一般演題Ⅱ~U-40セッション②~
一般演題Ⅱ~U-40セッション②~
【Ⅱ-1】ECMO管理下患者のCT撮影時における散乱線分布と安全な立ち位置
高橋 幸子 (九州大学病院)
【背景】ECMO管理下患者は、治療経過や合併症評価、デバイス位置確認のためCT検査が行われる機会が多い。臨床工学技士(CE)はベッド移乗や装置管理のためCT室内に立ち会う必要があるが、CT撮影時における散乱線被ばくに関する検討は十分に行われていない。
【目的】本研究では、ECMO管理下のCT撮影時における散乱線量を測定し、CEの被ばく低減につながる安全な立ち位置を明らかにすることを目的とした。
【方法】ECMO装置(キャピオックス遠心ポンプコントローラー SP-200,TERUMO)およびCT装置(Aquilion ONE/PRISM Edition,キャノンメディカルシステムズ)を使用し、胸部から骨盤までのCT撮影を想定したファントムを使用した。CT撮影室内の複数個所に環境線量計(LUCREST ICS-1323,日立アロカメディカル)を床上105㎝の高さに設置した。測定点はガントリ回転中心から100㎝間隔で配置した9か所とし、各地点で3回測定を行い1㎝線量当量として評価した。X線防護衣(0.25mm鉛当量、保科製作所)の有無およびECMO装置の有無を条件とした。なお、本研究は診療放射線技師と共同で実施した。
【結果】散乱線量はガントリ付近で高く、ECMO装置を介する位置で低下する傾向が認められた。一方、防護衣なしの条件では一回の撮影における散乱線量は最大288µSvを示した。防護衣を着用することで散乱量は約70~80%低減した。また、ECMO装置を遮蔽体として配置した条件では、最大で約90%以上の低減を認めた。
【考察】散乱線は距離と遮蔽物の影響を大きく受けることが示された。防護衣の着用とECMO装置を遮蔽物として有効に機能することが示唆された。臨床現場では、防護衣の着用と距離の確保、ECMO装置を遮蔽物として活用することで被ばく低減が可能と考えられる。一方で本研究はファントムによる検討であり実際の患者条件や撮影条件により散乱線分布が変動する可能性があるため、今後は臨床環境での検証が必要である。
【結論】ECMO管理下患者のCT撮影時において、CEの立つ位置により散乱線被ばく量は大きく異なった。ガントリからの距離および防護衣の着用、さらにECMO装置を遮蔽体として利用することで被ばく低減が可能であることが示唆された。
【Ⅱ-2】CARP後とHotshot後のCK-MBの比較検討
瀬戸内 琉清 (大隅鹿屋病院)
【背景】心臓血管外科における心筋保護は術後成績に大きく影響する重要な要素であり、その最適化が求められている。最終心筋保護手技として用いられるHotshot・CARPはいずれも再灌流時の心筋保護を目的として用いられているが、その有用性の差異についての報告は少ない。
【目的】心筋保護手技としてのHotshot群(H群)とCARP群(C群)を比較し、術後心筋障害の指標としてICU入室後のCK-MB値に与える影響を検討する。
【対象】当院で心臓手術を施行した症例を対象とし、CARP移行期の2015年~2018年のHotshot50例とCARP50例とした。除外基準は緊急・大血管症例・CABG・re-do・MICS症例とした。
【方法】後ろ向き研究として、H群とC群におけるCK-MB Peak値を比較した。患者背景として年齢、性別、身長、体重、BSAを比較した結果、有意差は認めなかった。一方、術式内容ではH群で複合手術症例が多く、さらにポンプ時間および心筋保護投与回数(CPG回数)はH群で有意に高値であった。そのため、術式による影響を考慮し、AVR単独症例に限定した解析も行った。副次項目として、交絡因子となりうる手術内容、ポンプ時間、遮断時間、CPG回数を用い、多変量解析によりCK-MB上昇との関連を検討した。統計解析にはノンパラメトリック法であるMann-Whitney U検定を用い、データは中央値(四分位範囲)で評価した
