国際地域学科では、国内外の様々な地域で学修する機会があります。本学が位置する東京都文京区も絶好の学びのフィールドです。そこで<巨大都市・東京に潜む「古代の聖地」のフィールドワーク>をテーマとして、8月5日から8日に国際地域学研修を行いました。
東京は、世界のなかでも4000万以上の人口が集中する世界一の巨大都市(メガロポリス)です。最寄り駅から東洋大学白山キャンパスまでの通学路をよく観察すると、最先端の変化がめまぐるしく起こる一方で、江戸時代以前の史跡にくわえて、はるか昔の縄文時代の生きた痕跡がまだ残っていることに気がつきます。東京圏は、最先端かつ最古の人間の営みが同時に残る、世界でも極めて個性的な都市なのです。
この研修では、東洋大学の位置する東京圏を新たな視点――文化人類学と社会学――で学生自身が再発見することを目的としました。白山キャンパスから歩いて行ける範囲(文京区・台東区・豊島区)をフィールドとして、まるで地中深くに“潜水(ダイビング)”するようにして、まちなかの人々や物事の注意深い観察者になります(=アースダイバー)。そして巨大都市・東京に埋め込まれた「歴史の地層」と太古の人々の現在の痕跡を探すことを試みました。
ここで受講者全員が次の2つの問い――太古の人々の大事にしていた「聖なる空間」は現在、どのようになっているのか? 太古の人々の「聖なる空間」は、現在に生きる私たちにどのような影響を具体的に与えているのか?――に回答することを試みました。そうして縄文時代から現在に至る様々な歴史の堆積と、人間と自然の共同作品として成り立っている都市として東京を読み直し、新たな視点で国内外の都市を読み解く視点を獲得していきます。
まず事前学修では、フィールドワークの実践的な方法を学びました。そして研修初日は、どこを調査するかをグループワークで相談しました。縄文時代の地図、江戸時代の地図、東京都の凹凸地図、Googleマップを見比べながら、「古代の聖地」と現在地を特定していきます。
写真❶フィールドの選定作業
研修2日目は、文京ふるさと歴史館を訪れました。ここには文京区の縄文・弥生時代から江戸時代そして明治時代の歴史や文化財について、展示や解説を通じて知ることができます。今回はとくに文京区の遺跡分布マップや映像解説が大いに役立ちました。
写真❷文京ふるさと歴史館での学修
いよいよ現地でのフィールドワークです。受講生7名が選び出した以下の場所で現地調査を行いました。
・ 湯島天満宮、旧岩崎邸庭園
・ 東京大学三四郎池
・ 根津神社
・ 駒込富士神社、動坂
・ 巣鴨高岩寺(とげぬき地蔵)
・ 白山神社・白山浅間神社・富士塚
写真❸東洋大白山キャンパスから最も近い「太古の聖地」白山浅間神社・富士塚
学生たちは、メモ帳やスマートフォンのノート機能や写真を駆使しながら、現場に何があるか、誰がいるか、どのような出来事が観察できるか、「太古の聖地」の痕跡はあるかなどを観察しました。ときには周囲にいる人々と会話をし、そうした情報をフィールドノートとして記録していきます。
フィールドワーク後にはすぐにフィールドノートの作成作業に入ります。現場で見聞きしたことを翌日から翌々日には2000~3000字ほどの速記版フィールドノートにまとめます。
写真❹フィールドノートと考察の作成
フィールドノートを書く作業と並行して、見聞きしたことの考察も行います。その場で見聞きしたデータは大事ですが、それだけで全体像はつかめません。そのために同じ現場を歩いたり考えたりした先行研究を参考にします。
写真❺考察と成果発表にむけて活用した文献資料
研修最終日には、考察を中心としたプレゼンテーションを受講者全員が行いました。フィールドワークの体験とデスクワークの考察を統合し、他者に伝えることで「体験の言語化」を試みます。そうすることで自分自身に定着した「経験」となり、深い理解が可能になります。また他の人々の発表を聴くことで、自分の現場だけでなく、他の学生の発見や考察も勉強になります。
発表後には、最後の仕上げ作業としてレポートにまとめます。完成版のフィールドノート、考察、感想を含めた3000字から5000字のレポートができあがりました。
以下では学生たちの調査フィールドと研修後の感想の一部をご紹介します。
●現代に溶け込む古代の痕跡-駒込富士神社・動坂(動坂遺跡)
《東京アースダイバー研修に参加する前に私は、「太古の人々の聖地と生きた痕跡を見つけたことがないため、見つけ出す新しい視点を身に着けたい」と思っていた。しかし今回研修に参加し、実際にフィールドワークを実践したことで、その認識が勘違いであることに気がついた。実際には見つけ出すまでもなく、街中が痕跡だらけであり、聖地が日常に溶け込んでいたのである。だが現代の風景に馴染んでいるため、「古代の聖地」は関心を持って観察しなければ、見つけることは困難である。研修に参加して、「古代の聖地」の歴史を読み解き、現代と比較して考察できる力を養うことができたと思う。そして地域に対する興味関心と、愛着が増した。この研修にかなり影響を受けてしまい、研修後に行った京都でも、フィールドワークと同様の視点で京都の街を分析してしまった。「古代の空間」を沢山見つけることができたため、今回の研修で身に着けた視点は、文京区以外でも実践できるのだと理解した。今回の研修で街に対して湧いた興味関心や、身に着けた視点は研修が終わっても、今後の街歩きの際の学びに繋がっていくため、東京アースダイバー研修に参加して良かったと心から思った。 国際地域学科3年H.S》
●駒込のお富士山?富士信仰の中心駒込富士神社
