。
図-11 通常の水量で撮影したアブラボテ
図-12 水量を多めにして撮影したアブラボテ
(6)撮影時の姿勢
手ブレを防ぎ構図を安定させるため、片膝立ちの姿勢で撮影します。左手は魚の位置調整に使用し、カメラは右手のみでホールドするため、立てた左膝で右腕を支えるのがポイントです。なお、ファインダーを装備した機種の場合は、ファインダーを使用することで顔でもカメラを支えることができ、安定感が増します。
(7)カメラ設定
白バット写真は、バット上のほぼ静止した魚が撮影対象であるため、「絞り優先モード」での撮影をお勧めします。このとき、特に単焦点マクロレンズでは被写体深度が浅くなりがちなので、絞り値をある程度大きく設定しておきます(ただし、絞りすぎは画質が劣化するので注意)。ISO感度はシャッタースピードが確保できる範囲で極力下げたほうがよいですが、手ブレおよび被写体ブレ(特に胸鰭や鰓蓋、口の動きに注意)を起こさないよう、両者のバランスを考慮して設定します。ピントは通常、眼~鰓蓋付近に合わせると上手く合焦する場合が多く、測距点を任意に設定できる機種の場合は、予めその位置に設定しておくとよいです。ただし、産卵期の雌など腹部が大きく膨らんだ個体の場合は、やや腹部寄りでピントを合わせるようにします。
(8)構図の組み方
基本的な構図の組み方は図-13に示すとおりで、上下および左右の余白がそれぞれ均等になるようにバランスよく中央に魚を配置して撮影します(※ニッポンバラタナゴの雌など産卵管が非常に長い場合は除く)。余白は詰めすぎず空けすぎずがベストですが、フィールドで完璧な構図を組むことは困難なので、多少の余裕を持たせて撮影しておき、トリミングで調整するのが良いでしょう。
撮影個体のポージングは、「体を曲げていない」「鰭を開いている」状態がベストです。また、雌の場合は産卵管を臀鰭の前に出しておくと、産卵管の長さの違いがよくわかるのでお勧めです。
なお、撮影時には背景にゴミや気泡、波が入らないように気を付けて撮影しましょう(撮影後の画像処理が大変)。
図-13 基本的な構図の組み方
撮影時に細心の注意を払っても、背景には多少のゴミや気泡がどうしても写り込んでしまいます。これらは、撮影した画像をパソコンに取り込んでから、画像編集ソフトのブラシツール等を利用して除去するとよいです(図-14,15)。また、晴天時に白背景で撮影すると、実際よりも暗い仕上がりとなる場合がある(←カラクリの説明等は省略します)ため、その場合は明るさを補正します。そのほか、余白の調整は適宜トリミングを行うことで対応します。
図-14 画像処理前
図-15 画像処理後(背景のゴミを消去)
今後の撮影で気付いた点があれば随時追加していきます。