研究発表セッション1「メディア・政治」(会場:A219)13:15~15:20
座長・討論者:岩井 淳 (副支部長、群馬大学)
①13:15-13:40 「芸術機械による新たなヴァーチャリティの探求 ―メディアを用いたサイバースペースと現実空間の重ね合わせから―」
霜山 博也(名古屋芸術大学)
本研究では、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズが提示した「芸術機械」という概念を展開させ、サイバースペースと現実空間を重ね合わせることで、現実空間に潜在している力をいかに引き出すのかを考察する。そこで、まずはプルーストの『失われた時を求めて』を分析することで、フィクションのヴァーチャル空間と現実空間との関係を考える。「芸術機械」は作品自体と、現実空間におけるさまざまな営みを批評する効果を持っていることが明らかになる。次に、その成果をマーシャル・マクルーハンやポール・ヴィリリオのメディア論と結びつけ、加速度的に発展して人間の経験を変えていくメディアのあり方にいかに対抗していくのかを考える。最後に、その方法論をジョン・デューイの芸術(教育)論へと応用することで、新たなメディアの用いかたが、私たちの経験を規定している「条件」を探求するための感性的な学習になっていることを示すのが目的である。
②13:40-14:05 「データベース消費における「萌え要素」の組合せと更新についての考察」
牧島 祐介(群馬大学)
東浩紀は、データベース消費という概念をもとに、デザイン、設定、口癖、物語の類型的な展開など様々な「萌え要素」の組合せにより、一つ一つの小さな物語が成り立つと論じた。それは消費社会論の文脈において語られたものだが、「組合せ」の方に着目すれば、本来、萌えの「創作」においてこそ用いられるべきだったと考えることもできる。このような問題意識のもと、本報告ではデータベース消費とその原型である物語消費を創作の観点から再検討し、「萌え要素」はより細かい要素群に分解可能であり、それゆえ組合せとしてしか見出だし得ないことを論じる。その上で、「萌え要素」の更新はいかにして可能かということについて考察する。
③14:05-14:30 「2000年代女性誌における野党の政治広告の研究序論―『an・am』を中心に」
西田 亮介(東京工業大学)
2000年代に日本政治でもマーケティング手法の導入が活発化した。その過程で、様々な媒体の利活用が模索されるようになった。ただし、その一方で公職選挙法改正によってインターネット選挙運動が認められる前であったこともあって、その中心はあくまでマスメディアが中心であった。女性や若年世代への訴求はその目的のひとつとされていたが、女性誌における政党の政治広告の活用動向はこれまで十分には明らかにされていなかった。本研究では、先行研究を踏まえながら、2000年代の『an・an』における野党の政治広告出稿について検討する。
④14:30-14:55 「調査報道のニュース生産過程における新聞社編集局員の組織行動に関する事例研究」
辻 和洋(立教大学大学院)
報道の機能の一つに権力監視がある。ジャーナリズムによる権力監視は民主的社会の維持にとって必要不可欠な機能であり、これを果たす上で最も有力なのが調査報道である。調査報道は当局者による発表に依拠せず、隠されている事象を掘り起こすという記者が追い求めるスクープ性の高い報道である一方で、会社側にとっては嫌がらせや訴訟のリスクを伴う。こうした特性を持つ調査報道のニュース生産過程において、組織内で記者やデスクがどのような行動を取っているのか、日本新聞協会賞受賞報道を事例に半構造化インタビューを実施した。その結果、記者による編集幹部への抵抗や情報管理、デスクによるリーダーシップ行動などが明らかになった。
⑤14:55-15:25 「インターネットにおける性的画像の投稿について」
山内 萌(慶應義塾大学)
ポルノグラフィやアダルトビデオをはじめとしたアダルトコンテンツは、主に1980年代から雑誌やビデオといったメディアを通じて専門のメーカーによって提供されてきた。しかしインターネットの普及以降、いわゆるモデルや女優ではない一般の女性が、自身の下着姿や裸の画像および動画を自ら投稿する現象が見られる。特にスマートフォンが普及した2010年代では写真撮影が手軽になり、またソーシャルメディアでの投稿も即時的になったと言える。本発表では、このような一般女性による性的画像の投稿をメディア論的視座から分析する。そこから、情報化社会における「身体のモノ化」について考察し、情報社会に即した身体論の提示を行う。
