コメント付き論文リスト

1. The stability of the family of A_2-type arrangements, T. Abe, Journal of Mathematics of Kyoto University, Vol. 46 (2006), no. 3, pp617--636.

コメント:

2. The elementary transformation of vector bundles on regular schemes, T. Abe,  Transactions of the American Mathematical Society, Vol. 359 (2007), no. 9, pp4285--4295.

コメント:修士論文。射影空間上のベクトル束の構成における有用な道具の一つである基本変形の定義を拡張し、反射層への応用を与えた。これ以降こんなに代数幾何っぽい論文は書いていないが、結局この先の研究も射影空間上のベクトル束や反射層の分裂理論(超平面配置でいうところの自由配置)についてであるところを見るに、指導教官だった丸山先生がいみじくも仰った「数学者は修士論文の内容から逃げられない」という言葉は、少なくとも僕に対しては当てはまっているといえる。

3. The characteristic polynomial of a multiarrangement, T. Abe, H. Terao and M. Wakefield, Advances in Mathematics, Vol. 215 (2007), pp825--838.

コメント:吉永さんによる多重配置を用いた自由性判定法、通称吉永の判定法の発見は、超平面配置の自由性研究における歴史的な転換点であった。これにより、Zieglerが導入したものの有用な応用が見つかっていなかった多重配置の対数的ベクトル場が、本当に理解され始めたということだと思う。ただ、吉永の判定法まで多重配置の対数的ベクトル場の研究がほとんどなかったこともあり(Yuzvinskyのいくつかの発見を除けば、本質的にはSolomon-Teraoのdouble Coxeter arrangementおよび寺尾先生のMulti-Coxeter arrangementsしかなかった気がする)、多重配置の対数的ベクトル場を一般に扱う方法はZieglerによる多重版斎藤の判定法以外何もなかった。北大でポスドクをしていた時、寺尾先生が北大にいて、Wakefieldさんもポスドクで滞在していたので、この三人で何かやろうとなったとき、そんな背景もあって多重配置の一般論として、加除定理と特性多項式を何とかしようという話になった。こちらは特性多項式で、加除定理より少し後から始まった。確か最初のアイデアはWakefieldさんで、今でいう多重配置のcodimension twoでの局所化でのlocal mixed productが、自由配置については次数の二次の対称式と一致する、という観察だった。これを見つけるというのは相当なものだと今は思うが、僕は当時あまりこういう考察が得意じゃなくて「本当かな?」と思っていた。しかし三人で議論してみると、どうもSolomon-Teraoの公式がそのまま多重配置でも通用しそうだということになり、そこから天下り的に多重配置の特性多項式が定義できた。結果として多重自由配置の分解定理ができて、Wakefieldさんの最初の観察が正当化できた。証明した当初は代数的な道具だなあと思っていた多重配置の特性多項式だけど、結局剰余定理とかの証明でもフル活用されることになり、ここで三人で道具を整備できたのはとても良い研究だったし、同時にとても楽しい研究ができた。


4. Free and non-free multiplicity on the deleted $A_3$ arrangement, T. Abe, Proceedings of the Japan Academy, Series A, Vol. 83 (2007), no. 7, pp99--103.

コメント:すさまじい計算の論文。3と6で初めて多重配置の自由性を手で計算できるようになったので、それらが非自明な配置の自由性を完全に決定してみようと思い、自明でないケースで一番簡単に見えたdeleted A_3型をやってみた。できたことはできたけど、高校生レベルの計算を執拗に繰り返すことで超可解配置以外は自由でないことが決定できた。この自由重複度問題は、あまりに代数寄り過ぎる上にまともな手法がなかなか出てこないこともあってほとんど今も研究されていない。これが非自明な場合の最初の結果なので、それなりに引用はされている。今では、DiPasqualeさんがホモロジカルな手法を導入していて、それがちゃんと理解できればこの辺りの研究はもっと進むと思う。DiPasqualeさんのテクニックは多重自由配置研究で本質的な進展を与えている数少ないものだと個人的には思っている。彼と彼のチームによりこの論文の結果は2020年あたりにはスマートな証明ができて、さらにX_3型やA_3型に対しても自由重複度は完全決定されるという大きな進歩が得られている。それらはこの論文の牧歌的な手法では無理だったと思う。

5. Splitting criterion for reflexive sheaves, T. Abe and M. Yoshinaga, Proceedings of the American Mathematical Society, Vol. 136 (2008), no. 6, pp1887--1891. 

コメント:

6. The Euler multiplicity and addition-deletion theorems for multiarrangements,  T. Abe, H. Terao and M. Wakefield, Journal of the London Mathematical Society, Vol. 77 (2008), no. 2, pp335--348.

コメント:3と同時期、たぶんちょっと早めにやった研究。多重自由配置の間の加除定理はないか、ということである。ただ多重自由配置の例がほとんど知られていなかったので実験ができずどうしたものかという感じだった。とにかく多重配置を制限した場合、どういう重複度を乗っければうまくいくかが大問題で、単純に重複度を加えるのでは全然だめだし、みたいな試行錯誤をしていた気がする。この論文で定義したEuler重複度がその答えであるが、これは寺尾先生のアイデアであった。アイデアを聞いて確かめてから、Wakefieldさんと「寺尾先生はやっぱりすごいなあ」と話したのを覚えている。これでうまくゆくかをチェックする際、本質的な補題を証明することができて、うれしかったのをよく覚えている。これらをもとに三人で議論を詰めて、重複度なしの場合と同様の定式化で多重配置の加除定理が得られた。扱うのはそこまで簡単ではないが、それでもこれで特に三次元多重自由配置の研究はだいぶやりやすくなった。

結局3の特性多項式とこの加除定理が、僕のこの先10年の研究に大きな影響を与えた。剰余定理はこれらの総決算みたいなものと今思えばわかる。これらの理論を僕がちゃんと理解するのに10年かかったということかもしれない。


7. Signed-eliminable graphs and free multiplicities on the braid arrangement, T. Abe, K. Nuida and Y. Numata, Journal of the London Mathematical Society,  Vol. 80 (2009), no. 1, pp121--134. 

