シンポジウム
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完投は本当に最適か?-人工心肺操作における“つなぐ”という選択-
医療法人光晴会病院 臨床工学科
〇西 新樹 伊賀 孝幸 岡田 侑也 中山 秀俊
筆者が人工心肺(CPB)操作を開始した15年前、当院では1名のPerfusionistが1症例を担い切る「完投制」が一般的であった。当時、年間約130例のCPB症例数は、現在50例前後で推移し、経験機会の偏りや習熟度維持の難しさを感じる場面が増えている。また、長時間の操作に伴う集中力の低下も安全性に影響し得る要因である。こうした中で、筆者自身も「2時間を超えるとしんどい」と感じるようになった。そこで当院では現在、Main Perfusionist 4名体制のもと、完投を前提とした運用を少しずつ見直し、休憩をはさみながら必要に応じて交代を取り入れる形にしている。現在、完全に主操作を交代するケースはまだ限られているが、短時間の交代は全症例で行っている。
休憩介入では、一定時間ごとに交代スタッフが介入し、当院作成チェックリストを用いてFlowやMAP、Hb/Ht、ACT、リザーバーレベル、直近のトレンドなどを確認しながら状況を共有し、意見交換を行う。この時間を挟むことでリフレッシュと状況整理を図っている。結果として、操作負担は個人に集中するものではなく、チームで分け合う感覚が広がっている。また、上下関係にとらわれない声掛けが定着し、他スタッフが主操作に関わる機会が増え、当事者意識の向上につながっている。
必要に応じて完全交代する際は、JaSECT本会の引継ぎ時のチェックリストJaSECT提唱のまま用いている。これは、引継ぎ時の情報の抜けや認識のずれを防ぎ、一定の質を担保することを目的としている。戦略や管理方針の乖離を最小限に抑えているものの、思ったほど進んでおらず、「1症例を最後まで担当したい」という意識や、戦略の一貫性に対する懸念が背景にあると感じている。ただし、手術途中から別業務のスタッフが対応に入る場面や、先に主操作をしていた者が途中で離れる場面にも対応可能であり、人員を柔軟に動かせるという利点は実感している。
それでも、休憩や交代を前提にすることで、操作を一人で抱え込まずに済むようになったのは確かである。複数の視点が入ることで状況を客観的に見直す機会が増え、結果的に安全性の向上にもつながっていると感じている。こうした変化は、完投を前提とした従来のやり方から、状況を共有しながら“つなぐ”方向への変化といえるのではないかと考える。
完投に固執することが最適とは限らない。“つなぐ”という取り組みは、無理をしないための工夫であると同時に、安全性と教育の両立につながる一つの選択肢であると考える。
Perfusionist の引継ぎ/休憩どうしてる?~みんなで活用!引継ぎチェックリスト~
社会福祉法人恩賜財団 済生会熊本病院 臨床工学部門
○森 翔之、笠野靖代、上塚翼、高宗伸次、岩﨑麻里絵、荒木康幸
当施設では、年間約150例の体外循環症例を実施しており、Perfusionistは6名で体外循環業務を担っている。当初は、スタッフ不足と業務特性から、「1人のPerfusionistが最初から最後まで担当する」体制としていた。しかし、近年の医療現場における働き方改革から、長時間におよぶ体外循環業務への対応が課題と考え、現在は「チームで協力して業務を遂行する」体制に移行している。
そこで、限られた人員の中で安全性を担保しつつ、一時交代や引継ぎを行うためには、標準化された引継ぎ体制の構築が重要であると考え、当施設ではJaSECTが発出した「パーフュージョニストの一時交代、引継ぎのチェックリスト」を導入し、項目を取捨選択した上で活用している。