研究発表セッション2「情報・地域社会」(会場:A220)13:15~14:55
座長・討論者:榊 俊吾(副支部長、東京工科大学)
①13:15-13:40 「内閣官房におけるソーシャルメディアアカウントの運用ポリシー」
本田 正美(東京工業大学)
日本の各府省のほぼ全てがソーシャルメディアを活用しており、政府機関がソーシャルメディアを運用することは珍しいことではなくなっている。なかには、同じソーシャルメディアサービスについて同じ組織内の別々の部局が個別にアカウントを運用している事例も見受けられる。例えば、内閣官房は13の担当部局がそれぞれ複数のソーシャルメディアアカウントを開設している。本研究では、内閣官房のように各担当部局が複数のソーシャルメディアアカウントを開設する状況に着目し、各担当部局のソーシャルメディアに関する運用ポリシーについて事例分析を行う。これにより、各担当部局が組織としての一定の統一感をもってソーシャルメディア運用を行っていることを明らかとする。
②13:40-14:05 「地方におけるシェアリングエコノミー政策の可能性と課題」
章 立・野田 哲夫(島根大学)
個人等が保有する共有可能な資産等をインターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等も利用可能とするシェアリングエコノミー(共有経済)は省資源・人口減社会におけるビジネスモデルとして注目されており、特に人口減少が顕著であり地域コミュニティの維持が難しくなっている中山間地域などの地方において、地域が抱える課題を解決するツールとしての期待も大きい。本研究では、まず地方におけるシェアリングエコノミーの展開を基に課題を設定した上で、先行研究に基づきながら地方で政策として推進されているシェアリングエコノミー自体の課題を明確にする。そしてシェアリングエコノミー政策を進める主な自治体・事業者の事例調査を通じて、地方でのシェアリングエコノミーの持続的な展開の可能性とその課題について考察することを目的とする。
③14:05-14:30 「東京圏のエスニック・タウンにおける観光客の誘引に関する研究」
高松 宏弥(東京工業大学)
グローバル化に伴う都市の均質化や郊外化の影響により、現代の都市は魅力を失ったことが指摘されている。また、急激な人口減少とそれに伴う労働者人口の減少に直面する日本社会において、持続可能な都市の発展を維持するために必要な都市機能を回復・発展させる「都市再生」が求められている。そうしたなか、新たな思想や価値観の共有を進め、文化的なイノベーションを促すエスニック・タウンの形成は、地域に再び活力を与えると注目を集めている。そこで、本研究では、近年急激に増加する外国人が形成するエスニック・タウンを対象に、なぜ観光客がエスニック・タウンを訪れるようになったのかを、雑誌や新聞の分析を通して明らかにする。
④14:30-14:55 「中国におけるSNS規制強化の実態 ―政府の政策・戦略の視点から」
周 路平(東京工業大学)
今日、中国におけるSNSは大衆の情報の取得と意見の表明のための重要なツールとなっており、集団行動や突発的な事件の中心を担っている。中国政府は、国家安全保障とイデオロギーの考慮に基づいて複雑なネットワークコンテンツ検閲と監視システムを構築しており。中国のコンテンツ規制システムは法律、規制、管理統制、技術的監視およびその他のリンクを統合し、複雑で変化するインターネット環境を統制することを目指している。近年、中国におけるSNS言論規制が強化していくと考えられている。本研究は、中国のSNS規制を注目する。中央政府によって公表された政策、法律から 「SNS規制強化」の実態を解明し、中国政府が主導するSNS規制の戦略と手法を明らかにする。
ポスター発表セッション(会場:A201)15:35~16:50
司会:本田 正美 (監事、東京工業大学)
①15:38-15:40 「事業所の男性育休取得率を上げるための有効な施策を考える」
杉本 佳織・猪瀬 龍二・中山 雄斗(茨城大学)