コメント:(重要)この論文の主定理には抜けが合って、修正したバージョンがアーカイブにあるのでそちらを見てほしい(一番新しいバージョンのやつ)。

8が先にあったのだが、8でコクセター配置の偶数定数重複度に0か1を足す、あるいは引くだけをした重複度のことを考えた。であれば次に1を足す、変えない、1を引くを混ぜたものがどうか、という発想は自然である。一般のコクセター配置では難しすぎたのでとりあえずグラフを使ってA型に対してこれをやってみた論文。足すと引くを同時にやるので二色グラフかな、と思ってまず僕が実験を始めた。確か2007年にイタリアはトリエステに滞在していた時に開始して、一番簡単なA_3の場合だけまとめたところ、自由性に関する双対性は見えた。でもどういうグラフが自由な重複度を与えるかは全然想像がつかないまま、イタリアから北大へ戻ったら沼田君に会ったので「こんな話があるんだけど」と相談したら翌日くらいには「たぶんこういうグラフだと思います」と候補をいきなり持ってこられて仰天した。当時の僕はコーダルグラフもほとんど知らないド素人で、今思えばこういうことを任せたら名人な沼田君なら確かにすぐできたことなのかもしれないが、それにしても結局その候補通りだったのだからすごいものだ。沼田君はこの論文でいうsigned eliminable graphの概念を一瞬で定式化してくれたわけだ。それが自由多重配置を与えることは、加除定理から僕がすぐに証明できたが、逆が難しかった。そこでこれも沼田君の伝手で縫田さんに相談したら、これまた割とすぐに証明を出してくれた。これは確実に僕では無理な証明で、こちらも驚愕したのを覚えている。応用として、Athanasiadis予想の半分が解けた。と同時に、沼田君と縫田さんというそれぞれの道のプロと研究できた非常に楽しい論文であった。

8. Coxeter multiarrangements with quasi-constant multiplicities, T. Abe and M. Yoshinaga, Journal of Algebra, Vol. 322 (2009), no. 8, pp2839--2847. 

コメント:7の前段階の結果。コクセター配置に偶数定数重複度を乗せたものに1を足すか足さないかした重複度の代数構造はshift同型と呼ばれる吉永さんのProc. Japan Acad.の論文からわかることが知られていた。じゃあそれ以外は、と思っていろいろと実験してみたが、2足すとうまくゆかないことはわかってどうしたものかと考えていたら、ふと偶数定数重複度を中心にプラス1かマイナス1をした重複度が自由かどうかのふるまいが同じでなのでは、という予想が実験から出てきた。トリエステで吉永さんにこの話をして共同研究を開始して、結局自由である必要すらなく、偶数定数重複度を中心として上記構造が決定できた。これがたぶん、コクセター配置やワイル配置および原始微分に関連する研究を初めてやったもので、これ以降マクドナルドとかを勉強して、ワイル配置まわりの研究もできるようになった。

9. The stability of the family of B_2-type arrangements, T. Abe, Communications in Algebra, Vol. 37 (2009), no. 4, pp1193--1215. 

コメント:

10. Totally free arrangements of hyperplanes, T. Abe, H. Terao and M. Yoshinaga,  Proceedings of the American Mathematical Society, Vol. 137 (2009), no. 4, pp1405--1410.

コメント:Yuzvinskyさんが2008年4月に北大にやってくるからなにかセミナーをしようということになってその前日自宅でネタを考えていたらふと、前から問題になっていた「全ての重複度が自由配置となるような配置(全自由配置)はどんなものか」という問題に対して、そのような配置があればそれが既約かつ二重点を持つことはあり得ないことに簡単な多重特性配置の第二ベッチ数の計算から気づく。翌日セミナーの前に寺尾先生と会ったので「二重点ってどんな配置であるんですかね?」と聞いたら、実数上なら必ずあるという、2022年にそれで自分で論文を書くこととなるいわゆるSylvester-Gallaiの定理を教えてもらって、実数上の配置では全自由配置は一次元および二次元配置の直和となることがわかった。定理が12時間くらいでできた。たぶん短さでいったら二番目(一番短いのは問題を知ってから一時間)。しかし我ながらこのころはなにも定理を知らなかった。

論文をぱっと書いてアーカイブにアップしたら吉永さんから「generic arrangementを使えば一般でできるのでは?」と指摘されて、今では基礎体に関する過程は標数以外は多分消えている。より良い結果になって、三人の共著となった。吉永さんのコメントリストにもあるが、ただ実の場合はもうちょっと主張が強くて「全ての重複度に対して自由な配置」ではなく「任意の二枚の重複度を一つずつあげた時に自由な配置」に対しての主張となっている。二重点がある配置なら後者の仮定で行けるはずなので、この辺りはもう少し突っ込んで考えてみると何か出てくるのかもしれない。

11. A primitive derivation and logarithmic differential forms of Coxeter arrangements, T. Abe and H. Terao, Mathematische Zeitschrift, Vol. 264 (2010), no. 4, pp 813--828. 

