2014.06.02 寄付講座
■平成26(2014)年度 寄付講座「実践職業論」 エンジニアのための特許講座 (2014.6.2)
講師:弁理士 宮澤亘
特許制度は、エンジニアが創出した発明をビジネス現場で有効活用するために重要な制度です。グローバル化が進むなかで、国内外の事業を意識した戦略的な知財マネジメントが益々重要になってきています。本講座では、知的財産制度の概要、法目的・保護対象、特許の取得方法や要件について概説する。また、特許公報の実際例によって、読み方の実習を行い、特許公報の構造を分析し具体的に理解します。
身の回りにあるヒット商品は、知的財産によって支えられ保護されている。知的財産とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動から生み出されるものを指す。さらに、商標、商号その他事業活動に用いられる商品や、営業秘密や事業活動に有用な技術上または営業上の情報も含まれる。
知的財産基本法では、「発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む」と厳密に定めている。
←スマートフォンは多くの知的財産によって支えられている
ビジネスがグローバル化する中、国内外の企業が世界各国で知的財産権を獲得する動きが活発化している。近年、中国の特許出願件数が急速に伸び、中国での知的財産権を巡る訴訟も増加している。このような訴訟は、属地主義の下、各国裁判所で争われる。現代においては、知的財産制度はエンジニアにとっても必須の知識である。
知的財産制度を理解するために、関連する法律の目的を把握することが必要である。
(1)法目的
【特許法】発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする(特1条)。
【実用新案法】物品の形状、構造又は組合せに係る考案の保護及び利用を図ることにより、その考案を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする(実1条)。
【意匠法】意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする(意1条)。
【商標法】商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする(商1条)。
(2)保護対象
それぞれの法律で保護しているのは、発明・考案・意匠・商標などである。
【発明】自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの (特2条1項)
【考案】自然法則を利用した技術的思想の創作 (実2条1項)
【意匠】物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの (意2条1項)
【商標】文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合であつて、次に掲げるもの (商2条1項)
①業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
②業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
特許出願~出願公開~審査請求~設定登録~権利消滅のフローは以下の通り。特許権の存続期間は、特許出願日から原則20年。
出願 →出願公開公報(出願後1年6月)
↓
方式審査
↓
審査(審査請求)→拒絶理由通知
↓ ↓
↓ 意見書・補正書
↓ ↓
特許査定 ←拒絶理由解消
↓
特許料納付
↓
設定登録 →→→→特許公報
↓
↓
↓
特許権消滅(出願後20年)
<図:特許取得のフロー>
我国では特許出願をしただけでは、特許を取得することはできない。審査請求し審査官による審査により特許査定を得て、所定の登録料を支払う必要がある。審査においては、産業上の利用可能性、新規性、進歩性、公序良俗、共同出願、先願、拡大先願、冒認出願違反等が審査される。特許法には、審査における拒絶理由が列挙されており(特49条)、
下記の要件に該当する場合は拒絶される。
①補正要件違反(補正による新規事項追加違反・ 補正後の単一性違反)
②外国人権利共有、産業上利用可能性、新規性、進歩性、拡大先願、公序良俗、共同出願、先願違反
③条約違反
④明細書の記載要件(省令)違反、単一性違反
⑤文献公知発明に係る情報についての記載不備違反
⑥外国語書面出願の要件違反。
⑦冒認出願違反
実際の特許出願で、拒絶理由として多いのが、②の新規性・進歩性の違反。「新規性」とは発明の客観的新しさをいい、「進歩性」とはその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が出願時の技術水準から容易に想到できない程度の困難性をいう。
特許法29条では以下のように規定されている。「特許出願前に」と記載されているように、時期的基準は出願時である。また、「日本国内又は外国において」と記載されているように、地理的基準は世界主義が採用されている。
【特許法29条】 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
①特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
②特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
③特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
特許公報に記載された特許請求の範囲は、特許権の権利書としての役割を持つ。特許明細書等は最新技術の参考文献としての意義もある。実際、一見難解と思われる特許公報でも、ポイントを掴めば、特許請求の範囲・明細書・必要な図面などを、最新の技術資料として読むことができる。