研究内容

研究概要

細胞は生命の基本単位で、ヒトを含む全ての生物の高次機能は、細胞の働きがその基礎にあります。細胞の運動は、動物の発生や免疫反応などの生物の基本的な高次機能にかかわるとともに、がん細胞の浸潤・転移などの病気にも深く関与しています。ここでは、細胞生物学や分子生物学の手法を用いて研究を行っています。

研究内容

○細胞運動を制御するシグナル伝達の研究

細胞増殖因子や走化性因子などの液性因子やファイブロネクチンなどの細胞接着因子が細胞表面の受容体に結合すると、細胞内のシグナル伝達系が活性化され、細胞運動が開始します。細胞運動を制御している細胞内情報伝達系として主要な働きをしているのは、低分子量GTP結合タンパク質(small GTPase)を介したシグナル伝達系です。

SmallGTPaseは細胞運動、増殖、膜輸送など様々な細胞機能を調節していますが、細胞運動を制御しているのは主にRhoファミリーのsmallGTPase (Rho GTPase)です。 我々は,Rho GTPaseがいかに細胞運動や細胞接着を制御しているか研究しています。

○3次元環境下での細胞運動の制御機構

ヒトを含めた動物細胞が、3次元マトリックス内を移動するメカニズムを研究しています。

細胞運動の研究は今までシャーレで培養した細胞を用いて研究されて来ました。しかし、我々の体の中で細胞は、結合組織など3次元環境の中を動いており、3次元での細胞運動制御機構は、2次元とは大きく異なることがわかってきました。我々は、細胞外マトリックス内を移動する細胞の運動を詳細に観察し、分子レベルでそのメカニズムを研究しています。運動する細胞としては,がん細胞や白血球などを用いています。

○上皮細胞の細胞間接着と組織構築のメカニズムの研究

上皮細胞は細胞同士が接着してシート構造を形成しています。この接着は、発生過程における組織構築の際にダイナミックに変化します。また、がん細胞が悪性化するとシートから離脱して結合組織内に浸潤する、いわゆる上皮・間葉転換がおこります。上皮細胞間の接着もsmallGTPaseとアクチン細胞骨格が中心的な役割を担っています。そこで上皮細胞の培養系を用いて、シート構造の維持や上皮・間葉転換の分子機構を解析しています。

上皮細胞は細胞が接着しながら集団で移動する「集団遊走」という現象が知られています。集団遊走では、リーダー細胞がフォロワー細胞の集団を誘導しながら集団で移動します。この「集団遊走」のメカニズムを解析しています。

また、上皮細胞をコラーゲンなどの細胞外マトリックス中で培養すると増殖した細胞が塊を作り、それが中空の管に成長します。この現象は,上皮細胞から組織ができる時のメカニズムを反映していると考えられ、この中空の管が形成されるメカニズムを解析しています。

○がん細胞の悪性化(浸潤・転移)のメカニズムの研究

がん疾患の80%以上が上皮細胞由来です。このがん細胞の悪性化はいくつかのステップに分けることができます。まず、がん化した上皮細胞は細胞間接着が失われ、次に浸潤仮足を形成し、基底膜への侵入、破壊を行います。基底膜を破壊したがん細胞は、結合組織内を移動し,血管あるいはリンパ管に侵入し、体中に分散し別組織で増殖します。我々は、がん細胞の浸潤仮足の形成機構や結合組織内でのがん細胞の運動制御機構を解析することで、がん細胞の悪性化のメカニズムを研究しています。

○腎糸球体ポドサイトの細胞機能の研究

腎糸球体は血漿濾過を行う重要な器官です。濾過障壁を構成している構造の一つに上皮由来のポドサイト(足細胞)が知られています。ポドサイトは糸球体の外側の血管壁を取り巻くようにして存在しており、細胞体・一次突起・足突起から構成されています。一次突起・足突起ではアクチンなどの細胞骨格系が発達していて、足突起と足突起の間にはスリット膜と呼ばれる構造が存在し、この部分を通過して血漿が原尿になります。 ポドサイトのスリット膜の構成成分や、足突起を構成する細胞骨格系成分の異常によって遺伝的腎疾患が引き起こされることが明らかになり、ポドサイトは血漿濾過において大きな役割を果たしていると考えられている。私たちは、ポドサイトの形態や機能を制御しているメカニズムと腎疾患との関係を、培養ポドサイトを用いて研究しています。