コメント:原始微分デビュー作。斎藤先生が不変式論を使って構成したコクセター配置の基底に単純に原始微分をアフィン接続を通じてあてると対数的微分加群及びその多重配置の基底になることを、寺尾先生と一緒に示した。引き戻しはもちろん逆に多重コクセター配置の対数的ベクトル場の基底となる。これが一番自然な構成だけど、知られていた構成は寺尾先生のInvent論文のやつで、あれはオイラー微分を原始微分で引き戻したものに、元の基底をアフィン接続でふりかける感じで、ちょっと違う。これらの基底の間の変換行列が正則なことを示した論文。

コクセター配置周りの対数的ベクトル場の研究はとりあえずこの論文とか他の関連論文、寺尾先生のInvent論文とかがいいかもしれないけど、を読んで、あとHumphreysの鏡映群の本を読んでしまえば研究はできると思う。必要な知識は適宜論文を見て勉強すればよい。本格的に原始微分とかを考えようと思うと、またちょっと話は別だけど、使うだけならそこまで前提知識は不要。

12. The freeness of Shi-Catalan arrangements, T. Abe and H. Terao, European Journal of Combinatorics, Vol. 32 (2011), pp1191--1198.

コメント:

13. Primitive filtrations of the modules of invariant logarithmic forms of Coxeter arrangements, T. Abe and H. Terao, Journal of Algebra, Vol. 330 (2011), pp 251-262.

コメント:

14. Exponents of 2-multiarrangements and multiplicity lattices, T. Abe and Y. Numata, Journal of Algebraic Combinatorics, Vol. 35, no. 1 (2012), pp1--17.

コメント:沼田君のアイデアから始まった論文で、二次元配置を固定して重複度を動かしたときの指数の差を見ると構造がある、というもの。沼田君の観察の白眉は、peak pointと呼ばれる指数が最も離れた重複度があって、そこから離れると離れた分だけ指数の差が小さくなってゼロになり、そこからまた次のpeak pointを持つ山へ入るという理解で、これは極めて非自明だった。今考えるとよく理解できる結果だけど、当時はほんとに多重配置の道具がなかったのでなかなか大変だった。これのおかげで二次元多重配置の基底の挙動にはかなり慣れた。

15. On the conjecture of Athanasiadis related to freeness of a family of hyperplane arrangements, T. Abe, Mathematical Research Letters, Vol. 19, no. 2 (2012), pp469--474.

コメント:7で半分解いたAtahansiadisさんの、有向グラフを用いたA型のShi配置とCatalan配置の間にある自由配置の特徴づけに関する予想の残り半分を解決した。Athanasiadisさんの予想のうち、対応するグラフなら配置は自由が分かった。逆が問題だったのだけれど、自由であればそのZiegler制限が、7で決定したsigned eliminable graphにならなければならないはずで、そうなるための条件を求めてゆくだけでできた。なぜ7を書いたときに気づかなかったのか不思議だけど、実際わかるまで四年くらい経過しているので、わからないときはそんなものかもしれない。このころまでなかなか一人で論文をまとめられないなあ、と悩んでいたので、久しぶりに一人で論文が書けたことがちょっと自信になった、

16. Equivariant multiplicities of Coxeter arrangements and invariant bases, T. Abe, H. Terao and A. Wakamiko, Advances in Mathematics, Vol. 230 (2012), pp2364--2377. 

コメント:

17. Characteristic polynomials, $\eta$-complexes and freeness of tame arrangements, T. Abe, Michigan Mathematical Journal, Vol. 62, no. 1 (2013), pp117--130.

コメント:18の後に書いた論文で、動機もそこにある。18でやったことを思い出すと、射影空間中のある直線を固定しそこの上の点の上に重複度を固定して、Ziegler制限がそうなるような配置を展開すると、それらの配置の中で部屋数が最小なものは自由になる、というようなことが示されている(厳密にはちょっと違うけどだいたいこんな感じ)。じゃあその高次元版はどうか、と考えたのがこの論文。あとSchulzeさんのCompositioの論文にも影響されていた気がする。というか19もこれもそうだったような。tameという条件は付くけど、ある程度18の高次元版が証明できた。あと実はdeconingした配置のi番目のベッチ数と、deconingした超平面に制限して得られるZiegler配置のi番目のベッチ数の間の大小関係は不明であり、それが制限前のほうが大きいことをtameな場合にやはり示した。第二ベッチ数までは吉永の判定法からわかるのだが、それ以上は実は難しい。2024年現在でもわかっていないはず。

18. Chambers of 2-affine arrangements and freeness of 3-arrangements, T. Abe, Journal of Algebraic Combinatorics, Vol. 38, no. 1 (2013), 65--78.

コメント:割と単著でちゃんとした論文を書きたいという欲求をずっと持ち続けていたころにかけて救われた論文の一つ。balancedな二次元多重配置の指数の差は本数マイナス2なのではないか、という話が沼田君から予想されていて、それが解けた。ただ証明はかなりトリッキーで、沼田君と構築したmultiplicity lattice の理論に、この周辺だと例えば16で使っているアフィン接続を用いて基底を動かす論法を組み合わせている。なので標数ゼロではないとうまくゆかない議論。これを用いると、三次元配置の特性多項式が整数根を持ち、かつそれらが制限したところの元の数マイナス2だけ離れていれば自由であること、かつそれ以上整数根が離れることはできないこと、が分かる。Wakefield-Yuzvinskyが根の差がgenericには0か1であることを示しているが、その逆に対応する結果であり、同時に代数構造を使って根の違いみたいな幾何・組み合わせ論的情報を統制できるというタイプの結果でもあり、この先の研究の一つの方針を作った結果と言えるのかもしれない。

19. Free arrangements and coefficients of characteristic polynomials, T. Abe and M. Yoshinaga, Mathematische Zeitschrift, Vol. 275, no. 3 (2013), 911--919.

