会長挨拶

第3回日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会年次学術集会

会長 林 朝茂

大阪市立大学大学院医学研究科 産業医学 教授

糖尿病は、アジア人、特に日本人には「サガ」とも言うべきハイリスク疾患であり、発症予防と様々な合併症予防が重要です。欧米人、特に、白人と比べ米国やブラジルに移民した日本人の糖尿病の有病率が非常に高いことは、40年前には指摘されており、将来の日本人像と指摘されてきました。現在では、WHOが指摘していますように東アジア地域での糖尿病対策は待ったなしの状況です。予防対策を実施する上で重要なのは、「人を対象とする研究」の結果です。本来、医療従事者が行う研究は、「実験」か「人を対象とする研究」のどちらかになります。この「人を対象とする研究」がまさに「疫学」です。しかし、日本は疫学に関しましては欧米に比べますと十分な状態ではありません。本学会は、2年前に、こうした日本の状況を少しでも改善する目的で、糖尿病を中心とする生活習慣病についてのエビデンスの創出に携わる者が広く集い、それらの活動をさらに向上、活性化させることを目的とし、また、得られた情報の普及啓発と人事交流、若手育成を目的として発足いたしました。 また、本学会では、この「人を対象とする研究」を「ヒューマンデータ研究」とイメージしやすい表現を用いることでさらに普及に励みたいと考えています。

今回の学術集会のテーマは「日本人の糖尿病発症と合併症予防の再考」です。糖尿病はジョスリンの糖尿病学では、インスリン抵抗性とインスリン分泌不全と定義されています。シンポジウム1では、「日本人のインシリン抵抗性とインスリン分泌能」に関連したエビデンスを再考します。シンポジウム2では、「日本人糖尿病患者を対象とした疫学研究から糖尿病性網膜症、腎症、足病変の合併症」に関するエビデンスを中心に行います。シンポジウム3では、今後、医療分野でなくてはならない分野である「Information and Communication Technology (ICT) 」を扱います。

教育講演では、今後、疫学研究を行っていく上ですぐに役立つテーマを選びました。教育講演1では、栄養疫学再考として、大阪市立大学大学院生活科学研究科の由田教授に「食事調査法の種類とその長所・短所 」をご講演頂きます。教育講演2では、「観察研究のメタアナリシスの 方法」と題して、国立がん研究センター の後藤 温先生にご講演頂きます。教育講演3では、「糖尿病関連のPatient Reported Measureを使用した研究 」と題して、天理よろづ相談所病院内分泌内科 の林野 泰明先生にご講演頂きます。

また、公開講座では、統計数理研究所の野間准教授に、「多変量解析のアドバンスドな方法:ロジスティック回帰、生存時間解析、一般化推定方程式、マルチレベルモデリング」と題してして行っていただきます。この公開講座の目的は、ロジスティック回帰モデルやCox比例ハザード回帰モデルによる分析は、その中でも代表的なものですが、その背景にある理論やモデルの仮定、それらの妥当性のチェック方法などは、意外にも、きちんと解説を受けたことがないままに使っているという研究者が多い現実を踏まえてのレクチャーになります。

ご参集各位が、本学術集会を存分に楽しまれることを祈念しております。多数の皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。