企画セッション
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人工心肺装置Essenz®導入に伴う体外循環体制の変化と使用経験
社会医療法人天神会 新古賀病院 臨床工学課
○湯浅 竜一
当院ではこれまで、泉工医科工業株式会社製人工心肺装置HASⅡ®(1台体制)を用いて開心術を施行してきたが、1台体制では開心術中の緊急心臓手術への対応が困難であることや、SHD症例において人工心肺装置の制約により開心術との同時施行ができないといった課題があった。これらを解消するため、人工心肺装置の2台体制構築を目的に、2024年4月にLivaNova社製Essenz®を導入した。2026年2月時点での体外循環症例数は241例であり、Essenz®の使用頻度は約83%である。現在、人工心肺装置はHASⅡ®およびEssenz®を各1台保有している。
Essenz®導入の決め手として、JaSECTの安全装置設置基準を全て満たしている点、GDPモニタリングを可能とするEPMの搭載、さらに異なるメーカーを併用することによるリスクヘッジが挙げられる。使用感としては、操作ダイヤルにやや固さがあり初期には慣れを要した。一方で流量操作パネル周囲にモニタが集約されたコックピット設計により視線移動が少なく操作性に優れていた。また、英語略語やイラスト表記にも習熟を要するが、安全機能および作動チェック機構は非常に優れていると感じられた。
導入に伴い、心筋保護液2nd液の血液:晶質液比を従来の9:1から4:1へ変更したほか、ローラポンプが横向き配置に限定されるためメインポンプ部分は回路延長が必要となり、さらにサクション回路径やバブルセンサー部のチューブ厚の変更など、回路構成の見直しを要した。
今後のソフトウェア改善として、心筋保護液割合設定の自由度向上、モニタ表示中の操作性改善、心筋保護液タイマーの再通知機能追加、ならびにEPMのデータを手術支援システムへ保存可能とする機能の実装を要望する。
導入検討施設に対しては、デモ機を用いた検証を推奨する。HASⅢ®など他機種と比較すると設計コンセプトの違いにより回路取り回しが大きく変化するため、実運用を想定した評価が重要である。Essenz®はプレバイパスモードにおけるセンサーチェック機構や、症例モード移行時の自動センサー起動機能により装着忘れ防止が図られており、安全性に優れる。またGDPモニタリングにより、経験則に依存しない客観的かつ均一な体外循環管理が可能であり、Perfusionistの管理の標準化に寄与すると考えられた。
次世代型Heart Lung Machine「Essenz」は使いこなせるのか?―導入初期における試行錯誤―
九州大学病院 医療技術部臨床工学部門
〇堤 悠亮
【背景】 近年、Goal Directed Perfusion(GDP)に基づく人工心肺管理の重要性が広く報告されており、その実践にはリアルタイムなデータ統合が不可欠である。Essenzは生体情報を一元的に可視化しGDPの実践を支援する次世代型人工心肺装置であり、本セッションでは、先行導入施設として導入後1年未満の初期経験および課題を報告する。
【当施設の運用状況】 当施設では年間約350例の開心術に体外循環を施行している。人工心肺装置はEssenz・成人用HASⅢ・小児用HASⅢの計3台を保有し、並列手術体制で運用している。2025年11月の導入以降、2026年3月現在の使用症例数は44例であり、全体外循環症例に対する使用割合は33%である。
【導入の決め手と変更点】 導入の主な理由は以下の2点である。Essenz Patient Monitor(EPM)によりDO₂iをはじめとする体外循環中の全操作が記録・可視化され、データに基づく「説明可能な体外循環」の実践が可能となる点、および詳細な振り返りによる教育的効果が期待できる点である。回路・レイアウトはHASⅢとの互換性を重視し大きな変更は行っていないが、モニターとポンプダイヤルが一体化した構造上、従来機と比較して視線配分の変化への習熟を要した。
【使用感と課題】 全症例にローラポンプを採用しているが、Essenzの移動平均化された流量表示は安定した指標として有用である。一方、急激なダイヤル操作後は、実操作量と表示流量の間に一時的な乖離が生じる点に注意が必要である。EPMはCDIと連動しているが、他の生体情報モニターとのデータ統合については、現在検討中である。特にMICS等の大腿動脈送血症例におけるrSO₂モニターとの統合など、課題が残る。
【今後の展望とメッセージ】現状では、既存装置との整合性、関与するPerfusionistの人数が多いことによる安全面への配慮から、全機能をフル活用するには至っていない。一方で、EPMにより全操作が記録・可視化されることで、「説明可能な体外循環」を実践せざるを得ない環境が構築される点は大きな意義があると考える。データに基づく人工心肺管理を実現しうるEssenzは、まさに次世代のHeart Lung Machineと位置づけられる。導入検討施設においては、単なる装置の更新ではなく「データに基づいた安全管理体制の構築」という視点での検討を推奨する。