コメント:

20. Roots of characteristic polynomials and intersection points of line arrangements, T. Abe,  Journal of Singularities, Vol.8 (2014), 100-117. 

コメント:三次元配置における加法定理や除去定理が組み合わせ論的であることを示した論文と、今見返すと思える。主張は、三次元配置の制限の元の数が元の配置のルートの間に入らない、つまり元の数の代入が正の整数になることを示している。これは本質的に、Faenzi-VallesのLondonに掲載された論文に触発されている。2012年にその二人がPauで開催した研究集会に参加してその結果を聞いた際、彼らは古典的な代数幾何、射影平面上のベクトル束の理論を使っていろいろな理論を展開していたのだけれど、結果を見る限りこれは僕が知っている対数的ベクトル場の知識でもできるはず、と思って研究を始めて、それをまとめた論文。非常に使いやすい結果だが、同時にこれは剰余定理バージョンゼロという感じで、この結果をさらにじっくり考えたことが剰余定理以降の研究につながっている。ある意味対数的ベクトル場を、Faenzi-Vallesがやっていた古典的な射影平面上の代数幾何の、minimal free resolutionなどを用いる視点から研究することを始めた、という感じもする。転機になった研究だと思う。同時にこれも、代数的情報から根の位置を制限するタイプで、代数を使って何かするということに意識が向いている時期な気がする。

21. Simple-root bases for Shi arrangements, T. Abe and H. Terao, Journal of Algebra, Vol. 422 (2015), 89--104. 

コメント:

22. A mathematical problem for security analysis of hash functions and pseudorandom generators, K. Nuida, T. Abe,  S. Kaji, T. Maeno and Y. Numata, International Journal of Foundations of Computer Science, Vol. 26 (2015), No. 2, 169--194.

コメント:

23. The freeness of ideal-Shi arrangements and free paths in affine Weyl arrangements, T. Abe and H. Terao, Journal of Algebraic Combinatorics, Vol. 43 (2016), Issue 1, 33--44.

コメント:

24. Divisionally free arrangemetns of hyperplanes, T. Abe, Inventiones Mathematicae, Vol. 204 (2016), no. 1, 317--346.

コメント:一人で書いた論文の中では一番良い結果だと思う。寺尾先生の自由配置に関する加法定理を剰余定理という枠組みで、本質的に一般化・組み合わせ論化することに成功した。これを用いて得られる剰余的自由配置は、寺尾予想が正しいクラスとして知られていた帰納的自由配置より真に大きい、寺尾予想が正しいクラスであり、またチェックも格段に楽なので、実用的な定理でもある。

きっかけは2013年に書いた(掲載は2014年)J. Singul.論文の、三次元配置の自由性と交点数に関する結果。あれを高次元化したいと思っていたのだが、数年間全然進まず困っていた。ところが2015年1月のある夜、三次元の場合にやった特性多項式への交点数の代入を、制限配置の特性多項式による剰余の商の最高次係数の話ととらえればよいことに気づく。それを用いると、特性多項式が割り切れることにZiegler制限の自由性を合わせれば元の配置の自由性が出るということがわかった。Ziegler制限の自由性は簡単にはわからないけど、でもこれは吉永の判定法と寺尾の加法定理の合わせ技みたいで面白いと思って、2015年2月に呼ばれていたPisaの集会で話すことを決めた。その集会に向かう途上、ミュンヘンからピサへの飛行機の中で、これまた不意に、特性多項式の剰余を仮定しておけば、Euler制限配置の自由性からZiegler制限の自由性が従う、という議論を思いついてびっくりした。これだと特性多項式の剰余+制限配置の自由性だけで元の配置の自由性が出ることとなり、寺尾の加法定理のうち除去配置の自由性が不要になるという非常に強い主張が手に入ることとなる。本当に正しいのか飛行機の中およびピサの移動中もずっと考えていたが、どう考えても正しいと確信が持てたので、集会の講演に入れ込むことにした。

この論文以降、この方向で研究がぐんと進むことになった。加除定理の組み合わせ依存性やSPOG定理はすべてこの論文から始まった流れであり、この先五年くらいの研究の方向を大きく決めた論文だった。これが書けてやっと一人前の数学者になれた気がした。

25. Non-recursive freeness and non-rigidity of plane arrangements, T. Abe, M. Cuntz, H. Kawanoue and T. Nozawa, Discrete Mathematics, Vol. 339 (2016), Issue 5, 1430--1449.

コメント:

26. The freeness of ideal subarrangements of Weyl arrangements, T. Abe, M. Barakat, M. Cuntz, T. Hoge and H. Terao,  Journal of the European Mathematical Society, Vol. 18 (2016). no. 6, 1339--1348.

コメント:

27. Logarithmic bundles of deformed Weyl arrangements of type A_2, T. Abe, D. Faenzi and J. Valles, Bulletin de la Soci\'{e}t\'{e} Math\'{e}matique de France, Vol. 144 (2016), no. 4, 745--761. 

コメント:

28. The freeness of Ish arrangements, T. Abe, D. Suyama and S. Tsujie, Journal of Combinatorial Theory Series A, Vol. 146 (2017), 169--183.

コメント:

29. Erratum to: Divisionally free arrangements of hyperplanes, T. Abe , Inventiones Mathematicae, Vol. 207 (2017), no. 3, 1377--1378. 

コメント:

30. Restrictions of free arrangements and the division theorem, T. Abe, Proceedings of the Intensive Period "Perspectives in Lie Theory", Springer INdAM Series ; 19 (2017), 389--401.

コメント:

31. A basis construction of the extended Catalan and Shi arrangements of the type A_2, T. Abe and D. Suyama, Journal of Algebra, Vol. 493 (2018), 20--35. 

