本学は、これまで「三者構成自治」の理念のもとで大学運営が行われてきた歴史を持っています。「三者構成自治」とは、大学を構成する全ての教員・職員・学生が平等な関係で大学としての意思決定に関わるという理念を指します。本学の歴史を見ると、この理念に即して、教員・職員・学生が、それぞれの団体を作り、要求を出し合い、協議を行った上での合意形成を基本に大学運営が行われてきた時期が長く続いてきました。この意味で、一橋大学は、大学自治の面でも、日本の大学の中で稀有な歴史を持っています。
この状況は近年著しく変化を被りつつありますが、上記の理念のもと、これまでの学長選考において学生の参考投票が学部生・大学院生の意見を大学に伝える一つの機会となっていた意義を受け止め、当投票を行いたいと考えます。また、新年度入学者が判明していることもあり、新入生の投票も可としました。
当投票は、学長選考に対する参考意見として大学側に提出する予定のものです。投票に当たり、各候補者へ公開質問状を送付し、回答を依頼しました。回答は以下よりご覧いただき、投票への参考としていただきたく思います。質問の内容は、新学部設置を伴う指定国立大学法人認定、ハラスメント問題、留学生問題、学長として考える本学の今後など、学生生活に直接・間接に影響する問題を扱っており、当投票は、学生の側から大学へ期待することを示すものです。
加えて言うならば、今回の学長選考は、本学を巡る状況の変化の中で、次期学長体制によりどういった運営が行われるべきかを問うものとなります。というのも、日本の大学政策を巡る状況は、例えば来年度からの修学支援新制度の導入などにみられるように、大きく変化していると同時に、近年のそうした変化を受けつつ、本学もまた、各種報道で知られる通り、多くの課題を抱えながら運営されているからです。
今後の本学の在り方についての学生側の意見を可視化し、大学側に届けるため是非ともご協力をお願い致します。
今回の候補者(敬称略、五十音順)
大月 康弘(おおつき やすひろ) 現図書館長・元経済学研究科長 同学部・同研究科教授
中野 聡(なかの さとし) 元副学長・元社会学研究科長 同学部・同研究科教授
沼上 幹(ぬまがみ つよし) 現副学長 商学部・経営管理研究科教授
過去の学長選考における学生の参考投票は信任投票の形式で行われてきました。当投票もそれに準じる形式で行います。投票時には以下のようにお願いします。
「学長として信任できない(不適格)」と思う候補者がいた場合には、その候補者へチェック(複数可)
「いずれの候補者も信任できる(適格)」と思う場合には、全員信任にチェック
(*全学生の過半数の不信任票が集まった場合、参考投票での除斥成立となります。投票の結果は学長選考会議に提出します。)
教員への意向投票を経て、3月27日の学長選考会議にて次期学長が最終的に決定され、3月30日に公示される予定です。
※3月23日追記 次期学長の公示日を3月31日と誤記していました。正しくは3月30日です。お詫びして訂正します。
2020 年 3 月 7 日
2020 年学長選考 第二次公示候補者各位
一橋大学院生自治会理事会
公開質問状
戦後、一橋大学は「全構成員自治(三者構成自治)」、即ち、「教官」(法人化以降は「教員」)、「職員」、「学生」の三者を大学運営の対等な担い手として、三者の合意に基づいて大学としての意思決定を行うという理念を掲げ、全構成員による民主的な合意形成を運営の軸としてきた歴史を持っています。
上の理念に基づき、学生の側で言えば、学長・副学長(旧学生部長)の選考への除斥投票、学生の代表機関との団体交渉とその成果としての当局との確認書締結並びにその内容の遵守、公開質問状、副学長との定期会合、本学の諸問題に関する随時の要望書提出など、学生の側からの意見を大学運営へと反映させるための制度的実践がなされてきました。
しかし、2004年の大学法人化以降、とりわけ2014年の「学校教育法及び国立大学法人法の改正」に基づく、2015年の学則及び学内制度の変更に伴う(本学のみならず各国立大学にも類似するが)学長・役員会を主体とする大学運営により、本学の抱える問題への意思決定、本学の自治の状況はかなり変化しています。
