一般演題Ⅰ~U-40セッション①~
一般演題Ⅰ~U-40セッション①~
【Ⅰ-1】低体温循環停止後の循環再開時に人工肺内圧上昇を認め、人工肺交換を行った一例
古川 雄一朗 (宮崎県立延岡病院)
【はじめに】体外循環中の人工肺内圧上昇(HPE)は、人工肺内血栓形成などを起因とする重大なトラブルである。JaSECT安全対策委員会の報告によると、体外循環中に人工肺交換を要した症例は一定数あり、人工心肺開始時に発生しやすいとされている。今回、低体温循環停止後の循環再開時にHPEを認め、人工肺交換が必要となった症例を経験したため報告する。
【症例】60代男性。身長172.6cm、体重74.3kg、BSA1.88m2。既往は陳旧性脳梗塞、末期腎不全(透析導入後)、2型糖尿病。RCAに対してPCI歴があり、今回、CAGにてRCAの再閉塞およびLCAの有意狭窄が指摘され、冠動脈バイパス術の予定となった。入院中の心臓超音波検査で上行大動脈内に可動性構造物を認め、上行大動脈人工血管置換術および冠動脈バイパス術の方針に変更になった。
【経過】血液凝固分析装置HMSによるヘパリン濃度測定後、ヘパリンを規定量投与。ACT554秒にて左大腿動脈送血、上下大静脈2本脱血、目標灌流量4.7L/min(P.I 2.5L/min)で体外循環を確立した。開始時の人工肺前後圧較差(ΔP値)は110mmHgであった。その後、最低膀胱温25℃まで冷却し循環停止、逆行性脳灌流を開始した。人工血管末梢吻合終了後、グラフト側枝より順行性送血を開始した際に、流量1.4L/minでΔP値340mmHgまで上昇した。回路屈曲などは認めず、人工肺が問題と判断し、再度循環停止とし人工肺交換を実施した。交換後、ΔP値105mmHgと改善が見られ、その後は安定して体外循環を維持できた。
【考察】本症例のHPEの原因として、寒冷凝集や血液凝固を疑ったが、術後の原因精査では、寒冷凝集反応、抗リン脂質抗体はいずれも陰性であった。その他原因の特定には至っておらず、現在、メーカーへ解析依頼中である。当院は人工心肺症例数が少なく、人工肺交換を経験する機会も稀であるが、3分間の循環停止で交換が可能であった。一方で代替人工肺の準備、プライミングに約10分を要したことは今後の課題である。緊急時の迅速な対応を可能とするためのトレーニングの重要性が示唆された。
【結語】循環再開後にHPEを認め人工肺交換を要した症例を経験した。いかなる局面でも迅速なトラブルシューティングを可能にする体制を整備しておくことが、体外循環管理の安全性向上に重要である。
【Ⅰ-2】右房内を占拠する巨大粘液腫に対し、体外循環確立に工夫を要した1例
塩屋 正昭 (佐世保市総合医療センター)
【はじめに】右房粘液腫は心臓粘液腫の中でも比較的稀であり、巨大な場合は右房内のスペースを占拠するため、人工心肺確立時の脱血管の留置位置等に難渋することがある。今回、体外循環を行う上でのカニューレ選択と挿入手順の工夫にて安全に手術を遂行できた一例を経験したので報告する。
【症例】30代女性。20XX年から咳嗽が出現し、かかりつけ医を受診し感冒薬処方されるも改善見られず。熱源精査目的に他院に紹介となり、心エコーにて右房内を占領する巨大腫瘤影を認めたため、手術目的で当院心臓血管外科へ紹介となった。
【手術内容】若年性であることから正中切開とMICSの双方を検討したが、巨大右房内腫瘍の影響による弁下組織を含めた三尖弁形成術を実施する可能性を考慮し、正中切開アプローチを選択した。送血管は上行大動脈、脱血管は上大静脈と大腿静脈経由での肝静脈近傍の下大静脈へ留置する方針とした。大腿静脈から挿入する脱血管は、先端から10㎝までのサイドホールを有する38㎝の長さのものを選択し、X線透視装置と経食道エコー併用下にて挿入した。