コメント:2024年現在ともなると、Catalan配置やShi配置の基底の具体的な形は、準不変式の理論に差分というアイデアを用いることで、吉永さんたちによってかなりわかるようになってきているが、2018年以前はどうやったものかわからないという感じであった。この問題のA_2型の場合について、陶山君が取り組んでいて、Shi配置に超平面を追加していってCatalan配置までたどり着いて、そこからまた追加していって、という加除定理の枠組みで研究をしていたところに入れてもらった。Shi配置までたどり着いてからtwistという操作で基底をひねれば行けそうだというのが陶山君のアイデアで、そこを一緒にやらせてもらって共著になった。アイデアはCatalanやShiのレベルでは難しいので、制限して多重配置のレベルで勝負するというもので、下でうまくゆけば基底が伸びることは割と簡単にわかる。今でもそうだが、多重配置もたいがい難しいのだけれど、それでもCatalan配置のようなややこしい配置を扱うよりはずっと楽なことがある。このあたりを本質的に克服したのが、おそらく差分の理論なのだと思う。

32. Heavy hyperplanes in multiarrangements and their freeness, T. Abe and L. Kuehne, Journal of Algebraic Combinatorics, Vol. 48 (2018), no.4, 581--606.

コメント:KaiseslauternのSchulzeさんから、当時彼の学部四年の学生さんだったKuehneさんの学士論文の結果を教えてもらって、それが知られているかどうかを聞かれた。内容としては多重配置の自由性についてで、一枚の超平面にすごく大きな重複度がある自由配置の自由性は、その重たい重複度を重たいままで動かしても変わらない、という感じの内容であった。僕も考えたことはあったのだけれど、Kuehneさんがやっていたほどはちゃんとやっていなかったので知られていないし面白いと思うと伝えると、そこからいろいろあって学士をとったKuehneさんが一か月ほどドイツのお金で当時僕がいた京大に滞在して共同研究をすることになった。結果としてKuehneさんの結果をもとに、重たい超平面がある際の多重配置版のZiegler-Yosihnaga理論を作ることができた。鍵となったのは、どんな配置も自由な超可解配置に埋め込めること、その多重版があることで、ここに気づくと全体は割と簡単に定式化できたと思う。このころから重たいという条件は局所的に重たい、に弱められそうだと思っていたが、それはのちにやはりKuehneさんと完成させることができた。

33. Splitting types of bundles of logarithmic vector fields along plane curves, T. Abe and A. Dimca, International Journal of Mathematics, Vol. 29 (2018), no. 8.

コメント:Dimcaさんたちがnearly free配置というか因子という概念を研究していることを2016年くらいから知っていて、どういう定義かと調べてみると三次元配置で四元生成かつ関係式に線型係数があるということだな、と完全に対数的ベクトル場というか代数の視点で理解して、少し考えてみたところ吉永の判定法を使ってnearly freeであることが特徴づけられるとわかったので、軽くまとめておいた。なにかもう少しできないかなあと思っていたけれど代数的なこと以外はできなかったのでDimcaさんにこんなことができたんだけどどうだろうと聞いてみたら、曲線の特異点に関する不変量と分裂型が関係していることが分かったので、共同研究としてまとめた。今から思うとSPOG配置の第一歩の論文だと思うし、自由以外の代数構造の探索もここから始まった気がする。あとこの論文は妙に被引用数が多いのも謎。

34. Deletion theorem and combinatorics of hyperplane arrangements, T. Abe,  Mathematische Annalen, Vol. 373 (2019), no. 1-2, 581–595.

コメント:剰余定理の流れで書いた論文その1。剰余定理の主張は自由性周りは意外と組み合わせ論で統制されることが多い、ということを教えてくれた。つまりあれは、制限が自由であれば元の配置の自由性は組み合わせ論から決まる、という主張なわけで、であれば加除定理のほかの主張もある意味で組み合わせ論的なのでは、という疑問が浮かぶ。この論文では配置が自由である場合、それから一枚除去した配置の自由性が組み合わせ論から決まることを示した。除去定理は組み合わせ論から決まるわけであり、制限配置の自由性は不要であるとわかる。この証明で極小自由分解を初めて使った気がする、これ以降分解系の話がちょっと増えてくる。なおこの主張自体はSPOG論文でSPOG性を使うことでよりシンプルな証明が与えられている。

35. Hessenberg varieties and hyperplane arrangements, T. Abe, T. Horiguchi, M. Masuda, S. Murai and T. Sato, Journal für die reine und angewandte Mathematik,  Vol. 764 (2020), 241--286.

コメント:

36. Multiple addition, deletion and restriction theorems for hyperplane arrangements, T. Abe and H. Terao,  Proceedings of the American Mathematical Society,  Vol. 147 (2019),  no. 11,  4835–4845.

コメント:

37.  Solomon-Terao algebra of hyperplane arrangements, T. Abe, T. Maeno, S. Murai and Y. Numata, Journal of the Mathematical Society of Japan, Vol. 71 (2019), no. 4, 1027-1047.