以上を受けて、院生自治会理事会では今回の学長選考に際して、これまで行われてきた学長選考での取り組みと同様に、各候補者に公開質問状を送付し期日までに受け取った回答を全学生・院生向けに公開することで、全学生・院生が大学の現状と今後について考える機会としたいと考えております。
ご多用のところ恐れ入りますが、以上をご理解いただき、質問への回答にご協力くださいますようお願い申し上げます。各質問の後ろに回答欄を設けましたのでそちらへのご回答をお願いいたします。回答の分量に応じて欄は拡大していただきたく存じます。
こちらも恐縮ではございますが、回答は2020年3月16日(月)までに、院生自治会理事会 (inseijichikai@gmail.com) までメールにてお送りください。
*なお、 この公開質問状への回答をもとに学生投票・アンケート調査を行う予定であります。また加えて、 現在の一橋を巡る様々な変化のうちには、下記の質問にもあるように授業料免除制度の変化や新学部創設など 、将来の本学学生について影響のある変化も含まれていることから、次年度入学前の新入生や今後本学への入学を目指す者への情報共有を目的に、WebやSNS上での公開があり得ることをご承知おきください。
以下、質問します。
大月候補
大学のステークホルダーに改めて思いを致す必要を感じます。教職員、学生・卒業生、地域社会、企業 、また、国立大学である以上、国家との関係も免れません 。 特に国家財政に 6 割を依存する存在態様ですから、文科省との関係は否応なしに求められます。これとの関係で、ここ数年は 緊急性の高い事案が少なくなかったかと見ています。 機動性の高い意思決定が求められる変化の渦中にあって、特に経営事項に関しては執行部マターと認識します。教学、労務関係、職場環境に関する事項については、つまり学内構成員(教員、職員、学生)の意思決定 を要する事項については、話し合いの場を持つことがよいと考えます。
中野候補
トップダウンの大学経営がもたらすリスクをチェックし、ボトムアップに研究教育の場を活性化させ 、さらにいっそう 卓越したコミュニティとしての一橋大学の文化を醸成するうえで、本学の全構成員自治は歴史的に重要な役割を果たしてきたと思います。しかし、本学の全構成員自治の理念や制度をめぐる状況は 1990 年代に大きく変化し、制度というよりは慣行として運用されるようになりました。その慣行を支える基盤も大きく変化して、従来の慣行を維持することも非常に困難になってきたのが現実です。その現実をふまえたうえで、本学の発展従来の慣行を維持することも非常に困難になってきたのが現実です。その現実をふまえたうえで、本学の発展に全構成員自治の理念が果たしてきた役割をふり返り、新しいプラクティスを創造していくことが求められているのではないでしょうか。
大月候補
大学がステータスを変更した時点( 2004 年)で、新しい関係がスタートしたものと認識しています。学生諸君 と合意形成をする必要のある事項については、話し合いの場を設けることが必要と なるでしょう。学生寮の運営問題など は、 諸君の知恵 を大いに求めたいところです。
中野候補
2015 年に学校教育法及び国立大学法人法等の改正に伴う学内規則等の一部改正 が行われた際に、副学長選考規定が廃止されました。この際に、過去の確認書にもとづく協議の手続きを取らなかったことは、一橋大学が確認書は無効であるという判断にもとづいて副学長選考規定を廃止したことを意味していると理解します。次期学長は、この事実および大学の判断を継承したところから出発せざるを得ません。
なお、過去の確認書においても、確認書にもとづく協議は必ずしも合意を必要としない文言となっており、その意味では、教学事項においては学生との合意形成が必要条件ではないことも 、明確に申し上げなければなりません。その一方で、大学は、学費を納入し、また国費の支援を受けて国立大学に学ぶ学生に対して説明責任を果たす努力が必要とされていることは言うまでもありません。
