免疫システム制御学研究室では、私たちの健康維持に重要な免疫系の作用メカニズムを明らかにして、ウイルスや細菌による感染症、がんやアレルギー、生活習慣病など様々な病気に対する新たな予防法・治療技術の開発に繋ぎ、人々の健康長寿に貢献することを目指します。
具体的には、健康寿命の延伸のために、免疫状態を判定する解析技術の開発と適度な運動や食事による免疫システムの制御を目指した研究を行います。
例えば、感染症を未然に防ぐために、これまで希望者へのワクチン投与がなされ、患者さんには治療薬の投与が行われてきました。この状態では、ワクチンや治療薬による効果が認められる方、認められない方、逆に副反応が発生する方も混在しています。そこで、あらかじめ、私たちの免疫状態の解析、評価を行う、コンパニオン診断を行うことによって、治療効果を高め、副反応を防ぐ、オーダーメード医療の最適化を目指します。さらに免疫モニタリングを行い、免疫状態が改善されているか、良い状態を維持しているかを確認し、病気の再発などを防ぐことも目指します。最終的に、一人一人の生活習慣の改善、適度な運動や食生活により、免疫状態をうまく調節し、病気にならない健康長寿社会の実現を目指したいと考えています。
こちらに研究成果の応用例を示します。
もしも私たちの実験、検討で有望な標的分子が得られた場合、患者さんから血液や病変組織の検体を採取し、標的分子をPCRで増幅し、その発現をプロファイルして、被験者の免疫状態を解析します。これらの情報を医師や医療従事者と情報を共有し、被験者、患者さんの治療方針に活用して、健康維持、治療効果の向上に活用することを考えています。
私たちの研究室では、自身の実験を通じて得た結果をプレゼンテーションするラボミーティング、関係する研究論文を紹介するジャーナルクラブを行い、最新の研究に関する知見、情報について、意見交換やディスカッションを行います。研究成果については、日本国内外の学会にて、自分の研究成果を発表するスキルを磨くとともに、英語論文として国際的な専門科学雑誌への投稿にもチャレンジしてみてください。
また当研究室は、全国の大学、大学病院および民間企業との共同研究を積極的に推進します。みなさんには、ラボのメンバーとともに、他の大学や民間企業の研究者、医師・医療従事者と連携した実験・研究活動を行なって頂いて、その成果は、将来、医療技術の発展、健康長寿社会への貢献に繋がることを経験して欲しいと思っています。
2026年度 研究テーマ(予定)
1. 食物アレルギーモデルの病態発症メカニズムの解明と診断・治療への応用(※)
2. 低分子核酸医薬の開発に関する研究
3. 乾癬モデルの病態発症メカニズムの解明と治療への応用(※)
4. 生活習慣病の発症のメカニズムの解明と診断・治療への応用に関する研究(※)
5. がん微小環境における免疫機能の制御によるがんの再発・転移の抑制効果(※)
6. 機能性食品・サプリメントによる免疫応答性、細胞老化の制御メカニズムの解明
7. ヒト免疫体質決定機構の解明と評価判定技術の確立
※マウスアレルギーに注意する必要があります。
これまでに得られている研究成果
樹状細胞およびT細胞の機能制御機構の解明と感染症・がん・アレルギー性疾患治療への応用
樹状細胞は代表的な抗原提示細胞で我々の免疫調節の中枢を担う重要な免疫担当細胞の一つです。本研究室では樹状細胞による抗原特異的ヘルパー・キラーT細胞の活性化を基軸とした免疫機能の制御メカニズム解明を行なうとともに、ウイルスや細菌による感染症、がんやアレルギーなど免疫関連疾患について、より効果の高い新しい治療法の開発を展開しています。本研究に関わるテーマとして、(a)樹状細胞の抗原提示機能の制御による効率的がん特異的T細胞誘導法の開発とそのがん治療への応用;(b)感染やアレルギーなど慢性・炎症性疾患におけるタキキニン類・ニューロキニンA(NKA)とその受容体(NK2R)の発現誘導を介した神経ペプチドシグナルの活性化による新しいがん・免疫機能の制御メカニズム解明; (c)がんの悪性化の起点となる神経免疫コンダクター細胞を標的とした次世代型がん免疫療法の開発などがあります。
特にヒトの免疫機能の解明については、北海道大学病院および大学院医学研究院と連携して臨床検体を用いた解析・評価を行い、免疫治療の有効性の検証とその機序解明に関する研究を実施しています。
図1. 担がん生体におけるニューロキニンA(NKA)およびその受容体(NK2R)の産生誘導を介した神経ペプチドシグナル の活性化によるがん細胞の転移能獲得メカニズム
ウイルス・細菌感染、慢性炎症、侵襲やストレスによって樹状細胞やマクロファージにより産生されるNKAやがん細胞に誘導されるNK2Rを介した神経ペプチドシグナルの遮断によりがん細胞転移能獲得などの悪性化が阻害されることでがんの制御が期待できると考えられる。
がん・慢性炎症時に産生されるIL-6を介した樹状細胞の機能不全の解明
がんは医学の進歩により生命予後の著しい改善がなされてきましたが、依然として日本人の死亡原因の一位です。そこで、現在、既存の標準治療法に加え、がん免疫治療の研究開発がなされているが、未だ全ての方完治する治療法までには至っていません。これは、がん患者生体内での免疫状態の低下を要因とする、抗腫瘍免疫の不良が原因の一つと考えられています。IL-6は炎症性疾患や担がん環境下で産生される多機能性サイトカインの一つです。最近、私たちはマウスおよびヒト樹状細胞においてIL-6がMHCクラスIIの発現低下を引き起こし、T細胞への抗原提示能が減弱すること、マウス担がんモデルおよび大腸がん肝転移モデルにおいてIL-6欠損条件による抗腫瘍免疫応答の増強効果とともに著名な抗腫瘍効果を明らかにしました。
そこで、当研究室では、がん治療モデルマウスやヒト末梢血由来の各種免疫担当細胞を使用し、慢性炎症性疾患や担がん生体におけるIL-6-STAT3シグナル伝達経路の活性化を介した抗腫瘍エフェクター細胞の機能不全メカニズムを詳細に解析し、がん・慢性炎症性疾患に対するより効果の高い治療法の開発に繋ぐ研究を展開しています。
図2. 腫瘍微小環境において産生されるIL-6の抗腫瘍免疫に及ぼす効果
担がん生体内の腫瘍微小環境において産生されるIL-6は、樹状細胞に作用して抗原提示能が低下し、腫瘍環境下でエフェクターT細胞の誘導を抑制している。IL-6のシグナルの遮断により、樹状細胞や抗腫瘍エフェクターT細胞によるがん細胞への攻撃が期待できる。一方、免疫状態の賦活によりIFN-α/βなどI型インターフェロンの産生誘導により、がん細胞のPD-L1分子が発現増強するため、さらに免疫チェックポイント阻害による併用治療が有効であると考えられる。