論文に関するコメント

複数の参照ベクトルを持つ genus g Jacobi 多項式と不変式論,一般化 t-デザインとの関係

複数の参照ベクトルを持つ genus g Jacobi 多項式

複数の参照ベクトルを持つ genus g Jacobi 多項式と不変式論

「符号から得られる組合せ t-デザインの t 値は 5 以下」と予想され,代数的符号理論の重要未解決問題です.この論文は,ternary 符号を仮定し,さらに k-weight 符号 (k = 2,3) という条件下でこの予想を証明しました.こちらの論文の続編です.系として完全符号の新たな特徴づけ(予想)を与えています.t-デザインの t 値が大きいと,すなわち対称性が高いと完全符号の条件の類似が現れるというものです.これらの結果や予想の格子や頂点作用素代数類似は存在するでしょうか.なお論文で使用したデータはこちらです.(01/06/2023) 

First-order Reed--Muller code と extended Hamming code の 4 次の Jacobi polynomial と harmonic weight enumerator を決定し,その系としてこれらの符号から 4-design が得られないことを示しました.符号の無限系列に対して,Jacobi polynomial と harmonic weight enumerator を決定した世界初の結果と思います.宗政昭弘先生(東北大学)との共同研究です.関係した研究を宗政昭弘先生,中空大幸先生,粟田円佳さん (B3) と進めており,もうすぐ公開いたします.また不変式環との関係した同様の話題を,複数の学生さんと進めておりこちらも近く公開いたします.(03/29/2023) 

体上の線形符号と線形マトロイドは同値な概念ですが、フロベニウス環上の線形符号と対応する概念は [Britz--Johnsen--Mayhew--Shiromoto (2012)] で半マトロイドとして定義されました.本論文では半マトロイドの調和 Tutte 多項式を導入して,フロベニウス環上の符号の m-tuple 重さ多項式との関係を与えました.[Britz--Shiromoto--Westerbäck (2015)] の Theorem 4 を含む一般化になっています.([Britz--Shiromoto--Westerbäck (2015)] の Theorem 4 の主張と証明は間違いを含んでいます.)Thomas Britz さん,Himadri Chakraborty さん,研究室 4 年生の石川麗菜さんとの共同研究です.4 年生の石川さんは Jacobi--Tutte 多項式という新しい多項式を定義して,古典的な Greene 定理の新しい一般化を発見しています.こちらも近く公開いたします. 

「符号から得られる組合せ t-デザインの t 値は 5 以下」と予想され,代数的符号理論の重要未解決問題です.例えば t =5 の例の一つは,Mathieu 群を自己同型群として持つ Golay 符号で,t 重可移群の視点からも興味を持たれております.この論文は,k-weight 符号 (k = 5,6) という条件下でこの予想を証明しました.証明には楕円曲線,あるいは高次の曲線の整数解を全て求める必要があり,その結果次の予想 [Conjecture 5.2] を得ました.

Conjecture 5.2 Assmus--Mattson の定理を用いて k-weight 符号から t > kt-デザインが得られたと仮定する.そのとき符号語の総数は完全符号のように二項係数の和

\binom{n-1}{0}+...+\binom{n-1}{k-1}

で表され,その整数解に対応する符号が存在しない,したがって t k である.

t > k くらい t の値が大きいと,すなわち対称性が高いと完全符号の条件の類似が現れるのは大変興味深い現象です.これらの結果や予想の格子や頂点作用素代数類似も存在すると期待しています.

Assmus–Mattson の定理は,符号のパラメーターから組合せ論デザインの存在を保証する,代数的符号理論の最も重要な定理の一つです.この論文では,Nearly Type I 符号に対して Assmus–Mattson の定理をより強い結果にできることを示しました.それを用いて自己直交 2-(16,6,8) デザインの同型を除いた一意性も証明しております.このような小さなパラメーターを持つデザインの一意性で,現在まで未解決なものが存在することは意外でした.なお自己直交 2-(16,6,8) デザインの自己同型群の位数は 73728 です.