なお社会学研究科長の在任当時、私は、研究科教授会からの強い要請を受けて、2015 年2月16 日付けの文書において「副学長選考規程の廃止にかかわる『 協議 』の実施と学内説明会のお願い」を蓼沼宏一学長、佐藤宏副学長、沼上幹副学長宛に提出したことをつけ加えさせていただきます。
大月候補
執行部の者でないことから、経緯を承知してお らず、回答を控えます。要望があれば、しかるべく文書などで寄せうるのかと思います。
中野候補
学費を納入し、また国費の支援を受けて国立大学に学ぶ学生に対して、大学が説明責任を果たすうえで、 教育学生担当副学長は もっとも重要な役割を担っている者の ひとりであると理解しています。
大月候補
所得の多寡に応じて学生生活を送る可能性が制限されてはいけないと考えます。官民の奨学金を導入することを目指すべきです。他方、寮費の値上げについては、大学の財政問題を考えると 、やむを得ない措置だったと考えます。博士後期課程学生数が減少しているのは、現在の経済情勢との関連があるのではないか、と見ます。アカデミアの再生産のためには、より有為な学生が心安く研究に専念できる方途を考えなければなりません。授業料免除枠を大学独自で設定する等の抜本的制度設計が必要でしょう。
中野候補
寮費の値上げについては、安すぎた寮費が本学の経営をこれまで圧迫してきた事実をていねいに説明して、納得を得るべきだと思います。 本学のきわめて厳しい財政状況のなかで、学生に対する経済的支援が縮小傾向にあることは事実です。また、 学費の値上げについては、値上げ分が学費負担者にとっていかなるプラスとなり得るのかという点について、 全く説明がないに等しいことに驚きました。いずれにせよ経済的な理由で望む進路を選択できないことは、社会から貴重な人材を奪い、格差と分断を拡大させるもので、もっとも力を入れて問題の解決にあたるべき課題だと考えます。
大月候補
一連の出来事には心を痛めてきました。特に2015年の自死事件には衝撃を受け、落胆しました。学内各層の構成員が、平和で互いを認証し合う暮らしを確保しなければなりません。共感→共助→共創のサイクルがうまく機能したとき、それぞれの研究活動も 、質量共に向上することでしょう。差別は、 歴史上遍在しますが、構成員のモラルによって 排除されるべきと思います。
中野候補
大学の構成員のみならず、本学に関与するすべての人びとの基本的人権が守られ、ハラスメントのない安心・安全なキャンパスをつくることは、教育研究に専念する良好な環境を提供するために本学が果たすべき最優先課題であり、質の高いグローバルな教育研究拠点となるうえでも必要不可欠な取り組みだと考えています。
一橋大学では2013 年に「ハラスメント防止等に関する規則」を定め、ハラスメントの防止および問題が生じた際に対応にあたる仕組みが導入されました。しかしながら、ご指摘のように現行の体制においても深刻な事案が発生しており、さらなる対応を模索する時期にあると捉えています。
ご指摘の、「社会学研究科キャンパス内差別実態調査ワーキング・グループ」が本学に在籍する学部学生・大学院生を対象に 2017年度に実施した調査によれば、回答者の四割近く( 39.2%)が学内でなんらかの差別・ハラスメントを経験している実態が明らかにされています。また、同調査では差別・ハラスメントを経験した回答者の35% が、自身が受けた被害について「なにもしなかった(できなかった)」と答えており、「教員に相談した」(3.3%)、「学生相談室やハラスメン ト相談室を利用」(2.8%)、「学校に対処を要請」 (1.0%)など、フォーマルな手続きで問題への対処を試みた者がごく僅かであることも明らかにされました。これらのデータは一橋大学におけるハラスメントの相談体制にさらなる改善の余地があることを示唆しています。
こうした現状を踏まえたうえで、今後はより実効性のある相談体制の再編に向けた見直しを進めてゆきたいと思います。
大月候補
