株式会社新武

プレス加工の横断的ノウハウをもつ強み-自動車の次に目指すものは? 株式会社新武



株式会社新武 代表取締役 齋藤智則氏 

執筆・中庭光彦(多摩大学経営情報学部)

左から、中庭、齋藤社長、新西

新武の強み

 

 燕というと、機械や金属加工企業の集積地と思う方が多い。その中でも、プレス金型加工で高い技術力をもつのが、株式会社新武だ。

 新武の主力は自動車部品である。

というよりも、「であった」という方が正しい。


自動車業界が電気自動車(EV)や製造工程の猛烈な自動化にシフトする中、これまで自動車製造を支えてきた協力企業の分業構造も大きく変わろうとしている。

 そんな時にお話をうかがったのが、創業51年の新武を8年前に父親から承継した齋藤智則社長だ。

 まずは、新武の本業の金型加工の強みについて、私のような素人にもわかりやすく教えていただいた。

 

「うちの本筋はプレス金型です。プレス金型は金属を成形するツールとなる。いろいろな所で話を聞いて私も分かったことですが、うちの歴史は、ヤスリ職人の親父が51年前にスプーンの洋食器の金型メーカーとして創業したのが始まりです。以降、洋食器の金型が、雑貨、電気関係、建築関係、そして車の金型に移り変わってきた。その過程で、それぞれの製品に求められる金型加工の特性は異なるんですよ。


 例えば、電気であれば、細かい寸法と精度が必要なので、金型のつくりも違いますし、扱う材質も薄物が多い。さらに、端子であれば銅など、非鉄材質のノウハウも必要になってくる。

 これが建築になると、板の厚みが増えます。厚いものを扱わねばならない。

 車になると、今度は「形状」が必要になってくる。材質も高張力鋼板(ハイテン材と呼ばれる)といった新しい材料を加工しなくてはならない。

 

 それぞれの要求で積み重ねてきたノウハウが、気づいたら、強みになっていた。

 プレス金型を行うような『型屋』というのは、だいたい専門的なんですね。車のシート関係を専門とした型屋や、ドアの関係を専門とした型屋、電気だけやっている型屋。それが、うちはそれを横断できます。

 

 例えば、経験したことのある板厚で言うと、薄いもので百分の五ミリ、厚いものだと十二ミリまでですが、板厚によってノウハウが違います。材質もいろいろで。

 部品精度も、違いますし、要求精度とか安定性など、求められるポイントも異なる。弱電と呼ばれる端子のようなものも、一個一個は単純かもしれないが、求められる精度、量産した時の安定性はものすごく求められる。

 

 車であれば、成型した板の厚みがあまり変化しないようにしてくれと、求められるポイントが違ってくる。当然、調整のノウハウも違うし、作り方も変わってくる。

 いま実は、コンサル的なこともやっていて、『こういうことできますか?』という問合せもきています。ものづくりのコンサルタントのようなことまでできるのが、うちが重宝がられています。そこが強みですね。」

 と、一気にご説明いただいた。たいへんにクリアな説明で、よくわかると同時に、金型加工と一口に括れない奥深さの一端に触れた気がした。

 

自動車製造の大変革の仲で

 

 新武は、トヨタ系列の1.5次下請け(ティア1~2の間)を担っているが、その自動車製造工程そのものが大きく変わろうとしている。

 

 齋藤社長がかなり危機感を覚えた事件がこの取材の3ヶ月前にあった。

 トヨタ自動車が、バッテリー式電気自動車(BEV)の製造を、「ギガキャスト」と名付けた大幅な省力化技術で製造すると、ニュースリリースで発表したのだ。そこには「車体を3分割の新モジュール構造とし、大幅な部品統合を実現することで、車両開発費、そして、工場投資の削減にも貢献し、さらに自走生産の技術で、工程と工場投資を半減します。」と書かれている(2023年06月13日トヨタ・ニュースリリース「トヨタ、クルマの未来を変える新技術を公開」)。

 

