2019年8月28日に京都アニーズカフェで開催したアートxジェンダーxサイエンスで上演されたCuBerryのライブ動画
参加していた京都市立芸術大学大学院生の中田恵子さんが、当日のレポートを寄せてくれました。
京都市芸術大学 中田恵子
日時:2019年8月28日 14:30~ 場所:京都アニーズカフェ
まず冒頭、「アート×サイエンス×ジェンダー」の発起人である京都市立芸術大学 大学院生の河原雪花さんから趣旨の説明がありました。普段の生活では感じにくいけれどよくよく考えると存在する男女の非対称性について、ジェンダーによって追いやられている女性が存在しているということを知ってもらいたいと考え、当研究会を立ち上げたとのことでした。
当日は約30名が参加していました。半数以上が学生で、アート系の人とサイエンスや人文学などが専門の人が半々くらいのようでした。数えたわけではありませんが男性が1/3くらいだったと思います。もともとジェンダーの研究をしていたり興味がある人から、気になっていたけれど今まで関わる機会がなかった初心者までいたと思います。
5名の講演者の方たちによるそれぞれの分野から見たジェンダーの講演と、参加者を交えたグループディスカッション、パネルディスカッションを行い、河原雪花さんが所属する映像・音楽ユニットCuBerryによるミニライブ、懇親会と盛りだくさんの内容でした。以下では講演、グループディスカッション、パネルディスカッションの内容を紹介します。
【講演】
内藤葉子「現代世界とジェンダー:ジェンダー公正な社会は実現するのか」
大阪府立大学の女性学研究センター主任
内藤氏は女性学やジェンダー研究がご専門とのことで、ジェンダーに関する基礎知識から現代の問題まで、歴史的な事実を交えてお話いただきました。
『私たちは女性の参政権を争った第一次フェミニズム運動、私的空間での実質的不平等を指摘した第二次フェミニズム運動を経験しましたが、ジェンダー平等へは未だ遠くあります。また、資本主義が進む現代では「伝統的な女性への価値観」と「新自由主義的な価値観」とが二重に女性に突きつけられています。個人の分断と連帯の消失が進む現代で、個別場面での性差別の力学を解明するジェンダー研究は人々に連帯と共感を作り出す可能性を持っているのではないでしょうか。』
これまでジェンダーの側面から勉強をすることがなかったので、知識を増やせたことが素直に嬉しかったです。新自由主義がジェンダー問題に関わっているという視点も全くなかったので驚きました。
小山田徹「アートにおけるジェンダー問題」
アーティスト・京都市立芸術大学教授 彫刻専攻
小山田氏は、大切なことは持続的に考え続けることであると考え、美術によって話題を共有する空間や時間を作り出そうと社会彫刻としてウィークエンドカフェや焚火などを行ってきました。
『京芸では学生は女性が大半で、教員は男性が大半です。このことを問題視する声はあるものの、教員同士や学生に対して話すような機会が組織的に設けられず、またジェンダーについての授業も8年ほど前からありませんでした。そこで去年から、「他人の暮らしを想像してみる」をテーマにジェンダーやセクシャリティについてシームレスに考える授業を行っています。想像力や自分との関係性を欠いた表現はときに人の尊厳を傷つけることになります。社会、ジェンダー、差別など日々考えなければならないことを話し合う場がないなかで、人を傷つけない議論の仕方が求められています。』
ジェンダー問題も持続的に考えてなければならない問題でありますがなかなか自分事と感じにくい問題でした。そういう物事こそ考える続ける場が大切なんだなと改めて感じました。
一方井祐子「サイエンスにおけるジェンダーギャップの現状」
東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構、心理学、サイエンスコミュニケーション
