EBPTの実践
~Shared Decision Makingを用いた意思決定方法~
~Shared Decision Makingを用いた意思決定方法~
尾川 達也
OGAWA Tatsuya
西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部 主任
【講演概要】
「EBPTの実践」と聞くと,介入研究を中心とした既存のエビデンスの内容と想像するかもしれませんが,講演の中で理学療法のアプローチ方法に関するエビデンスの話はほとんどありません.そもそもEBPTとは,「個々の患者に関する臨床問題や疑問点に対して,①臨床研究によるエビデンス ②理学療法士の臨床能力 ③施設の設備や機器の状況 ④患者の意向や価値観を統合した最適な臨床判断を行うことによって,質の高い理学療法を実践するための一連の行動様式」と定義されています.つまり,「根拠に基づく理学療法」と訳されるEBPTですが,エビデンスのみで判断する訳ではなく,エビデンスを活用しながら患者と協働で意思決定を進めていくことが明記されています.しかし,理学療法の意思決定状況に関する現在のコンセンサスとしては,患者の価値観が決定に反映されておらず,理学療法士中心でアプローチ方法が決められているといった実態です.そして,こういった課題を解決する手段として,近年は患者の価値観に重きを置いた意思決定方法として共有意思決定(Shared Decision Making:SDM)が提唱され,理学療法分野での使用も世界的に推奨され始めています.
本講演では,EBPTを実践する中で,研究論文やガイドライン,研修会等で得た情報を患者に適用する際,患者とどのようにコミュニケーションを取り意思決定を進めるかについて,SDMの概要や方法を提示しながら解説していきます.
【受講者へのメッセージ】
私自身,過去を振り返ると理学療法士の嗜好でアプローチ方法を決定し,その内容を患者に説明し,同意を得ていました.しかし,こういった言動の結果,一部の患者では理学療法の受け入れが悪く,場合によっては良い関係性を築くことができず,望まない帰結に至った事例も経験しました.患者の価値観を尊重してアプローチ方法を決めるというリハビリテーション専門職としての基本的態度なのですが,具体的な実践方法について学ぶ機会は非常に限られています。そして,EBPTが推奨されている今だからこそ,正しく実践するためのコミュニケーションであるSDMは,理学療法士として標準的に知っておくべき知識・技術だと考えています.病期や対象疾患に関係なく,患者と理学療法士が協働してアプローチ方法を決めていく手続きに悩んでいる方に是非とも聴講していただければと思います.
【略 歴】
【学歴】
2009年 畿央大学健康科学部理学療法学科 卒業
2015年 畿央大学大学院健康科学研究科 修士課程 修了
2023年 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程(在学中)
【職歴】
2009年 医療法人友紘会 西大和リハビリテーション病院
【受賞歴】
2018年 第12回日本訪問リハビリテーション協会学術大会in北九州(最優秀賞)
2022年 第 1 回日本老年療法学会学術集会(優秀賞)
【学会活動】
日本地域理学療法学会 理事
雑誌「地域理学療法学」 副編集長
【主な著書】
PT・OT・STのための診療ガイドライン活用法. 医歯薬出版(分担執筆)
Crosslink理学療法学テキスト 高齢者理学療法学. メディカルビュー社(分担執筆)
PT/OT/STのための臨床に活かすエビデンスと意思決定の考えかた. 医学書院(分担執筆)
最新理学療法学講座 地域理学療法学. 医歯薬出版(分担執筆)
【筆頭論文】
Short-term effects of goal-setting focusing on the life goal concept on subjective well-being and treatment engagement in subacute inpatients: a quasi-randomized controlled trial. Clinical Rehabilitation 2016; 30(9): 909-20.
リハビリテーション領域におけるShared Decision Makingの実践に必要な行動-身体障害領域を中心としたフォーカスグループインタビューの結果-. 日本プライマリ・ケア連合学会誌 2018; 41(2): 53-59.
リハビリテーション医療における共有意思決定尺度の開発-理学療法領域における信頼性・妥当性の検討-. 日本プライマリ・ケア連合学会誌 2020; 43(4): 129-137.
地域理学療法におけるアウトカム評価指標の使用状況と必要条件および障壁 ―日本地域理学療法学会会員を対象としたwebアンケート調査― 地域理学療法学 2023; 2: 39-51.