 齋藤社長は言う。「あれは結構ショックでしたね。車の後ろの足回りのユニットが、今はこう作っているが、ギガキャストだとこう作れる、という2枚の並んだ写真があった。今まで通りの作り方だと80以上の部品を30以上の工程でユニットをつくっていた。だけど、それがギガキャストだと1工程で1パーツできる。」

 

 しかし、齋藤社長にとっては、予想の範囲だったようだ。こうなることを予想して、既にコロナ禍前から準備を進めていたという。今はその頃から開拓していた新規の売上げが増えているため、全体の売上げの変動はほとんど無いという。

 それに、昔と違って、今はネットがあるため、きちんと考えれば、やりやすいと言う。

 

「金型ではなく、部品加工のソリューションサイトを立ち上げたんです。どのようになるかは半信半疑でした。でも、ネットを介して結構相談が来る。うちの規模ですら、月に20件位。どういった分野で困っているのか蓄積されるし、中には、本気を出して乗り出せば、伸びていく可能性のある分野もわかる。北海道から沖縄、そして、世界でもいいわけじゃないですか。いまお話ししたのは、営業DXだと思っています。」

 

 いまできることを、できる範囲で、まず当たりをつけてみる。このイノベーティブな行動を、斉藤社長は行っていた。

 

生産工程の改善も

 

 続けて、このDXの一貫で、齋藤社長は生産管理の改善も考えていた。

「いま完全アナログですが、人の動作(タクト)をリアルタイムに蓄積していって、改善していきたいと思っています。車に革命的なことが起こり、部品点数が減り、全体的に金型の需要は減るかもしれない。しかし、世界的に見たら増えるかもしれない。その中で、どう仕事をとればよいか?

 

 自分としては、価格が高いと言われ、それに対する説明ができないことが怖い。それに、値引きして仕事を取って、収益が上がらない仕事をするのは、もうやめようと思っています。ならば、お客さんからは100万円で作れと要求されるけど、うちで試算すると200万円になる。その裏付けを出せるシステムが整った会社でないと、良い仕事を取れる会社になれない。

 

 機械の動きだけではなく、作業者の動作をカメラで吸い上げ、動作分析して、本当に効率的なのか、判断できるシステムが現時点での理想です。」

 動作分析による価値のデザインシステムというべきものだが、このような発想の金型屋はまだ少数派だし、それを取り組めないと生き残れないだろうとも齋藤社長は言う。

 

ものづくり技術者が商品開発に気が向く時

 

 今後の新武の一つのシナリオとしては、やはりエンドユーザーにも幅を広げていくことも重要だとも齋藤社長はおっしゃる。

「下の写真は、新潟県産業創造機構のすすめで、うちだけで作ったものです。うちのマシニングで径の違う穴を開けて作った、北斎の『富嶽三十六景神奈川沖浪裏The Great Wave』です。」

 「これを作る段階で、社員からいろいろなことを聞いてみました。すると、社員は、聞くと答えるわけです。『こういうのを作ってみたい』と。いつもは黙々と仕事しているので、社員の思いを吸い上げる意味で、商品開発は大事だと感じました。

 だんだん形になってくると、『これ、凄いねー』と話が始まり、3日間かかりましたね。大変でしたね。ものづくりなので、ものが出てきてからみんな語り出す。おもしろいじゃないですか。」

 

 新武が立ち向かう環境変化は一社だけのものではない。自動車のEVシフトに既に多くの中小企業が影響を受けているはずだ。その中で、新武・齋藤社長は、早い段階から、できることを着実に始め、手を打たれているし、今後の改善点も着実に考えられている。


 ご自身が話されていたのは、燕市では商工会議所の青年部で、先輩が危機感にかられて動いていたのを見ていたのが大きな糧となっているということだ。また、燕は製造インフラ企業が整い、分業が進みすぎていないため、産業集積が役に立つとも言う。


 こうした燕の協力企業の中で、金型プレスの横断的ノウハウを蓄積した新武の強みは、顧客が他の業界、あるいは世界に広がった時に、どう進化するのか?2年後の進化も見てみたい。

(取材日:2023年9月8日)

 

株式会社新武 https://shinbu.jp/