本学をカリキュラム面で国際標準化するために4学期制を導入したのは正しい 措置だったと考えています。世界の諸大学から有為な学生たちが本学を目指しており、また少なからぬ本学学生が、自らの研鑽のために海外大学への留学等を志向しています。これまでの課外諸活動に影響が出たのは遺憾ですが、新しい生活サイ クルのもとでの本学の年間スケジュールが定着することでしょう。正課改善のための真摯な取り組みの結果です。課外活動ほかを中心に考える必要はない の ではないで しょうか。
中野候補
4 学期制・新カリキュラムへの移行の評価については、年度計画のなかで PDCAサイクル による評価と改善が実施されていくことになっていたと理解しています。このプロセスに学生による評価も 、当然に反映されていくべきだと考えます。
4 学期制移行 だけでなく、さまざまに急速な変化への対応に迫られている一方で、現在の国立大学に対する運営費交付金削減政策のなかで、教職員の労働環境は憂慮すべき状態にあると理解しています。本件に関してくわしくは、一橋大学教職員組合の公開質問状に対する回答でお答えしましたのでそちらをご覧いただければ幸いです。
大月候補
教員ひとり一人が、個別の専門に留まることなく、守備範囲を広くとって学生の教導に努めることが必要ですが、現状でそうなっている、と考 えます。本学は歴史的に規定されて小さな大学です。いつの時代も、各教員の学術研究の守備範囲は、否応なしに相当に広いものでした。しかし、だからこそ持ち得た特性もあった。当該質問を見ていると、今の一橋にはそれが失われつつあるのか、との印象を拭えません が、各先生に尋ねてみてください 。 割と幅広に対応してくれることと思います。専門分野を狭くに刻む必要はないでしょう。高い目線と広い視野をもった教員が多いのが本学の特長です。先生たちから単に専門分野の知識を学ぶというより、それぞれのディシプリンから切り出される「世界」の見取り図、そして「問題構成」のあり方(それ自体が多様な「世界」の様相の縮 図でしょう)を学ぶように奨めます。
中野候補
現在の国立大学に対する運営費交付金削減政策のなかで、上述の問題に対応するためには、運営費交付金以外の部分で本学の収入を飛躍的に拡大するための努力が必要とされていると理解しています。
大月候補
留学生受入のアコモデーション問題は、焦眉の課題と認識します。Fund raise や土地供託等の手法をもって、その量的拡大を図るべきと考えています。寮費も押さえるべきです。スウェーデンのインターナショナル・スクールは 、寮費もランチも無料だそうです。そこまでは無理としても、格安で良質なアコモデーションを大学が独自で調達する手段を早急に模索すべきでしょう。
中野候補
国際化する大学間競争のなかで本学が、これまでと同様に卓越したグローバルなコミュニティとしてのプレゼンスを維持し高めていくためには、 物心両面での留学生支援を強化していくための努力が必要とされていると理解しています。
大月候補
指定国立大学法人に指定されたことは、本学の経営・ 運営 面での重大な変更でした。これをチャンスに、財政問題の改善に取り組み、 十全な編成 のもとに「総合社会科学」の最高学府として機能を強化していきたいものです。
新学部については、重要な装置となるでしょう。汎用的なデータ解析能力を全学生に涵養させるでしょうし、いくつかのテーマについて本学発信の重要な研究成果が見込まれます。例えば、本学は、日本の社会経済に関する統計情報の宝庫です。世界から注目される存在である この 統計資源を、情報技術と結び付け、それを分析者自身でカスタマイズできる仕組みを構築することなどが望まれます。それが、次の時代の社会科学を導くことは間違いありません(データサイエンスも、IT(科学技術)との連結がまだ実現していません)。
中野候補
他の6 大学とはことなり理系学部・研究科をもたない本学が、第 3 期中期計画期間中において指定国立大学法人の指定を受けたことは、日本の高等教育政策のなかでもきわめて重要な意味をもつ出来事であり、本学はその指定の意義の大きさを受け止め、期待に応えていかなければならないと考えています。
大月候補
