雪鬼の中でも強い力を持ち、番人とされている青年
己の強さを悲観的に見ているようだ
雪鬼にしては珍しく、どの生命体、どの種族にも友好的である。優しく、他者思い。
そのせいか、他の雪鬼たちを良く思っておらず、居心地の悪さも感じてしまっている。
強い意志を持っているものの、自己肯定感の低さ故に表に出せない性格。表情もあまり変わらない。
静かながらも美しい、雪のような白。鋭い氷の中にも、確かに優しい雪が降っている。
そんな彼は、『細雪(ささめゆき)』という名前を授かった。繊細で、ただ綺麗で。
彼は雪が好きだった。確かに、雪は綺麗だったから。
———しかしそれは、凶器にもなり得ることを知ってしまう日は、そう遠くもなかったのだ。
雪鬼は、基本攻撃的な種族だ。危害を与えるつもりがなくとも、その強い力は他の生命体を襲うには充分だった。細雪は、それを知ってしまう。
雪は花を押し潰し、氷は生命を突き殺した。綺麗であるはずのそれらは、最も簡単に生命を凍死させた。
———何が、細雪だ。
確かに綺麗だったあの雪を、忘れたくはない。汚したくはない。
綺麗な白に、べっとりとした赤色がつくことを許しはしなかった。
故に、彼は細雪の名を捨てる。
この力は、何のためにあるのだろうか。自分は、本当に存在していて良いのだろうか。
自分はただ、綺麗で神秘的な純白の自然を、皆と感じていたかっただけなのに。
それはきっと、叶わぬ願いだったんだ。
「細と書いてサザメ……不思議な名前だと思うだろう? ……俺の元の名は細雪(ささめゆき)。まばらに降る雪という意味を持つ。白銀の世界にはらはらと降る、綺麗な雪だと俺は想像した。……俺は、たしかに雪を操る。しかし、それは生物を殺す雪。血なまぐさい、汚い雪だ。細雪など綺麗な言葉は汚せない」
「最近冷えてきたな……。この調子だと、きっと空から雪が……、この雪は、自然の雪であることを願う」
「綺麗だろう、雪というものは。冷んやりした純白、しかしそこには優しさや暖かさだってある。氷も、透き通った綺麗なもの、まさに神秘だ。……そう、なのに。俺はそう思っていたのに、な」
「この種族に番人など必要なのだろうか。つくづく俺の存在意義が分からなくなる。……俺の強さは、何のためにあるんだ」