行動生物学研究会

趣旨

分子生物学や生化学など主に生物の内部機構を扱う「ミクロ生物学」と、進化学や生態学など主に個体レベル以上を扱う「マクロ生物学」は、互いに補い合うようにして生物学の両輪を成しています。両分野が協同して研究を展開していくことの重要性はかねてからよく知られていますが、実際にそれを実施することは簡単でなく、多様な研究部門をそろえる一部の大学等でしかなされていません。本研究会は、動物行動学の幅広い学際性に着目し、動物行動学を軸としてミクロ研究とマクロ研究を双方向的に繋ぎ、新たな研究基盤形成の架け橋となることを目的として設立されました。

近年、本研究会は当初の目的を維持しつつ、「行動学」をより広い視野で捉え直すという、新たなステップへ移ろうとしています。動物行動学という学問分野は、名称の通り「動物」にフォーカスしたものとなります。しかしながら、行動学自体のコンセプトは必ずしも動物のみに限定されるものではなく、植物など他の生物界の生き物の振る舞いにも通ずるものです。また、動物行動学は自然科学領域に属するかたちで扱われることが多いですが、人々の思考や社会の様相にもつながるものであり人文・社会学領域とも深く関わる分野です。こうしたことから、本研究会は従来の動物行動学のスコープに捉われず、植物や人間社会の営みなども包含することで、改めて「行動学」の真影に迫るとともに、設立時の目的に対してもより力強く前進していくものとします。

特色


・行動学を軸として、多様な学術分野をつなぎ新たな展望を拓くこと

行動学はミクロ-マクロ生物学の観点以外にも様々な学術分野と関わりながら発展してきたと言えます。例えば、経済学的思考を取り入れ、適応度という通貨を用いることで行動戦略の検討が大きく進みました。また、「知覚」から「運動」へ至る行動のプロセスは制御理論と通じるものであり、そのメカニズムの研究は工学的な方面とも示唆を与えあって発展してきました。このように、文理の垣根を越えて多様な学術領域と連関しているという行動学の特徴を活かし、様々な分野の行動学を紹介できるように演目を構成します。

・古典的研究アプローチと先進的研究アプローチ

近年のデータサイエンスの発展に伴って、行動学においても自動化された計測技術や膨大なデータを横断的に解析する技術などが取り入れられ、行動学研究の新たなフロンティアが示されつつあると言えます。しかしその一方で、地道に生物を追いかけ観察することや、徒にデータを増やすことなく論点を的確に射抜く実験設計のセンスもまた、行動学研究においてとても重要なものと言えます。こうした新旧様々なアプローチの長所短所の理解につながるよう、多様な方法論を紹介できるように演目を構成します。

・参加者の多様性と双方向性

様々な考えを交わし建設的な議論をすることが、研究内容の理解を深めたり、新たな着想を得たりすることの根底にあると考えます。そこで、研究者だけでなく、学生や研究とは関わっていない方も含め、なるべく多くの方が参加できるように努めます。また、講演会では質疑の時間を多く用意するだけでなく、その後に自由歓談の時間や交流会を設けることで、双方向的なやりとりをしやすいようにします。こうした取り組みによって、学会の講演の合間で見られるような交流の光景を毎月用意することを目指します。そして、講演者候補や研究会の運営体制に関しても、積極的に参加者の意見を集め、皆でより良い会にしていくようにします。

沿革

 本研究会は、2019年に代表である西海が当時在籍していた自然科学研究機構基礎生物学研究所(NIBB)の名称にちなんで「NIBB動物行動学研究会」と名づけ、NIBBの若手有志を集めて発足したものとなります。

その後、NIBB外から新たな運営メンバーの参画がなされる一方で、NIBB内にいたメンバーが他の大学等へ移籍していった結果、さまざまな研究機関のメンバーから構成される運営組織となりました。この多様なバックグランドの下で、行動学の面白さと重要性を見つめ直し、どのような研究会がよいか模索する中で、今日の研究会が形作られてきたと言えます。

そして、2025年に代表自身も他大学へ異動するに伴い、本研究会名をより実態に沿うようにし「行動生物学研究会」とすることにしました。