運動生理学研究室では、生理学を基盤に研究を行っています。その中でも、循環生理学の分野が主要な部分を占めています。研究室の活動を紹介する際には、まず循環生理学がどのような学問であり、運動生理学との関わりについて概説します。
生体医工学の学生が生理学を学ぶの重要性について
生体医工学は学際的な学問であり、理工学と医学の知識を融合して医学や工学の領域での研究を行います。一方、生理学はヒトの身体の機能(神経調節機能、消化吸収機能、呼吸機能など)を探求する学問です。生理学は生体の機能を解明するだけでなく、生命の存在理由や解明された体の仕組みを基に医学など他の学問への応用が可能です。例えば、医学では生体機能の異常である病気を理解するために生理学の知識が必要です。生理学は解剖学の知識を基礎に、生体の機能を理解するのに役立ちます。生体医工学は生体に関する学問であり、その理解には生理学の知識が不可欠です。
循環生理学とはどういう学問
生理学は様々な分野に分類されています。それは様々な生理機能が存在するからです。例えば、ヒトの消化に関連する栄養生理学、呼吸機能に関する呼吸生理学、神経活動を解明する神経生理学などがあります。運動生理学研究室では、特に生活習慣病などの発症にかかわる循環機能の知識、つまり循環生理学を基盤に研究を行っています。循環はヒトが生きるために重要な生理システムであり、心臓や筋肉などの臓器は機能するためにエネルギーが必要です。このエネルギーは、使う場所で生成され、肺や小腸などから必要な場所へ運搬されなければなりません。特に脳ではエネルギーの貯蔵ができないため、適切な血流調節が重要です。血液が循環しないとヒトの機能は維持されません。また、血流が適切でないと血管などが損傷し、疾患のリスクが高まります。したがって、適切な血流の調節が重要であり、その調節には循環調節機能が関与しています。この生理機能が異常をきたすと病気のリスクが高まりますので、循環生理学の理解は医学においても重要です。
循環は様々な制御システムにより達成される
適切な循環を維持するためには様々な生理システムが存在します。例えば、運動中の筋への血流配分は血圧と末梢の血管抵抗によって決まります。血圧は単純なものではなく、自律神経活動や心臓の機能、中心血液量、動脈硬化度などに依存します。末梢血管抵抗も自律神経活動だけでなく、血管内皮機能や血管の特性、血管床の大きさなどが影響を与えます。さらに、筋の血流では代謝機能の要因が加わり、脳では脳自己調節機能や頭蓋内圧の変化、二酸化炭素感受性などが影響します。様々な生理システムが絡み合い、ホメオスタシスを維持するために働いています。循環系疾患のリスクは、これらのシステムが適切でない場合に高まると考えられますが、健常なヒトにおいても環境変化などに対するこれらの機能の詳細な理解は不十分です。したがって、生理に関する問題解決(疾患発症など)にはこの知識の向上が必要です。
運動生理学の位置づけ(何故、運動生理学を学ぶのか?)