チェックリストを導入したことで、引継ぎ時に共有される内容に個人差がなくなり、確認漏れ減少に加え、交代時の心理的負担軽減や安心感向上といった効果を実感している。また、長時間業務をチームで分担することで、Perfusionistの負担軽減につながり、集中力を維持した状態で業務に取り組むことが可能となった。これにより、人工心肺操作における安全性が向上し、スタッフのみならず患者にとっても有益であると考える。
当施設の特徴として、内視鏡や手術支援ロボット(Da Vinci)を用いた低侵襲心臓手術(MICS)が多く行われており、回路内圧や送脱血流量の変化、下肢の局所酸素飽和度の推移を常に監視している。また、ブラッドマネジメントとして体外循環中に脱クリオを回路内に投与する症例もある。今後は、このような当施設の特色をチェックリストに反映させ、Perfusionistの操作計画を正確に共有することが、安全性のさらなる向上につながると考え、継続して改善の検討を行っている。
ただし、一時交代や引継ぎそのものを目的とするのではなく、リスク管理と教育を踏まえた運用が重要であり、交代のタイミングは手術進行を考慮して行う必要がある。そのため、Perfusionistの研修や特殊症例時は、交代を推奨せず業務を遂行する場合もあり、チーム内で交代の必要性と安全性を共通認識した上で、実施する必要があると考える。
働き方改革が進む中で、 Perfusionistが今後も継続して体外循環業務に従事していくためには、一時交代や引継ぎを前提とした業務設計が必要だと考える。ただし、単に交代を可能にするだけでなく、安全に業務を遂行するための環境を構築することが重要であり、チェックリストはその実現に向けて有効なツールであると考える。
Perfusionist の引継ぎ/休憩どうしてる?~みんなで活用!引継ぎチェックリスト~
宮崎大学医学部附属病院 ME機器センター
〇田中 亮太
【はじめに】昨今、働き方改革が提唱されている中で、人工心肺操作は長時間に及び、症例の複雑化も伴う為、肉体的・精神的疲労に配慮する必要がある。しかし、高度な専門性と膨大な情報量を伴う体外循環業務では、安易な引継ぎが重大なリスクを招く恐れがある。そのような中で2023年にJaSECTより「Perfusionistの一時交代、引継ぎのチェックリスト」が公表された。当院では、スタッフの負担軽減とワークライフバランスを重視し、積極的な交代導入となるべく時間外業務を抑制する体制作りに努めているが、現状引継ぎチェックリストの活用には至っていない。
【現状・課題】当部門の体外循環症例は、責任者1名を含む3人体制で挑み、術中の相互監視を常時行うことで、現場教育と様々な状況にも対応出来る環境を構築している。交代時はメイン操作者間での引継ぎに加え、責任者による補足、注意点の情報共有によって大きなトラブルなく遂行されてきた。また、人工心肺に従事する人員を多く育成することで、時間外業務や急患対応においても、待機者と当直者の連携による円滑な対応が可能となっている。
引継ぎチェックリストを活用していない理由としては、現状問題なく引継ぎが行えているためではあるが、個人の経験やスキルに依存した口頭伝達が主であり、引継ぎ時の伝達内容漏れやバラつきによるトラブルが懸念される。安全管理において、過去に問題無かった事象でも今後トラブルに発展するケースは大いに有り得る。当院のように多くの人員が関わる場合、標準化されたチェックリストの導入は前向きに考える必要がある。
【展望】積極的な交代を維持しつつ、安全性を担保するには、チェックリスト等を活用した共通認識を持つことが重要である。今学会を契機に部門内で協議し、当院の引継ぎチェクリストを作成、運用していく方針である。また、本学会の知見や他施設の運用事例を広く取り入れ、当院の環境に即した持続可能なチェックリストへと洗練させていきたいと考えている。
以下、今回の題材に関する当院の現状。
・体外循環症例(2025年):108件 ・当部門総数:23名(2026年3月時点)
・体外循環従事者:22名(責任者:3名) ・Main Perfusionist:13名
・体外循環認定士:7名 ・引継ぎチェックリストの活用:無(導入検討中)