私たちは昨年「水戸市のジェンダー問題を行動デザインで解決する」というテーマのもと公開ワークショップを開催しました。このワークショップに向け、調査研究活動と「WORK DESIGN」のテキスト輪読を行いました。調査研究活動では、「水戸市男女平等参画に関する市民調査報告書」から水戸市の男女平等に関するデータ分析を行いました。またそのデータと行動科学に関するエビデンスに基づいて、水戸市のジェンダー問題を行動デザインの力で緩和する方法を公開ワークショップで提案しました。今回のポスター発表では昨年の研究に加え、「男性の育休取得率を上げるためには何をすべきか」という問いを立て、男性の育休取得率向上に成功した事業所の事例を分析し、事例から導き出した結果を報告します。
②15:40-15:42 「アクティブラーニングで女性の社会進出に関する考え方は変わるか」
柳岡 茉莉・河野 遥南・中崎 航汰(茨城大学)
私たちは昨年「水戸市のジェンダー問題を行動デザインで解決する」というテーマのもと公開ワークショップを開催しました。このワークショップでは、「水戸市男女平等参画に関する市民調査報告書」のデータと「WORK DESIGN」から得た行動デザインの知識を用いて、水戸市のジェンダー問題に対する施策を提案しました。そして今回、その施作案の1つを再考し、「アクティブラーニングを通して女性の社会進出に関する考え方を変えることができる」という仮説に基づいた新しい施策の形にした上で、実際に学生を対象にして実験を行いました。ポスター発表では、実験結果の報告とそれを踏まえて私たちが提案する施策の発表を行います。
③15:42-15:44 「紙媒体のマンガと電子書籍の現状と今後の課題」
小宮 竜太(東京工科大学)
近年ではマンガ業界が衰退している。かつてはジャンプ黄金期と言われたことがある週刊少年ジャンプの売り上げは下がり、他の紙媒体の漫画の売り上げも下がっている。その理由としては違法サイトが存在したことで漫画の売り上げが下がってしまった。漫画の文化が衰退することでテレビ業界や映画業界にも影響がある。原作が漫画の作品をアニメ化、映画化することがある。漫画の文化が衰退することでテレビ業界や映画業界に影響を及ぼすことは明らかと言える。その反面、電子書籍市場の売り上げは年々増加している。特に電子コミック市場は拡大している。電子コミック市場が拡大している理由としては機能が多種多様であり他のアプリ特有の機能も存在し個性を出している。
④15:44-15:46 「サバイバルゲーム業界の現状と今後」
星野 雅之(東京工科大学)
アニメやゲームの影響で年々と増え続けているミリタリー業界。そこでサバイバルゲームがどれほどの影響を与えているのかを注目した。サバイバルゲームについて調査していくにつれて、店舗やイベントのシステムの現状を見て行った。サバイバルゲームは日本だけではなく、海外でも人気が及んでいる。このことによって日本と海外での違いを調査して、今後ミリタリー業界がどのように成長をしていくのかを考察していき、業界全体が成長していくのかを目的に調査していく。
⑤15:46-15:48 「ライドシェアにおける匿名・実名レビューの影響 ~AHPの調査票を用いた分析~」
石坂 颯(群馬大学)
シェアリングエコノミーのビジネスモデルの一つとしてライドシェアのサービスが近年注目を集めている。ライドシェアの運営企業は,安心を求める利用者へのサービスとして,利用者一般によるドライバーへの評価,すなわちレビュー情報を共有する仕組みを提供することが多い。しかし,レビュー情報の共有にも多様な可能性があり,その利用者への影響などについてはまだ明らかでない面が多い。本研究では,特にレビューの匿名・実名の違いに焦点を当てて,ライドシェアにおけるレビューの影響を分析した。具体的には,小規模ではあるものの学生調査を行い,匿名・実名の違いがある以外は同一内容のレビューがどのように被験者の意思決定に影響するのかを分析した。本研究の学生調査は,AHP様式の調査票を用いた点でも特徴がある。本研究は,ライドシェアをより安心して利用できる枠組みの構築に有用と考える。
⑥15:48-15:50 「提携の実現可能性と提携から生成される状態遷移を考慮したコンフリクト解決のためのグラフモデルにおける安定性分析」
白須 真由子(東京工業大学)
