【海の大悪魔】と呼ばれる、凍てつく海の最果てに生きるクジラの王
種族的には肉食ではないが、彼は進んで肉を喰らっている
排他的で冷酷。しかし、その分仲間には強い絆と愛を築いている。
仲間であれば、あまり話したことのない個体でも手を差し伸べるほど。
敵と味方の区別が極端であり、警戒心を解くことも容易くはないようだ。
ルウヘイドの種族は、プランクトンを食べて生活している。例外なく、ルウヘイドも幼き頃から皆に倣ってプランクトンを食べていたのである。
特に好きなプランクトンは———決められないでいる。正直食の好き嫌いはしないタイプであったからだ。
美味しい食事ができる海域を見つけては、仲間と自慢し合っていたのは、未だ良い思い出としてルウヘイドの中に残っている。
今日も今日とて、ルウヘイドは海を泳いだ。暖かくも涼しい日差しに照らされる氷は、幼い頃から大好きな光景である。必要以上に海面に顔を出したりもした。
———ただ、その光景の存続が怪しくなっていることも、彼は分かっていたのだ。
海の最果てなるこの場所は、そう簡単に他の生物は辿り着けない。生活するなんて、もっと無理だろう。
しかし、他の生命体も決して馬鹿ではない。最果てに憧れを抱き、噂を聞きつけては脚を運ぶ者たち。そんな者たちは最も簡単に氷を蹴り破った。雪を汚した。
眼前に広がる絶望、それに対抗することができぬ己に、ルウヘイドは憤りを覚える。
自分を、仲間を———この地を護らねば———!!
つまりは、ルウヘイドが弱いのではなく、種族として穏やかであるから対抗ができないのだ。ルウヘイドはそれをいち早く気づき、すぐさま行動に移した。
眼前の魚を喰らった。
肉の塊が六腑を襲う。
また喰らった。
眩暈がする。
———。
クジラたちは口々に言う。
「ルウヘイドは我々を希望へと導いてくれるだろう」
その期待の眼差しの先に君臨するは、彼ら彼女らのヒレ程度の大きさしかない生命体。
1.9mのその生命体は、ヒレだったものを天に向かって伸ばし、言う。
「俺が君たちの希望となろう」
「ここは、涙も凍てつく海の最果てだ。怯え、跪けばいい。降り注ぐ雪、天へと牙を剥く氷。上から君を見下すものの、歓迎はしてみせよう」
「俺たちはある程度は穏やかだ。いや、周囲に狙われるほどには、優しい存在だと言えるだろう。だから俺は牙を剥いた……そう、君たちにだ」
「……うむ。ここならさほど寒くはないだろう。俺たちと住む世界が違うのだから、環境上辛いと思ったのならまた言ってくれていい」
「俺は海の大悪魔と呼ばれている。仲間たちもそれは承知の事実だ。ああ、別に悲観はしていない。……なんせ、俺は君たちが思うよりも凶暴になっているのだから」
「肉は特別好物ではない。嫌いでもないが。……必要不可欠な行動、それだけだ」