産総研に来てから13年が経過しました。また、2024年1月で産総研の研究グループ長になってから3年9ヶ月が経過しました。現在は30名を超えるグループで研究を推進しています。
産総研に入る前に実施していた土壌汚染のリスク評価から、原子力災害対応、休廃止鉱山、コロナ対策、Sustainable Remediation、社会受容性評価等と研究範囲は広がり、声出し応援の再開等の社会課題の解決や政策貢献も一定程度できてきました。
また、産総研が標榜している領域を超えた融合研究もコロナラボを始め、多くさせて頂きました。 11月からは、北大工学部の客員教授に就任し、環境リスク評価学研究室を立ち上げました。
これも、グループの皆様、共同研究者や政府・自治体等の関係者の皆様のおかげです。ありがとうございます。
2024年は、なんか、ぜんぜん違うことをしようと思います。昨年、ある方に、コロナラボのコメントを頂いた際に、「実は、もっとちがうことやりたいんじゃない?楽しい?」と言われました。なるほど、と思いました。46歳になりましたし、通常の研究はもちろんしますが、研究分野の拡大や研究方法の拡大だけでなく、これまでとは全く違った新たなチャレンジを開始できればと考えております。
引き続きのご指導、よろしくお願いいたします。
以下、2023年の振返りです。
1.グループの名称変更:地圏環境評価研究グループへ
2023年4月1日から、グループの名称を地圏化学研究グループから地圏環境評価研究グループに変更しました。当グループの研究対象が地球化学だけでなく、幅広い内容を取り扱うようになったためです。引き続き、よろしくお願いいたします。
今年の地圏環境評価研究グループも9名の研究者、2名のPD、10名のRA、14名のテクニカルスタッフの35名の大所帯です。さらに、客員研究員として弁護士の粟谷先生、京都大学の加藤先生、大阪大学の村上先生、横国大の松田先生、三菱総研の白井さんに来ていただいております。
地圏環境評価研究グループのHP
2.北大の客員教授に就任し、環境リスク評価学研究室を立ち上げ
2023年11月1日から、北海道大学大学院 工学院 環境循環システム専攻 環境リスク評価学分野(環境リスク評価学研究室)の客員教授に就任しました。学生も所属することになります。産総研と大学の2足わらじとなります。佐藤努先生には大変お世話になることになります。北大の環境循環システム専攻の皆様、引き続きのご支援、よろしくお願いいたします。
北海道大学大学院 工学院 環境循環システム専攻HP
3.原子力災害における社会受容性の研究の進展
代表を務めさせて頂いている環境総合推進費SⅡ-9-3「持続可能な環境管理に向けた社会受容性評価と多面的評価法の開発」の研究が順調に進んでおります。大阪大学 村上先生、北海道大学 大沼先生、柴田さん、産業技術総合研究所 高田さん、白井さんを中心に進めている研究です。オンラインアンケート、郵送法アンケート、インタビュー、ワークショップ等により様々な方法で、除去土壌の県外最終処分の社会受容性や要因、賛否の理由等の研究を進めています。
今年も白井さんの論文がJournal of Environmental Management に掲載され、除染学会やリスク学会他で多くの発表をさせて頂きました。またNHKを始めとしたメディアで複数回報道を頂きました。関係者の皆様、ありがとうございます。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0301479723013981
4.大字誌「細谷」の公開
原子力災害におけるステークホルダーエンゲージメントに関する研究も環境総合推進費SⅡ-9-3「持続可能な環境管理に向けた社会受容性評価と多面的評価法の開発」の一環として進めております。福島県内の除去土壌等を保管する中間貯蔵施設が立地する福島県双葉町細谷地区の住民の皆さまと連携して、地域の記憶を残すための大字誌を作成し、地域の皆さま、双葉町 伊澤町長、双葉町役場を始めとして関係各所に贈呈しました。大橋元区長、田中区長に喜んで頂けて、大変嬉しいです。
5.JIS A1231「上向流カラム通水試験」の公開
標準化に関する話題の1つ目は、地盤工学会および産業技術総合研究所が原案作成団体となったJIS A1231「地盤材料の溶出特性を求めるための上向流カラム通水試験方法
」が3月に公開されました。また、3月の公開直後に小さな間違いが見つかり、5月に訂正をさせて頂きました。本JISは、僕がプロジェクトリーダーを努めたISO 21268-3の翻訳JISです。2016年のISO化のスタートから7年がかかりました。関係者の皆様、本当にありがとうございました。
https://webdesk.jsa.or.jp/preview/pre_jis_a_01231_000_000_2023_j_ed10_ch.pdf
https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JIS+A+1231%3A2023
6.吸着層工法における吸着性能評価の試験方法のJISの審議開始
標準化に関する話題の2つ目は、吸着層工法に使用する材料等の試験方法の標準化です。2022年12月に産業技術総合研究所が主催した「吸着層工法に使用する材料等の試験方法の標準化検討委員会」の報告書を公開しました。そして、本年、吸着層工法における吸着性能評価の試験方法 - 第1部:バッチ試験、第2部:カラム吸着試験について、JIS規格の作成を産業技術総合研究所が原案作成団体として開始しました。こちらも多くの皆様にご協力を頂いております。もう少しですので、引き続きのご支援、よろしくお願いいたします。
吸着層工法に使用する材料等の試験方法の標準化検討委員会」の報告書https://unit.aist.go.jp/georesenv/geoevaluation/adsorption-layer/index.html
7.大規模イベントの規制の完全撤廃
新型コロナウイルス感染リスク計測評価研究ラボの活動も終盤に向かっております。今年もBリーグオールスター調査、Jリーグの調査を継続してきましたが、5月7日の政府の基本的対処方針の終了に伴い、緊急対応が必要な事項は激減しました。