この論文では新しいグラフ不変量を定義し,この多項式を用いて Tutte--Grothendieck の定理(Tutte 多項式と deletion--contraction 多項式の関係)を一般化しました.この不変量の定義は素朴なもの(符号理論で用いるアイデアのグラフにおける類似)ですが,不変式論やモジュラー形式と将来関係すると期待しております.また早稲田大学の学生さん(Chong Zheng さん)との初めての共著論文となりました. June Huh 氏の Fields 賞業績の一つに彩色多項式の係数が log-concavity を満たすというものがあります.最近私は重さ付き彩色多項式を定義しました(こちら).これは彩色多項式の一般化になっており,多くの彩色多項式の性質を満たすと予想しております.例えばいくつかの具体例で確認しましたが,重さ付き彩色多項式の係数も  log-concavity を満たしているようです.

マトロイドの調和 Tutte 多項式を導入し,双対性に関する公式を与えました.これを用いると,Bachoc による調和重さ多項式の MacWilliams 双対性の簡単な証明が得られます.こちらのデザイン理論への応用は今後の課題です.またこの論文の Frobenius 環上の符号や半マトロイドへの大幅な一般化が得られており投稿中です.こちらは Thomas Britz さん,Himadri Chakraborty さん,研究室 4 年生の石川麗菜さんとの共同研究です.4 年生の石川さんは Jacobi--Tutte 多項式という新しい多項式を定義して,古典的な Greene 定理の新しい一般化を発見しています.こちらも近く公開いたします.

Ramanujan のデルタ関数の Fourier 係数は非ゼロと予想されています.これは E8 格子に 8-design が存在しないことと同値です.一方 E8 格子から 7-design は得られます.このように extremal 格子から t-design が得られ,さらに (t+1)-design が得られるかどうかは整数論とも関係する重要問題(Lehmer 型問題と呼ばれます)です.この論文では,この符号理論における類似を考え extremal Type III, IV に限っては Lehmer 型問題を肯定的に解決しました.この問題は符号や格子に限らず,頂点作用素代数などにおいても考えることができますが,あるクラスで Lehmer 型問題を解決した世界初の結果です. 

Extremal 符号は長さが大きいとき非存在が示されています [Zhang (1999)].たとえば extremal Type III は 12m (m ≥ 70) で非存在で,これは weight enumerator の最小距離の係数が負であることを確認することで証明されます.(MacWilliams 双対性不変な多項式環は,有限鏡映群の不変式環と同型であり,その生成元で weight enumerator を表示する.) しかし最小距離以外の係数を見ることにより,12m (m ∈ {6,8,10,12,14,16,18,20} ∪ {m ∈ Z | m ≥ 22}) で非存在がわかります.このようにして不等式が改良されることは [Zhang (1999)] にも書いてありますが,実際に不等式を与えた文献はないようですので,この論文に書いておきました.実際の weight enumerator の計算結果はこちらです.なお Type I, II と IV では全ての係数を見ても [Zhang (1999)] の不等式は改良されません. 

Journal of Number Theory, 248 (2023), 294309, arXiv. (2023, July). 

Rank 32 と 48 の extremal 2-modular lattices が minimum vector の集合で生成される,rank 24 と 36 の extremal 2-modular lattices が minimum vector とその次の長さのベクトルの集合で生成されることを示しました.証明には本論文で定義した pseudo-normalized Hecke eigenform の Fourier 係数の評価を用います.Pseudo-normalized Hecke eigenform とはある 2 つの Hecke eigenform の差になっているもので,今回定義したものは位数 2 の指標に対応した概念と考えられます.位数 n の pseudo-normalized Hecke eigenform も同様に定義可能です.これを用いて,今回の結果は Quebbemann の意味での ℓ-modular lattice へ一般化可能です.また符号や頂点作用素代数においても同様の問題が考えられます.Gabriele Nebe 先生との共著です.

Discrete Mathematics 346 (2023) no. 6, No. 113339, arXiv. (2023, June).  