運動を行うことにより、特に活動筋の代謝を維持するために(運動を継続する為に)、様々な生理機能が変化して運動を成し遂げていると言えます。運動生理学とは、この運動刺激に対する生理応答を理解する学問です。もともとは、運動中の生理機能を理解することは、運動選手のパフォーマンス向上が大きな目的としてとらえられていました。しかしながら、我々運動生理学研究室では、運動をストレスの一つの位置づけとして研究しています。例えば、運動以外には、起立ストレス、ヒートストレス、宇宙環境、低酸素、病気、精神疲労など、ストレスの対応する循環応答から、その生理システムを理解しようと研究を行っています。正常な生理機能を調べてもその機能の詳細を知ることにはなりません。ヒトがストレスに対してどのような反応をするかを解析することにより、生理システムの概要を知ることができます。その知識は、医学など様々な学問に応用されます。運動生理学、循環生理学はそのために重要な学問と言えます。
現在、運動生理学研究室では多くの研究プロジェクトが進行しています。代表的なものを以下に挙げておきます。参考にしてください。これ以外にも、萌芽的な研究は数多くありますが、主には国内外の共同研究として行われています。
1) 運動による脳血管シェアレイト応答が脳内皮機能や認知機能に及ぼす影響(科究費 基盤B 2022 ~25)
運動は,脳循環機能を改善し,脳疾患や認知症発症リスクを軽減させることから疾患リスクを軽減させる重要な方法と捉えられている.しかしながら,この運動による脳循環改善効果は,個人差や運動様式の違いによるばらつきが大きく,適切な運動処方の構築において大きなハードルとなっている.申請者は,関連する先行研究を背景に,個人差を含む脳循環及びその機能における運動効果の差異は,運動に対する脳血管ずり応力(シェアレイト)の応答の違いによるとの斬新な仮説を立てた.本申請研究では,1)運動に対する脳血管シェアレイト応答の差異が,運動効果(脳血管内皮機能や認知機能)の違いの一要因であるのかを明らかにし,2)加齢,性差,循環特性,運動に対する血圧応答(運動昇圧応答)など脳血管シェアレイト応答に影響する生理要因を同定することにより,運動効果の個人差やばらつきの生理メカニズムを解明することを本研究の目的とする.本申請研究により,効率よく運動効果の得られる最適な運動処方を構築するための有用な知見(脳血管シェアレイト応答による運動効果の同定等)が得られることが期待される.
2)体・脳循環機能とその運動昇圧応答及び脳解剖学的特性の日本人と白人米国人との差異
(科研費 国際共同研究強化B 2023~2028)
認知症を含む脳疾患の発症は,心臓および体循環(脳循環を除く末梢循環)調節機能と密接に関連することが報告されており,心血管疾患は脳疾患発症リスクとも考えられている.実際,アフリカ系米国人は,白人米国人と比較して心臓循環系疾患発症率だけではなく脳疾患発症率も高く(Roger et al. Circulation 2012),体循環調節機能の低下が脳疾患発症の大きなリスクとなることが示唆される.一方,米国心臓協会の報告(Roger et al. Circulation 2012)によると,日本人は欧米人と比較して心血管疾患による死亡率が低いにも関わらず,脳卒中などの脳疾患による死亡率が高いことが明らかになっており上述の示唆と矛盾する.これらの知見は,日本人の脳疾患発症メカニズムが欧米人と異なる可能性を示している.本国際共同研究では,日本人の体・脳循環機能やそれら循環の連関が欧米人と異なるとの仮説を立て,さらにその差異が遺伝要因(人種差),または生活習慣要因によるのかも検証する.脳血管疾患予防に最適な運動処方の構築において,日本人の体・脳循環の生理特性を考慮する必要性があり,先行研究の知見から欧米人を対象とした実験結果をそのまま日本人に対する予防医学に応用できない可能性が示された.そこで,日本人の脳疾患予防の為の安全な運動療法ガイドラインを作成するために人種間における運動による昇圧応答の違いについても明らかにする.
#Profs. Matt Brothers, Paul Fadel (University of Texas、USA), Qi Fu (UT southwestern Medical Center, USA)との共同研究
3) 高齢者における運動時の過剰昇圧応答に対する心肺圧受容器反射の役割の解明(科究費 基盤B 2022 ~24)
運動時の動脈血圧の上昇は,活動筋への血流量(酸素運搬)と,脳や心臓など生命維持に不可欠な臓器への血流を維持することに貢献する.一方,高齢者や循環器系疾患者に見られる運動時の過度な動脈血圧の上昇(昇圧反応)は,脳血管疾患や心筋梗塞の原因ともなる.したがって,特に高齢者や循環器系疾患者の運動処方において,運動時の血圧が適切に保たれることは,運動を安全に行うために大変重要である.しかしながら,この昇圧応答増大の生理メカニズムは不明であり,最適な運動処方が確立されているとは言えない.近年,我々は運動時の血圧調節メカニズムのうち,心肺圧受容器反射に着目し研究を進めている.心肺圧受容器は,大静脈,心房,肺血管壁に存在する圧受容器の総称で,わずかな中心血液量の変化に応じ作動する伸展受容器である.我々は,低強度運動中の筋ポンプを介した静脈還流量の増加が心肺圧受容器を刺激し,血管運動神経活動を抑制することを明らかにした.この結果は,運動時に血圧が過度に上昇しないよう,筋ポンプを介した心肺圧受容器刺激が末梢血管抵抗を低下させることを示唆している.我々は,高齢者における運動時の過度な昇圧応答は,心肺圧受容器を介した血管運動神経活動の調節機能低下に関係するとの仮説を立てた.本研究ではこれまでの我々の研究成果をさらに発展させ,特に高齢者において,運動時の昇圧応答への心肺圧受容器反射の貢献を明らかにし,運動時の血圧調節メカニズムのさらなる解明を目的とし研究を進める.
