「博士研究セミナー」とは(次回は2023年度に開講予定)

会計学の研究者を目指し,博士課程の1年次以上に在籍している大学院生,あるいはこれから進学を検討している修士課程の大学院生を対象とし,研究力を養成するためのセミナーです。skypeによる遠隔セミナーですので,他大学院の大学院生の参加なども歓迎しています。3~5年に一度の開催を考えています。

このセミナーでは,およそ2週間に1回のペースで,新井が考える下記の「良い研究」を行うための基礎体力の育成のための訓練を行う予定です。開催は日曜日を予定しており,2019年度は4-7月の開催を考えています。

新井は,上の図のように良い研究とは,良い問い良い調査良い論文の掛け算からなっていると考えています。

まず,「良い問い」。これは,応用学問である会計学では,基礎学問と異なり,問いの価値がダイレクトに研究の価値に影響するということです。よく「XXについては,先行研究での探求がない」という論法でXXについての研究を進める必要があると主張する場合がありますが,往々にして,これらはXXは研究する価値がないだけではないか?という批判にさらされます。それでは価値のある「良い問い」はどのようなものなのでしょうか。少なくとも会計学においては,「良い問い」は,先行研究の拡張可能性や実務での応用可能性によって決定すると思われます。そのためには,①標準的な教科書の深い理解,②先端的な先行研究のフォロー,そして(特に管理会計の場合は)③実践での経験,の3つのフィールドの往復を通じて良い問いは洗練されていくものかもしれません。これらは日々のコースワークや経験に依存するため,セミナーでは「良い問い」の洗練については扱いません。なお,新井はJR貨物の原価計算の構築というフィールドに,院生時代に指導教員に放り込まれて,四苦八苦したことがあり,今になって振り返れば良い経験だったと感じています。

続いて,「良い調査」。これは,問に対して研究方法論,調査方法が「妥当な」ものかどうかという点で評価されます。定量的,定性的,事例研究,ランダムサンプリング,アーカイバルデータの利用,質問票調査,などの方法についての多様な論点は,いずれも問に依存して適切な方法選択ができたかどうかによって妥当性が決定します。具体的には,方法論や統計学・計量経済学についてのコースワークで基礎を身につける必要があります。セミナーでは,これらの基礎を最低限修得したという前提で,質的・量的調査の双方について過去に新井が実施した実際のデータにもとづいて追体験を行うことを想定しています。

そして,「良い論文」。新井はこれまでこの能力の育成については,それほど重視してきませんでした。ただ,はじめて原価計算研究の編集委員を経験し,良い問いと良い調査を実施しているにもかかわらず,論文の執筆に難があるためにリジェクトされていく論文を目の当たりにしました。つまり,論文に記載すべき必要十分な情報は何か,という部分が疎かになっている論文が多いことを知りました。良い論文を執筆するための能力の育成について,まず必要なことはすでにある「良い論文」をリバース・エンジニアリングすることでしょう。このセミナーでは,「縮約」と呼ばれた日本語練習方法を参考に,過去の優れた論文を縮約することで,論文執筆の基本の習得を目指します。

これらは下の図のようにまとめられるでしょう。

なお,論文の縮約に関しては,次のような論文縮約フォーマットに対象論文を取りまとめることで,自身が興味のある点だけでなく,論文のすべての箇所について,どのような情報が書かれているのかを意識してまとめる方法をとることを想定しています。

例えば,福嶋・新井・加登(2010)を縮約した例は,こちらのdropboxリンクからダウンロードできます。

2019年度後期博士セミナー

参加者:

MKNセンセ(釧路短期大学・大阪府立大学博士後期)

KSG氏(群馬大学修士・博士後期受験予定)

Y氏(神戸大学修士(専門職学位) ・博士後期受験予定)

X氏(他大学匿名希望教員)

Z氏(他大学匿名希望教員)


【第1回 ・ 9/28 (土)】

・研究報告

釧路MKNセンセ。フィールド予備調査概要報告。

Y氏,KSG氏の研究計画書の作成に向けて。

・定量的分析力養成(1)

1-1:因果推論の基礎(Pearl(2016)『入門統計的因果推論』第1章)担当:KSG氏

1-2:因果推論におけるバックドア規準(林岳彦・黒木学 (2016)「相関と因果と丸と矢印のはなし―はじめてのバックドア規準 」『岩波データサイエンス vol.4』)担当:MKN氏

1-3:RStudio事始め(浅野正彦・中村公亮(2018)『はじめてのRStudio』1-3章)担当:Y氏


【第2回 ・ 10/27(日)】

・研究報告

Y氏,KSG氏の研究計画書チェック。

・定量的分析力養成(2)

2-1:RStudio操作確認(浅野正彦・中村公亮(2018)『はじめてのRStudio』4-5章)担当:Y氏

2-2:Rによる統計1(川端・岩間・鈴木(2018)『Rによる多変量解析入門:データ分析の実践と理論』1-2章)担当:KSG氏

2-3:Rによる統計2(川端・岩間・鈴木(2018)『Rによる多変量解析入門:データ分析の実践と理論』3-4章)担当:MKN氏

2-4:Rによる統計3(川端・岩間・鈴木(2018)『Rによる多変量解析入門:データ分析の実践と理論』5章)担当:X氏


【第3回・11/30(土)】

・研究報告

詳細未定。

・定量的分析力養成(3)