コメント:書かないといけなかった定義と結果たちをまとめた論文。35で実質的に利用されたSolomon-寺尾代数の着想を得た2010年前後だったと思う。Solomon-寺尾のAdv. Mathの論文を読んでいて、彼らがη複体と呼んでいる複体の第0ホモロジーがワイル配置の場合にηとして次数最小の不変式を用いると旗多様体のコホモロジー環つまり余不変式となることに気づいて衝撃を受けた。寺尾先生もSolomonもきっと知っていたと思うけれど、そんな重要なデータを含むものであれば一般の配置に対しても意味があるはず、と僕は固く信じこんで呪文のように唱え続けたが関係は全然見つからなかった。最初はシューベルト多様体で考えていたのだけれど、それは環構造まで含むとうまくゆかないことが沼田君と前野さんとの共同研究を進める中でわかってしまい残念だった。このSolomon-寺尾代数が幾何的に意味を持ったのは35でHessenberg多様体のコホモロジー環としてであった。同時にSolomon-寺尾代数の完全交差性と元の配置の自由性は一緒だろうと信じていたが、これは村井君が証明してくれた。Solomon-寺尾代数はまだどういうものかしっかりとつかめている気はしないので、研究することは多い対象だと思う。

38.  Plus-one generated and next to free arrangements of hyperplanes, T. Abe, International Mathematical Research Notices, Vol. 2021 (2021), no. 12, 9233 --9261.

コメント:剰余定理の流れで書いた論文その2。Strictly plus-one generated配置いわゆるSPOG配置を導入した論文で、自由から一本引いた配置は自由かSPOG配置であることを示した。SPOG配置は生成元の数が次元+1でかつ一つだけある生成系の間の関係式が線型係数を含むものである。Dimcaさんたちが平面曲線の特異点の分析のために導入したnearly free配置を代数的に一般化したものがSPOG配置だが、それが自由の近くにあるというのはちょっとびっくりだった。

どう証明したかはちゃんとは覚えてないが、確か除去定理の組み合わせ依存性を示したAnnalenの論文の論法を真似すると、ある条件下で自由マイナス一枚の構造が決まる、という荒っぽい定理を示してからそれを精査したところそんな条件はなくてもSPOGが出ることが分かった、という感じだったように思う。この時はZiegler制限が全射なためオイラー微分に定義多項式をかけたものの逆像があることを用いて証明しているので、たぶんZiegler制限がEuler制限の、定義域を絞ったものであるという事実を使っているのだと思う。のちにDenhamさんとこれらを微分形式や多重配置に一般化するときは、双対性を用いてZiegler制限を用いない設定にして証明しているので、この論文の証明はここでしか使っていない。流れとしてはDivision Theoremと似た証明なので、これ以前と以後で証明に使うテクニックがちょっと変わっているような気もする。

結果としては、自由に近い配置は代数構造もある程度近いという自然な主張で面白いが、SPOG配置自身がどれほど意味があるかは懐疑的だった。ただDimcaさん周辺の人たちやDiPasqaleさん、あるいはVallesさんみたいに代数幾何的に対数的ベクトル場を扱う人たちから相当数引用されていてちょっとびっくりしている。導入の歴史を見ればnearly freeあたりと関係するのはわかるし、自由配置に近いものなのでわかることが多いのもありうけど、言われてみれば代数幾何的にはresolutionの形がある程度わかるベクトル束みたいな、Steiner束とまではいわないけどそれに近いものではあるので、意外と適用範囲が広いのかもしれない。僕も学生さんとの共著で、自由配置をつなぐためにその間にあるSPOG配置の構造を活用したりしているので、使い道はまだあるのかもしれない。ただし代数および代数幾何的な意味づけが主で、寺尾の分解定理みたいなわかりやすい超平面配置とのつながりがあんまりないのが弱点。ここは何かあったらとても面白いと思う。

39. On complex supersolvable line arrangements, T. Abe and A. Dimca,  Journal of Algebra, Vol. 552 (2020), 38–51.

コメント:2019年のHannover集会でできた論文その1。その2は41。Dimcaさんが彼の論文について講演していて、いくつかの予想や問題を提供してくれた。あれはよい講演だった。その中で超可解配置のmodular pointに対してその重複度から超可解配置の枚数は上から抑えられるという予想を出した。聞いた瞬間これは僕ならできると確信し(なぜ確信したのかはわからない)、一気に考えて一気にできて、すぐにDimcaさんに話したら共著論文になった。一時間くらいで定理と論文が増えた、ラッキーケース。

40. A Characterization of High Order Freeness for Product Arrangements and Answers to Holm’s Questions, T. Abe and N. Nakashima, Algebras and Representation Theory 24 (2021), no. 3, 585--599.

コメント:

41. Double points of free projective line arrangements , T. Abe, International Mathematical Research Notices, to appear. arXiv:1911.10754 (2019).

コメント:2016年にJ .Combin. Th. Ser. Aに掲載された論文にあったAnzis-Tohaneanu予想を解決した。予想は複素射影平面中の直線配置が超可解配置であれば二重点が直線数の半分以上存在するという、わかりやすい主張である。これは実射影平面状ではDirac-Motzkin予想と呼ばれているもので、Green-Taoによってほぼ正しいことが示されている。また二重点が一つあるという主張に弱めると、これいわゆるSylvester-Gallaiの定理、つまり実射影平面中では超可解とかいう仮定なしで、一点を共有する配置でなければいつでも正しい主張であったが、複素の場合はdual Hesse配置などですぐに反例が見つかってしまう。じゃあ超可解ではどうかというAnzisとTohaneanuの考察に依拠した予想であった。

この予想は2019年まではDimcaさんやHarborneさんなどかなりいろいろな人が研究をしていて、いくつかの結果も出ていた。それでも難しかったようで、複素超可解配置は二重点を一つは持つ、という弱い形の予想が2019年ごろHanumanthu-Harborneによって提出されていた。僕はこの予想は2019年夏にHannoverで聞いたDimcaさんの講演で初めて知った。このDimcaさんの講演は予想がいっぱいあって、そのうち一つは聞いて一時間後に解いたりしていて非常にためになったのだが(39)、この予想のほうはすぐに何かできそうに見えなかったのでとりあえず放っておいた。同年11月ごろ、気が向いたのでちょっと考えてみたところ、Solomonと寺尾先生が昔証明した、二重点しか持たない多重配置の指数に関する結果とZiegler制限に吉永の判定法を当てはめることで、二重点が一つはあることがわかって、あとは帰納法と場合分けでAnzis-Tohaneanu予想まで一気に解決することができた(たぶん二日くらいでできた)。

