中国四国地区生物系三学会(動物学会・中国四国植物学会・生態学会)合同大会

公開講演会


後援 香川大学農学部

香川大学大学院農学研究科「応用生物科学先進科学セミナー」対象講演会


2021年6月20日(日曜日)14:30 〜 16:45

ZOOMオンラインミーティング形式(リアルタイム配信)

どなたでもご参加いただけます(オンライン会場人数制限内)入室情報は大会ポータルサイトをご覧ください。

14:15より同会場で高校生ポスター発表賞の表彰式・各学会の発表賞の公表があります。ぜひ併せてご出席ください。

生物からみた地球の環境と歴史の縮図:中国四国地域における‘JaSPaシステム’ 2


日本海,瀬戸内海,太平洋というタイプの異なる3つの海に囲まれた中国四国地域(‘JaSPaシステム’)には,温帯の主要な気候帯複数が濃縮されています。そこに生活する生物は,日本海側では大陸との繋がりの歴史が色濃く,瀬戸内では人間の干渉が強く反映され,太平洋側ではそれらの影響から逃れた局所的な特異性が見られます。このような中国四国地域の特徴は地球上でも稀であり,10年前の香川大会でもそのことに着目したシンポジウムを開催しました。今回はさらに,この地域独自の新たな研究展開や,その応用の状況を概観します。

14:30 〜 14:40

はじめに(小林 剛・香川大学 農学部)


14:40 〜 15:10

稲垣善之 森林総合研究所

JaSPaシステムにおける森林の窒素循環:水質浄化機能に注目して

私たちが利用する水道水は、河川水や地下水を水源としている。日本は森林面積が大きいため、水道水の多くは森林を起源としている。飲料水に含まれる硝酸態窒素には水質基準が定められているが、通常森林流域の河川水に含まれる硝酸態窒素濃度は低く、水質基準以下である。中四国地域の渓流水の水質についての調査では、硝酸態窒素の濃度は水質基準以下であるが、地域によって差が認められる。つまり、瀬戸内では、太平洋側や日本海側に比べて河川水の硝酸態窒素濃度が高い河川が存在する。河川水の硝酸態窒素には、森林土壌中における窒素の循環様式が影響を及ぼす。スギ、ヒノキの人工林について土壌の窒素循環を比較すると、瀬戸内地域と太平洋側地域では明瞭な差が認められた。瀬戸内では、堆積有機物が多く、鉱質土壌では有機物に含まれる窒素はアンモニム態、硝酸態窒素に速やかに変化した。一方、太平洋側地域では、堆積有機物の存在量が少なく、林床の有機物の窒素は速やかに放出された。ところが、鉱質土壌においては硝酸態窒素の生成量は小さかった。まとめると瀬戸内では鉱質土壌、太平洋側では堆積有機物からの窒素放出が活発であった。このような地域による土壌の窒素循環の違いは、河川水の硝酸態窒素濃度に影響を及ぼす重要な要因の一つであると考えられた。


15:10 〜 15:40

鶴崎展巨 鳥取大学

中国四国地方(JaSPaシステム)で東西に起こるザトウムシ類の地理的分化

典型的な森林生活者であるザトウムシ類(クモガタ綱ザトウムシ目)は移動性が低く,外部形態や染色体数などに地理的分化が顕著な動物である。中国地方では本類を含む移動性の低い陸上動物の分化は東西方向に起きており,ザトウムシでは太田川(最終氷期には豊後水道に流下)と旭川(最終氷期には紀伊水道に流下)が境界となる例が多い。平均水深約40 mの瀬戸内海は寒冷期には陸地化しており(おそらく何度も),結果として,広島県・岡山県の太田川と旭川に挟まれた地域に見られる集団によく似たものが対岸の愛媛・香川側にもいるというのが通例である。第四紀に南北方向の移動を繰り返した結果,中国地方では1種としてふるまうザトウムシが四国では2種に分化したと考えられる例(環状重複)も複数ある。南北移動に関しては,北方系種は寒冷期に南下するが,南方系種は温暖期には瀬戸内海に阻まれて北上できないという非対称性がある。ザトウムシ相の豊かさについての中国地方に対する四国の圧倒的優位には山地の標高差以外にこのような要因も働いていると考えられる。


15:40 〜 16:10

鈴木 武 人と自然の博物館

市民参加型調査からわかってきた西日本のタンポポの分布

タンポポ類(キク科)は、田畑や街なかで見かける春の代表的な植物である。外来種であるセイヨウタンポポ、および在来種との間の雑種タンポポの問題もあるが、今回は在来種の地理分布を扱う。今回の詳細な分布図は市民参加型調査であるタンポポ調査・西日本2015などでの18万件近いデータによるものである。

西日本で代表的な低地性二倍体有性種であるカンサイタンポポは、西日本に広く見られるものの、東瀬戸内周辺に集中的に分布していた。この範囲はミナミメダカ東瀬戸内型の分布と重なっている。カンサイタンポポは本来の生育地は河川の自然堤防であり、最終氷期の東瀬戸内川流域が共通要因であろう。広島市、福岡市のカンサイタンポポ、米子市、大洲市のトウカイタンポポは人為の影響を考えている。

一方、無融合生性倍数体種であるキビシロタンポポやクシバタンポポは、日本海側から岡山県西部から四国山地、紀伊半島に分布している。今春にキビシロタンポポの倍数性を調べたところ、山陰から岡山県北西部などは四倍体、紀伊半島・四国山地などは五倍体であり、単に分布を拡大したということではないのかもしれない。


16:10 〜 16:45

総合討論(進行 小林 剛)


・講演の録画や録音,スクリーンショットを禁じます

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・講演中は,発表者と座長以外はマイクをミュート,ビデオをオフにしてください

・質問やコメントのある方は,質疑・討論時に「手を挙げる」ボタンを押してください。座長の指名に従って,マイクをオンにしてご発言ください。ご発言後はマイクをオフにしてください