本書は,「Dieter Schmalstieg,Tobias Höllerer: Augmented Reality ― Principles and Practice, Addison-Wesley. 2016」を訳出したものである.拡張現実感(augmented reality)は,我々が普段から目にする風景に対して,あたかも実物のように計算機内の様々な情報を配置する技術である.原書が出版された2016年は,Oculus RiftやHTC Vive,PlayStation VRなどの人工現実感(virtual reality)用の商用ヘッドマウントディスプレイが次々に発売された年であった.拡張現実感はこの人工現実感を包含する技術である.拡張現実感技術も手がける世界最大のIT企業の一つであるGoogleでは,2018年第一四半期の売上の約86%が広告収入*であり,その広告の多くが現在スマートフォンのアプリケーションやデスクトップパソコンのブラウザ上に掲載されている.拡張現実感技術により,将来こうした広告の掲載場所が,日常目にするすべての物や空間に拡大されるかもしれない.こうした単純な想像をするだけで,現段階では技術が成熟していないにせよ,拡張現実感技術に秘められた能力が十分に垣間見られ,恐ろしく将来性のある技術だということが分かるだろう.
本書の著者紹介にもあるように,両原著者はいずれも大学の教員であり,原書をまとめた動機の一つは拡張現実感の講義資料としてだと本文中にも述べられている.彼らは今も,複合現実感・拡張現実感に関する最高峰の年次国際会議であるInternational Symposium on Mixed and Augmented Reality(ISMAR)に毎年論文を発表し,時には自ら登壇しており,さらには共同研究者らとともに頻繁に受賞するような存在である.そんな彼らが中心となって執筆したこの書籍は,拡張現実感に関する研究論文の参照数が最も多く,近年の拡張現実感の学術体系を網羅する唯一の教科書である.
Augmented Reality – Principles and Practice Workshop