本研究は「提携の実現可能性」と「提携することで生成される状態遷移」を反映した分析が可能なコンフリクト解決のためのグラフモデル(GMCR)における安定性概念を構築し、また1999年の有機JAS法制定までの意思決定事例の安定性分析を行った。実現可能性を考慮した提携分析のモデル構築により、提携の可能性がない主体の提携分析を省くことができるようになった。さらに、提携することで生成される状態遷移を考慮することで、今まででは分析できなかった主体間が協力することで初めて状態を移行できるような意思決定状況の分析が可能になった。これにより、より現実社会の意思決定状況に沿った安定性分析の結果を得られるようになった。また、現実の事例分析から、本研究で与えた分析手法の特性について評価した。
⑦15:50-15:52 「他者の状態遷移に対する回避行動と状態遷移時間を考慮したコンフリクト解決のためのグラフモデルにおける安定性概念」
松葉 達也(東京工業大学)
本研究では, 新たな概念の「他者の状態遷移に対する回避行動」と既存概念の「状態遷移時間」を同時に考慮可能とするコンフリクト解決のためのグラフモデルにおける安定性概念を定式化し, さらに, 分析手法の性質や特徴を明確にするために, 安定性概念間の関係性に関する定理の証明と意思決定事例の安定性分析を行った. 本研究における新規安定性概念の構築により, ある主体が他の主体による意思決定の進行を意図的に回避しようとする行動と, 主体が意思決定に要する時間を同時に考慮した安定性分析が可能となった. また, リスト間および安定性概念間の包含関係に関する補題と定理を与えることで, 本研究で拡張された数理モデルの数学的性質を明らかにした. 他方, 事例分析では, その計算結果から新たな分析手法の特性について評価した.
⑧15:52-15:54 「日本の高齢者雇用政策から得られる中国への示唆に関する研究」
羅 喜元(茨城大学)
中国は「一人っ子政策」により、人口構造は急激に変化し、2000年に高齢化社会に突入した。しかし、現在の中国における、高齢者雇用に関する政策が不十分で、再就職することが難しいため生活費は家族からもらうことも多い。自立して生活するため、高齢者が再就職することは多くの人にとっても重要である。日本は中国より早く高齢化社会に突入し、高い高齢者就業率が実現している。本研究では、中国の高齢者の現状を分析した上で、日本の経験を中国の実情に合わせた高齢者雇用の促進策を検討する予定である。
⑨15:54-15:56 「サービス・リレーションシップの視点で捉えた企業活動の新たな可能性」
陳 晨・今村 一真(茨城大学)
サービスのプロセスや成果については、ノルディック学派のサービス・マーケティング研究において特徴的な進展がみられた。ここでいうプロセスとは、企業と顧客とのインタラクションによるもので、コミュニケーションを含めるものであるが、米国で議論されてきたマーケティング・コミュニケーションの研究と異なるものである。さらに、企業と顧客との主体間関係については、サービス・ドミナント・ロジックの登場以降大きく転換しようとしており、顧客理解に基づくビジネス・ロジックの構築が求められている。とりわけ、サービスの可能性を顧客に委ねることの意義が重要だと考えられるものの、それはどのようなものか明らかでない。ここで問題となるのは、連続したサービスは、顧客とどのように関係を構築しながら成果をもたらすのかということである。このことを検討するうえで必要な先行研究レビューを行い、分析に必要な視点を整理する。
⑩15:56-15:58 「顧客の価値の形成を捉えたサービスの展開プロセスの検討」
申 立婷・今村 一真(茨城大学)
ノルディック学派にみられるサービス・マーケティング研究は、企業が事前に価値を規定するオファリングを論じようとはしない。むしろ、価値を認識するのは顧客であり、それは利用段階において生じるという(Value in Use)。しかしながら、企業と顧客との関係において、顧客はどのように価値を認識するのだろうか。また、顧客が認識した価値はどのように形成され、あるいは価値が変容して価値の解釈が変化していくのだろうか。このメカニズムは未だ明らかではなく、そのメカニズムに応じた企業活動の展開も明確ではない。何より、顧客が価値を認識するという視点でマーケティングを考えようとする場合、価値の形成プロセスや変容に注目する必要がある。そこで、このことを検討するうえで必要な先行研究レビューを行い、分析に必要な視点を整理する。
表彰式(会場:A201)17:05~17:10
司会:後藤 玲子(支部長、茨城大学)