声出し応援の再開等、リスクに応じた規制緩和のためのエビデンスを蓄積するというスタンスで進めて参りました。今後は次のパンデミックの備えとして、しっかりと頑張ってまいります。そして関係するJリーグ、Bリーグ、野球界の関係者の皆様、政府関係者の皆様、大変お世話になりました。ありがとうございます。
8.文部科学大臣賞の受賞
文部科学省では、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者を「科学技術分野の文部科学大臣表彰」として顕彰しています。保高徹生グループ長も含めた「MAss gathering Risk COntrol and Communication(MARCO)」(代表:東京大学医科学研究所 附属ヒトゲノム解析センター 井元 清哉教授)が、「COVID-19 禍における大規模集会の開催に関する貢献」において、令和5年度文部科学大臣表彰(科学技術賞 科学技術振興部門)を受賞しました。MARCOは、コロナ禍での大規模イベントの感染リスクの低減や、開催のあり方を科学的に検討することを目的に、多様な専門分野の研究者が集まり2020年4月から活動している有志研究チームです。
解決志向リスク学によって各種対策の効果を定量的に評価し、科学と技術に裏打ちされた大規模集会のデザインを社会に実装。特に、東京2020オリンピック・パラリンピックや日本野球機構、日本プロサッカーリーグなどのプロスポーツでの感染リスク対策評価、対策順守率の調査と観客へのフィードバック、選手・スタッフらへの効果的な検査体制の構築、マスク効果の見える化と情報発信やマスク開発を進めた点などが評価されました。
MARCOの代表5人の受賞ということですが、メンバー全員の受賞だと考えております。関係する皆様のご協力、ありがとうございました。
受賞メンバー
井元 清哉 東京大学医科学研究所 附属ヒトゲノム解析センター 健康医療インテリジェンス分野 教授
村上 道夫 大阪大学感染症総合教育研究拠点 特任教授(常勤)
保髙 徹生 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 研究グループ長
奥田 知明 慶應義塾大学 理工学部 教授
藤井 健吉 花王(株)研究開発部門 研究主幹
9.休廃止鉱山の第6次基本計画の開始
2023年度から、休廃止鉱山の10年に1回改定される基本方針である、第6次「特定施設に係る鉱害防止事業の実施に関する基本方針(経済産業省)」が開始されました。この内容審議する中央鉱山保安協議会の委員として、また、その前の方針を議論する委員会の事務局として、活動をさせて頂きました。新たな考え方である利水点管理や鉱山の類型化等、遠隔モニタリング等、我々が進めてきた研究内容が盛り込まれた内容になっております。特に利水点管理は新たなリスク評価・管理の概念です。利水点管理ガイダンスを産業技術総合研究所が作成したこともあり、社会実装に向けて研究と実務を進めてまいります。よろしくお願いいたします。
第6次「特定施設に係る鉱害防止事業の実施に関する基本方針(経済産業省)」https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/mine/seisaku/pdf/20230417_01-3.pdf
10.リニア中央新幹線静岡工区 有識者会議の報告書提出
2022年6月8日から始まったリニア中央新幹線静岡工区 有識者会議(環境保全)が14会の審議を経て、2023年11月7日に終了しました。保高も若輩者ですが、委員を務めさせて頂きました。社会的にも注目度が高い案件でしたが、ステークホルダーの参画、双方向コミュニケーション、重金属土壌の管理、不飽和帯の水分移動等に関連して、意見をさせて頂きました。本委員会の報告書、JRの報告書も12月7日に公表されております。ご興味がある方は、ぜひご覧頂ければと思います。
リニア中央新幹線静岡工区 有識者会議について
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk9_000011.html
11.国内・国際活動
コロナによる制限がほぼなくなったので、学会発表だけでなく、国際的なネットワークを再構築することや、IAEAでの環境省―IAEAの専門家会合への参加&説明、ICRPのサイトビジットやSuRF-UKの招聘など、様々な活動をさせて頂きました。今年はできるだけ若手に参加をしてもらいたい、という意図を持って取り組みました。来年度も頑張ります。
2月:日本: 大阪大学CiDER大規模集会に関するシンポジウムで招待講演
3月:フランスーリヨン:アドバイザリーボードを務める会議に参加
5月:フィンランド:アドバイザリーボードを務めるISLANDERの会議に参加
6月:日本:リスク学会シンポジウムで招待講演
7月:フランス―パリ、リヨン:CEPNでの意見交換、Gold Schmit2023への参加・発表
7月:日本環境感染症学会で招待講演
9月:チェコープラハ:Aqua Consoil 2023への参加・発表
9月:松山:資源素材学会 招待講演(西方・加藤先生が発表)
10月:ドイツーベルリン:ISO TC190総会へ参加
10月:オーストリア―ウィーン:IAEA-MOE専門家会合に参加
10月:日本:リスク学会シンポジウムで招待講演
11 月:令和5年度鉱害環境情報交換会で招待講演
11月:東京:SuRF-UK chairのPaul Bardous氏を招聘
11月:ICRP主要委員会のメンバーの福島サイトビジットを環境省と実施
11月:オンライン:米国のREMPLEX conferenceで発表
11月:熊本:日米地盤環境工学WSで招待講演
12月:東京:ワンヘルスネットワークで招待講演
12.その他
上記以外に、PFASの地下水汚染、Sustainable Remediation、窒素循環、地熱、パッシブトリートメン、地球化学モデルの土壌汚染への適用、民間技術コンサルティング、共同研究等、様々な研究を進めています。お世話になった皆様、本当にありがとうございました。