手法はすごく単純というか単純すぎるが、割と古典的な多重配置の定理が二重点の数え上げ幾何に使えるとわかった、なかなか良い結果だと思う。代数的に二重点の数を数えたり存在を示すというアプローチはこれ以外あんまりないんじゃなかろうか。あとよく考えるとEuler制限が全射となるような直線上には二重点がある、という主張をしているのだが、これはこの先しばらく使うことになる自由全射定理の走りを使っており(たぶんexplicitには書いてないかもしれないが)、その意味でもこの先の研究において重要な論文だったと振り返ると思えてくる。

42. On A_1^2 restrictions of Weyl arrangements, T. Abe, H. Terao and T. Nhat Tran, Journal of Algebraic Combinatorics 54 (2021), No.1, 353--379.

コメント:

43. Addition-deletion results for the minimal degree of logarithmic derivations of hyperplane arrangements and maximal Tjurina line arrangements, T. Abe, A. Dimca and G. Sticlaru,  Journal of Algebraic Combinatorics 54 (2021), No.3, 739--766.

コメント:

44. Locally heavy hyperplanes in multiarrangements , T. Abe and L. Kuehne, Journal of Pure and Applied Algebra 226(1), 14pp.

コメント:32の局所的に重たい版をやはりKuehneさんとやった。ちゃんとは確認していないが、32のへんてこな議論は不要になっていると思う。とはいえこの論文でも、斎藤行列の小行列式を巧みに扱うというへんてこな議論を使ってはいる。

45. Roots of the characteristic polynomials of hyperplane arrangements and their restrictions and localizations, T. Abe,  Topology and its Applications 313 (2022), Paper No. 107990, 13pp.

コメント:自由配置の指数と制限配置の(それが自由である場合の)指数の関係は謎である。元の配置と制限配置が自由であっても寺尾の加除定理の枠組みに入らないケースは割とあって(三次元の場合はほとんどそう)、そういう場合の加除定理ってどうなるのか、という疑問があって、その第一歩という感じ。それらの指数にある種の制限が入ることを示した。またより謎な話として、自由配置の局所化は自由だけど、その局所化自由配置の指数と元の指数の関係はさっぱりわからない。それに対してもある種の解答を与えた。ただこれはまだ不完全なので、もうちょっと考えないといけない。

46. On some freeness-type properties for line arrangements, T. Abe, D. Ibadula and A. Măcinic, Annali della Scuola Normale Superiore di Pisa, Classe di Scienze, accetpted. arXiv:2101.02150 (2021)

コメント:

47.  Addition-deletion theorem for free hyperplane arrangements and combinatorics. T. Abe, Journal of Algebra 610 (2022), 1--17.

コメント:剰余定理の流れで書いた論文その3。除去定理が組み合わせ論的であることを示したのでじゃあ加法定理は?という自然な疑問を解決した。ただこれは除去定理とはかなり違って証明に相当苦戦した。2015年に剰余定理をやってその後すぐに加法定理はどうかというこの問題を考えたが、実は全然できなかった。2016年にブレーメンに行ったときとかずっと加法定理を考えていた気がするが、結局二年くらい進展がなくて、そこで切り替えて除去定理をやったのが2017年。そっちもちょっとは考えたが、割とすぐにできた。そのあと加法定理に戻ったけどやっぱり一年何もできず、むしろ加法定理は組み合わせ論から決まらないのでは、と思い始めていたところ、バンフ滞在中(この滞在は時差ボケがひどすぎて夜まともに眠れたのが帰国する前の日しかなかった)の最初の夜に急にチャーン多項式の重根の数を使うという、なぜ思いついたかわからない謎の証明を思いついて、それで一気にとけた。これにより空集合配置から加法定理だけで構成した自由配置に対しては寺尾予想が正しいことが分かった。加法的自由配置と名付けたクラスで、これと剰余的自由配置を合わせたクラスがリーズナブルに寺尾予想が正しい最大のクラスだと思う。通してたぶん三年くらい考えていた問題だけど、長いこと考えているとこういうこともある(大体は全く解けないままだけど)。これものちにDenhamさんと書いた対数的微分形式のほうのSPOG定理と絡めることでシンプルな証明ができた。ただこの論文の証明方法はかなりユニークなので、ちゃんと読み返したら違う応用があるかもしれない。

48. Generalization of the addition and restriction theorems from free arrangements to the class of projective dimension one, T. Abe, Algebraic Combinatorics, accepted.  arXiv:2206.15059 (2022)

コメント:元の配置と制限配置が自由であっても寺尾の加除定理の枠組みに入らないケースの加除定理をある意味で構築した論文。除去する場合はSPOGなことが38で分かっていたけど加えるほうは相当意味不明で、実は自由配置にgenericな超平面を加えると射影次元は一番高いところまで上がってしまう。ある程度条件を付けて加えたものあがSPOGになる十分条件を一つ得た。この中で重要なのはたぶん、自由配置とSPOG配置が隣り合っている場合のそれらの指数とレベルの関係づけで、これは使える結果だと思う。

49. Addition-deletion theorems for the Solomon-Terao polynomials and B-sequences of hyperplane arrangements.  T. Abe, Mathematische Zeitschrift 306 (2024), no. 2, 25. 

