講演概要
BH磁気圏研究会2025 at 御坊
2025年3月26~28日
BH磁気圏研究会2025 at 御坊
2025年3月26~28日
講演者から了承いただきスライドを公開しております(講演タイトルがリンクになっております)。(2025/04/10)
タイトルに※印がついているものはパスワードが必要です(パスワードは参加者のみの共有です)。
・高橋真聡,「ブラックホール磁気圏からのエネルギー引き抜き」
天体ブラックホールは、活動銀河中心核・コンパクトX線天体・γ線バースト天体などに存在し、激しい天体現象を引き起こしていると考えられる。ブラックホールを取り巻くガスは降着円盤を形成し、その周囲にコロナと磁気圏(ブラックホール磁気圏)を形成する。磁気圏の磁場の一部はブラックホールを貫くが、時空の引きずりにより生じる磁気トルクにより、ブラックホールの回転エネルキーを磁気的エネルギーとして磁気圏に輸送することができる。輸送されたエネルギーは、高エネルギー放射や宇宙ジェットのエネルギー源として観測されている可能性がある。近年では、観測的にもブラックホール周辺での磁気的現象の重要性が指摘されている。
ブラックホール磁気圏における磁気的現象の解明のためには、ブラックホール時空における電磁気現象の理解が不可欠になる。天体現象に関連づけるためには、磁気圏磁場構造の理解が重要である。今回の講演では、Endo et al (2025) のブラックホール真空磁気圏解における高エネルギー天体現象(粒子加速、宇宙ジェット形成)について考察する。特に、磁化したプラズマについてのペンローズ過程の可能性について考察する。
磁化したプラズマについてのペンローズ過程は、ブラックホールが自転していて、かつ磁気圏磁場が十分に強い場合に可能となる。最高エネルギー宇宙線の発生も説明できる。例えば、数億太陽質量の巨大ブラックホールの場合、数100〜数千ガウスほどの磁場強度があれば、エルゴ球の外部であってもペンローズ過程が可能であり、外部に逃げる粒子が宇宙線の起源であると期待できる。ただし、この宇宙線が持ち去るエネルギーの起源は、ブラックホールの回転エネルギーそのものではない。残される方の分裂粒子は、磁気圏内に生じる負の静電ポテンシャル領域に落ち込む必要がある(ブラックホールに降着するとは限らない)。つまり、引き抜かれるエネルギーの起源は電磁気的なものである。とはいえ磁気圏内に静電ポテンシャルが生じる原因はブラックホール時空の引きずりに由来するため、「磁気的ペンローズ過程」はブラックホール時空に特有の効果である。
多数の荷電粒子を磁気圏に散布することで磁気圏内に荷電粒子が閉じ込められる様子を調べることができるが、この多数の荷電粒子が生成する電場は、磁気圏構造を修正する。この試みは force-free 磁気圏への道しるべになるかもしれない。
・柴田晋平(オンライン),「パルサー磁気圏における遠心力加速の加速効率」
ブラックホール磁気圏において、電磁場が強く、プラズマの慣性を無視できる極限(フォースフリー磁気圏)を考える。この磁気圏に摂動を加えると、速い磁気音波とAlfvén波が発生する。Alfvén波は磁力線に束縛される横波で、その超放射(波の増幅散乱)によるブラックホールの回転エネルギー抽出の可能性が指摘されていた (Noda etal 2019, 2022)。しかし、これらの論文で示された超放射条件はBlandford Znajek機構の条件(0 < ΩF < ΩH)と一致しており、Alfvén波の振動数ωに対する制限がない表式であった。
本発表では、Poynting fluxの解析からAlfvén波の振動数(もしくは波長)に対する条件について議論し、Alfvén波の超放射条件は他の波動(スカラー場や重力波)のものとは異なることを示す。
また、時空のひきずりや磁力線の回転の結果、ある場合にはAlfvén波はエルゴ領域のやや外側から outer light surface の間に閉じ込められることが分かる。Alfvén波のnormal modeを解析から、超放射と波の閉じ込めが同時に起こる場合にはAlfvén波が暴走的に増幅する可能性があることを紹介する。
一様磁場中に埋め込まれたシュバルツシルトブラックホール周辺の荷電スカラー場の振る舞いを考えたい。一様磁場があると荷電スカラー場はその影響を受けて対称軸付近に束縛され、上下2方向にしか逃げられない面白い状況になる。このような状況での荷電スカラー場の振る舞いはこれまで近似を用いて解析されている。今回はそのような近似なしに2+1次元のシミュレーションをおこなった。先行研究で可能性が指摘されたような不安定性は生じないが、磁場による束縛で準定在波が発生することによって非常に減衰が遅くなることがわかった。
・南部保貞,「Unruh効果とその検証」
Unruh効果は,一定の加速度で運動する観測者が,慣性系の観測者には存在しないと見える粒子(熱放射)を検出するという相対論的量子場の予言である.これは量子論と一般相対論を結びつける重要な現象であり実験的検証の方向性を含めて,現在でも盛んに議論されている.本講演ではUnrurh効果のレビュー及びその実験検証の現状(提案)について紹介する予定である.
