INTRODUCTION

 

リム・カーワイ幻のデビュー作が15年の時を経て蘇る

自己存在への恐怖、日常からの逃避を圧倒的な構造美で描き出した、鮮烈なるデビュー作

 

大阪を拠点に、香港、中国、バルカン半島などで映画を製作し、どこにも属さず彷徨う“シネマドリフター(映画流れ者)”を自称する映画監督リム・カーワイ。その原点となる『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』がデジタル・リマスター版として、15年の時を経てスクリーンに蘇る。

 

2010年、『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』は香港国際映画祭をはじめ、各国の映画祭で絶賛され黒沢清監督は、「アジアのパワーと混沌が、ヨーロピアンな深い思索をもって構築され、最後にはまるでハリウッド映画のような興奮で観客の心を釘付けにする・・・世界映画の理想的なカタチがここにある。」と語った。

 

衝撃の引退宣言から1年─

映画監督、映画祭キュレーターとして大阪を拠点に活動の場をひろげる、リム・カーワイの原点

 

近年は東京国際映画祭コンペティション部門に『カム・アンド・ゴー』(2020)がノミネートされ、バルカン半島三部作『どこでもない、ここしかない』(2018) 『いつか、どこかで』(2019) 『すべて、至るところにある』(2023)、初のドキュメンタリー映画『ディス・マジック・モーメント』(2023)が公開され、映画監督として精力的に活動するも、2024年に突然の休業宣言したリム・カーワイ監督。

 

休業期間中も「台湾文化センター台湾映画上映会」キュレーター、週刊文春CINEMAにて「香港からの手紙」の連載など、大阪を拠点にグローバルな活動を展開し、その存在を示していた。2025年、優良な中華圏の映画の企画とグローバルな投資企業をつなぎ合わせることを目的とする台湾の企画マーケット「金馬創投会議」に、新作企画『遠雷的午後』がノミネートされ、プロデューサーに映画監督のトム・リン(『九月に降る風』『夕霧花園』)が名を連ねたことも話題となった。

 

2000年代末の混沌とした時代が生み出した、

無国籍インディペンデント映画の奇跡─

 

映画監督だけではなく、多角的な視点で、グローバルに活躍するマレーシア出身の映画監督リム・カーワイ。大阪大学卒業後、サラリーマン生活に別れを告げ、北京電影学院に飛び込んだリムが、2009年北京郊外で初メガホンをとったのが『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』だ。

自分の存在が消失する恐怖、日常からの逃避を2部構成で、虚構と現実を行き来するふたつの世界が、映画的構造美の中でゆらめき、観客を白昼夢に突き落とす。中国、日本、カナダ、アメリカ、台湾等、多国籍なキャストスタッフ編成で自主制作映画された、“シネマドリフター”の原点となる作品だ。

 

ア・ジェを演じた大塚匡将は中国で活躍した日本人俳優で、代表作に台湾南方影展最優秀長編映画賞に輝いた『恋人路上』(2008/ツァン・ツイシャン監督/主演)がある。ゴウジー(狗子)は北京アンダーグランドの演劇作家・小説家で、『カム・アンド・ゴー』で久々にリム・カーワイ映画にカムバックした。ヒロインを演じたへー・ウェンチャオ(何文超)は中央演劇学院監督コースを卒業した才女で、卒業制作は釜山映画祭短編コンペに出品された中国人女性監督であった。撮影監督のフォン・ビンフェイ(馮炳輝)は香港の映像作家で、代表作『香港公路電影』は97年の山形ドキュメンタリー映画祭にも出品された。編集と照明は、『タイムレスメロディ』『黒四角』『ホテルアイリス』の監督の奥原浩志が担当した。

 

2000年代の自由で混沌とした中国で、国境を越えたインディペンデント映画人たちの情熱が凝縮した『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』。国境と言葉を超えて映画を作り続ける、旅する映画監督“cinema drifter”リム・カーワイの原点がここにある。

 

STORY


10年ぶりに故郷に帰ってきたア・ジェ。

しかし、家族でさえ彼の存在を知る者はいない─

 

唯一ア・ジェを覚えているのは、レストランの店主ラオ・ファンだけだ。

ラオ・ファンに連れられ、秘密の鍵を握る男に会いに行くが、ア・ジェは殺人の濡れ衣をきせられ処刑されてしまう…。

 

死んだはずのア・ジェが、再び街に戻ってきた。

空虚な日常を生きるラオ・フアンは、過ぎし日々に思いを寄せる。

町に起こる奇怪な事件をきっかけに、彼らは新しい人生を手に入れられるのか─

 

第一部で自己の存在についての恐怖と疑いを、第二部で退屈な日常生活からの逃避を、空想と幻想を通して描かれていく。


二つの異なった視点で世界を覗いたとき、観客は自然と白昼夢に引き込まれていく─