第 12回学術集会の報告
【概要】
2020 年 2 月 9日(日)、東京都文京区・日本女子大学目白キャンパスの 新泉山館2 階 大会議室に於いて第 12 回学術集会を開催しました。大会長は吉澤一弥、運営委員長は三代果乃子、運営副委員長は三木基世が務めました。参加者の職種は医療職(医師、看護師)、心理職、福祉職、教育職、保育職、栄養士、大学院生や学部生などです。現場の実践家と大学の研究者などを中心に多機関多職種20名を超える集いとなりました。今回ご発表いただいた演者の方々、座長を担っていただいた方々、そして運営にご協力いただいた学会員や日本女子大学の院生、学生の皆様にこの場をお借りして御礼を申し上げます。
-プログラム-
・理事長講演 吉澤一弥「他分野を読み解く・児童発達心理学者ジョアン・デュラントのポジティブ・ディシプリンは日本の子育て文化に寄与しうるか?」
座長 西智子(日本女子大学)
・研究発表1・白井昭光(社会福祉法人茶の花福祉会 大樹館施設長)
「障がい児者の問題行動に対する法人内連携による対処~多機関連携による知的障がい児者の支援メソッド研究開発に向けて~ 」
座長 丸谷充子(和洋女子大学)
・研究発表2・國井紀彰(子ども食堂・ikebukurotable 代表)
「こども食堂の広がりとそれを支えるネットワークの意義」
座長:祓川摩有(聖徳大学 准教授)
・パネルディスカッション 大野やす子、吉澤一弥、國井紀彰
・茶話会
運営委員長による開会宣言の後、各セッションの座長により進行がなされました。理事長講演では、異分野・多職種の専門家の連携的活動「ストップ虐待・親支援のあり方検討会議」の紹介と体罰無きしつけを目指す子育ての研究ということで、「ポジティブ・ディシプリン」の読み解きが披露されました。著者のカナダの心理学研究者であるデュラントは、世界で最初に体罰禁止の法律を制定したスウェーデンの状況について研究し、その後国連の虐待調査の中心メンバーです。4つの段階のチャート、とくに子育ての短期目標が成人後の姿である長期目標との対立を、親が子育て場面で解決するという原理が注目されます。質疑では、発達障害に用いられているペアレント・トレーニングとの関連などが出されました。
研究発表1では、包括的な支援の枠組みが紹介され、他の施設で引き受けられない困難事例をキャッチし、支援してゆく実践が報告されました。中には最終的に施設の職員として職を得る場合もありました。質疑では、音楽療法的な部分に関して専門家から質問と助言がありました。
研究発表2では、こども食堂の実践経験が紹介され、見事な各種連携活動が展開されていました。注目を引いたのは、個々の支援の背景にある、ソーシャル・イノベーションを活動目標としている点です。行政のバックアップもあり、活動の展開の速さと拡がりが際立っていました。パネルディスカッションで、活動の詳細が補足され、連携の質と構造が明確にされたと思います。
茶話会では、ディスカッションが引き続き行われ、いつものように参加者が懇談する光景が見られました。
内容の濃い学術集会になったと思います。 (吉澤)
【印象記】
「第12回の学術集会に参加して」
大東文化大学 岩﨑淳子
第12回の学術集会に参加し、改めて子どもの最善の利益を守っていくことの大事さについて考える契機になりました。この言葉は子どもの教育福祉におけるあらゆる場面において使用され浸透してきていると思いますが、理念としての理解やそれらが意識化された実践という点ではまだすすんでいないような気がします。日本は近年国連から子どもの権利条約に反しているという勧告を受けています。親からの虐待、経済的貧困、障がいがあることで社会生活がしづらいなど、子どもの生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利が果たされていない状況があります。今回の学術集会の講演や発表された内容から、子どもの最善の利益を考えていくための学びや気づきが得られたといえます。