「数物系女子はなぜ少ないのか」「サイエンスに女性の割合が少ないのはなぜか」について研究結果やデータをもとにお話しいただきました。子供の頃に文理の刷り込みがあると考えられる研究結果や、女性キャラクターに付けられる数学が苦手な設定、博士号を取っている女性の割合が低い分野であるほど才気がありそうと思われるなど、男女の教育に意識格差が見られました。それによって幼少期から理系に進む女性が淘汰されていってしまい、女性研究者のロールモデルが不足することでさらに理系の女性の割合が少なくなってしまうと考えらてれます。一方で、2018年PISAテストでは女性の方が読解力が高い傾向にあり、女性は平等なら得意な方に進むという心理学の研究もあるそうです。
個人的には読解力が理系分野に進むかどうか左右するものなのかが分かりませんが、そのデータが個個人を表しているわけではないので、実際にあるジェンダーの障壁を取り除くほうが建設的ではないかと思いました。
酒井麻依子「人文科学におけるジェンダーギャップ:女性哲学研究者の立場から」
哲学研究者
人文科学分野全体は女性比率が高いので、その中で女性比率の低い哲学分野はジェンダーギャップが可視化されにくくなっています。酒井氏には、哲学分野に存在するジェンダーギャップについてお話いただきました。
「女性は哲学に向かない」というステレオタイプ脅威や、ジェンダーバイアスの存在、女性哲学者のワークライフバランスの欠如など女性比率が低い原因は様々にあります。その中でも、哲学者は彼らの性やジェンダー生活様式に根差して哲学しているという「フェミニスト現象学」の観点から考えたときに、男性が多数派のため、自らが男性であると意識しない、という問題や、中立無関心を装いつつ現状変化に抗する人々の存在が大きいように感じました。
話を聞く中で、学問分野でのジェンダーバランスは主に理系が男性、文系が女性が多いと考えられがちであるがその中でもバランスの変化があり、ジェンダー問題を理系文系で分けて考えること事態が問題であると思いました。
ブブ・ド・ラ・マドレーヌ「私という身体におけるジェンダー」
アーティスト
ブブ氏はこの社会で女性であるとはどういうことかを身体をモチーフにした作品で表現しています。ジェンダー問題に関心を持ったのは結婚後で、自分が人間としてではなく女性として見られていることに気付いてからでした。
『美術基礎教育にもジェンダー問題があります。石膏デッサンは男性、ヌードデッサンは女性がモデルで、画集の裸体は推奨されと雑誌の裸体は敬遠されます。この違いはどこにあるのか、裸体の美術が振り返られていません。また、学生とアートの話をしたくても、その前にセクハラの問題にたびたびぶつかります。必然的に女性アーティストには福祉につながる能力が求められてしまいます。私たちは差別とそれに抵抗するために、データと、変化を起こすための手法、行動の瞬発力・ネットワークを習得しなければなりません。』
日本ではみんなと違うことが許されないような風潮があります。ジェンダーについてもそうですが、あらゆる不合理にすぐに声を上げやすい世の中になってほしいですし、行動をしなければならないと思いました。
グループディスカッション
6人強のグループに分かれて、なぜイベントに参加しようと思ったのか、先の講演の感想、日常生活で感じるジェンダーの問題、異分野の人に聞きたいこと、などをテーマに話し合いました。沈黙は罪であるという言葉が心に刺さりました。
パネルデスカッション(ファシリテーター:谷川嘉浩氏)
ジェンダー教育、性教育の必要性を再確認し、それを小中高までに終えていなければならないという意見や生物の分野で行うべきであるという意見が聞かれました。
また、女子に理系を勧める動きがあるなか、逆に男子を文系に勧めるような話は出てきにくく、データに出ない男子のジェンダーがあるという話も聞かれました。
CuBerryによるライブパフォーマンス
世話人の河原さんも参加しているガールズ4人組バンド、映像と音楽の制作ユニット CuBerryのミニライブが行われました。半透明な布に映像を投射し、時折現れる彼女たち自身のシルエットと、パンクやニューウェーブに影響を受けたポップ音楽のパフォーマンスを二曲披露しました。『ニューストーリー』は女性の名を「サイレンス」男性の名を「パワー」とすることで女性と男性の社会的な差を表現した音楽でした。激しく点滅する映像、抑揚を抑えた声と楽器の重低音のギャップに、胸がどきどきしました。とてもかっこよかったです。『青の城』の流れる水と車窓の風景がミックスした映像では、地上にいるのか水の底にいるのか不思議な感覚に陥りました。