手術所見では、粘液状腫瘤は右房全体を占拠しており、一部は右室に嵌頓していた。腫瘍切除後に腫瘍基部右房壁を楔状に完全切除し再建を行った。右室内に嵌頓した巨大腫瘍ではあったが三尖弁の裂孔等はなく、水試験での三尖弁接合不全は軽度であることから弁形成術は実施せずに手技終了となった。ICUへ入室し術後10日目に合併症なく退院となった。
【考察】患者の身長や血管走行によっては、通常型の大腿静脈カニューレではサイドホールが挿入肢の腸骨静脈に位置するだけでなく、サイドホールが体外に露出する危険性もある。本症例では、術前CT画像から得られる大腿静脈から肝静脈までの距離を算出し、脱血管を選択したことで、適切な位置への留置が可能であったと考えられた。また、経食道エコーにて肝静脈近傍を描出した状態でカニュレーションすることで、透視のみでは確認できない詳細な位置を把握できたことが、安全な体外循環確立に寄与していたと考えられた。
【結語】右房内を占拠する巨大粘液腫に対し、体外循環確立に工夫を要した1例を経験した。
同疾患の患者は症例に応じて求められる体外循環法が異なる場合もあるため、本症例のように詳細な情報の元に手術計画を立案する必要性があると考えられる。
【Ⅰ-3】子宮筋腫の心腔内進展による右房内腫瘍に対し限られた脱血条件下で体外循環を維持し手術を施行した1例
軸屋 恒星 (米盛病院)
【はじめに】心臓内腫瘍は稀な疾患であり、全解剖例の0.1%以下とされる。そのうち約70%が良性腫瘍である。一方、子宮筋腫は成人女性の約4人に1人に認められる良性腫瘍であるが心腔内まで進展する症例は極めて稀である。今回、経胸壁心エコー検査(TTE)にて右房内腫瘍を認め、外科的治療を行った症例を経験したため報告する。
【症例】40代女性。6〜7年前より子宮筋腫を指摘されていた。20XX年に脳梗塞を発症し、下大静脈血栓に対し抗凝固療法が開始されていた。血栓は経過観察されていたが縮小を認めなかった。その4年後5月頃より易疲労感、動悸、失神発作を認めたためTTEを施行したところ、右房内に約50×40mmの腫瘤を認め、右房から右室にかけて振り子様運動を呈し三尖弁に干渉することで中等度三尖弁閉鎖不全を認めた。造影CTより子宮筋腫の進展による右房内腫瘍が疑われ、準緊急手術となった。
【結果】体外循環時間120分、大動脈遮断時間は22分および54分であった。下大静脈は腫瘍により占拠されていたため通常の脱血は困難であり、上大静脈脱血およびポンプサッカーにより体外循環を維持した。右房切開後、下大静脈側から腫瘍を牽引し摘出した。摘出後も三尖弁逆流が残存したため三尖弁輪形成術を追加した。術中評価にて腫瘍は肝静脈レベルまで摘出されていることを確認した。病理診断は良性子宮筋腫であり、術後経過は良好で自宅退院となった。
【考察】本症例では下大静脈が腫瘍により占拠されていたため、通常の脱血が困難であった。そのため、上大静脈脱血およびポンプサッカーを併用することで体外循環を維持し安全に腫瘍摘出が可能であった。
【結語】子宮筋腫の進展による右房内腫瘍に対して、限られた脱血条件下での外科的治療を経験した。
【Ⅰ-4】小児心筋保護液注入における先端圧推定の検討
小原 啓太 (鹿児島市立病院)
【はじめに】開心術における心筋保護液注入時には注入圧モニタリングが安全上重要である。「人工心肺における安全装置設置基準(第7版)」でも注入圧力計の取り付けが必須とされている。また「開心術中心筋保護法の選択および実践のガイドライン(2024年初版)」では、回路内圧は先端圧に回路およびカニューレの圧損を加えたものであることに留意し、流量–圧関係を推定する必要があるとされている。小児領域で多用される細径の自作注入針は圧損が甚大であり、装置が表示する回路内圧は実際の先端圧と一致しない。今回事前に注入針固有の圧損を定量化し、流量毎の先端圧推定指標を作成・運用することで、装置に表示される回路内圧に惑わされることなく、リアルタイムに先端圧を推定した安全な灌流圧管理を行う手法の確立を目的とした。
