2016年9月17日部室企画 担当:sora(37期)
みんなインディーロックで大人になった (Definitely, maybe…)
ロック好きな37期企画長がインディーロック(Indie Rock)のおすすめを紹介。
インディーロック(Indie Rock)とは
言葉通りに言えばメジャーレーベル(ユニバーサル, ソニー, ワーナー, 今はなきEMIなどの大手)ではなくインディーレベールに所属するロックバンドの音楽のことです。80sの音楽産業は商業主義の全盛をきわめ、メジャーレーベルからは商業ロックと揶揄される、大規模なステージで売れ線の音楽をやる中身のないロックバンドが数多く登場しました。その裏で、DIY精神に溢れ、メインストリームの流行とは無縁に独自の路線を貫く音楽オタクたちが大量発生。彼らは自分たちのコミュニティを形成し、NMEなどの音楽メディアに取り上げられるなど次第に注目を集めるようになりました。インディーレベールに所属する彼らの音楽性は多様で、時に革新的で様々なジャンルのムーブメントが勃興しますが、商業主義とは無縁に優れた音楽を生み出し続けている点でどのバンドも共通します。90sの隆盛を経て現在ではロックの中核となったインディーロックは、もはやメジャー所属であっても、その音楽的志向がインディー精神にのっとたものならばインディーと語ってよく、幅も奥行もあるその世界を、一口に説明することは困難です。今回はその一端を、僕の好みに偏るものの、レーベルという観点に注目して見ていこうと思います。
■UK編
80sはネオアコ系(indie pop)が多く、その後80s末から90s初頭にかけてハウスとロックが融合したマッドチェスター、ノイズを積極的にとりいれたシューゲイザーといったムーブメントが勃興。米グランジブームの陰に追いやられた時代を経て、90sには60s英ロックなどに影響された英国らしさを重視するブリットポップが爆発的に流行した。
Creation Records:
英国の伝説のインディーレーベル。83年創設。創設者アランマッギーが凄いバンドを発掘しまくった。このレーベルなくして英ロックは語れない。初期から在籍したバンドにThe Jesus and Mary Chain, Primal Scream, Felt, The Loftなどがいるが、とりあえず80s末以降のバンドをみる。
1. My Bloody Valentine – Sometimes (1991)
シューゲイザーの金字塔「Loveless」収録曲。ノイズの氾濫とそこにぼんやり浮かび上がる声が美しい。これ以来20年以上、次のアルバムが完成しなかったが、2013年ついに新作「mbv」が出た。Cf. Slowdive, Ride, Lush
2. Ride – Making Judy Smile (1992)
同じくシューゲイザーにおける重要バンド。最初の2作品がシューゲイザーで評価も高い。これは顔パックジャケで有名(?)な2作目から。ギターのアンディはその後Oasisに入ったりしたけど、去年再結成して、来日もした(僕も行った)。最近ライブで新曲を演奏!シューゲイザーだけどドラムとかThe Whoっぽいときもあるし60年代英ロックの強い影響下にあるバンド。
3. Teenage Fanclub – Ain’t That Enough (1997)
スコットランドのパワーポップバンド。パワーポップをパワポと略すとマイクロソフト感が出る。グランジみたいな見た目してたのにいつしか優しそうなおっさんになった。音は爽やかでメロディがとても良いので日本人うけもよい。癒し。英国のスピッツ的なテンションで聴こう。
4. Oasis – Fade Away (1994)
米グランジの終焉後の英国的ヒーロー不在の状況から、Blurと共にブリットポップの二大巨頭としてOasisは躍り出た。ブリットポップは人気の国民的過熱でもはやメジャーな存在になり逆に方向性を見失っていく。とはいえオアシスは60年代ロックへの愛情深さとか、シューゲイザーにも近い分厚いギターサウンドとか英国ロックの歴史が正しく反映されている点でもやっぱり偉大なバンド。
Cf. Blur, Suede, The Verve, Ocean Colour Scene, Pulp, Supergrass, The Bluetones, Elastica, etc.
