【第23回会合】 2015年6月19日(金),午後6時半開始
今回は、三輪芳朗大阪学院大学教授(東京大学名誉教授)が「インフレと『財政再建』:簡単な試算例を用いた検討」と題して報告し、討議した。今回も「金融システム研究フォーラム」との共催である。
「『財政破綻後の日本経済の姿』に関する研究会」の発足からほぼ3年が経過した。発足当時から三輪を含めた少なからぬメンバーが「『財政再建』にはすでに手遅れである。『財政破綻』後の日本経済の姿・必要な対応策などについて早急に検討を進める必要がある」と考えていた。現時点での国債投資家の行動を象徴とする日本の経済・社会の平穏な状況は、「想定外の事態」である。3年前の状況に比して日本の財政状況が「改善」したと判断すべき理由があるようには見えない。とはいえ、参加者(および、研究会の活動に関心を抱く潜在的参加者・観客)の関心は低下・離散傾向にある。
日本のケースでは『財政破綻』の具体的実現形態の中心は「インフレを通じる『調整』」であり、これが「財政再建」策の極めて有力な一環を構成するだろう。これを「財政再建」策の一環として明示的に位置づけ、「インフレを通じる『調整』が必要か?」「必要だとすればどの程度の規模のものか?」「いつごろ現実化するか?」「これらの点を決定する要因とメカニズムはどのようなものか?」などの設問を念頭に置いて、インフレを通じる「調整」に焦点を合わせた検討のframework (model)を構築し、各決定要因に数値例を与えて試算例を求めること、さらに試算例を含む検討結果の読み方としてのscenariosを示すことが報告の内容である。
ほとんど試みられたことのないissuesの検討であり、具体的な試算例を求める見方によっては「物騒な」内容であった。frameworkの構築に焦点を合わせた報告内容に沿って冷静かつ建設的に議論は展開した。
以下の諸点に鑑みて、今回の報告内容は、意欲的かつ壮大な試みの第一歩である。まずは問題提起を目的とするものであり、完成段階にはほど遠い。(1)作業の基盤となるFTPL (fiscal theory of the price level)が学界の標準となりつつあるにもかかわらず、日本では学界においてすらほとんど話題にもなっていない。(2)このため「財政再建」論議等において(さらに金融政策論議においても)ほとんど参照もされていない。(3)これまでの「財政再建」論議のほとんどが、「『財政破綻』回避のために必要な条件は何か」をいう観点に焦点を合わせてきた。結果として、物価水準やインフレ、さらに「インフレを通じる『調整』」を棚上げし検討の視野の外に置き去りにしてきた。(5)「財政破綻」が現実化せず、国債価格が高水準に維持され投資家の行動も平穏裡に安定している。このような観察事実は、合理的投資家の選択行動として理解・説明しにくい。(6)「インフレを通じる『調整』」を一環とする「財政再建(策)」は多様な要因に依存する複雑な現象である。
「財政破綻を回避するためには・・・の実現が必要である」とする類の目標(「方針」、あるいは「見果てぬ夢」?)の提示にとどまることなく、具体的内容を伴った「財政再建」論議の論拠を明示した展開が望まれる。本研究がそのための素材・触媒となることが報告者の希望である。実質的にかなり複雑で難解な報告内容・説明と議論に忍耐強くお付き合いいただいた参加者に深謝します。当日の報告用メモの改訂版は以下からダウンロードできます。
三輪芳朗「インフレと『財政再建』:簡単な試算例を用いた検討」 (リンク先の表示は一部文字化けしますが,当該ファイルは以下の「第23回会合資料.pptx」の左側にある⇓からダウンロードできます)
(文責:三輪芳朗)