吉澤先生が講演されたポジティブディシプリンは興味深い内容でした。子育ての問題は対処的なHow toでは解決できません。近年「しつけ」と「虐待」の明確な区別がつきにくいと感じる親は多く、子育てに苦労している現実があります。また虐待とわかっていても、子どもの言動や行動にかっとなり、その一瞬が止められず虐待を繰り返してしまう自身の行為に苦しんでいる親もいます。虐待自体はいけないことですが、虐待に至ってしまう親の心情を理解してくれる支援者がいないと親自身も変わっていけないでしょう。本当に解決しにくい問題です。今回学んだポジティブディシプリンの4原則である、長期的な目標を決める、温かさを与える枠組みを示す、子どもの考え方・感じ方を理解する、課題を解決するに基づき、短期目標として目の前で起こるしつけの場面を親自身が軌道修正していくこと、それが長期的な目標に向かっていくための糸口となっていくということに親自身が気づくことが大事であるいう考え方は理にかなっていると受け止めることができました。長期目標を立てることで見通しを持ち子育てに向かい合っていくことができるのだと思います。しかしこれを親が理解して実践していくには難しさもあり、また時間がかかるでしょう。親自身がポジティブにこの考えを受け止めて自ら実践していくためのファシリテータの存在も不可欠となるでしょう。この考えが日本の文化に寄与しうるかという点については未知数であり、今回課題として出されたように、実行可能性を検討していくことが必要だと感じました。私もこの本を手に取って読みこんで理解を深め考えていきたいです。
「日本多機関連携臨床学会 第12回学術集会 印象記」
目白大学 川見夕希
2020年2月9日、日本女子大学で開催された日本多機関連携臨床学会第12回学術集会に参加させていただきましたので、ご報告させていただきます。
吉澤先生のご講演では、ポジティブ・ディシプリンが日本の子育て文化に寄与し得るかが議論された。ポジティブ・ディシプリンは、しつけにおいて感情的になり手を上げることなどを抑制する、または感情的になった際に冷静な思考に戻すことと結びつくのではないかと考えた。日本の子育て文化に寄与し得るかについては、フロアから出された「そもそもスウェーデンと日本では『自律』に対する考え方に文化差があるのではないか。『4原則と5つのキーワード』の図の読み解きが重要ではないか」というコメントが示唆的であった。
研究発表1では、法人内連携により障がい児者の生涯に渡る支援が可能となることがわかった。一度、法人から離れても再び戻ることができる場所があることは重要であると考えた。本事例の法人では、集団を重視した支援の中で自立が目指されており、集団活動の中では音楽活動も取り入れられていた。テンポに乗って動く(歩く、走る)活動においては、同質の原理に基づいていることがフロアからのコメントで示唆された。徐々に音楽に慣れる活動から集団での音楽活動への参加を促すなど、音楽により入所者の文化的な経験が広がっていると考えた。
研究発表2からは、子ども食堂が食事を提供する場所であるだけでなく、食を通じて地域のコミュニティーを形成する役割を果たしていることがわかった。パネルトークでは、子ども食堂の卒業(見通し)や子ども自身は誰と食べたいと思っているのか、支援の範囲など活発な議論が行われた。
第12回学術集会を通して改めて多機関連携の重要性を感じるとともに、常に機関同士の関係性やその中で編まれる人と人の関係性には変化が伴うため、その変化に応じて活動の調整や見直しを続けて行くことが重要であると考えた。
「研究発表とパネルトークを行って」
Ikebukurotable 國井紀彰
2月9日、日本多機関連携臨床学会の第12回学術集会に研究発表とパネルトークをさせていただきました。社会人になってから、このような機会に参加すること、加えて発表までさせていただく機会を頂戴することは無かったので、緊張と同時に光栄でした。
研究発表では、こども食堂とそれを支えるネットワークの意義について話をさせていただきましたが、こども食堂やネットワークの説明において、もう少し詳細に、より根拠をもって伝えることができたらと後悔が残りました。パネルトークは、私の拙い発表を補足できるもので、発表者としてはとてもありがたい時間に。そして、先生方からのご質問はとても本質的で、改めて自身の取り組みについて考えることができました。
学術的な世界に少しだけ片足を踏み入れた経験があるのですが、今回久しぶりにその世界を覗かせていただき、その中で改めて学問の重要性を感じました。先生方の前で学問について語ることがあまりにも愚挙であることを承知で述べますが、文科省のHPの中で、「人文学及び社会科学の学問的特性」について記されているページがありました。要約すると、<「自己」を認識すること→価値の相対性への気付き→他者との「対話」を通じた「認識枠組み」の共有=「普遍性の獲得」>となっており、この構造を御学会において強く感じました。また、この構造は、こども食堂のような市民が行う活動においても重要ではないかと思いました。
