研究内容

太陽光エネルギーはほぼ全ての生命活動を支えていますが、光合成を行う植物や藻類について解明されていないことが数多く残されています。食糧・栄養問題や地球環境問題の解決に貢献するためには、遺伝子や細胞のレベルから、農地、地球レベルまで、植物や藻類についてのさらなる理解や応用が求められています。


中村研究室では、植物生理学、分子生物学、生化学、遺伝子工学、遺伝学などにおけるさまざまな研究手法を用いて、1)植物のユニークな代謝生理を解明し、さらに、2)得られた知見を利用して食糧・栄養問題や環境問題に取り組むことを長期目標としています。現在、次の研究課題を中心に取組んでいます。

高ヨウ素栄養作物の開発 ーヨウ素欠乏症の軽減を目指してー

ヨウ素は人の必須栄養素で、甲状腺ホルモンの構成成分として機能します。ヨウ素が豊富な海藻や魚介類を日常的に摂取する日本人にはみられませんが、ヨウ素欠乏症は開発途上国を中心に問題となっている微量栄養素欠乏症です。本研究では、植物で十分に解明されていないヨウ素の取込み・蓄積機構を、モデル植物のシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)やイネ(Oryza sativa)を用いた分子生理学的研究により明らかにします。さらに得られた知見をイネなどの実用作物に応用することにより、作物を通じてヨウ素栄養を供給するための高ヨウ素栄養作物の作製技術の確立を目指します。

熱帯植物からの塩化メチル放出に関する研究

成層圏オゾン破壊の約15%に寄与する塩化メチル(CH3Cl)の最大の発生源は熱帯植物です。しかし、熱帯植物からの塩化メチルの大量放出に関わる機構や生理学的意義についてはよく分かっていません。本研究では、モデル植物のシロイヌナズナやイネを活用しながら、フタバガキなどの熱帯植物の塩化メチル放出機構に関連する遺伝子を明らかにし、その環境応答性や生理学的意義の解明を目指しています。得られる知見は、十分に理解されていない大気の塩化メチル収支の理解や、オゾン層変動の予測にも貢献することが期待されます。

海藻の高度なヨウ素蓄積機構に関する研究

マコンブ(Saccharina japonica)は海水のヨウ化物イオンを数万倍にも濃縮し蓄積するヨウ素高蓄積生物です。しかし、ヨウ素蓄積の分子機構や生理学的意義は十分に解明されていません。本研究では、確立したマコンブ配偶体無菌クローン株を利用し、ヨウ素蓄積機構への分子生物学的アプローチを行なっています。得られる知見は、基礎生物学的な観点から重要であるだけでなく、ヨウ素欠乏症を軽減するための高ヨウ素栄養作物の開発に貢献することも期待されます。

有用物質生産のための海藻の育種技術に関する研究

マコンブなどの海藻はヨウ素の他にも、抗腫瘍活性、抗ウイルス活性、抗酸化活性などの生理活性を持つ、アルギン酸(多糖)、フコイダン(多糖)、フコキサンチン(カロチノイド)、フロロタンニン(ポリフェノール)など、陸上植物には見られないさまざまな有用物質を合成し蓄積します。これらの合成や蓄積に関わるメカニズムを遺伝子レベルで解明し、質的あるいは量的に改良することで、有用物質生産のための工場として海藻を利用することが期待できます。





主な使用機器・設備

(分析装置関連)

 ・液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS、LC-MS/MS)

 ・液体クロマトグラフ(HPLC、紫外可視検出器/蛍光検出器/電気伝導度検出器)

 ・ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)

 ・ガスクロマトグラフ(GC、電子捕獲型検出器)

 ・マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF-MS)

 ・誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)

 ・共焦点レーザー蛍光顕微鏡

 ・DNA増幅装置(サーマルサイクラー)

 ・DNA解析装置(DNAシーケンサー)

 ・リアルタイムPCRシステム

 ・生物発光解析装置(ルミノイメージアナライザー)

 ・発光測定装置(ルミネッセンサー)

 ・スキャナタイプ画像解析装置(バリアブルイメージアナライザー) 他


(植物培養・栽培関連)

 ・クリーンベンチ

 ・人工気象器

 ・閉鎖型温室

 ・開放型温室