Rough Trade Records:
英国の老舗名門レーベル。Belle and Sebastianなども在籍していた。Super Furry Animalsはクリエイションのイメージが強いけどここ2作はラフトレードから出ているらしい。最近はPalma Violetsとか。ベガーズグループ傘下。
5. The Smiths – The Charming Man (1983)
80s英インディーで最も成功したバンドで影響力も絶大。モリッシーの独特な声とジョニー・マーの官能的なギターの音は唯一無二で、インディーポップ的ながらもジャンルの枠を超えた存在感がある。タイトルをBlurのCharmless Manと間違えそう。
6. The Libertines – Can’t Stand Me Now (2004)
同じくラフトレードが見出した米バンド・The Strokesと共にガレージロックリバイバル(00s前半にガレージロック的な性急で虚飾無いむき出しのギターロックが再流行した)を代表するバンド。焦燥感溢れるギターの青春性、ピートとカールの愛憎劇、茶番劇にも見える相次ぐトラブルと瓦解、ともかくわずか数年でロックンロールの夢物語を21世紀によみがえらせてみせた唯一のバンドかもしれない。再結成して昨年新作が出た。Cf. Babyshambles, The Dirty Pretty Things, The View
Domino Records:
アクモンにFranz Ferdinandとつよいのが揃うので、つよそうなインディーレーベル。つよい。
7. Arctic Monkeys – Teddy Picker (2007)
今や世界的ビッグバンド?有名すぎて特に言うことはないです。
8. Bill Ryder-Jones – Wild Roses (2015)
僕がやたら推している元The CoralのGt. 収録アルバム「West Kirby County Primary」は後で紹介するGorky’s Zygotic MynciとPavementが融合した感じで、美しくもローファイな名盤。実際昨年NMEやQ、MOJOの年間ベストにも入っていた。
Beggars Group:
巨大レーベルグループ。もともとBeggars Banquet Recordsがあり、そこから4ADやXL Recordingsが誕生、Rough TradeやMatador(米)も傘下にした。現在はBBR自体の事業はなくて、先述した4レーベルが動いている。4ADからはCocteau TwinsやPixiesが出ており、近年はGrimes, The National, Deerhunter, Daughterもいて、英レーベルながら英米問わずで良い感じである。
9. The Charlatans – Weirdo (1992)
全盛期はベガバンに在籍。マッドチェスター期にThe Stone Rosesのフォロワーとして登場し、ブリットポップ期はOasisのフォロワーと化し彼らだが、グルーヴ感のカッコよさは、彼らが単なる二番手ではない優れた才能あるバンドであることを示している。メンバーの死を二度経験しながらも活動を続ける。Vo.ティム・バージェスがトライセラの和田昌に顔と声が似てる気がする。
その他
10. The Pastels – Nothing to Be Done (1989)
80sから超マイペースに活動を続け、先述のクリエイション、ラフトレード、ドミノすべてからリリースがあるスコットランドのバンド。インディーポップの古参としても超重要な存在で、このジャンルは「C86」というNMEの作ったコンピをきっかけに広く認知されるようになった(The Pastels, Primal Scream, The Wedding Present, etc.)。TFや米The Vaselinesなどとの関わりもあって、Nirvanaのカート・コバーンが好きだった界隈のバンドでもある。このヘタウマな演奏と男女混成ヨレヨレヴォーカルのスタイルはインディーロック界の偉大な宝石なのだ。
11. The Stone Roses – Waterfall (1989)
マッドチェスターをけん引し、Oasisなどに影響を与えたことであまりに有名なバンド。Cf. Happy Mondays, New Order
12. The La’s – Feelin’ (1990)
アルバムは不本意な形で出た1枚しか残していない上に、中心メンバーのリー・メイヴァースは今日まで30年近く新作を出していないが、Oasisなどにも敬愛されるバンド。The Beatlesのようなもろ60s的なロックを奏でる。もう一人の中心メンバーのジョン・パワーはCastを結成。
13. Stereolab – Brakhage (1997)
ポストロックやアートポップに位置づけられるバンド。こういうのを聴いてるとおしゃれよね。
14. The Moons – Jennifer (Sits Alone) (2012)
Paul WellerのツアーバンドのメンバーでもあるAndy Crofts率いるバンドだけあって、モッズの伝統を引き継ぐ楽曲には60sへの強い憧憬が感じられる。実はかつてThe Templesのメンバーが二人も在籍していたが殆どメディアには取り上げられない。
15. Gorky’s Zygotic Mynci – Happiness (2003)
読めない。90~00sのウェールズのサイケバンド。初期は変態サイケをやっていたが、次第にただただ美しい曲を作るように。この曲の美しさといったら!泣ける。時代性とかと無縁に素晴らしい。中心メンバーのEuros ChildsはTeenage FanclubのNormanと親交があり、TFがGorky’sをカバーしたり、EurosとNormanが一緒にアルバムを作ったことも。数枚ベガバンからリリースがある。
16. Laura J Martin – Spy (2012)
知名度は皆無だけど好みなもので。先述Eurosのソロ活動によく登場する。不思議な声。ライブではひとりでフルート吹いたり、歌ったりしながら、それをループさせて音を重ね、曲を再現する職人芸ぶり。フルートを使ってサイケな感じになってるのが凄い。
17. Forever Amber – The Dreamer Flies Back (1969)
すみません、インディーロックじゃありません、マニア大好き60sの自主製作盤です。このバンドはThe Zombiesのようなキュートな美メロ曲が多いのですが、この曲は不思議と90s初頭のインディーロックといってもわからないくらい独創的だったので選曲してみました。自主製作で録音環境が悪かったのか、ぼんやりして浮遊感のある音像(ローファイ感)と、シューゲイザー的な大胆なエフェクトとノイズは、インディーサイケの先駆けといった感じですね。60sって面白い!
