こちらは2022年度筑駒文化祭「廻天」の、
筑駒中高生物部公式ホームページです。
これは、昨年度から駒場野公園にて駒場野公園自然観察舎・駒場東邦生物部と合同で定期的に行っている調査についての報告である。
駒場野公園・ケルネル水田は筑駒のすぐ北に位置する公園で、都内において貴重な緑地となっている。
また、ケルネル水田では、本校生徒による無農薬での稲の栽培がおこなわれており、こちらも貴重な環境となっている。
ここでは、主にこれまでの記録をもとに、駒場野公園で見られる特徴的な生物、そこから見える駒場野公園という環境について紹介していく。
筑駒のすぐ近くに位置する駒場野公園
現在甲虫目、半翅目を中心に全体で90種ほどの昆虫を記録している。以下特徴的な種及びそこから分かる駒場野公園の環境の特徴について解説していく。
・キイロトラカミキリ Grammographus notabilis
23区内でのレッドリストでは過去にCR(ⅠA類)に指定されていたことも有るなど23区内では比較的見にくい種である。駒場野公園にはこうしたカミキリムシの発生源になるような枯れ木が撤去されることがなく、良い環境になっていると考えられる。他にもヨツスジトラカミキリやゴマフカミキリなどの生息を確認している。同様に枯れ木を発生源とする虫はかなり多いので、枯れ木の存在は重要である。
・チャバネクビナガゴミムシ Odacantha aegrota
ケルネル水田に生息している。湿った環境に依存していると考えられる。ケルネル水田での個体数は多い。ケルネル水田にはトンボなどの水生昆虫(後ほど詳説)と共に小型のゴミムシも多く見ることができる。
駒場野公園には比較的暗い雑木林と開けた水田という対照的な環境が隣接して存在している。その結果多様な昆虫が生息しているように感じる。今後の課題としては、まだよく調べられていない分類群(ハチ目、ハエ目など)の調査と、菌食性の昆虫の調査が挙げられる。ケルネル水田には小型のハエも多くみられるが、同定の難しさから調査から敬遠気味であった。また林内の朽木には実はハチもよく飛来するのを確認している。こうした昆虫を今後調査したい。また、駒場野公園にはシイタケのほだ木が置かれているが、その周辺にはとても昆虫が多い。その中には朽ち木を食べるものだけでなく、キノコを食べるもの(菌食性)も含まれる。菌食性の昆虫をあまり多く採集できていないので今後注意したい。
左)シイタケのほだ木
右)マルガタカクケシキスイ Hebasculinus japonus
菌食性とされる
周りに全く水田がない環境の中、水生昆虫はケルネル水田という狭く良好な止水域で世代を繋いでいる。ケルネル水田はかつて土の畔であったが、現在はコンクリートによる圃場整備がなされており、かつて確認されていたヒメゲンゴロウやコシマゲンゴロウを見ることはできない。
・コミズムシ Sigara substriata
日本に生息する水生半翅目の中でも特に普通種。ケルネル水田に生息する水生昆虫の殆どは半翅目に分類され、他にはコマツモムシやヒメイトアメンボなどが生息している。
ケルネル水田にはアメリカザリガニが生息しているが、これらの水生半翅目はアメリカザリガニによる水草食害の被害を直接的に受けにくく、生息を可能にしたのではないかと推測する。
・ハイイロゲンゴロウ Eretes sticticus
ケルネル水田に生息する唯一の水生甲虫と思われる。
本種は飛翔傾向が強く、雨上がりの水たまりや休耕田、磯にまで幅広く生息域を持ち、そのような性質の為か水田以外にも園内の小池で見られることがある。なお、左の成虫写真は別所で撮影したものである。
6/28には、水田にて多数の幼虫を確認し、その後7月ごろにわたり、成虫も確認された。
6月28日に水田で観察された幼虫
・マルタンヤンマ Anaciaeschna martini
駒場野公園では、これまでに15種以上のトンボを観察している。本種はその中でも屈指の美麗種で、オスは真っ青な複眼を持つ。