符号と参照ベクトルを用いて Jacobi 多項式が定義されます.一つ下の論文では複数の参照ベクトルを用いた多重 Jacobi 多項式を定義し,P.J. Cameron 先生による一般化デザイン理論との関係を調べました.あわせて [Bonnecaze et al. (1999)] の結果を Type III と IV へ一般化しております.研究室 D1 の田中優帆さんとの共著です.今回定義した多重 Jacobi 多項式の高種数版を Himadri Chakraborty さん,Nur Hamid さん,大浦学先生と定義しており近く発表予定です.また,色付きデザインへの一般化を  Himadri Chakraborty さん,研究室の田中優帆さん (D1),石川麗菜さん (B4) と進めております.

Designs, Codes and Cryptography, 90, (2022), 2583-2597, arXiv. (2022, Nov).

Special Issue: On Coding Theory and Combinatorics: In Memory of Vera Pless, arXiv.

この論文では符号の平均 Jacobi 多項式を導入し,その MacWilliams 型の変換公式を与えました.応用として,吉田知行先生によって定義された平均交叉数を一般化した,Jacobi 平均交叉数を導入して,デザイン理論との関係した予想を一つ提示しております.たとえば Type II 符号に限ると (Jacobi) 平均交叉数は,長さを無限大にしたときある定数に収束すると予想されます.その符号理論的,あるいは群論的な解釈は今後の課題です.また交叉数をベクトル空間の交わりの次元に置き換えても似た結果が得られると予想しております.この結果の格子,頂点作用素代数類似も気になるところです.

Ukrainian Mathematical Journal, 74, (2022), 160-165, arXiv. (2022, June).  

[Bondarenko (2010)] によって,E8 ルート系から 35 次元の optimal antipodal spherical design の構成が与えられましたが,この結果は spherical 5-design から高次元の spherical 3-design の構成へ一般化できることを示しました.たとえば Leech 格子のミニマムから 299 次元の spherical 3-design が構成されます.ところで 299 次元というのは Griess-Conway 代数の表現空間の次元の一つとしてよく知られています.この spherical 3-design を用いて自然に Griess-Conway 代数の表現空間が得られるかどうかは気になる問題です.

Discrete Mathematics 345 (2022), no. 12, Paper No. 113098, arXiv. (2022, Dec).  

符号の Jacobi 多項式は小関道夫先生によって導入されました.その後,小関先生や大浦学先生のグループによって F2-符号,高種数へ拡張されています.この論文では,任意のガロア体,ガロア環上の符号に対して,高種数 Jacobi 多項式,交叉数多項式を定義してそれらの関係性を調べました.Jacobi 多項式は多くの応用が知られていますが,中でも最も成功を収めたのは [Bachoc (1999)] や [Bonnecaze et al. (1999)] による符号から得られるデザインへの応用です.今回定義した高種数 Jacobi 多項式のデザイン理論への応用が存在するかどうかは気になる問題でしょう.これについて,研究室の田中優帆さん (D1),石川麗菜さん (B4) と研究を進めております.また坂内英一先生と小関先生によって Jacobi 多項式から Jacobi 形式への写像,Bannai-Ozeki 写像が定義されました.(古典的な Broué–Enguehard 写像の一般化.)こちらは,我々の定義した高種数 Jacobi 多項式から高種数 Jacobi 形式への写像へ一般化できると期待しております.さらに Tutte 多項式への応用があり,こちらも Thomas Britz さん,Himadri  Chakraborty さん,石川麗菜さんと研究予定です

Designs, Codes and Cryptography, 90 (2022), no. 6, 1485-1502, arXiv, (2022, June). 

代数的符号理論の重要未解決問題に「符号から得られる組合せ t-デザインの t 値は 5 以下」というものがあります.例えば t =5 の例の一つは,Mathieu 群を自己同型群として持つ Golay 符号で,t 重可移群の視点からも興味を持たれております.この論文は,k-weight 符号という条件下でこの予想を確認したものです.この問題の背景には楕円曲線,あるいはさらに高次の曲線の整数解と関係があることが最近になって判明し,現在こちらも論文を執筆中です.先に紹介した未解決問題へ一歩近づく結果と考えております.また応用として古典的な二元拡大 Golay 符号の新しい特徴付けを与えました.格子・頂点作用素代数類似も成立していると予想されます. 