【方法】泉工医科工業社製TRUSYSおよび専用回路を使用し、当院で小児症例の大動脈基部への注入針として用いるトップ社製ベニューラ静脈留置針V-1、小児症例の選択的冠灌流で用いるアトムメディカル社製アトムピンクカテーテル4Frの2種類をそれぞれ先端に装着し、水温2℃の水系灌流液を用いた。注入針先端が実際の注入の高さで大気開放になるように設置し、注入流量0~300 mL/minにおける回路内圧を3回測定し平均値を算出した。回路内圧は熱交換器の回路圧測定ポートを用いた。
【結果】ベニューラV-1では流量上昇に伴い回路内圧が漸増し、0〜300 mL/minで0〜370 mmHgを示した。アトムピンクカテーテル4Frでは25 mL/minで130 mmHg、50 mL/minで320 mmHg、75 mL/min以上では500 mmHgを超える結果となった。
【考察】細径カニューレでは流量依存的に圧上昇が顕著であり、回路内圧から先端圧を推定するには特性を把握することが必要であった。前述のガイドラインでは新生児で40〜50 mmHg、小児で50〜60 mmHgの注入圧が推奨されている。当院では作成した流量-圧曲線を、心筋保護装置に付属することで先端圧を推定しながら注入している。施設によって条件は異なるため、それぞれの施設で測定を行い、指標を作成することは先端圧を推測することにおいて有用であると考えられる。また、医原性大動脈解離などの合併症予防においても先端圧の予測は重要であると考えられる。
【結語】先端圧を予測するための流量-圧曲線作成は安全な心筋保護液注入に寄与する。
【Ⅰ-5】右大動脈弓に伴うkommerell憩室・左鎖骨下動脈起始異常に対して、右開胸にて下行置換を行った2例
又曽 建八 (福岡大学病院)
【はじめに】胸部大血管手術において、先天性疾患および右開胸は解剖学的偏位や視野の制限も伴い人工心肺確立や管理に難渋する場合がある。今回、右大動脈弓に伴うkommerell憩室・左鎖骨下動脈起始異常(ALSA:aberrant left subclavian artery)に対して、右開胸による下行大動脈人工血管置換+ALSA再建を2例経験し、分離送血管理に局所組織酸素飽和度(rSO₂:regional oxygen saturation)が有用であったため報告する。
【症例】症例1:70代男性,身長166.5cm,体重69.3kg。胸部X線撮影で腫瘤性陰影を認め、精査にてkommerell憩室を指摘され手術となった。
症例2:50代女性,身長155.5cm,体重62.0kg。coronavirus disease-2019(COVID-19)感染後、喉のつかえ感が出現。精査にてkommerell憩室を指摘され手術となった。
【方法】症例1:上行大動脈・下行大動脈に送血、上大静脈/下大静脈脱血にて人工心肺開始した。大動脈遮断し順行性冠灌流にて心停止した。直腸温25℃まで冷却後、循環停止とし、逆行性脳灌流を開始した。中枢吻合後、上半身は人工血管側枝・下半身は下行大動脈送血管から循環再開を行った。ALSAには選択的脳灌流を開始した。遠位部を吻合し、ALSAの再建後は普段通りの手順で行った。症例2:手術は症例1と同様の手順で完遂した。異なる点は、送血管は下行大動脈のみに挿入した。両症例とも前頭部および腓腹部のrSO₂を測定した。
【結果】症例1では人工心肺中rSO₂の左右差は認めなかった。症例2では前頭部のrSO₂に左右差が生まれた為、下行大動脈送血回路にクランプ操作で抵抗を作り、上半身側の送血量を増加させた。
【考察】右開胸では、手術領域の確保が難しく、人工心肺の確立も難しい場合もあるため、執刀医と十分に検討しておく必要がある。循環再開時の分離送血は、送血量の不適切な比率が重篤な合併症を惹起する可能性がある。今回は、前頭部及び腓腹部のrSO₂を監視することが有効であった。
【結語】右大動脈弓における下行大動脈人工血管置換・ALSA再建を施行した2例を経験し、人工心肺確立方法と分離送血管理が重要であり、rSO₂モニタリングが安全管理に寄与した。