#片山敬章教授(名古屋大学医学部)との共同研究
4) 長期間運動介入が中心動脈スティフネス、脳循環機能及び認知機能に及ぼす影響(科研費申請中)
動脈壁硬化度を示す指標である中心動脈スティフネスは加齢に伴い増加し、心血管疾患および認知症の発症リスク因子であることから、その改善は高齢者とって重要な課題である。若年者では数か月間の運動介入で中心動脈スティフネスが改善することが示されているが、高齢者においては1年間の運動介入でも中心動脈スティフネスの改善を認めないとの報告がされている。また興味深いことに、運動は若年者の認知機能の改善に有効であることが知られているが、高齢者の軽度認知機能低下症患者(MCI)においては1年間の運動介入でも認知機能の改善を認めないとの報告がされている。近年、中心動脈スティフネス→脳循環障害→認知症発症のカスケードが提唱されており、高齢者においては運動介入を行っても中心動脈スティフネスが改善しないために認知機能が改善しない可能性が示唆される。一方で心臓コンプライアンスに関しては高齢者に対する1年間の運動介入では改善を認めなかったが、2年間の運動介入では改善を認めたとの報告がされている。そこで我々は中心動脈スティフネスの改善に2年間の運動介入が必要との仮説を立てた。この仮説を確かめるため、本研究では、2年間の運動介入が高齢者の中心動脈スティフネスに与える影響について調査する。更に2次評価として、高齢者認知症患者を対象に2年間の運動介入が脳循環機能と認知機能に与える影響をについて調査する。
#柴田茂貴教授(杏林大学医学部)との共同研究
5) 運動中の脳血流量測定のためのデュプレックスTCD(超音波測定システム)の開発と検証(科研申請中)
脳は生命維持に不可欠であり,脳循環動態の把握は脳機能を理解する上で必要不可欠である.高齢化社会では,脳血管障害の診断・治療に非侵襲的な脳循環測定が重要であり,脳血流応答は様々な条件下で評価されている.特に運動は脳機能改善に寄与し,運動中の脳血流量測定は最適な運動の理解と生理学的,臨床的応用に意義を持つ.現代では,単一光子放射断層撮影法(SPECT),陽電子放出断層撮影法(PET),磁気共鳴画像法(MRI)など,多様な方法で脳血流量が正確に評価されている.しかしながら,これらの方法は主に固定された姿勢(仰臥位姿勢)で行われ,全身運動に対する脳血流量応答の測定には不向きである(J Neuroradiol 32:294–314,2005).また,近赤外分光法(NIRS)はヘモグロビン酸素化動態から脳血流量を評価する手法として使用されるが(Adv Exp Med Biol 411: 461–469,1997),皮膚血流量の影響を大きく受けるため,運動中の脳血流量測定には適していないことが指摘されている(Hirasawa et al. Clin Physiol Funct Imaging,2015).Aaslidらによって開発された経頭蓋超音波ドップラー法(transcranial Doppler: TCD)は,血流速度の非侵襲的な測定法として広く評価されている.時間的変化の測定に優れており,頭部に固定される測定プローブによって,動きによるノイズの影響が少ない.他の脳血流測定法の制約を考慮すると,運動中の脳血流測定に最も適している.ただし,TCD測定法では脳血管径を測定できず,脳血流速度を脳血流量の指標として利用している.先行研究において,中大脳動脈血管の直径に関する報告があり,運動による血管断面積変化の可能性が示唆されている(Neurosurgery 32:732–741,1993: Stroke 31:1672–1678,2000, Am J Physiol.1;308:H1030-8,2015).したがって,TCD測定法における中大脳動脈の血管径の変化や運動中の測定の有効性については議論の余地がある.
