国際地域学科 国際地域専攻 4年 山崎 七海
はじめに
私は2025年4月1日から5月10日にかけて、ピースウィンズ・ジャパン珠洲事務所において、ボランティアとして住み込みで勤務しました。この活動を始めるきっかけになったのは、同年3月に実施した、能登半島地震被災地中高生春休み保養プログラム(春休み富士見高原ツアー)です。参加してくれた子どもたちがバスで富士見高原から能登に帰る際に、引率者として同行し、そのまま珠洲市に留まってピースウィンズ・ジャパン珠洲事務所で働いてみないかという誘いを受けることになりました。元々地元で高齢者の集まりに参加して活動していたこともあり、今までの経験が生かされる活動だと思って参加しましたが、現地では想像もしなかったほど様々な体験をし、とても充実した5週間となりました。
ピースウィンズ・ジャパンと珠洲事務所の概要
ピースウィンズ・ジャパンは1996年に設立されたNGOです。主な活動内容は、貧困や紛争などで苦しむ世界中の人々を救う「海外事業」、超急性期から平穏期まで長い時間をかけて被災地を支える「災害支援事業」、シェルターでの保護から譲渡までを支援している「保護犬事業」です。その中でも、珠洲事務所は2024年1月1日の石川県能登半島地震の発生により、活動が始まりました。現在は基本的には4人の職員で運営しており、行政などと協力してお茶会や薬剤師相談会の開催、自宅訪問、企業や学生の受け入れなど様々な活動を通して、珠洲市の復興と発展を支えています。
私の仕事内容
私の主な仕事は、お茶会開催のサポートでした。仮設住宅にある集会所に行き、会場のセッティングをして、住民の皆さんを待ちます。来てくださった方々には、コーヒーやお菓子を選んでいただき、あとは皆さんと楽しく談笑します。最初は会話が続くか心配していましたが、毎回珠洲の皆さんの方から積極的に話してくださることがほとんどであり、私も大笑いしながら毎回会話を楽しみました。また、ただ楽しむだけでなく、全体の様子を見ながら、会話が少ない方のところへ積極的に行き、全員が「来てよかった」と思えるような環境づくりをすることも心がけながら参加しました。このようなお茶会は毎日のようにありますが、時にはカラオケやTANO(モーションセンサー付きのゲーム)を設置して一緒に楽しんだり、薬剤師さんや看護師さんとの健康相談会を併設したりもしました。お茶会がメインの仕事ですが、私の仕事はそれだけではありません。イベントポスターの制作や備品整理、新聞のスクラップなどの事務作業、企業や学生などと行う災害ボランティア、ジブリ美術館と一緒に行った移動映画館など、本当に多岐にわたる活動をしました。
輪島門前児童館での映画上映
集会所で住民の方々と共に行ったTANO
未だに残る爪痕
5週間をかけて能登半島を見て回り、住民の皆さんと直接会話をして驚いたのは、地震発生から1年以上が経った現在もなお、未だに地震と豪雨の爪痕が色濃く残っていることです。車で走っていると、ガードレールのない断崖前壁や陥没が道路に多数あり、ヒヤヒヤする場面が何回もありました。特に、土砂災害で9人が亡くなった珠洲市仁江町では、屋根や瓦礫、木材などが塊のようになっており、通るだけで胸が痛くなりました。建物や道路の損壊は、誰が見てもわかりやすい災害の爪痕です。しかし、今後は被災前の能登半島に戻っていくために、それ以外の爪痕にもアプローチをしていかなければならないと感じています。例えば、子どもたちの遊び場の復活です。珠洲市にある大規模なキャンプ場は災害ゴミの仮置き場、小中学校の校庭は仮設住宅になっていました。また、第一次産業も徐々に復活していかなくてはなりませんが、漁業は隆起により生態系に変化があり、農業は畑や用水路に大量の土砂や木材が流れました。私も用水路に足を入れて泥の掻き出しをしましたが、どちらもボランティアだけでは対処しきれない被害状況です。特に漁業は被災前の状況に戻すことは難しく、新たな在り方を模索する必要性があると思いました。
珠洲市にある、キャンプ場だった災害ゴミの仮置き場
珠洲市仁江町の様子
こんな大人になりたい
「魚のさばき方や筍の下処理、編み物、ロープの結び方をサラッと教えることができる大人」や「高齢になってもグラウンドゴルフやミシンなど多趣味で忙しくしている大人」、「誰かのためにとことん尽くすことができる大人」、「常に自分に試練を与えてチャレンジし続ける大人」など、挙げるときりがないほどたくさんの「こんな大人になりたい」と思える大人と出会いました。この21歳という時期における、様々な年代の魅力的な大人との出会いは、人生の選択肢を大きく広げ、いつでも人生は自分で変えることができるということを教えてくれたと思います。今後も出会いを大切にし、人生の先輩からたくさんのことを吸収していきたいと思います。
初めて編み物に挑戦する様子
初めてタケノコを収穫している様子
最後に
この5週間で、私はコミュニケーション能力や知識の向上をしたのはもちろんですが、精神的に成長し、物事をより俯瞰して考えることができるようになったことが、一番の成長であったと感じています。今後は、「珠洲市に居住する高齢男性が持つコミュニティの現状と課題」というテーマで卒業論文を執筆するために、珠洲市で調査を続けながら、少しでも珠洲市の皆さんの力になりたいと思います。(2025年7月10日記)
ピースウィンズ・ジャパン珠洲事務所の皆さんとの食事の様子