電磁場の正味の運動量を用いた宇宙空間に浮かぶ移動体の新しい推進機構を提案する。まわりに物質や輻射がない宇宙空間での推進機構としては、ジェット推進のみが現在用いられている。ジェット推進は燃料として積み込んだ物質を高速で噴出することによりその反動で移動体の加速を行う。この推進機構は運動量保存則から理解され、高速で噴出された燃料の運動量と同じ大きさで逆方向の運動量分だけ移動体の運動量が変化することで推進力を得る。物質や輻射の運動量は移動が必ず伴うので燃料は必ず船外に吹き出ることになる。もし、移動が伴わない運動量があれば船外になにも噴出しなくても推進力が得られることになる。電磁場は運動量を持つことが知られていて、ジェット推進とは全く異なる推進機構を実現する可能性がある。推進力を生じるには電磁場が正味の運動量を持つ必要であるが、マクスウェル方程式から導出される保存則から一般に示すことができる。この話題はブラックホール磁気圏とは直接は関係はない。しかし、ブラックホール磁気圏の研究で重要な電磁気学の根本的な問題に関連することと、ブラックホールを含めた天文学一般にとって重要な人工衛星の新しい推進機構に関わっている。
・中尾憲一,「Electrification of a non-rotating black hole in a split monopole magnetic field」
・松尾賢汰,「ブラックホール磁気圏と帯電の影響について」
近年の先行研究で、BHの帯電によってBZ過程が定常的にジェットにエネルギーを渡す供給源ではない可能性が指摘され、現在も議論が続いている。そこで、BZ論文(1977)で用いられたBZ split-monopole磁場においてBHの帯電を解析することを目指す。本講演ではまず、split-monopole磁場を伴うSchwarzschild時空中のテスト荷電粒子の運動を紹介する。この磁気圏で荷電粒子は赤道面を横切る軌道を除いて、ある一定のcone上を運動する。そして次に、BZ-split-monopole磁場を伴うKerr時空中のテスト荷電粒子の運動について一定のcone上を運動する軌道と比較しながら現時点までの解析結果について議論する。
・原田知広,「漸近的に安定な重力に動機づけられた正則ブラックホールの外部時空」
BHに落ちていく光源による放射を遠方の観測者が受け取る場合を考えます。自転しないBH時空上で光源が動径方向に落下する場合の理論解析から、観測される放射のパワースペクトルは、光源がBHからの距離 r < 2Rg(Rg:BH半径)で「ホーキング温度のプランク分布に比例」する形になることが分かっています。この解析を、Kerr時空上で、BHに落下する任意の軌道を描く光源の場合に拡張することを試みます。発表時点で解析が進んだところまでお話しします。
・飯塚颯見,「ニ流体系の長波長解」
本公演では,二流体系における超ハッブルスケールの非線形宇宙論的摂動の理論を構築することを目的とする.ここでは,宇宙論的ADM形式を用いることで,アインシュタイン方程式と物質の基礎方程式を分解する.さらに,基礎方程式に対してgradient epansion をする.この手法は小さな展開パラメータ \epsilon\equiv k/aH によって特徴付けられる.ここで,a は基準とするFLRW時空のスケールファクター,H はハッブルパラメータ,k は揺らぎの波数である.\epsilonが十分小さいと仮定し,方程式を逐次的に展開し,各オーダーで解を求める.
二流体系を考えるため,この系はnon-adiabatic となる.本公演で導かれる解は,非線形なnon-adiabatic な揺らぎに対する長波長解を表している.この解から,adiabatic な時とは異なり,leading orderから曲率揺らぎがダイナミカルになることを示す.