#Prof. Herve Normand(Université de CAEN Normandie, France)との共同研究
6) インターバル運動が脳内皮機能に及ぼす影響:一定強度の運動との比較(石本記念デサントスポーツ健康財団 助成 2024, 日本学術振興会 NZととの二国間共同研究<RSNZ>助成 申請中)
インターバル運動は、主に心肺機能を効果的に改善させる方法として近年盛んに用いられている。インターバル運動には、様々な利点が挙げられるが、循環生理の分野においてそのマイナス面についても指摘されている。具体的には、総血管シェアレイト(SR)に対する逆行性SRの比率(振動せん断指数)がインターバル運動で高いことである(Lyall et al., JAP 2019)。SRには順行性と逆行性があり、順行性SRは内皮機能改善に寄与するが、逆行性SRは内皮機能に有害な影響を及ぼすことが報告されている(Simmons et al., JAP 2011)。つまり、インターバル運動では、末梢血管における逆行性SRを増加させ運動による内皮機能改善に有利に働かない。対照的に、脳血管においては内皮機能に有害となる逆行性SRが起こらないため、インターバル運動は、脳血管に特異的に総SRを増加させることを我々の先行研究で確認した(Ogoh et al. Physiological Reports 2019)。これらの研究背景から、継続的運動ではなくインターバル運動が脳内皮機能を改善し、脳血管疾患のリスクを低下させる可能性が強く示唆される(Calverley et al., Journal of Physiology 2020)。インターバル運動は、心血管疾患に罹患した個人の心血管機能の改善を達成するために、連続運動よりも有効であると評価されている。さらに、インターバル運動が脳血管機能をより改善する可能性が高い。本研究では、インターバル運動が脳血管SRの増加だけでなく、実際にその増加を受けて、脳血管内皮機能が改善するかどうか確かめる。
#Prof. James Fisher(University of Auckland, NZ)との共同研究
7) 運動に対する血圧応答は脳自己防衛システムの影響を受けるか? (ブレインサイエンス振興財団助成申請中)
高齢者や高血圧患者において,心臓循環器疾患予防のために運動が推奨される一方で,運動時に過度な血圧上昇が見られ,これが心臓循環器疾患リスクを増加させるというパラドックスが存在する.同様に,健常者においても運動時の血圧応答には個人差があり,この運動に関するパラドックスを解明し,個人の運動時血圧応答に合わせた適切な運動プログラムを選択する必要がある.しかしながら,運動時血圧応答の個人差に関する詳細な生理メカニズムは未だ解明されていない.運動時の血圧増加は,自律神経活動の中枢である脳幹部位の低還流が引き起こす,つまり脳の生理応答シグナルが血圧調節を行い,脳機能を維持しようとするSelfish Brain仮説[Dickinson CJ et al. Lancet, 1959]が提唱されている.本申請研究では,このSelfish Brain仮説に焦点を当て,運動時血圧応答の個人差の生理メカニズムを明らかにすることを目的とする.運動中の脳の循環動態,特に脳後方循環(椎骨動脈)の血流量と運動時の血圧応答との関連性を検証する.これにより,高齢者,高血圧患者,および健常者における運動時の血圧応答の生理メカニズムを理解し,運動プログラムの最適化に役立つ情報を提供することを目指す.
