動物行動学研究室では、アリとアリに感染するウイルスの研究をメインテーマとしていますが、これまで様々な動物、例えばイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ラッコ、トド、ミツバチ、テントウムシ、シデムシ、さらには植物の研究など多様な生物の研究を行ってきました。
以下にいくつか研究例を挙げました。研究業績ページにも、研究の簡単な紹介が載っています。動物の不思議な行動の秘密を、一緒に研究しませんか?(ページは随時更新中)
餌交換中のチクシトゲアリの女王アリ
チクシトゲアリ非血縁創設女王アリ間の協力行動
アリの中には、複数の女王アリが協力して巣を作り始める種がいます。巣を作り始めることを”創設”と呼ぶため、複数の女王アリで巣を作ることを”多雌創設”と呼びます。チクシトゲアリも多雌創設を行う種ですが(左写真:チクシトゲアリ女王間の餌交換)、コロニーが成熟すると女王間は敵対的になり、最終的に巣には一匹の女王アリのみになります(Sasaki et al., 2005)。これまでの研究から、多雌創設するチクシトゲアリ女王間には血縁がなく、たまたま出会った非血縁個体が協力していることが示唆されています(Sasaki et al., 1996)。
このようなチクシトゲアリ女王の創設初期(越冬前)と創設後期(越冬後)の行動を比較したところ、創設初期では非巣仲間女王に対して餌乞い行動を多く行われていること、創設後期では創設初期と比較して、巣仲間に対しても非巣仲間に対しても餌乞い行動が多く行われていること、また創設後期の方が創設初期よりも餌交換による個体の重量変化が大きいことが判明しました。これらの結果は、創設女王が巣仲間女王と非巣仲間女王を認識していること、創設の初期と後期で協力レベルを変化させていることを示唆しています(Hashimoto et al., 2013)。
このような協力レベルの変化が、どのような物質によってコントロールされているかを調べるため、創設女王とコロニー女王の脳内アミン量を測定したところ、脳内オクトパミン量に大きな差が見られました。そこで創設女王にオクトパミンを食べさせて行動を観察したところ、餌交換やグルーミングといった協力的な行動が減少しました。観察後に実験個体の脳内アミン量を測定したところ、オクトパミンのみが増加していたため、協力レベルの低下は脳内オクトパミンによってコントロールされていることが判明しました(Koyama et al., 2015)。
このようにチクシトゲアリの創設女王は、非血縁個体間の協力行動の研究をおこなうための、大変優れた実験システムを提供してくれます。
ヤマヨツボシオオアリ細胞中のCYV
アリに感染する二本鎖RNAウイルス
ウイルスは病原体と考えられてきましたが、宿主に良い影響を及ぼす例も知られてきました。本研究室ではアリとウイルスの関係性を解析するため、日本固有種のヤマヨツボシオオアリに感染しているウイルスCYVを単離、発表してきました(Koyama et al., 2015)。まだお知らせできない部分もあるのですが、CYVは宿主の女王アリの卵を介して伝搬されており、宿主に良い影響を及ぼしていると考えられます。また、CYVの進化を解明する中で、新たに2種の新種ウイルスを記載しました(Koyama et al., 2016, Fukasawa et al., 2020)。
データを公表可能な状態になり次第、随時、内容を更新していく予定です。
ペット犬の問題行動に関する基礎研究
ペットのイヌと健全な関係性を築くことは、全ての飼い主の希望でしょう。しかし、かなり多くの飼い主さんがペット犬の行動に悩みを持っています。このような「人間が問題と感じる行動」もしくは「人間社会と協調できない行動」は問題行動と呼ばれており、アメリカでは安楽死の理由の第一位に、日本においては保健所への引き取り理由の15~20%程度が問題行動となっています。そのため問題行動を示すイヌの割合や、問題行動の発現に影響する要因などの基礎的な知見の解明が求められていますが、日本では研究が不足しています。
そこで本研究室では、イヌの問題行動の原因となる不安行動に着目し、大都市(東京・大阪・仙台)のペットショップに来店する飼い主さんを対象にアンケート調査を行いました。その結果、どの都市でも約半数の飼い主さんが、イヌの何らかの行動に困っていることが判明した。また、不安行動は分離不安・見知らぬ人など特定の対象への不安・嵐や花火などの音に対する不安の3種類に分類できる可能性があること、老齢のイヌの方が不安行動を起こしやすいこと、イヌのトレーニングスクールは不安行動の発現予防に効果的であることが判明した(Kurachi et al., 2019)。
現在、本研究室では個別の症状に着目し、より詳細な解析を行っています。
道しるべフェロモンを用いたアルゼンチンアリ防除
アルゼンチンアリは非常に侵略性の高い外来種であり、日本を含め、世界中に侵入・定着し、生態系崩壊の原因となっています。そのため世界中で、アルゼンチンアリの駆除が行われていますが、駆除の成功例は侵入初期に発見された場合に限定されています。 そのため、アルゼンチンアリの簡易同定法の開発が望まれていました。そこでアリが行列を作る際に用いる道しるべフェロモンが種特異的であることに着目し、アルゼンチンアリに道しるべフェロモン活性を有する(Z)-9-hexadecenal という薬剤を、アルゼンチンアリの行列と日本在来のアリの行列に暴露してみました。
その結果、アルゼンチンアリの行列は薬剤暴露によりバラバラになった一方、日本在来アリの行列には影響が見られませんでした(Nishisue et al., 2020)。この結果は(Z)-9-hexadecenalを使用すれば、アリに関する知識が無くてもアルゼンチンアリの同定が可能になることを示しています。また、この薬剤の暴露によりアルゼンチンアリの行列が乱れることを利用して、アルゼンチンアリの採餌を妨げることが可能であり(Nishisue et al., 2010)、 またこの薬剤とベイト剤を併用することで、アルゼンチンアリの個体数を抑制できることが示されています(Tanaka et al., 2009; Sunamura et al., 2011)。
本研究室では、上記の簡易同定法を更に改良すると共に、より効率的なアルゼンチンアリの防除法の開発を行っています。