漢籍データベース

東洋大学所蔵の中国語諸史資料データベース構築の試み

漢籍

本冊子は、東洋大学アジア文化研究所で2019年度より3年間にわたって続けられた井上円了記念研究助成・研究所プロジェクト「アジア諸言語史資料の汎用性データベース開発と構築」の成果を示すものであります。研究代表者として、一言あいさつ申し上げます。

本プロジェクトは、本研究所がこれまでに進めてきた様々なアジア諸言語資料の公開を目的とした汎用性の高いデータベース開発のスキルを応用し、本学が所蔵する貴重な中国語文献資料のデータベース化を目指して取り組まれてきました。この間、所蔵先である東洋大学附属図書館のご協力を得て、近代以前のいわゆる「漢籍」を対象にして、まず蔵書目録の把握より着手し、その上で特に資料価値の高いものと思われる文献について調査撮影を進め、データベースの公開に備えてきました。本冊子に収録された内容は、こうした本プロジェクトの調査過程で本学での所蔵が確認された、貴重な漢籍の原本であります。これらの漢籍は、明代の中国で刊刻された版本であり、最も古いものとしては嘉靖45年(1566)の序文を掲げる8の『全史論賛』がありますが、その多くは万暦(1573~1620)から崇禎(1628~44)にかけての明朝末期に刊刻されたことが確認できます。これらの中には、中国でも多くは残されていない稀覯本に属するものがあり、貴重なコレクションを形成するものと言えるでしょう。

こうした貴重な漢籍が、四百年という歳月を経て、本学に収蔵されるに至った経緯をかんがみれば、学祖・井上円了による建学以来、西洋とともに東洋の思想・文化を一貫して重視し、教育研究の基礎に位置付けてきた本学の基本理念に深く関わるものであることは明らかでありましょう。掲載した文献の中には、1の『儀礼註疏』のように蔵書印から本学の第6代・第7代学長をつとめた中島徳蔵(1864~1940)の旧蔵に係ることが判明するものもあり、これら歴代の本学関係者の書籍収集の成果を、今回のプロジェクトで示すことができたのは、何よりも感慨深く思うところであります。こうした先学の努力の上に形成されてきた本学の貴重な蔵書コレクションの一端を、まず本冊子の刊行を通じて広く知ってもらえれば、まことに嬉しく思います。

今回の冊子発行にあたっては、アジア文化研究所院生研究員の小林栄輝氏にほぼ全ての作業を担当してもらいました。同氏には、学業の傍ら本プロジェクトに参加し、精力的に取り組んでくれたことに、改めて感謝します。また同院生研究員の保科俊氏には漢籍の撮影を、高野敦子氏には冊子デザイン、データベース構築について、それぞれ尽力いただきました。このほか本研究所事務担当の福満ゆき氏にも、本プロジェクトの推進にあたって行き届いた協力をしていただきました。この場を借りて、御礼申し上げます。

東洋大学 文学部 教授/アジア文化研究所 研究員
千葉 正史