自身で団体を立ち上げて活動すると、どうしても自身の活動を絶対的に眺めてしまい、そうすると、他者との対話やその先の認識枠組みの共有などが疎かになってしまいます。ですが、先に述べた構造を把握しておけば、そうはなりにくい。こども食堂とそのネットワークの取り組みに置き換えると、<自身のこども食堂の活動について認識→他のこども食堂との違いを理解→地域においてネットワークを作り、参加し、他の団体と対話することにより、「こどもを地域で支えていくこと」という認識が共有される>。このサイクルを継続できれば、安易な絶対性に溺れることなく、「こどもを地域で支えていくこと」という私たちの普遍的な認識の実現に少しでも近づくことができるのではないかと思いました。
とても多くの学問的な刺激を得ることができました。これを無駄にしないよう、皆様のお力を借りながら、まだまだ学んでいきたいと思います。今回はとても貴重な機会を設けてくださり、本当にありがとうございました。
「研究発表を行って」
社会福祉法人茶の花福祉会 白井昭光
丸谷先生にお願いをして初めて参加頂けることになりました。私の所属している茶の花福祉会という社会福祉法人は障がい福祉を専門としています。私は約20年障がい者支援に没頭してきましたが、支援方法の確立に向け、分析を繰り返し行ってきました。しかし、行なってきたことを書面に明確に残してこなかったため、論文等のノウハウが乏しいため、勉強させて頂くことも含めて参加させて頂いています。
今回は前半の三桝優子先生の研究発表しか参加できませんでしたが、「連携」について各機関のそれぞれの立場を踏まえた上であらゆる角度からの視点を持ち、それぞれの角度からの課題点が大変勉強になりました。テーマは性的虐待への介入における連携であり方でしたが、虐待は障がい福祉分野でも大変問題になっています。同じように、介入における連携の課題や仲間同士の風潮が虐待隠蔽に繋がるような同じようなシチュエーションを感じました。
福祉制度は「地域共生社会」をスローガンに在宅志向に向かっています。また虐待防止に関して、ニュースを騒がす事件も多く研修や制度上の規制も大変厳しくなってきています。これらの条件が必然的に連携を要する事が多いため、各機関連携は活性化してきていると感じています。つい障がい福祉分野に寄ってしまいますが、あらゆる角度から視点を学びたいと思っています。今後とも宜しくお願い致します。
「第12回学術集会 印象記」
民間企業就労移行支援事業部 産業カウンセラー 今井裕子
日本多機関連携臨床学会は、私にとりまして多くの学びを得られる場所であり、社会の問題に真摯に取り組んでいらっしゃる方々の研究発表に自らの姿勢を正す機会でもあります。
今回の吉澤教授の理事長講演にて伺いました「ポジティブ・ディシプリン」は、私にとって初めて聞く言葉でしたが、その考え方は理解し易く、『親子関係において親子の対立や衝突場面を教えのチャンスとしてとらえている』(第12回学術集会大会論文集より引用)ことは最近の保護者の考え方に近く、迷いの多い子育て時代の核心となる考え方かもしれません。また、親子関係だけでなく、社会における人間関係においても有意義と考えられますが、ポジティブ・ディシプリンの意義を理解し実践するには難しいかもしれません。
研究発表「こども食堂のネットワークの意義」について、大変興味深く拝聴させて頂きました。池袋の子ども食堂IKEBUKURO TABLEを運営されている國井氏の活動は、日々の子ども食堂の運営だけでなく全国的な活動も視野に入れておられ、こども食堂の将来性が見えてきました。國井氏の子ども達に優しく寄り添う姿勢や、子ども達と高齢者の方との触れ合い、人としての成長だけでなく人生の最後まで考えられる機会を与えられる体制が整っていることに驚きました。
私は以前こども食堂の運営スタッフをしておりました。知的障がい者の支援を目的としていたため、運営側にも利用者にも知的障がい者の方やそのご家族が関わっていました。食事を通して社会性を身に付けることや、ご家族の相談、また一般の方に理解を広める場所でありました。本来の子ども食堂の意義とは異なる体制だったかもしれませんが、気軽に立ち寄って日頃の悩みを話して下さる保護者を助けることで、子ども達に笑顔の時間が増えるならば、それも一つの在り方ではないでしょうか。現在は運営会社の方針で現在は閉所してしまいましたが、再開されることを願っています。
最後になりましたが、学会を主宰して下さっている吉澤先生、学会を運営して下さっている事務局の方々にお礼を申し上げます。今回の学会を通じて多くの方とご縁が持てましたことを嬉しく思っております。
これまでの学術集会報告(PDF)