#菅原順教授(産総研、筑波大)との共同研究
8) 座り過ぎによる自律神経活動及び心臓循環調節機能に及ぼす影響(学術研究振興資金 申請中)
世界20カ国の成人を対象とした調査(Am J Prev Med 2011;41:228-235)では,20カ国中,日本人の座位時間が7時間で最長であることが示され,日本人の働く環境に関連していると考えられる.この座り過ぎは,疾患リスクを高めるとの研究結果が数多く報告されている.1日に座っている時間が4時間未満の成人と比べ,1日に11時間以上座っている人は死亡リスクが40%も高まることが示された(Arch Intern Med 2012;172:495-500).これら先行研究の結果は,長時間座り続けることが,心筋梗塞,脳血管疾患,がん,認知症などの発症により,健康に害を及ぼす危険性を高めることを示唆している.長時間の座位により全身の筋の70%を占める下半身の活動が停止状態に陥る.したがって以前は,この疾患リスクは座り過ぎによる運動量の減少が影響すると考えられていたが,最近の知見では,個人の運動経験や運動量にかかわらず,座りすぎの時間により身体へ悪影響を及ぼすことが明らかとなっている(Am J Epidemiol 2010;172:419-429).考えられる生理学的要因は,悪姿勢や活動量低下だけでなく座り過ぎでは,重力の影響による静脈への血液貯留や“第二の心臓”と言われる腓腹筋(ふくらはぎ)による静脈還流量が低下することが挙げられるが,その生理メカニズムは明らかでない.本申請研究の目的は,長時間の座位姿勢による交感神経活動及びそれに伴う心臓循環系機能への影響を運動量減少の影響と分離して評価することである.運動量と関係なく座り過ぎ自体が身体にどのような影響を及ぼすのか,その生理メカニズムを解明し,心臓循環器疾患リスク軽減のための方法を確立するためのエビデンスを得ることを目指す.実験では同じ運動量が低下する長時間座位姿勢と長時間仰臥位姿勢(ベッドレスト)の両者の比較から,長時間の姿勢変化の影響(座位姿勢による交感神経活動及びそれに伴う心臓循環系機能への影響)を運動量減少の影響と分離して評価する.
#片山敬章教授(名古屋大学医学部)との共同研究
9) Cold pressor testによる頸動脈反射試験での循環器疾患リスクと内皮機能との関連性に関する基礎研究
アテローム硬化症は、全身性のものであり、実際、上腕動脈の内皮機能の低下と冠状動脈の内皮機能の低下と関連している(Takase et al. Am J Cardiol 1998; 82(12):1535-9, A7-8, Takase et al. Int J Cardiol 2005; 105(1):58-66)。特に、冠状動脈と頸動脈のCPTに対する反応は類似する(J Hypertens 2017; 35(5):1026-1034)ことから頸動脈を冠状動脈血管反応の代替指標にしている。頸動脈反応試験は、Cold pressor test(CPT)による交感神経亢進によりテストされる(Rubenfire et al. J Am Coll Cardiol 2000; 36(7):2192-7, van Mil ACCM et al. J Hypertens 2017; 35(5):1026-1034). 頸動脈は、冠状動脈と似ており、CPTにより血管は拡張するが、心臓循環系疾患者は、血管拡張が起こらないか、逆に収縮する(Rubenfire et al. J Am Coll Cardiol 2000; 36(7):2192-7, van Mil ACCM et al. J Hypertens 2017; 35(5):1026-1034, Zeiher et al. J Am Coll Cardiol 1989; 14(5):1181-90, Nabel et al. Circulation 1988; 77(1):43-52)。血管拡張しない患者は、冠状動脈の内皮機能が低下しており疾患リスクが高いとされている。CPTに対する冠状動脈の反応は強く、末梢血管疾患者(動脈硬化、血管内皮機能の低下)の心臓疾患発症リスクの予測因子として用いられる。さらに、最近の報告では、CPTによる頸動脈反応試験は、ABPIやcIMTよりも末梢循環系疾患者の心臓循環系疾患発症リスクを予測できることを報告している(Ellenのくれた論文)。このことは、動脈硬化より血管内皮機能の低下がより疾患リスクに関与することを示しているが、詳細なこの生理メカニズムは明らかでない。アテローム硬化症は、全身性のものなので、また冠状動脈と頸動脈のCPTに対する反応は類似する(J Hypertens 2017; 35(5):1026-1034)ことから頸動脈を代替指標にしている。