上述の通り、汎用的な教育プログラムを提供し、既存4学部、6研究科の学生たちが履修できるようになるでしょう。逆に各研究科に分散的に存在している関連教員諸氏が、新学部のカリキュラムに参与するでしょう。
中野候補
私は、2018年12月以降、一教員として社会学研究科教授会に出席しているだけの立場ですので、上記質問にお答えできるようないかなる情報もこれまで共有して参りませんでしたので、本件の詳細については 十分にお答えすることができません。以下は、限られた情報に基づく私見であることをお断りしておきます。
全学的研究教育の中核としてのデータサイエンス学部・研究科をつくることには意義があると思います 。言い換えれば、全学的教養としてのデータサイエンスを担う存在として組織されなければならないと思います 。その意味で、全学共通的にデータサイエンスを教える学部横断的な授業を担当すること がどうしても必要になると思います 。そのために 、少数精鋭教育を行いながら、既存4学部からの転学部・進学にも期待する前提での、定員をもった学部・研究科を作ることをめざすということが考えられると思います。
一橋大学でなけれ ばできない新学部にするための課題を整理する必要があると思います。とくに、データが構築されるプロセスそのものを研究教育の対象とするクリティカル・サイエンスの視座を考えるべきだと思います。また、これまでデータ・サイエンスと必ずしも結びついてきていない諸学で蓄積されてきた知的財産をデータ化するための方法論やインフラの構築を担う研究教育を考えるべき だと思います。類似の新学部設置の事例を見ると、スキル養成学部と見られかねないことや、文理共鳴の組織作りの難しさという課題があると思います。いずれにせよ足りないものを外付けするという発想では なく、一橋 大学としてのアイデンティティやインテグリティを保ったうえでこの新しい試みに挑戦することが必要です。
大月候補
第一に、universitas litterarumであるべき、と考えています。litteraeとは「世界中のテキスト情報」の意です(litterarumはその複数属格形)。つまり、世界各地の人間と社会に関する情報を蓄積し(uni=ひとつに+verso纏める⇒それがuniversitas)、分析・研究する組織が「大学」というものです。
科学技術(Science-based Technology)が発展・深化した現代世界では、先端テクノロジーに関する知見も必須です。他大学・機関との連携することも必要でしょう。理想を言えば、人びとの生活に影響するあらゆる先端的技術領域について理解を深めながら、それらを総合して「新しい社会」を構想し、切り拓くことのできる人を育む大学でありたいと考えます。
研究のあり方も同様です。専門研究に埋没することなく、アクチュアルな関心のなかで「現代研究」が推進される必要があります。もとより「現在」は「歴史的現在」なので、歴史動態のなかで事態を捉える必要がある。アクチュアリティをもって推進される研究であれば、実利的な編成でなくとも、実学の府に相応しい成果を挙げることができる。それを証明してきたのが、本学の持ち味でした。アカデミックな諸分野を包含する適切なディシプリン構成・配置のもとで、各自が専門を究めながら、かかる方法態度をもって、新しい時代を切り拓く研究テーマを推進すべきです。
小規模だからできる学際性を武器に、多彩な専門分野が共生し、互いに深い学知に触れられる国際的な磁場であり続けること。世界に誇る一橋大学のこの学問・教育理念は、21世紀の今日、新しい時代に適応させながら、さらに深化させるべきと考えています。
中野候補
以下、「第 2 次学長候補者に対する質問」への回答から抜粋してお答えに代えさせていただきます。