Graphs and Combinatorics, 37 (2021), no. 5, 1545-1558, arXiv, (2021, Oct), 

Special Issue Dedicated to Professors Eiichi Bannai and Hikoe Enomoto on Their 75th Birthdays. 

[de la Harpe--Jones (1993)] によりグラフの不変量が導入されました.この論文では,de la Harpe--Jones の不変量(state 多項式と呼んでいます)がグラフの完全不変量であることを示しました.この不変量は変数の数が多いのですが,さらに 1 変数のグラフの完全不変量(pseudo state 多項式と名付けました)を構成しております.また,非同型グラフのペアで,Tutte 多項式が等しいものを用いて,非同型格子のペアで theta 級数が等しい例を構成しています.この頂点作用素代数類似も成立するはずです.

Designs, Codes and Cryptography, 89 (2021), no. 6, 1241-1254, arXiv, (2021, June). 

Designs, Codes and Cryptography, 89 (2021), no. 5, 843-858, arXiv, (2021, May). 

Designs, Codes and Cryptography, 89 (2021), no. 5, 763-780, arXiv, (2021, May). 

International Journal of Number Theory, 16 (2020), no. 1, 207-218, arXiv. (2020, Feb).

Proceedings of the Japan Academy, Ser. A Mathematical Sciences 95 (2019), no. 10, 111-113, arXiv, (2019, Dec).

Interdisciplinary Information Sciences 25 (2019), no. 1, 53-57, arXiv, (2019, Nov).

Journal of Combinatorial Designs 27 (2019), no. 11, 673-681, arXiv, (2019, Nov).

Journal of Pure and Applied Algebra, 223 (2019), no. 10, 4153-4160, arXiv (2019, June). 

Designs, Codes and Cryptography, 87 (2019), no. 6, 1237-1242, arXiv, (2019, June). 

Designs, Codes and Cryptography, 79 (2016), no. 1, 37-46, arXiv, (2016, Apr).

Journal of Number Theory, 148 (2015), 451-462, (2015, Mar).

The Ramanujan Journal, 34 (2014), no. 3, 319-328, arXiv, (2014, Aug).

Designs, Codes and Cryptography, 72 (2014), no. 3, 529-537, arXiv, (2014, Sep). 

Mathematics of Computation 83 (2014), no. 287, 1427-1446, arXiv, (2014, May). 

Quadratic and Higher Degree Forms, 1-27, Dev. Math., 31, Springer, New York, 2013, arXiv, (2013, Aug). 

Discrete Mathematics 313 (2013), no. 4, 375-380, (2013, Feb). 

Journal of Algebra, 374 (2013), 59-65, arXiv (2013, Jan). 

Journal of Number Theory, 132 (2012), no. 12, 2773-2778, arXiv, (2012, Dec). 

Electronic Journal of Combinatorics 19 (2012), no. 1, Paper 2, 18 pp, arXiv, (2012, Jan). 

Proceedings of the Japan Academy, Ser. A Mathematical Sciences 88 (2012), no. 2, 28-30, (2012, Feb). 

Journal of Number Theory 132 (2012), no. 3, 371-378, arXiv, (2012, Mar). 

Izvestiya Rossiiskoi Akademii Nauk. Seriya Matematicheskaya 75 (2011), no. 6, 3-16; translation in Izvestiya: Mathematics 75 (2011), no. 6, 1093-1106, arXiv, (2011, Dec). 

Archiv der Mathematik 97 (2011), no. 6, 529-533, arXiv, (2011, Nov). 

Journal of Combinatorial Theory, Series A 118 (2011), no. 1, 190-196, arXiv, (2011, Jan). 

Kumamoto Journal of Mathematics 23 (2010), 27-35, arXiv.

Journal of the Mathematical Society of Japan 62 (2010), no. 3, 687-705, arXiv, (2010, Jul). 

Kyushu Journal of Mathematics 62 (2008), no. 1, 15-61, pdf.

Journal of the Mathematical Society of Japan 59 (2007), no. 3, 693-706, arXiv, (2007, Oct). 

Proceedings of the Seventh Asian Symposium on Computer Mathematics, 263-266, 2005, pdf, (2005, Dec).