また、上腕動脈の内皮機能の低下と冠状動脈の内皮機能の低下と関連している(Takase et al. Am J Cardiol 1998; 82(12):1535-9, A7-8, Takase et al. Int J Cardiol 2005; 105(1):58-66)。CTPによるカテコラミンによる血管収縮効果よりも、カテコラミンによる血管トーンの増加がより血管内皮機能を亢進させる(NOの影響を強める)ことが、CTPによる血管拡張を誘因していると考えられている。さらに、心臓循環系疾患リスクが高い人のCPTによる血管収縮は血管内皮機能が低下しているとの指摘がある。これは、CV危険因子はPAD患者間の異なる血管運動反応には寄与しておらず、被験者の特徴やCV危険因子ではなくPADの疾患状態が冠状動脈(頸動脈)内皮機能不全に寄与していることを示唆している。しかしながら、このCPTに対する血管拡張が血管内皮機能に寄与するのか明らかでない。なぜなら、血管内皮機能は、末梢と脳で異なる可能性が示唆されている(鈴木の論文)。さらにCPTによる交感神経活動亢進(カテコラミン⤴️)が血管内皮機能に寄与するか明らかでない。カテコラミンによる血管への影響が血管シェアレイトを増加させることは考えられるが、CPTによる血圧増加による血管シェレイト増加が寄与している可能性も無視できない。そこで、本研究では、1)CPTの頸動脈血管応答が、血管内皮機能が寄与しているのか、2)CPTの頸動脈血管応答が、血圧増加に独立して、交感神経活動の亢進により内皮機能が強調されるか調査する。
#宮本忠吉教授(大阪産業大学)、岩本えりか講師(札幌医科大学)との共同研究
10) 運動時の運動単位の発火パターンと循環機能と連関に関する基礎研究
運動単位の発火頻度やそのパターンは、運動中変化するだけでなく、測定する筋やその役割(2関節筋など)、運動の種類や強度、さらに加齢や疾患などの個人の特性によっても影響をすることが報告されている。一方、その変化のメカニズムは十分理解されているとは言えない一方、考えられるメカニズムとして
1.中枢制御(セントラルコマンド等): 運動中は、中枢神経系からの指令によって運動単位の発火頻度が調節される。
2.神経活動の周波数: 運動ニューロンは、神経系からの信号の周波数に応じて発火頻度を制御する。神経系は、運動ニューロンに対してより頻繁な信号を送ることで発火頻度を増加させ、より強い収縮を引きおこす。
3.筋内の代謝: 運動中、筋肉の代謝が変化する。例えば、運動によるエネルギー需要の増加に応じて、活動筋内のATPやカルシウムの濃度が変動する。これらの変化は、運動単位の興奮性や発火頻度に影響を与え、筋肉の収縮力を制御する。
4.筋紡錘やゴルジ腱器官のフィードバック: 筋紡錘やゴルジ腱器官は、筋の長さや張力の変化を感知し、神経系に情報を伝える。この情報は、運動単位の発火頻度を制御するために使用されると考えられる。
5.フィードバック制御(メカノ及びメタボリフレックス): 運動中、運動ニューロンや筋からのフィードバック情報が神経系に送られる。このフィードバックは、運動単位の発火頻度を調節するために使用される。
等が考えられている。しかしながら(自身が少し読んだ中では)、制御メカニズムは明らかになっていない。たとえば、運動中の疲労に関するものは、興味深いが現象論に終始している(Motor-Unit Activity Differs With Load Type During a Fatiguing Contraction。Carol J. Mottram, Jennifer M. Jakobi, John G. Semmler, and Roger M. Enoka .01 MAR 2005https://doi.org/10.1152/jn.00837.2004)。そこで、疲労による運動単位の動員パターンの変化を題材に、その疲労に関する動員パターンの変化のメカニズムに関する実験を行い、運動単位動員パターンの生理メカニズムを解明していきたい。上述の考えられる項目を押さえていく。
#渡辺航平教授(中京大学)との共同研究
11) Is TCD-determined blood velocity in the posterior cerebral artery reflected from the upstream cerebral blood flow; is there a site-specific cerebral vasomotion in the posterior cerebral arteries?