【結果】全症例:CK-MB(U/L)H 38.5(28.0–52.0)vs C 32.0(27.0–39.0),P=0.028。遮断時間(min)H 95(75–115)vs C 85(70–100),P=0.22。AVR:CK-MB(U/L)H 29.0(25.5–36.0)vs C 30.0(24.0–36.0),P=0.86。遮断時間(min)H 82(70–92)vs C 77(69–89),P=0.44。
【考察】全症例ではH群はC群に比べCK-MBが有意に高値であったが、H群ではポンプ時間やCPG回数が多く、手術内容にも差を認めたことから手術侵襲の影響が示唆された。そこでAVR症例に限定しMann-WhitneyU検定を用いて解析を行った結果、2群間比較として群間差は消失した。さらに多変量解析では遮断時間およびCPG回数がCK-MB上昇の独立因子であり、心筋保護法自体は関連を示さなかった。以上より、CK-MB上昇は手技の違いよりも手術侵襲の影響を強く受ける可能性が示された。
【結語】H群とC群の比較では術後CK-MB値に有意差は認められなかった。今後は手技の特性を踏まえた適切な選択に加え、不整脈や術後動態の評価を含めた検討が重要である。
【Ⅱ-3】人工心肺中における高マグネシウム血症の要因検討 ―心筋保護液投与量による血清Mg濃度上昇への影響―
隅崎 妃芽佳 (天陽会中央病院)
【はじめに】人工心肺(CPB)を用いた心臓手術において、電解質管理は術中・術後の血行動態を安定させる上で極めて重要である。マグネシウム(Mg)は心筋保護や不整脈予防に寄与する一方で、過剰な血中濃度上昇(高Mg血症)は徐脈や血圧低下、さらには術後の覚醒遅延や筋弛緩作用の延長を招くリスクが指摘されている。当院のCPB症例においても、術中に高Mg血症を呈する症例が散見される。その主な供給源として、Mg成分を含有する心筋保護液の影響が推察されるが、実際の投与量と血中濃度上昇の相関については不明な点が多い。よって、心筋保護液の投与量の違いが血清Mg濃度の上昇量に与える影響を明らかにし、高Mg血症の要因を検討することを目的とした。
【方法】対象は、当院においてCPB下に心臓手術を施行した40例。初回心筋保護液の投与量に基づき、当院の規定量内に収まった群(Normal-dose群:N群、n=10)と、規定量以上を投与した群(High-dose群:H群、n=30)の2群に分けた。
評価指標として、CPB開始直後の血清Mg値(Mg0)およびCPB開始30分後の値(Mg30)を測定し、その変動量(ΔMg)を算出し、マン・ホイットニーのU検定を用いて解析した。
【結果】Mg濃度の上昇度(ΔMg)の中央値は、N群で1.85mg/dL、H群で1.75mg/dLであった。両群間において上昇度に統計学的な有意差は認められなかった(p=0.51)。
各時点でのMg濃度をみると、CPB開始30分後(Mg30)の中央値はN群で3.15mg/dL、H群で3.30mg/dLであり、いずれの群においてもCPB開始直後と比較して上昇傾向を示していた。特にH群においては、数症例で4.0 mg/dLを超える高値を示したが、群全体としての有意な差には至らなかった。
【考察・結語】本検討において、心筋保護液投与量の違い(Normal vs High)によるMg濃度上昇への有意な影響は認められなかった。ΔMgの中央値が両群でほぼ同等であったことから、Mg上昇には投与量のみならず、体外循環開始時の充填液による希釈や腎排泄能、体液バランスなど複数の因子が関与している可能性が示唆された。
心筋保護液の追加投与が直ちに高Mg血症を招くとは限らないが、長時間症例や腎機能低下症例では投与量に関わらず慎重な電解質管理が重要である。
【Ⅱ-4】体外循環回路破棄後の予期せぬトラブルにて、緊急体外循環を行った2症例について
八尋 智基 (長崎医療センター)
【はじめに】通常、当院において体外循環終了後に清潔を維持し、再度体外循環ができる状態にしている。また、医師の指示があってから血液回収及び回路破棄を行っている。今回、体外循環回路破棄後の緊急体外循環を経験したので、その時の状況や対応等を報告する。