・勝又 彰仁,「Zipoy-Voorhees時空における近点移動」
球対称からのずれが変形パラメータによって特徴付けられる静的軸対称なZipoy-Voorhees (ZV) 時空における近点移動を考える。まず、準円軌道の近点移動の厳密な表式を導出し、次に任意の離心率に対するポスト・ニュートン (PN) 展開の表式を導く。さらに、得られたPN展開の表式と恒星S2の近点移動の観測データを用いて、銀河中心の超大質量コンパクト天体Sagittarius A* (Sgr A*)まわりの時空の変形パラメータに制限を与える。ZV時空における近点移動量は変形パラメータに対して最大値を持つため、将来の観測で近点移動量がこの値を超えることが示された場合、Sgr A*まわりの時空がZV時空である可能性は排除される。最後に、最近提案された処方箋を用いて、ZV時空における近点移動の別の級数表現を導出する。処方箋にしたがい、展開パラメータは離心率を最内安定円軌道(ISCO)の極限で消える量で割ったものとして定義される。つまり、展開パラメータは軌道の離心率およびISCOへの近さの両方を表す。また、得られた表式の精度を調べ、PN 展開の表式と比較する。
ブラックホール連星系において突発的なアウトバーストに伴うX線スペクトルの遷移はよく知られており、multi-color円盤からの熱的放射が卓越するhigh/softのモードでは、特に、ブルーシフトした顕著なresonance吸収線の形で、強力なX線円盤風(電離ガスのアウトフロー)が観測されている。同時に、この円盤放射スペクトルを正確に観測することで、ブラックホールのスピン診断(thermal continuum fitting method)も行われている。今回我々は、ニュートン重力下の磁気遠心力によって駆動された大局的な円盤風によるコンプトン散乱の効果をモンテカルロ計算し、もともとの熱的放射スペクトルへの影響を調べた。円盤風の密度とその分布をパラメータ化して調べた結果、遠方で観測されるmuti-colorスペクトルは著しく変わることが分かった。これは、観測で得られるmulti-colorスペクトルが円盤風によって”汚染”されている可能性を示しており、スピンの評価をする際にはコンプトン散乱による効果をオフセットする必要を示唆している。この発表では、スペクトル計算を通して、この”汚染度”を議論する。
・遠藤洋太,「Kerr ブラックホール周りの薄いディスク上の電流が作る真空磁気圏」
Kerr 時空中の赤道面上の薄いディスク電流が作る磁気圏について考える。過去の講演では、Kerr BH周りのソースフリーのMaxwell方程式がNewman & Penrose の手法を用いることで変数分離可能であることを利用し、方程式の解が複素数インデックスのLegendre 関数の重ね合わせで表せることを示した。本講演では、電磁場のソースとして赤道面上に内端を持つ薄いディスクを仮定し、そのディスク上を流れる電流が作る磁気圏について解析する。特に、電流の向きが反転しない場合に作られる磁気圏の構造について、BHが電荷を持つ場合と持たない場合をそれぞれ議論する。
現在2017年観測のCenA,SgrA*、2018年観測のM87データの解析を進めている。それぞれで興味深い結果が出つつあるので報告する。(おまけとしてSgrA*の340GHz強度変動についても話したい)
Blandford-Znajek(BZ)過程はホライズンで正則な座標を使った一般相対論的MHDシミュレーションで例証されている。そこではブラックホール(BH)の回転エネルギーを減少させるのは、ホライズン上での外向きのポインティング流束であると考えられる。一方で「負のエネルギーが落下する」ことでBHエネルギーが減少するという描像も議論されてきた。しかしその描像で負のエネルギーやその落下の速度の定義はすべて曖昧であった。本研究では、Boyer-Lindquist座標における理論MHDの近似的解析解を使って、BZ過程におけるBHエネルギー減少のメカニズムを再考した。新しく考慮したことは、この座標ではホライズンの手前に過去の降着プラズマ("falling membrane")が存在する点である。その結果、ポインティング流束はfalling membraneと磁気圏のインフローの間で作られ、インフローの先端が負の電磁エネルギーを増大させることで時空の回転エネルギーが減少することがわかった。またポロイダル電流は磁気圏のインフローの中で閉じた回路を作らないことも明確になった。これはBHが一時的にでも帯電する可能性を示唆する。
・松元陽登(オンライン),「Kerrブラックホールにおける長波長Alfvén波超放射 」
世話人:高橋真聡(愛知教育大)、石原秀樹(大阪公立大)、小出眞路(熊本大)、斉田浩見(大同大)、
高橋労太(苫小牧高専)、孝森洋介(和歌山高専・代表・現地世話人)、中尾憲一(大阪公立大)、南部保貞(名古屋大)、
野田宗佑(都城高専)
問い合わせ:孝森 takamori_at_wakayama-nct.ac.jp (_at_を@に変えてください)