■US編
こういう見方が性格か知識不足もあって微妙ですが、80s REMのようなオルタナティブロックが出てきて、Nirvanaなどの登場で90s初頭グランジロックがブームおこるが、もはやメジャーなものとなってしまったグランジも、Nirvanaカート・コバーンの自殺によりブーム収束。その後はローファイ系のバンドを中心にカルト的人気を誇る名盤が数多く登場した、という感じの認識です。
Matador Records:
今回取り上げるローファイ界の大家が2つ所属していたと思うとちょっと凄いレーベル。他にもYo La Tengo, Savagesなど。
18. Pavement – Major League (1999)
カルト的人気をほこるバンドで後代への影響が凄い。本曲はラストアルバム「Terror Twilight」から。Radioheadとの仕事でお馴染みナイジェル・ゴドリッチのプロデュースで、深みのある音はローファイでこそないが美しく、名盤である。
19. Stephen Malkmus & The Jicks – Lariat (2014)
Pavementのフロントマンは解散後も旺盛に活動している。バックバンドのThe JicksにはQuasiやThe Minders, Sleater-Kinneyの人とかがいたこともあって、インディー界の横のつながりも見逃せない面白さがある。彼のアルバムをベックがプロデュースしたことも。
20.21. Guided by Voices – Motor Away (1995), The Game of Pricks (1995)
息をするように曲を書く男ロバート・ポラード率いるローファイ界の大御所。時間感覚がおかしいので作品のペースは遅くても年1枚、アルバムには2分にも満たないような曲が20曲以上入っているなんてことも。もう滅茶苦茶な多作で、すぐ録音して発表してしまうので曲の出来は玉石混交だがそれがいい。メロディセンスは圧倒的で名曲がごろごろ。元教師のリアルスクール・オブ・ロック、The Who大好き飲んだくれ、全盛期の時代ですでにアラフォーなのに曲は若々しい。時間感覚がおかしいのでメンバーチェンジが激しく、二度解散したが二度復活した。
Kill Rock Stars Records:
Elliott Smithがいた。Sleater-KinneyやThe Decemberistsなどインディーロックの盛んなポートランドを拠点としたバンドのリリースが目立つ。
22.Elliott Smith – Say Yes (1997)
ひとりで多重録音する制作スタイルを得意とする。シンプルで無駄のないサウンドと彼がひとりで声を重ね形作る美しいハーモニーは鳥肌もの。なぜかマドンナも彼のファンであった。人の弱さや憂鬱を感じさせてくれる。自殺してしまった。バンド体制でライブをするときはQuasiがバックバンドをつとめたりする。カバーもたくさんしていてThe BeatlesやThe Kinks, Big Starなど幅広い。The Mindersのカバーもある。
Elephant 6界隈:
界隈であって正確にはレーベルではないが、有名な音楽オタク集団。The Apple in StereoやNeutral Milk Hotel, The Olivia Tremor Controlといった人たちが中心になったグループで名盤が多い。他にOf MontrealやBeulahなど。
23. The Olivia Tremor Control – Jumping Fences (1996)
Elephant6は中期ビートルズ的な音楽性のバンドが多い。この曲もビートルズ顔負けの美しいコーラスワークとリボルバーに入ってそうな曲のサイケ感が楽しい。アンビエントを取り入れたり面白いバンドだが悲しいことに中心メンバーが亡くなってしまった。
24. Neutral Milk Hotel – In the Aeroplane Over the Sea (1998)
Elephant6の中核ながら界隈の仲間たちとは異なる独特な空気を持ったバンドで、歌声もElephant6では珍しいThe La’sっぽい荒々しさと伸びのある男らしい声をしている(しかしどこか陰鬱に響く)。アルバム「In the Aeroplane Over the Sea」は名盤の誉れ高く、ローファイなサウンドから終始漂う異様な緊張感、狂気じみた耳に残るメロディに病みつきになること間違いない。
25. The Minders – Hand Me Downs (1999)