【症例1】70代女性 虚血性心疾患、巨大冠動脈瘤と診断された。冠動脈バイパス術を行い、体外循環終了した。回路破棄した後に血圧低下。経食心エコーでの動きが悪く、IABP挿入を試みたが、適切に留置ができなかったため、再度体外循環を導入した。対応人数2~4名、再ポンプ迄に15分ほど要した。バイパスを1本追加し手技終了し、術後ICUに帰室した。
【症例2】60代女性 大動脈弁狭窄症、上行大動脈拡張と診断された。上行置換及び大動脈弁置換術を行い、体外循環終了後回路破棄。閉胸に向け最終止血確認を行った際に中枢側裏側より出血が見られた。出血コントロールできずに体外循環を行わないと修復は不可能と判断され、再度導入となった。対応人数2~3名、再ポンプまで20分ほど要した。追加で血管縫合を行った後、止血を十分に確認し体外循環離脱。手技終了後、術後ICUに帰室した。
【考察】緊急時を想定するならば、プレコネクト回路(プレコネ)を選択するが、当院は症例数が少ない為滅菌切れを考慮し、プレコネを保有していない。そのため、セパレート回路での対応となるが回路をシンプルにし、循環回路のみをプライミングできるよう構成している。今回の対応が15~20分を要したが、カニュレーションや医師からの準備完了確認までには、プライミングが完了していたのでセパレート回路でも十分に対応ができると考える。
【結語】短期間に連続して上記の緊急体外循環を行った2症例を経験した。不測の事態によって再度体外循環を行う事はあるが、体外循環回路破棄後からの緊急体外循環は初めてであった。これらの経験をもとに、緊急対応マニュアルを再考し、定期的なトレーニングを行う事で安全性と対応力、回路に対する理解の向上を目指す。
【Ⅱ-5】腕頭動脈より左総頸動脈が分岐した解剖学的変異に対する人工心肺の一例
渡邊 広明 (佐賀県医療センター好生館)
【背景】大動脈弓から分岐する主動脈は通常腕頭動脈、左総頸動脈および左鎖骨下動脈の3分枝であるが、分岐異常は一定頻度で認められる。今回、腕頭動脈から左総頸動脈が分岐している急性大動脈解離Stanford typeAにおいて、右腋窩動脈からの選択的脳灌流を経験したので報告する。
【症例】80代女性。夕食後に突然胸背部痛が出現したため、救急要請。造影CT検査にて血栓閉塞型の急性大動脈解離 Stanford typeAを認めたため翌日、緊急上行大動脈人工血管置換術となった。CT検査では、腕頭動脈から左総頸動脈が分岐する解剖学的変異を認めていた。
【方法】ヘパリン投与後に右腋窩動脈へ送血管、右房に脱血管を留置し人工心肺 (CPB)を確立後、冷却開始。直腸温25度で循環停止とした。心筋保護は逆行性持続冠灌流法を用いた。脳内局所酸素飽和度(rSO2)の低下を認めたため、腕頭動脈起始部を遮断し右腋窩動脈より選択的脳分離灌流を開始。人工血管末梢吻合終了後、人工血管側枝より循環再開し復温を開始。右冠動脈起始部付近まで解離が及んでいたため、人工血管中枢側吻合後、右冠動脈再建まで行い大動脈遮断を解除、CPBを離脱した。
【結果】右腋窩動脈からの選択的脳灌流後でも左右のrSO2上昇が確認できた。術後10日目で抜管し16日後にICU退室となった。また、術後に脳梗塞等は認めなかった。
【考察】当施設では通常、大腿動脈を送血の第一選択とし弓部分枝にSCPカニューレを挿入し選択的脳分離灌流を確立するが、今回のような解剖学的変異における右腋窩動脈からの選択的脳灌流は有効な手段であったと考える。また、脳合併症の原因と考えられるSCPカニューレの挿入時の術中操作を抑えられ、大腿動脈送血からの逆行性送血で懸念される大動脈壁の粥腫飛散のリスクを回避できる点において、このアプローチは有効であると考えられた。
【結語】腕頭動脈から左総頸動脈が分岐する解剖学的変異を有する症例において、その特徴を考慮し人工心肺戦略を構築することで、安全に手術を遂行することが可能であった。