DUC's
90s Gospel Revival 解説 vol.1
by 木島タロー
by 木島タロー
いわゆる「黒人教会」の礼拝音楽であるゴスペルミュージックだが、一時的な音楽カテゴリーではなく、ジャズやロック同様、長い歴史があって、たくさんのサブカテゴリーを生み出している。
80年代以前のゴスペルミュージックは、奴隷制から続いた苦しみを反映した野趣が残っている。必ずしもタイトに整っていないコーラスやバンド音こそが他の音楽ジャンルとは違った魅力の中心となっている。
一方で、2000年代以降のゴスペルはエレクトリック化し、音的には「化粧万全」となっており、コーラスはバックグラウンド化し、人の叫びとしてのコーラス要素は聴こえづらくなってくる。
その現場は「教会」であり、主人公はアマチュアである。
ビルボードのカテゴリーごとのヒットチャートの中で、ゴスペルほどアマチュアがトップテンを率いてきたジャンルはないのではないか。
録音の質やミュージシャンにも野趣が残るが、その分他のジャンルからは得られない人の生活の力、命の力がある。
「スタジオ化」し、トラックからコーラスまで、全てが高度なプロの仕事になっている。
生楽器をきれいに録音するには優れたミュージシャンも知識も手間が必要だが、デスクトップミュージックではパソコン一台から最高の音質が得られる。
おびただしい数のプライベートスタジオが生まれ、そこに招かれたシンガーが1名か2名で重ねて録音をしてゆく。ソウルやR&Bのコーラスのように完璧なニュアンスで音楽は出来上がるが、人の叫びが生み出す雑味はない。
その狭間にある90年代は、教会音楽のバンドの技術が最高潮に達し、かつ、人々の叫びが残っていた。外からこの音楽に憧れるライブミュージシャンにとってはまさに黄金期と言える。
僕が教会に入り込んだのは1996年。毎週、ほぼ黒人ばかりの数百人が熱狂する教会で、今やトップランナーとなったMDストークスの率いるバンドの中でゴスペルミュージックを覚えた。
最後に人類を救うのは「合唱」なんじゃないか、と漠然と10代の頃から考えていた僕にとって、ゴスペルこそ最も理想とする合唱に近いものだ、と思えた。
当時のゴスペル、つまり90sゴスペルは僕にとって人が望みうる究極の "ライブ" コーラス音楽に思え、英語や聖書とともに夢中で学び、没頭した。言葉もろくに通じないがただ僕の存在を受け入れてくれた教会の連中との交流も、僕の心を日々救ってくれたものだった。
今回、DUCサウンドのルーツでもある90年代ゴスペルのリバイバルを通し、メンバーやバンドとそのサウンドの意味を分かち合う。また、お客様にもゴスペルという音楽が洗練されてきた歴史を知ってもらい、「人が生き抜くための生活音楽」が、ここまで「洗練されたライブ音楽」に至ることができる様を体験してもらいたい。
キーボードを弾くらしいがあまり見たことはない。歌も歌うが、指揮者に徹していることも多い。自分が全て作曲しているわけではなく、アレンジャー、指揮者としての活躍が多い。少しずつスタイルを変えながら現在(2020年代)に至るまでヒットを生み出し続けている。
もともと「Commissioned 」という伝説的ゴスペルユニットのベーシストで、ソングライター。コード進行は比較的シンプルだがグルーブで聴かせる、ベーシストらしい作曲だなあと感じる。リードシンガーとしても素敵。ライブでは別ベーシストを使い、滅多に自分では演奏しない。
ピアニスト出身のディレクター。息子たちもバンドメンバーとしてすくすく育ち、家族で自分の教会音楽をやっている。ストークス曰く「アメリカで最も優れたゴスペルミュージシャンが集まっている」というジョージア州で、最も優れたゴスペルバンドを束ねている。
今やゴスペルを知らない人にも知られる、押しも押されもせぬゴスペル界のキング。盗作訴訟を複数受けたり、ステージパフォーマンス中にオーケストラピットに自分で落ちたのにホールが暗すぎると訴訟を起こすなど、ゴシップも多いが、ミューシャンの心をくすぐってやまない最先端のサウンドをゴスペル界に供給し続けているのは確か。
シンガーソングライター。
名だたるディレクター中でも恐らく最も声の音域が広く、とにかくボーカル力で他のディレクターたちを引き離す。
その他:
Richard Smallwood /クラシカル。オーケストラを率いる。
Sounds Of Blackness / 黒人史にこだわり、宗教歌詞以外も多い。
O'landa Draper(故) / クワイアーの技巧が高い。
Commissioned /伝説的バンドだが、クワイアーじゃなく少人数のアンサンブル
2000年以降にブレイクするが、90年代のバンド文化を踏襲したアーティスト:
Kurt Carr / キャッチーで商業的(?)な作曲に優れる。
Donald Lawrence / 信仰的にちょっと変わったメッセージが多く、議論を呼ぶことも。
Kim Burrel / 今最もファンキーなバンドを率いている。LGBT差別発言が表面化し残念。
'90s ゴスペルの編成は、ピアノ、オルガン、ベース、ドラムを基本としつつ、ギター、ストリングスやブラスを出すサイドキーボード、パーカッション、さらに、パーカッション、ホーンセクション、アコースティックギター、とバンドが巨大化していった時代でもある。90年代後半にはサンプラーが入手しやすくなり、打ち込みのパーカッションをからませる、いわゆる同期演奏も増えてくる。
奴隷制時代(〜1865)には打楽器や管楽器の所有を禁止されていた地域が多く(アフリカ人は大音量楽器で通信すると思われていた)、黒人霊歌はアカペラで始まった。ラジオ放送が始まった1920年代にはピアノ伴奏があり、その後ドラムやウッドベースが付くなど発展してゆき、1950年代頃から教会のメイン楽器はハモンドオルガンへ。その後1980年代まで、ピアノ、オルガン、ドラム、ベース、という編成が多く見られる時代が続く。
2000年代以降は、一旦ラテンサウンドの取り込みが流行ってくるため(ヒスパニック系の移民が黒人教会に流入してきたためだと聞いたことがある)、バンドはまだまだ生き生きしているが、2000年代半ば頃から市場のエレクトリック化が進む。これは自宅に制作環境を持つ若い世代が増えてきたためで、自宅で完結できる優れた作品が大量に出てきたため。一人の優れたボーカルを多重録音すれば完璧にニュアンスを一致させられるし、トラック個別にAutoTune(ピッチ直し)できる。優れたバンドを持ったグループはまだいるが、割合的に、生楽器を極小にしか使わないスタジオ作品が圧倒してくる。
今回12/27は、8名のバンド編成でのぞむ。
Pf: 木島タロー
Gt: 加部輝(ウルトラ寿司ふぁいやー)
Ba:大澤伸広
Dr: 佐藤由(オルケスタ・デ・ラ・ルス)
Key: まっつ/広井裕子
Organ: 小杉泰斗(国音ジャズ科4年)
Tp: 渡邉"じゃが"和武(国音ジャズ科2年)
Sax: Ken Coltrane(国音ジャズ科2年)