デビュー作ではThe Apple in Stereoの人がプロデュースしたバンド。The BeatlesやThe Kinksといった60s英ロックの影響が強く、この曲もイントロや切ないメロディなど節々に60sっぽさを感じさせる良曲。今も細々活動。元Dr.の人はなぜかKey.としてQuasiやSleater-Kinneyのメンバーなどと共にスーパーガールズバンドWild Flagを結成した。
Fat Possum Records:
Youth Lagoonや Smith Westerns, UMOの1stとか。近年才能ある若手がここから作品を出している。
26. The Districts – Long Distance (2012)
ゆったりインディーらしい音楽を聴かせてくれる。泣きのメロディ。アンセムっぽい力のある曲。
27. Sunflower Bean – Easier Said (2016)
今年のサマソニでみた。The Smiths風の耽美なギターに、サイケとガレージが融合した感じのバンドで80s~90s初頭のインディーっぽさがある。この曲はVo.ジュリアの声が美しいドリーミーな良曲。ジュリアはモデルもしている。
Jagjagwar:
FoxygenやBon Iver, Angel Olsenなどが所属するインディーレーベル。
28. Unknown Mortal Orchestra – So Good at Being in Trouble (2013)
1stはFat Possumから出ているが2nd以降はJagjagwarから。Tame Impalaなど共に近年のサイケロックの最先端を担う。
その他
29. The Magnetic Fields – Yeah! Oh, Yeah! (1999)
アルバム「69 Love Songs」は3枚組全69曲すべてラブソングという驚愕のコンセプトアルバム。超低音ボイスが特徴のフロントマン、ステフィン・メリット曰く「ラブではなくラブソングについてのアルバム」。69曲あったら飽きるかというとバラエティに富んだ小品が並んでいて飽きさせない。インディーポップの名盤である。アルバムはメンバーそれぞれがヴォーカルを分け合う。
30. Sparklehorse – Gold Day (2001)
実質マーク・リンカスのソロ・プロジェクトのバンド。メジャーレーベルから出ているが、曲はインディーロックそのもの。陰鬱ゆえの優しさと美しさ。明らか鬱っぽい音楽だが、本当に自殺してしまった。レディヘのツアーのサポートアクトだったこともある。アルバムにはPJ Harveyも参加。超おすすめ。
31. Quilt – Roller (2016)
最近知ったアメリカのサイケバンド。サイケにしては音もすっきりしていて聴きやすく、この曲なんか普通にインディーポップとしても聴ける。
■英米以外
32. Hinds – Castigadas en el Granero (2016)
日本でもプッシュされたスペイン・マドリードのガールズバンド。PJ HarveyはじめSleater-Kinney, Savages, Dum Dum Girls, Courtney Barnettなどクールでアーティスティックな女性ロックミュージシャンは多いが、彼女たちのようなポジティブな能天気さとローファイポップな気だるさをもったバンドは意外と他にいないので今後も期待できるかもしれない。Mac Demarcoが好きな人にもおすすめ。
34. Nap Eyes – No Fear of Hellfire (2014)
まだまだマイナーな存在だが、2ndアルバムが今年カナダの音楽賞Polaris Music Prize(知名度を問わない感じで面白い)のLong List (ここからさらに絞り込まれる)にノミネートされたり、GBVとツアーをやったりするなど、もしかしたら今後注目されていくかもしれないカナダのインディーバンド。Vo.が副業?としてダルハウジー大学の生物化学系の研究室で働いてたりするのも凄い。どこか人なつこいメロディーとゆったり流れていくギターの音が美しい。レーベル仲間のGun Outfitもわりとよい。
Factory, Sarah, Sub Pop, Warp, Wichitaなど今回取り上げられなかった有名レーベルも沢山あるし、紹介したかったバンドもまだまだあるんですがこんな感じで終わります。ありがとうございました。ちなみにプレイリストのタイトルは「みんなロックで大人になった」というBBCのドキュメンタリーが元ネタです。昔NHKでやってました。