コメント:Solomon-Teraoの公式という、対数的ベクトル場と超平面配置のポアンカレ多項式を繋ぐ、業界では非常に有名な公式があり、その理解をしたいとずっと思っている。理解というのは、この公式は対数的ベクトル場からある二変数多項式(Solomon-Terao多項式)が構成出来て、そのある特殊化がポアンカレ多項式になるというものなのだが、では「他の特殊化は?」や「そもそも二変数多項式自体の意味は?」という部分がずっと気になっている。これに初めて切り込めたのがCrelleに2020年に掲載された論文で、そこで共著者たちと一緒に正則冪零Hessenberg多様体のポアンカレ多項式とSolomon-Terao多項式の、Solomon-Teraoの公式とは違う特殊化をした多項式(reduced Solomon-Terao多項式)一致することがわかった。実際はより強くreduced Solomon-Terao多項式をHilbert多項式に持つ、Solomon-Terao代数が対数的ベクトル場から定義出来てそれが正則冪零Hessenberg多様体のコホモロジー環と同型になることが分かったという流れである。

ただそれはイデアル配置という良い配置の場合だけで、これは自由配置なので対数的ベクトル場の扱いが極めて容易であった。では一般の(reduced)Solomon-Terao多項式はどうか、という問いは、JMSJに掲載された共著者たちとの論文で調べた以外、まったく進んでいなかった。それはひとえに、(reduced)Solomon-Terao多項式の計算が難しすぎるからである。自由配置以外ではほとんど計算例がなく、なのでほとんど何もわかっていない。それは何に起因するかといえば、Solomon-Terao多項式の定義に出てくる高次の対数的ベクトル場のことが自由でない場合は全然わからないからであった。ここに手を付けたのがこの論文で、自由配置に、制限が自由配置であるもの、という強い条件は必要であるが、その状況であればSolomon-Terao多項式の加除定理が成立し計算可能であることを証明した。やっと少しだけこれらが計算できる範囲が広がった。

その手法は2020年からずっとやっている射影次元を用いたEuler制限射の全射性に関する定理(free surjection theoremあるいはprojective dimensional surjection theorem)に、いつものEuler列、及び今回定式化したB列を組み合わせる手法である。B列は1980年に寺尾先生が証明した自由配置の加法定理に出てくるB多項式とほぼ同じで、それを完全列を用いて定式化すると、高次対数的ベクトル場に対してもB列が定義出来る、ということがわかった。これを用いると、p次の対数的ベクトル場は、(p-1)次の制限された対数的ベクトル場と関係していることがわかって、昔証明したfree minus one配置がSPOG配置になるという事実に、制限配置の代数的構造の情報が不要である理由がはっきりしてそこがうれしかった。

50. Vertex-weighted digraphs and freeness of arrangements between Shi and Ish, T. Abe, T. N. Tran and S. Tsujie,  European Journal of Combinatorics 118 (2024), 103920.

コメント:

51. A Hodge filtration of logarithmic vector fields for well-generated complex reflection groups, T. Abe, G. Roehrle, C. Stump and M. Yoshinaga, J. Combin. Alg., acceoted. arxiv:1809.05026 (2018)

コメント:Roehrleさんたちが斎藤先生の原始微分をwell-generatedなケースに拡張したので、そのちょっと動かす番をやった。2018年のOberwolfachでやった気がする。

52. Projective dimensions of hyperplane arrangements, T. Abe, Trans. AMS, accepted. arXiv:2009.04101 (2020)

コメント:剰余定理の流れで書いた論文その4であるが、どちらかというと41の流れで書いた論文というべきかもしれず、さらに正確に言うと41の中でimplicitに証明したfree surjection theoremの流れというべきかもしれない。この流れは2020年以降、剰余定理及び二重点定理の流れとして継続し、関連した論文を相当書いている。48、49、54、56、57はすべてその流れで、オイラー制限が思っていたより全射になる、それが判定できるということが分かったというのがすごく大きい。

この論文はコロナ禍に入った直後の3月、出張もすべて中止になり時間ができたので、free surjection theoremを定式化してみたら自由配置周りの配置の射影次元が相当計算できるのでは、という気付きを得て始めたもので、かなりいろいろな結果が出てきた(おかげでこの論文はかなり長い)。ただ、4月になるとコロナ対応で猛烈に忙しくなって細かい所を詰めるのに時間がかかり、まとめたのは9月になってからだった。この論文から、最近(2024年付近で)ちょっとだけ流行っている、対数的加群の射影次元の研究が始まったと思う。以前もgeneric配置やグラフ配置で散発的には行われていたが、組織的な研究はこれからだと思う。ただこの論文の中で何が一番強力かと言われれば、定式化されたfree surjection theoremという気もする。これと多項式B、今なら49のB列がわかっていれば論文はかなりいろいろと書ける気がしてます。

53. Free reflection multiarrangements and quasi-invariants, T. Abe, N. Enomoto, M. Feigin and M. Yoshinaga, arXiv:2112.06738 (2021)

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54. Deletion-Restriction for Logarithmic Forms on Multiarrangements, T. Abe and G. Denham, arXiv:2203.04816 (2022)

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55. Free paths of arrangements of hyperplanes, T. Abe and T. Yamaguchi, arXiv:2306.11310 (2023)

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56. Projective dimension of weakly chordal graphic arrangements. T. Abe. L. Kuehne, P.  Muecksch and L. Muehlherr, arXiv:2307.06021 (2023)

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57. On Ziegler's conjectures for logarithmic derivations of arrangements, T. Abe and G. Denham, arXiv:2307.08173  (2023)

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58.  Worpitzky-compatible sets and the freeness of arrangements between Shi and Catalan, T. Abe and T. Nhat Tran, arxiv:240317274

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59. Cokernels of the Euler restriction map of logarithmic derivation modules,  T. Abe and H. Kawanoue, arxiv:2406.00305  

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