3-1:Rによる統計4(川端・岩間・鈴木(2018)『Rによる多変量解析入門:データ分析の実践と理論』6章)担当:Y氏

3-2:Rによる統計5(川端・岩間・鈴木(2018)『Rによる多変量解析入門:データ分析の実践と理論』7-8章)担当:KSG氏

3-3:Rによる統計5(川端・岩間・鈴木(2018)『Rによる多変量解析入門:データ分析の実践と理論』9章)担当:MKN氏

3-3:Rによる統計5(川端・岩間・鈴木(2018)『Rによる多変量解析入門:データ分析の実践と理論』14-15章)担当:X氏


【第4回・ 12/28(土)】

・研究報告

詳細未定。

・定量的分析力養成(4)

4-1:Rによる統計4(田中隆一(2015)『計量経済学の第一歩』7-8章)担当:X氏

4-2:Rによる統計4(田中隆一(2015)『計量経済学の第一歩』9-10章)担当:MKN氏


【第5回・2/22(土)】

リアルオプション教科書輪読回,第1回。


【第6回・2/29(土)】

リアルオプション教科書輪読回,第2回。


【第7回・3/7(土)】

リアルオプション教科書輪読回,第3回。

2019年度前期博士セミナー

【第1回 ・ 4/7 (日)】

・「良い調査」基礎力養成(1):戸田山和久(2005)『科学哲学の冒険』NHKブックス,1-6章,を扱います。報告は,1-3章がKSG氏,4-6章がMKN氏。本書は科学哲学の基礎を平易に解説したものであり,特に存在論や認識論といった異なる科学的基盤を理解することに適しています。現在,会計学では主流の実在論・自然科学的研究以外にも社会構成主義的な研究などがありますが,それらを含めて研究の前提をキチンと考えましょう,というのが目的です。

・「良い論文」基礎力養成(1)北田智久(2016)「日本企業におけるコストの反下方硬直性」『管理会計学』24(1): 47-63,を扱います。こちらは,博士号取得者を除いて,参加者全員が縮約をしてくることになっています。

・その他研究報告:KSG氏による報告。


【第2回 ・ 4/21(日)】

・「良い調査」基礎力養成(2):戸田山和久(2005)『科学哲学の冒険』NHKブックス,7-9章,を扱います。報告は,他大院生A氏。仮説や理論が備えておくべき要件を理解し,特に実証や反証という考えをものにするのが目的です。

・コースワーク補講(1):ペンマン, S. H.(2018)『アナリストのための財務諸表分析とバリュエーション 原著第5版』有斐閣,1-5章,を扱います。これは,財務会計の知識が管理会計研究にも不可欠という認識のもと,少なくとも最低限の概念は抑えておこうという補講です。報告は,他大院生B氏。発生主義の良いところを理解しましょう。

・「良い論文」基礎力養成(2)佐久間智広・新井康平・妹尾剛好・末松栄一郎(2015)「因果関係を明示する業績報告形式が資源配分の意思決定に与える影響 : 実験室実験 」『原価計算研究』39(1): 76-86,を扱います。こちらは,博士号取得者を除いて参加者全員が縮約をしてくることになっています。

・その他研究報告:他大学院生C氏による博士論文経過報告。


【第3回・5/12(日)】

・研究方法基礎力養成:質的調査編(1):クカーツ(2018)『質的テキスト分析法:基本原理・分析技法・ソフトウェア』,1-4章,を扱います。報告は,KSG氏。テキストデータをコーディングするという基本プロセスを理解し,説明可能にしておきましょう。

・コースワーク補講(2):ペンマン, S. H.(2018)『アナリストのための財務諸表分析とバリュエーション 原著第5版』有斐閣,6-9章,を扱います。これは,財務会計の知識が管理会計研究にも不可欠という認識のもと,少なくとも最低限の概念は抑えておこうという補講です。報告は,MKN氏。

・「良い論文」基礎力養成(3)Banker and Hwang (2008) "Importance of Measures of Past Performance: Empirical Evidence on Quality of e-Service Providers" Comtenporary Accounting Research 25(2): 307-337,を扱います。報告は他大学院生A氏。

・その他研究報告:他大学院生B氏による博士論文経過報告。


【第4回・ 6/1(土)】

・研究方法基礎力養成:質的調査編(2・終):クカーツ(2018)『質的テキスト分析法:基本原理・分析技法・ソフトウェア』,5-9章,補章,を扱います。報告は,大学院生B氏。テキストデータをコーディングするという基本プロセスを理解し,説明可能にしておきましょう。

・コースワーク補講(3):ペンマン, S. H.(2018)『アナリストのための財務諸表分析とバリュエーション 原著第5版』有斐閣,10-13章,を扱います。これは,財務会計の知識が管理会計研究にも不可欠という認識のもと,少なくとも最低限の概念は抑えておこうという補講です。報告は,A氏。

・「良い論文」基礎力養成(4・終):Marriott et al. (2011) "Loose Coupling in Asset Management Systems in the NHS" Management Accounting Research, 22(3) 198-208,を扱います。報告はKSG氏

・その他研究報告:公認会計士D氏による博士論文経過報告。


【第5回・8月19日~22日】

釧路短期大学で集中的に実施。下記の書籍の網羅的検討。

・松浦健太郎(2016)「StanとRでベイズ統計モデリング」共立出版。