《私は今回初めてフィールドワークを実施してみて、実際に自分で現地に行って観察し、自分の目で確かめることの大事さ、面白さを実感することができた。今の時代はインターネットの発達によって、調べれば何でも情報を提示してくれるツールがあり、実際に土地の風景や写真を見ることも可能だ。とても便利な反面、自分で考えることや自分で調べること、自分で体験することが極端に減少している。そのため、今回のように歴史館に行って情報を集めたり、実際に自分で現地に行って感じたこと、発見したことのメモ作成や、現地の写真を撮ったりすることは新鮮で、とてもおもしろかった。また、自分で時間をかけて体験したことなので、ただインターネットで調べるよりも記憶に残り、本当の意味での勉強になった。3年間通った大学周辺について私は何も知らなかったが、少し歩くだけで発見がたくさんあり、縄文時代の遺跡やおしゃれなカフェなども発見できた。私は今回の経験から、自分で現地に行くことの重要性や、たまには歩いて周辺地域を観察してみることの面白さなどを学ぶことができた。これからの生活にも取り入れてたくさんの発見をしていこうと思う。 国際地域学科3年 Y.H》
●駒込富士神社と動坂遺跡のフィールドワーク
《東京都文京区でフィールドワークを行う前は、自分の出身が遠いこともあり、この土地にあまり馴染みがなく、興味も薄かった。しかしフィールドワークでこの土地の歴史を調べ、古代の跡を見に行ったことで、時代とともに移り変わり、または、変わらず大切にされて積み重なってきたものや文化を直接感じることができた。それによってこの土地への愛着が沸いた。それと同時に、自分は東京のなかで「よそ者」であると感じていたことに気が付いた。フィールドワークは、行ってみるまで正解はわからない上に、行ってみても自分の知りたい部分がつかめない場合もある。そこが難しいが面白い部分でもある。行って初めてわかることの発見が興味深いと感じた。 国際地域学科3年R.H》
●「湯島」最東端の最強パワースポット--湯島天満宮・旧岩崎邸庭園
《私は、今回のフィールドワークを通して普段とは違った視点や考え方を持ち、まちを歩く事の面白さを感じた。今年テレビ局に入社した新人アナウンサーの人がテレビでこのようなことを言っていた。「私の趣味は、地図をみながらそこの地形をみて散歩することが好きです。」この発言を初めて聞いた時、変わっているなと正直思ってしまった。しかし、古代の地図と現在の地図を照らし合わせながら歴史を見つけ、実際にそれらを意識しながら現地で散策することは非常に楽しかった。当初は共感できなかった「地形を見て散歩する」という趣味も、このフィールドワークを通して共感することができた。このように、東京アースダイバーの授業は私にフィールドワークの知識や技術を身につけるだけでなく、人は「経験」をすれば価値観や考えが変わる可能性があるということを教えてくれた。 国際地域学科4年Y.A》
●背徳園心字池(東大三四郎池)のフィールドワーク
《フィ―ルドワークに参加する前は、文京区に古代人の聖地が50個もあることを知り、とても驚きました。また、縄文時代の人が強い霊感を感じていた場所が現在はどのようになっているかにとても興味を抱いていました。実際に文京区には沢山の遺跡がありました。私が選定した場所もかつては多くの遺跡が発見されていました。しかし現在、祀られるような神聖な場所ではないことがわかりました。そのためかつて神聖だった場所がすべて、今も神聖な場所とされているわけではないのかなということを感じました。
今回のフィ―ルドワークで実際に現地を訪れ、自分の目で見る大切さを改めて感じました。インターネットや本には掲載されていない情報や最新の事を現地で知ることができるからです。また、今回の調査で私は自分自身の対象地が神聖な場所とはなっていないと結論付けました。そして、これまでは大名の屋敷があったという情報しか集めることしかできなかったのですが、他の場所で調査を行った人の結果を聞いて、東京大学が位置する場所にもかつて神社があったことを知りました。自分では発見できなかったことを知ることができたので、対象地以外も調査することや、他の人の話を聞くことも調査を進める上で大切であるということを感じました。国際地域学科4年R.N》
●根津神社のフィールドノート
《受講前は、今まで普通に生活していた場所を違った視点で見ること、そして昔から積み重なっているものと発展し続け得ている今の東京を見直し、調査していきたいと考えていた。受講後の感想として、事前に調べた内容だけではわかることは少なく、フィールドワークの大切さに気が付いた。古代の空間についてただ調べた情報を載せるだけではなく、自分が感じたことや聞いたことを含めてフィールドワークをすることで、情報が豊かになり理解が深まりを感じることができた。国際地域学科4年R.H》
●とげぬき地蔵尊高岩寺のフィールドワーク
《かつて古墳や聖地だった場所がお寺や神社となり、今もなお人々にとって聖地とされているという話を事前学修で聞いたとき、そんな伏線回収のような話があるのかと思った。本当にそうなのか?という疑問と興味深さから、私の調査地が本当に古代と関係があるのかと、フィールドを決めるときからわくわくしていた。実際にこの研修を終えて、直接的な関係性を見つけることは出来なかった。ただし、古代も今も、神聖なる「何か」への儀式的な文化がその場所に存在することがわかった。受講前は「本当にそうなのか?」と半信半疑だったが、受講後は「本当にそうだった」という確信に変わった。また今回は少人数だったということもあり、他の学生の調査報告も集中して聞くことができた。自分と同じく、様々な発見があり、とても勉強になった。地理の面白さや古代と現代の繋がりの興味深さを再認識した研修となった。 国際地域学科4年H.T》
最後に、本研修の事前学修に際して、文京ふるさと歴史館にお世話になりました。記して感謝申し上げます。
国際地域学科 鈴木鉄忠教授