本学の「将来像」については、副学長の在職当時に、指定国立大学法人構想に向けて海外の良く似た立場にある諸大学(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、シンガポール経営大学、中国人民大学など)の経験に学びつつ将来構想を検討した作業に接したことは大変に勉強になりました。そして、指定国立大学法人の指定をふまえた本学の将来構想としては、その規模を全体として大きくは変えない一方で、「戦略的重点化領域」を設定するとともに、社会の需要に応えて HUB (一橋ビジネススクール)などにおいてスケールを中長期的に拡大する方向が模索 されていると理解しています。また、シンガポール経営大学が情報システム学部を新設して成功した経験などにも学びながら、データ・サイエンス研究教育の飛躍的拡充をめざして「学士課程に学部横断型の教育プログラムを開設する」ことや、質の高いグローバルな教育研究拠点としての一橋大学のプレゼンスをいっそう確立していくことなどがめざされていると理解しています。
これらの方針をまさに「どのように推進していくのか」が問われています。指定国立大学法人構想に関しては、平成 29(2017)年度指定に向けた審査において全学をあげて構想に取り組むことを示すために、各研究科・研究所が一致協力しました。その後、昨年9月に追加指定が実現するまでには並々ならぬ努力があったであろうと推察しますが、その一方、追加指定に際しては、学内の調整や情報共有の不足は否めず、新学部設置構想など指定時に発表された内容には唐突だという印象をもつ教員も少なくありませんでした。さまざまの事情があるにせよ、このような説明不足の累積は現場の士気を阻喪させます。また、資源制約が大きい本学において、構想実現のために一定の「選択と集中」が必要なことは理解できますが、だとすれば一層 、このキーワードから分断や排除を連想する教員・研究者を包摂できるような、将来に向けたメッセージの発信が必要なのではないでしょうか。
次期中期目標・中期計画については、まず、これまで3期18年にわたる中期計画のフレーミングそのものの功罪について、建設的な議論が国立大学協会・文科省において行われることを期待します。そのうえで、研究教育の現場を疲弊させることなく社会から期待されるアウトプットをいかに出していくかが、まず大きな課題として設定されることに期待します。本学の中期目標・中期計画については、上述の指定国立大 学法人構想への取り組みを通じて見えてきた本学の将来像を追求するべきだと私は考えますが、そのうえで、その将来像をめぐって各研究科・研究所そして個々の教員が十分に対話したうえで、より一層ボトムアップの取り組みを活性化させ、また吸い上げていくべきかと思います。
「どのように語るか」ということは「何を語るか」と同じくらい重要である、と最近痛感させられることが少なくありません。私は研究教育者の同僚として、また研究科長・副学長として、私以外の学長候補者のおふたりと共に仕事をする機会に恵まれ、その実行力と識見を深く信頼 しております。いずれの候補者が担うにせよ、指定国立大学法人構想および一橋大学がめざす将来像を 「 どのように実現するか 」 が今後問われていくなかで、皆が士気高く前進できるインクルーシブな大学づくりに本学が邁進していくことにおおいに努め、また期待していきたいと思っています。
沼上候補から院生自治会理事会の公開質問状に対する回答はありませんでした。質問状を送ったメールに対する返信は以下の通りです。
「沼上です。 ご連絡、どうもありがとうございました。
学長選挙にあたって、第一次学長候補者への質問事項について学長選考会議に対して回答し、また、3月16日に開催される公開質疑に向けた第二次学長候補者への質問事項に回答いたします。必要なことはすべてそれらに回答いたしますので、申し訳ないのですが、その他のお問い合わせに対しては回答を控えさせて頂いています。手短ですが、取り急ぎ」
下記ウェブフォームは、Googleフォームを使用しています。回答送信にあたりGoogleへのログインが必要で、1回しか送信できません。所属以外の個人情報を質問していませんので、回答内容と特定の個人は結びつきません。一橋大学関係者の方は、大学から配布されているメールアカウントでログインされるとスムーズかと思います。新入生の方でGoogleのアカウントをお持ち出ない方で、どうしても投票したい方は、末尾にある院生自治会のメールアドレスまでご一報ください。