最終更新日: 2021年7月26日(講義は終了しました)

講義名: 東南アジア経済論 III

日程: 4月12日から7月26日

時間: 前期月曜日1限(8時45分-10時15分)

場所: 当面、遠隔講義形式で継続します。ZoomミーティングIDはPandAで告知します。

オフィスアワー: 毎週、次の2時間を用意しています。

  • 毎回の授業後10時半から11時半まで。

  • 毎週火曜日2時から3時まで。

  • 毎週水曜日11時-正午まで。

  • これら以外に面談や遠隔面談を希望の方はメイルで随時お知らせください。

概要: 東南アジア経済論IIIと題して、都市の比較制度分析を講義し、最終的に地域研究・経済理論・統計的推測の融合を目指します。具体的には、都市の発展、特に非農業セクターの発展を理解するため、途上国・新興国と呼ばれる国・地域の都市化や経済発展のあり方をミクロレベルから研究するための手法を学びます。具体的には特に労働移動、交通、貿易・輸送、といった、人・モノの移動に注目します。これは経済発展と都市化のメカニズムを把握するための大きな訓練ともなるでしょう。

問題意識と目的: 市場取引を支える制度、規制、あるいは地理的条件が人口分布と産業立地の地理的集中を通じて、一国の経済発展と貧困をどれだけ左右するものかを調べることは、発展途上国・地域の経済と社会に関する理論的・実践的な関心を遙かに超えた重要な問題です。また過去の制度は現在の制度に対して慣性を持つため、過去構築された制度の影響がどこまで持続的かを理解することは現在の市場取引を支える源流を追究し、かつ市場を支える制度の改善の方向性を見出すことにつながるでしょう。こうした問題意識に強く関連しているのが、本講義で用いる『比較歴史制度分析』と次の書籍です。

さらに、都市化や経済活動の地理的集積は一国における経済活動の不均一な分布を意味するので、都市化や経済集積に伴い、経済発展と関係の深い人的資本、産業組織、金融仲介のそれぞれが一国内でどのように分布し、経済発展と貧困を規定しているのかを理解することは広く社会科学の基礎的知識となりつつあります。このため、こうした基本的知識は研究者のみならず、政策担当者としても、また政策、学術、市民の知的関心をつなぐ専門家としても極めて重要となるでしょう。

講義内容と評価:

  • 教科書として、アブナー・グライフ著『比較歴史制度分析』(岡崎哲二/神取道宏 監訳、有本寛/尾川僚/後藤英明/結城武延 訳、NTT出版(品切れ中) 、ちくま学芸文庫の上巻下巻 から出版)を用いて講義を行います。原著は Avner Greif, Institutions and the Path to the Modern Economy: Lessons from Medieval Trade (Political Economy of Institutions and Decisions), Cambridge University Press, 2006です。

  • 2010年3月に日本経済新聞「やさしい経済学」に連載された岡崎哲二「歴史制度をゲーム理論で解析」(前半)と(後半)も極めて有用です。

  • 講師の内容要約に続いて、各章の論点を抽出して議論を行いますので、事前準備の上、講義に臨んでください。最後の2回はワークショップ形式で、本書で学んだ知識・技術をご自身の関心ある研究対象に応用して、リサーチ・デザインを設計し、報告をお願いします。

  • 評価は講義中の議論への参加とワークショップ報告。原稿の最終提出日を7/29(木)の正午とします。採点し、コメントを付けて返却いたします。

講義計画



  • 第4回(5/10)

    • 第2部第4章「国家の触手から所有権を守る:商人ギルド」

    • 参考文献

      • フィリップ・ドランジェ著、高橋理監訳、奥村優子、小澤実、小野寺利行、柏倉知秀、高橋陽子、谷澤毅訳『ハンザーー12-17世紀』(みすず書房、2016年)



  • 第7回(5/31)

    • 講義資料: 第3部〈歴史的過程としての制度のダイナミクス〉第6章「内生的制度変化の理論」

    • 参考文献

      • Piketty, Thomas. 2003. "Income inequality in France, 1901-1998." Journal of Political Economy, 111(5): 1004-1042.

      • 森口千晶「日本は〈格差社会〉になったのか―比較経済史にみた日本の所得格差―」 『経済研究』 68巻2号169-189頁 2017年.

      • 森口千晶「日本型人事管理モデルと高度経済成長」『日本労働経済雑誌』634号52-63頁 2013年.

      • 森口千晶「資料: 第6回 選択する未来2.0」内閣府 2020年.



  • 第10回(6/21)

    • 講義資料: 第3部 第8章「国家の建設:ジェノヴァの興亡」(続き)


  • 第11回(6/28)

    • 第3部 第9章「制度の軌跡とその起源:文化に根ざした予想と社会組織」

    • Kaivan Munshi のコミュニティおよびネットワークについての研究紹介



  • 第13回(7/12)

    • 第4部 第11章「理論: 歴史対話型の文脈に依存した分析」

    • 第5部〈結論〉第12章「制度、歴史、発展」

    • 参考文献


  • 第14回(7/19)ワークショップ(参加者による研究発表・試作と議論)

  • 第15回(7/26)ワークショップ(参加者による研究発表・試作と議論)

その他: 東・東南アジアを中心としつつアフリカ大陸、ラテンアメリカも含めて新興国経済、経済史についての研究成果も多数紹介することによって、都市・地域・国際経済に関する最新の研究成果とリサーチデザインを自力で理解するための基礎知識を伝えます。具体的な関連文献の選択については聴講者の関心を考慮して決めます。ただし、2020年度前期に開講した「東南アジア経済論II」とも補完的な講義を目指していますが、本講義を受講するにあたり、当時の講義を受講している必要はありません。

謝辞: 本講義は講師がアジア経済研究所 開発スクール IDEAS(IDE Advanced School、イデアス)で2010年以降講じてきた「経済開発論」を大幅に改訂したものです。IDEASでの講義に対して忌憚のない意見を寄せてくださり、講師を育てた多数のIDEAS研修生に心より感謝します。また2008年の夏に筑波大学で行った集中講義「国際開発論」の参加者の意見も貴重で大変有益でした。また、2020年度前期開講「東南アジア経済論II」の参加者の意見から多くを学びました。記して感謝します。