1. コグニティブ無線システムに向ける無線環境学習・分析・予測技術の研究
ISM帯においては、従前からの無線LANの利用の拡大に加えて、スマートフォンの普及等を背景として国内の携帯電話事業者が1年でそれぞれ 10 万局以上の無線LANアクセスポイントを設置するなど、モバイルトラヒックのオフロードが進展しており、トラヒックが急激に増大し周波数のひっ迫が進んでいる。また、近年、スマートメータやセンサーネットワーク等、IoT/M2Mの利活用が積極的に進められていることから、これらの周波数の更なるひっ迫が懸念されている。また、本格的なIoT時代が到来し、製造、農業、流通、インフラなど様々な分野でIoTが利用されている。例えば、製造業の工場においては、製品の品質維持・管理等のため、ロボット、機械、工具などにセンサー等の IoT 機器を取り付け、機器や機械の稼働状況の把握や制御、作業の品質管理等が行われ始めており、一つの狭空間における無線システムの数は千以上に達している。一方で、工場内の狭い空間ではIoT機器間の電波の輻輳、産業機械が動作することによる雑音、電波遮蔽、運搬装置・無線システムの移動に伴う電波環境の変化等により、安定した通信を維持できなくなるなど、IoTの導入に向けた課題となっている。このような状況で、効率的かつ安定的な無線通信を可能とするためには、狭空間における適切な場所から無線環境情報を収集し、またその情報を活用して狭空間の無線環境を推定して任意の場所・時刻における無線環境を分析・予測することで、最適な制御を自動で行う、もしくは、現場ユーザが制御前後でどのような変化が起こるかを理解して切り替えを行う必要がある。更に複数の周波数を同時に利用出来るようにするため、独立した無線システムに対して最適な周波数割当等を周波数管理技術により動的に行えるよう狭空間の周波数特性や電波伝搬特性を推定する必要があることから、無線環境の分析・予測技術のため無線環境のモデル構築を行う技術および電波伝搬特性の分析・予測のために狭空間から取得した複数の無線環境情報を学習し、より具体的な推定を行うためその学習結果を分析・予測手法にフィードバックする無線環境学習技術が必要である。これらの課題に向ける研究を行う。
2. MIMOとMassive MIMOに関する信号処理技術の研究。
近年、急激に増加している無線アクセスの通信量に対応するため、LTE (Long Term Evolution)をさらに発展させた真の4GともいえるLTE-Advancedの世界的な展開が始まりつつある。また、2020年以降における将来の移動通信に要求される飛躍的に高いシステム性能を実現するため、5Gシステム検討の機運が、昨今非常に高まっている。複数のアンテナ素子(MIMO)或いは大規模アンテナ素子(Massive MIMO)を用いるMIMO技術は周波数を有効利用するための4G、5Gでのキー技術として非常に注目されている。しかし、MIMO技術には高精度なビームフォーミングの実現法、鋭い指向性ビームを用いて通信する際のモビリティや接続性確保といった技術課題がある。また、MIMOシステムでの演算量削減、伝搬路情報フィードバック、干渉削減による受信信号特性改善といった研究課題も残っており、これらの課題解決のための研究を行う。加えて、漏洩同軸ケーブルやESPAR可変指向性アンテナなどの電波技術とMIMO技術を融合して、最先端かつ高度な最適化信号処理技術の研究にも取り組む。
3. M2M型無線アドホック型センサネットワーク構築技術の研究。
IoT、M2Mの環境整備に伴って、センサなどのデバイスが多様な状態や状況を自動的に感知し、自律的に人間に動きかけるようなアンビエント情報化社会に予想される。さらに、センサなどのデバイスの情報処理能力は急速に進歩し、小型化が進み、価格の下落も著しくになっている。そこで、アドホック型センサネットワークの応用分野は急速に拡大になる。ZigBeeやBluetoothや無線LANなどによる「M2M/センサネットワーク」を自律的に構築するシステム技術に基づき、防犯・防災,環境保全,健康・医療,家電機器の保守,農場での栽培制御,遠隔検針など公共的な利用から家庭・個人レベルの至る極めて広い範囲にわたり,その新たな産業振興,経済への効果も大きいことが予想され,今後の更なる技術開発が期待される。しかし、無線アドホック型ネットワークにおいて、センサ情報の内容に基づき送信タイミングを制御して輻輳を回避する技術、多種多様なアプリケーションの要求体験品質を確保するための発呼制御技術とネットワーク自動構成技術を確立すると共に、異種無線システムを組み合わせて干渉削減などセンサネットワークの構成技術が課題となる。そこで、この課題解決に向けて、制御情報を取得するスマートセンシング技術により、各種無線システムにおける信号の統計的性質に関する知見に基づいて、各システム間の干渉を推定し、チャネル配置を適応的に制御することで周波数資源を有効的に活用する技術とセンサネットワークトポロジー制御、ルーティング技術などの研究に取り組む。
4. スーパーハイビジョン放送の実現にOFDMとMIMO技術に基づく信号処理技術の研究。
地上デジタルSuper Hi-Vision(スーパーハイビジョン:SHV)放送では超高精細画像、高音質の放送、データ放送、双方向番組などの新たな放送サービスの実現を目指している。SHVは放送以外にも、医療や教育などさまざまな分野への応用が考えられている。大容量伝送速度が必要であるSHV放送システムが運行する際、複数ストリームからの伝送同期誤差や位相雑音などに起因する時空間信号の受信信号オフセットが常に発生し、距離により各ストリームの違った伝搬路損失、水平・垂直偏波の伝搬路の違いに起因する受信電力差と伝搬路推定誤差などがあるため、受信所においてストリーム間の干渉を起こる。この研究では、受信機における適応的なチャネル推定、等化法と適応的な変調多値数と信号点配置図の検討を通じて、時空間信号の受信オフセットとストリーム間の干渉による性能劣化を改善する方法を研究し、周波数利用効率の向上と放送サービスの高度化に寄与することを目的とする。