Research (日本語)

2011年10月

"The Effect of the Price of Gasoline on the Urban Economy: From Route Choice to General Equilibrium” (with Alex Anas)

ガソリン価格の上昇が都市経済に与える影響を、複数の地域と交通を含んだ計算可能な一般均衡モデルを用いて、短期と長期に分けて分析した。消費者は、短期には、よりガソリン消費の少ない移動ルートを選び、移動手段を自動車から公共交通機関に変更し、買い物の頻度を減らし、買い物をより居住地の近辺の地域でおこなうことでガソリンの消費を抑えようとする。長期には、消費者は、居住や就労の地域を、より通勤や買い物に効率の良い地域へと変更する。長期には、市場でも調整が行われ、賃金、地代、物価や建築物が調節される。ガソリン価格が10%上昇した状況をシミューレーション分析した結果、ガソリン消費は、短期から長期にかけて徐々に減少し、短期のガソリンの価格弾力性は-0.043、長期のガソリンの価格弾力性は-0.081であった。消費者と市場の調整を段階別に見ていくと、ガソリン消費の減少のうち、43.2%は交通手段の変更によるもの、14.8%は非労働移動や、より燃料効率の良い車種への変更、居住及び就労地域の変更によるもの、38.3%は価格調整、4%は建築物の調整によるものであった。ガソリン消費は、運転距離とガソリンの燃費効率により説明されるが、長期に減少したガソリン消費のうち、79.3%が運転距離の減少により、20.7%が燃費の良い車種への変更および混雑改善による燃費効率の改善により、説明された。以上の分析に加えて、自動車の燃費効率が技術的に改善した場合をシミュレーションした結果、長期のガソリン価格弾力性は-0.251となり、長期のガソリン価格弾力性の多くの部分が、自動車の技術進歩により説明された。

"The Impact of Congestion Pricing Policies on Fuel Consumption, CO2 Emissions and Urban Sprawl" (with Alex Anas)

渋滞対策(ピグー通行税、ガソリン税、都心部でのコードン通行税および駐車料金)が都市経済、とりわけ、消費者の居住地域と就業地域の選択、また自動車のガソリン消費と二酸化炭素排出に与える影響を分析した。分析には、複数の地域とそれらを結ぶ道路網と公共交通機関を含む、計算可能な一般均衡モデルを用いた。地域間を結ぶ主要道路にピグー通行税を課した場合、都市部の居住者数は増加し、郊外の居住者数は減少した。一方で、都市部の雇用は減少し、郊外の雇用は増加した。主要道路に加え、地域内での移動に使われるその他の道路にもピグー通行税を課した場合、居住者数と雇用は都市部で増加し、郊外では減少した。ピグー通行税と税収が等しくなる水準のガソリン税を課した場合、居住者数と雇用は都市部で増加し、郊外で減少した。居住者が都市部で増加した背景には、通勤にかかる交通税を避けるために就業地域付近への引っ越しや、都市部での公共交通機関へのアクセスでの利便性がある。就業地域を居住地付近に移すことでも、交通税を抑えることができる。次に、都心部でのピグー通行税と税収が等しくなる水準の、都心部でのコードン通行税と駐車料金の効果を比較した。コードン通行税の下では、居住者数と雇用は都市部で減少し、郊外で増加した。一方、駐車料金を課した場合には、影響は小さかったものの、居住者と雇用は都市部で増加し、郊外で減少した。両政策の違いには、コードン通行税では最終目的地が都心部でなく、通過する交通へも課税されるのに対し、駐車料金は最終目的地が都心部である場合にのみ課税される点があげられる。

“Anti-Congestion Policies in Cities with Public Transportation”(with Akin C. Buyukeren)

伝統的な都市経済学の単一中心都市モデルでは、消費者は中心商業地域に、居住地から通勤する。交通料金が増加した場合には、消費者は居住地を中心地域付近に変更することにより対応する。交通に外部不経済(交通渋滞)が存在する場合には、ピグー税を課すことにより外部性を内部化できるが、消費者の反応は同様である。この伝統的なモデルには、いくつかの非現実的な仮定があり、その一つは交通手段が一つしか無いということである。本稿では、外部不経済の存在する移動手段(自動車)に加え、外部不経済の存在しない移動手段(鉄道)を追加することにより、この仮定を緩和した。このモデルでは、自動車交通における外部不経済に対して、ファーストベストの政策であるピグー税を課した場合、従来のモデルとは逆に、消費者の居住地域選択は都市部で減少し、郊外で増加した。また、従来のモデルでは、都市成長境界がセカンドベストの政策として用いられたが、本モデルにおいては都市成長境界は効用を減少させた。本モデルのセカンドベストの政策は、都市成長境界と鉄道に対する補助金の組み合わせである。鉄道に対する補助金のみを用いた政策は、サードベストであり、この場合も消費者の居住地域選択は郊外化した。