7月から、9月の初めまで、夕方ごろ上空を飛行したり、産卵を行う本種の姿が観察される。
なお、写真はほかの地点で撮影したものである。
水田とそれを取り囲む森林、そしてため池を利用する多くの野鳥が確認された。合同調査に加え個人的な観察記録を踏まえると50種類近くの野鳥が確認されている。
・コチドリ Charadrius dubius
本来は河原に生息する野鳥だが、2021年に近隣で繁殖が確認され、採食の為にケルネル水田に渡来している個体がいた。
2022年は繁殖地の遷移が進み生息に不適切な環境となった為か繁殖は見られず、ケルネル水田に渡来する個体は見られなかった。
・モズ Lanius bucephalus
秋から春にかけて駒場野公園に渡来する。主にケルネル水田で観察されるが、園内の疎林でも見られることがある。
・カワセミ Alcedo atthis
園内の池で生息が確認されており、池の付近を通りかかると特徴的な鳴き声が聞こえることがある。駒場野公園では神出鬼没で、近隣の河川や池と園内の水辺環境を往復する形で使っているのではないかと考えられる。
また、2020年に駒場野公園で行われたかいぼりの直後、水たまりに残された生物を捕食している姿も確認できた。
3.その他の動物類
水域から陸域まで、比較的幅広い環境を持つ駒場野公園、ケルネル水田には、他にも哺乳類や爬虫類など、多くの生物が生息している。
ここでは、哺乳類、爬虫類からそれぞれ一種を取り上げる。
・ホンドタヌキ Nyctereutes procyonoides viverrinus
夜行性で、昼にみられることはめったにないが、赤外線カメラにより観察された。
子供連れであり、ここが生活の一拠点となっていることが考えられる。
他にも駒場野公園には、アライグマやハクビシンなどの外来種も観察されており、対応を考える必要があるだろう。
・ヒバカリ Hebius vibakari
駒場を代表するようなヘビ。公園には他にアオダイショウが生息する。25cmほどの子ヘビから、40cm越えの個体まで観察されており、安定して生息していると考えられる。
小型のヘビで、主にミミズなどを食べ、捕まえると独特の臭いにおいがする。
植生調査は事前に決めた区域を歩き回り、草本層の植物を目視で確認、記録する方式で行った。
駒場野公園内で調査した環境は大きく、水田とその周辺、暗めの雑木林と分けることができ、次にそれぞれについて解説する。
・水田とその周辺
水田と日当たりのいい畦道からなる。水田ではオモダカやコナギ、イボクサなどの所謂水田雑草が、畦道ではオヘビイチゴやケキツネノボタンなどの水辺に多い植物が見られた。
・アブノメ Dopatrium junceum
区内では絶滅危惧ⅠA類とされている。主な生育環境である水田の減少がそのカテゴリー分けの理由だろう。ケルネル水田には探す必要がないほどには生えている。
・オモダカ Sagittaria trifolia
言わずと知れた水田雑草。詳しい調査は行っていないがケルネル水田に最も生えている水田雑草だと思っている。葉の形からは想像しにくいが、単子葉類である。
水田から持ってきた泥の中に種子が紛れ込んでいて、勝手に生えてきた。
・雑木林
今回は木本は調べておらず、草本層の植物のみ調査した。ヤマアイやヤブタバコなどの山でよく見られる植物を確認できた。駒場野は明治に駒場農学校ができるまで広大な野原だったらしく、その後紆余曲折あってできたのが駒場野公園なので、これらの植物が元々自生していたかは定かではない。
・ハエドクソウ Phryma leptostachya subsp. asiatica
主に林床に生える植物。名前の由来は昔、ハエ取り紙の原料として使っていたから。なので、毒がある。
・ムサシアブミ Arisaema ringens
駒場野公園の林床に普通に見られるが、通路がある明るい場所には生えていないので気づきにくいかもしれない。大きい葉っぱと巻いたような花が特徴的。