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空閑と村上

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ベンチに腰掛けて、空閑に打ち明ける村上。「両親のことは本当に尊敬してるし、感謝してもしきれない。いつも俺を助けてくれた。でも気づいたら、俺の世界はすごく狭くなってた。きっと自分の人生の選択肢を両親に委ねすぎたんだな。」

村上　「だから一度、この狭い世界から抜け出そうと思った。親には猛反対されたけど、数年したら帰ってくるっていう条件で許してもらった。深く考えずボーダーに入ったけど、当時の自分の決断を後悔してはない。　親と約束した「数年」が近づいてる。だから俺は帰ってこなきゃいけない。でも、俺はもう帰ってくるつもりはないんだ。」

村上　「俺は優しくなんかないよ、空閑。冷たいやつなんだ。」　空閑が少し考え込んで言う。「村上先輩はいままで周りのひとの気持ちを大事にしてきた。　でもいまはじめて自分の感情を何よりも大事にしようとしてる。おれにはそう見えるよ。冷たくなんかない。」

村上　「そっか。そうかもな。」　場面が変わり、村上の部屋。空閑が風呂から出てくる。

村上　「ゆっくりできたか？」　空閑　「うん。」　村上　「空閑はほんとに寝なくて大丈夫なのか？」　空閑　「うん。そういう体質なんだ。」　村上　「そっか。なんか、俺だけ寝たら悪いな。」　空閑　「お気になさらず。慣れてるので。」　村上　「暇だったらそこらへんのアルバム見てもいいよ。恥ずかしいけど。」　空閑が嬉しそうに返事をする。　深夜、寝ようとしている村上が空閑に声をかける。

村上　「俺が寝つくまで近くにいてくれないかな。」　空閑　「いいけど。なんで？」　村上が空閑の手を握りながら言う。「空閑が故郷に帰っちゃうなら、今のうちにたくさん覚えておきたい。いつでも思い出せるように。」

村上が寝てしまい、空閑は握っていた手を離そうとする。しかし思い直して再び手を握る。

空閑は村上の言葉を思い出す。『自分の体が、心が、引き裂かれるみたいに痛いんだ。』　空閑がつぶやく。　「村上先輩、たぶん俺もその痛みを知ってるよ。」

翌朝、家を出る二人に両親が声をかける。「あんたたち、忘れ物ない？　ちゃんと確認した？」　「今朝は冷えるから気を付けてね。」　空閑　「大丈夫です。ありがとうございます。」　父親が村上の名前を呼んで言う。「いつでも帰っておいで。待ってるから。」

村上が寂しそうな表情で答える。「うん。ありがとう。」　帰りの電車の中。空閑と村上は静かに外を眺める。

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