Unlike the anterior cerebral circulation, the posterior extra-cranial cerebral blood flow, blood flow in the VA may show a different response from TCD data for the blood velocity in a PCA, which is measured as an indicator of posterior CBF (Washio et al., 2017; Washio et al., 2022). Washio et al. (Washio et al., 2017) observed that during mild dynamic exercise (cycling) the a similar increase in the blood velocity in PCA to VA blood flow. Contrary, heavy dynamic exercise decreased blood velocity in the PCA from the value of mild exercise, while VA blood flow further increased compared to moderate exercise. Moreover, the PCA cerebrovascular conductance (CVC) index was decreased from rest, but not VA CVC during isometric handgrip exercise (Washio et al., 2022). These findings indicate that the TCD-derived PCA velocity does not accurately mirror VA blood flow during exercise. Thus, site-specific posterior CBF should be considered in further research for assessing posterior cerebral circulation, however, this physiological mechanism remains unclear. Some possibilities of this phenomenon are that differences in distinct vasomotor responses to exercise-induced hypertension between PCA and VA (different blood distribution in PCA from that of other posterior arteries) or change in diameter of PCA (velocity does not reflect blood flow in PCA) may contribute to exercise-induced heterogeneous CBF response in the posterior cerebral circulation. In light of these considerations, the aims of the present study were to investigate whether PCA blood flow velocity reflects PCA blood flow and whether the PCA blood flow changes parallel to the upstream blood flow of PCA or the PCA blood flow has a site-specific response to physiological conditions in the posterior circulation. To test these aims, we assessed blood flow in posterior cerebral arteries via both Doppler and fMRI, and changes in PCA velocity were caused by orthostatic stress using lower body negative pressure (LBNP) (Tymko et al., 2016) to use fMRI. We hypothesized that blood flow in the ICA is indicative of blood flow in the anterior cerebral arteries (MCA and anterior cerebral artery; ACA), while the changes in PCA velocity are reflected by a change in its blood flow but it is not reflected by the upstream blood flow of PCA. If this hypothesis is correct, it means that PCA has a site-specific regulation of blood flow at least during orthostatic stress compared to other posterior cerebral arteries (the pontine artery, superior cerebellar artery, anterior inferior cerebellar artery, and posterior inferior cerebellar artery).
#Prof. Herve Normand(Université de CAEN Normandie, France)との共同研究
12) 対応によるレジリエンス:人間中心的な航空対応で達成できる災害レジリエンス
本研究は、人間中心の無人航空機の災害対応を通じて、人命と財産に対する自然災害による甚大な被害を軽減することを目的としている。特に大規模災害時の限られたリソースでも、災害状況の情報収集とリスクの予測に基づく効率的な航空対応を実現して、安全かつ効率的な捜索と救助が必要である。災害リスクのより正確な予測と、負傷者を安全に搬送するための加速度などの飛行プロファイルの制約を考慮し、災害対応時の多数の無人航空機による運航計画のアルゴリズムを開発する。現場経験および方法論的専門知識(米国チーム)、運用経験と飛行試験機材(日本チーム)、生理学的モデリングと航空分野の専門知識(両チーム)を有機的に統合することによって、どちらかの国が単独では達成することができない研究目標の達成を目指す。
#Profs. Adriana Andreeva-Mori (JAXA), Balakrishnaa Hamsa (MIT, US)との共同研究