Gold Marilyn Monroe Akihito 3pieces 2020 211.4×144.7 cm × 3 pieces インスタレーションサイズ可変 キャンバスにシルクスクリーン , アクリル 制作協力 平田 守撮影 須田 行紀
作品テキスト
「Gold Marilyn Monroe」は1962年にマリリンモンロー が亡くなり、作られた連作のうちの一つである。アメリカという場所性を考えるとこの作品にはキリスト教美術史の宗教的なアイコンが意識的に使われており、神を象徴するこのモチーフに当時のセックスシンボルが落とし込まれている形になる。私は私が生まれた時代の天皇、今の上皇陛下とアンディ・ウォーホルのポートレイト作品のつながりについて考えている。天皇、または皇族と呼ばれる方々とその制度は私の生まれ育った時代に当たり前に存在していた。今考えてみれば、歴史の流れやその制度の仕組みについての疑問点が多く浮かんでくる。ただそれ以前に私が一番気になることは、それらの制度に縛られる方々に、当たり前のようにその制度を強要する私たち自身である。私たち自身が彼、彼女らを区別し望む望まないを省みることなく押し付けていることに、疑問を感じないこと。こういった考えが、肖像をアイコン的に多用し連続させるウォーホルのポートレート作品と掛け合わせるきっかけとなった。ウォーホルはアート界の巨匠であり、彼の作品は高額で取引される。美術史的にも高く評価された彼のポートレートに並ぶ顔と同等に平成の象徴を扱うこと。そして荘厳な雰囲気の「Gold Marilyn Monroe」を用いることで私たちが持つイメージと天皇という存在を再考する。
DinginG! let the one who has never sinned throw the first stone. 2020 インスタレーションサイズ可変 実際に起こった事件と自らの経験に基づく内容のオリジナルトレーディングゲーム、DInging!公式ルールブック、Dinging!のCM映像、事件映像、プレイマット 、ロゴ看板、ステンシルによるグラフィティ、アルミケース、机、椅子 制作協力 高山 勇吹撮影 須田 行紀
作品テキスト
この作品は私と私の同年代が共有している少年時代の遊戯であるトレーディングカードゲームを中心に構成されたインスタレーション作品である。オリジナルで作られたゲームの中には少年犯罪と自らの経験との重なりを組み込み(注1)、遊戯として行われる子供の残虐性や無自覚さをを内包している。さらにインスタレーションとして用いられる要素一つ一つに少年たちや私自身のバックボーンとなるものを配置し、悪を構築する要素がいかに普遍的なものであるかを提示する。そしてそういった要素はヨハネによる福音書の一節を持って自明の悪とされたものと対峙する際の私たちの立ち位置を考させる。「let the one who has never sinned throw the first stone. / あなた方の中で罪を犯したことのない者に最初の石を投げさせなさい」。自明の悪に向けられる心ない誹謗中傷に対して言及されることは滅多にない。物理的に石を投げる事件に対して、言葉の石を投げること。根底に流れるものはどれも差異はないのではないか。(注1)ゲームの名前にもなっているDingingとは2017年アメリカのミシガン州、州間高速道路で起こった殺人事件に由来している。地元の少年 5人が高架の上から高速道路に向かって岩やタイヤなどを投げ込み、車との衝突音を楽しむゲームを行っており、そのゲームをDingingと呼んでいた。少年達の放った岩の一つが1台のバンのフロントガラスを突き抜け、その車の助手席に乗っていた男性1人が亡くなるという事件だった。アメリカでは似たような遊びが他の地域でも起こっている。また私は小学生の頃、帰り道に通る歩道橋の上から石や空き缶などを道路を走るダンプカー の荷台に乗せる遊びを友人としていた。ある日、いつものようにこの遊びをして満足し下に降りた時、男の人に怒鳴られたのを今でも鮮明に覚えている。私たちの落とした石の1つが原付に乗っていた男の人のヘルメットに当たっていたからだ。後日教頭室に呼び出され、こっぴどく叱られる。今回のカードゲームもチキンレースの要素が組み込まれており、実際に起こった出来事の追体験とも考えている。
BOMB NIEと題されたこの作品は、近代以降の歴史的戦争や紛争に使用された大量破壊兵器爆弾と、快楽を目的とし大量生産される男性用性玩具の二つの形状を、キメラ的に合体し成形した7つのオブジェを、1400 x 2000 x 450 mmに制作したケース内に並列し、背後壁にそれぞれ爆弾のデータが記された小冊子と共に展示される、複合的インスタレーション作品である。爆弾と性的玩具が類似した形状であることは、本作品制作の発想源の一つであるが、それ以上に、私は自身の属する時代と性別において、戦争の暴力的行為とそこ介在する男性性を考察する中から、この作品のコンセプトを練り上げてきた。平成に生まれた日本人男性である私にとって、実際の戦争やそのことによって大量殺戮された人々へのリアリティを持つことは難しく、玩具やゲームの中で消費される記号としての“戦争”や“死”のみが実体を持っている。その状態は、男性の自慰行為を目的とした性玩具の何処か空虚で、性の本質から乖離したイメージと深く重なり、本作品の制作へと繋がっていった。この作品は時代のポートレートもしくは男性性への考察や嫌悪といった内容も含んでいると考える。同世代の同性がどのようにこの作品と向き合うのか、これらも重要である。
Life is not fair ; get used to it / 人生は平等ではない、そのことに慣れよう 2017 高圧洗浄機によって描かれた文字(リバースグラフィティ) 金沢動物園象舎前
作品テキスト
横浜市立金沢動物園の象舎周囲の壁面に展開したこのインスタレーション作品は、アメリカの実業家ビル・ゲイツの言葉“Life is not fair; get used to it.”を、高圧洗浄機を使ってリバースグラフィティー(塗料などで着色することで描くプラスのグラフィティに対して汚れなどを落とすことによってその部分を浮かび上がらせるマイナスのグラフィティ技法)で描いている。「人生は公平ではない。そのことに慣れよう。」を意味するこの言葉は、人生を諦めずに前に進むことを後押しする、本来そんな意味を持っている。しかし住処から遠く離れ鑑賞のためだけに飼育される動物たちの前に描かれた時、その意味は世界の不条理を説き、私たちの感情を揺さぶる内容へと変貌する。それは、善意に溢れた言葉や事象が、状況や環境によって一変し他者への攻撃となることもある、そんな文脈の意味性における表裏一体の一例なのである。私の作品は会期が始まる直前に動物園上層部からのクレームが入り、結局消さなければならなくなった。理由は「この作品を観たお客様から何かしらのクレームが入った時に、動物園側がそれに耐えうる力を現状持っていないため」だった。私が現場に削除作業に赴くまで、壁は赤土で覆われ見えない状態にされていた。私は高圧洗浄機で描かれたグラフィティーの上からさらに高圧洗浄機をかけ全てを消した。