モノクロの夢の話をしよう。
「ワンコの夢は白黒なんだよ」
そう、馴染みの冒"犬"者はハルに言った。
彼女は首を傾げ、「白黒?」と聞き返す。
「そうだよ、色が無いんだよ!」
「……ふうん」
ハルはベンチに腰掛けたまま、隣の冒犬者を見つめた。
「どうして急に?」
「ハルが黒いドレスを着ているからだよぅ」
「ん……そっか」
ハルは困ってしまった。
――この日は同じ宿に所属する冒険者の葬式の帰りであった。
いつもなら真っ赤な服を着ているはずの彼女に、冒犬者が違和感を覚えたのも仕方ない。
でも、わざわざそれを伝えるのも気が引けた。
――悲しい別れではなかったはずだから。
ふと冒犬者を見ると、きょとんと首を傾げている。
「悲しい気分なの?」
「……そうなんだ。ごめんね、私と遊んでもつまらないかな」
「元気出して!」
冒犬者はハルの膝に手を置いて、ぺろりと舌を出した。
「ふふ、ありがとう、アルファ」
その頭を撫でた。
ふわふわしていて、温かかった。
「ハルは悲しいと泣いちゃうの?」
「そうだね」
「今は?」
「悲しいけど……なんだろう、泣く、とはちょっと違うんだ」
「そう?」
冒犬者アルファは「よいしょ」とハルの膝に乗った。
ふわふわしたお腹が温かい。
「ハルは笑ってた方がいいよぅ」
「ふふふ、君は本当に褒めるのが上手だね」
少し暗いところを向いていた視線が、明るい方向を向いた気がした。
宿に帰るといつもの仲間達が喪服もそのままに酒を煽っていた。
皆、顔に疲労と影を浮かばせている。
ハルは仲間達に「先に寝るね」と小さく声をかけて、宿の二階に上がっていった。
不思議と静かだ。普通なら酒に酔った者達も多そうなものなのに。
彼女はまた胸を悲しみに染めて、自分の部屋に滑り込んだ。
喪服を脱ぎ捨てて、下着のまま寝床に潜り込み、頭まで毛布を被る。
――いい人だった。
ベテランの冒険者だった。
宿では目立たなかったが、良い評判をよく聞く冒険者だった。
それを皆で送った。
葬列はしかし短く、彼が『冒険者』であることを如実に表していた。
「……ああ」
そうして自分も消えてしまうんだろう。
ぼんやりと考えながら、眠りに落ちた。
冒犬者(アルファ)と、そんな話をしたせいなのか――
ハルは白黒の夢を見た。
見慣れた宿だった。
カウンターと机。しかしそこにいるはずの宿の親父さんと娘さんは居ない。
ふと自分の服を見ると、いつもの赤いドレスであった。
「……」
白黒の中にたった一人、色を持った存在。
ここでは自分の方が場違いなのだ。
行儀悪くカウンターに腰掛け、ハルはその夢を眺めた。
「カイトは元気?」
「うん?」
買出しのために出向いた先で、カイトは顔見知りの冒犬者と出合った。
彼は嬉しそうにこちらを見上げている。
「元気だよ。どうしてそんなことを?」
カイトは荷物を降ろしてアルファと視線を合わせた。
「ハルがね、この前元気がなかったの」
「……葬式の日か」
「お葬式があったんだね」
「ああ……」
しゅんとしてしまったアルファに「そんな顔しなくていいんだよ」とカイトは小さく笑う。
「必ず死は訪れる。それが、悲しいものか、悲しくないかは人それぞれだから」
「カイトが居なくなったら、悲しいな」
「ありがとう。俺もアルファが居なくなってしまったら悲しいよ」
二人は並んで歩いた。
アルファは空の高い所を見て、「はふー」と息を吐いている。
「アルファ、今度俺達と一緒に薬草取りにでもいかないか。ハルが喜ぶ」
「うん!」
くるくると走り回っていた彼であったが、ふと「ハル、元気?」と尋ねた。
「……」
カイトは黙った。
それを見逃すほど冒犬者は鈍感ではない。
「何か、あった?」
「いや……具合が悪そうなんだ」
「風邪? それとも、お腹痛い?」
「……なかなか起きてこなくてな」
「寝ぼすけさん!」
アルファは喉を鳴らした。
「心配だね」
「ああ。あいつ、そんなに朝は得意じゃなかったが、最近昼まで寝ていることも多いし……それどころか、だんだん起きれなくなっているようで」
「……」
「疲れているんだって本人は言っていたから、少し休ませたかったんだが。何だか……」
「"失われている"?」
カイトの心臓はぎくりと高鳴った。
「なっ……」
アルファは無邪気にカイトを見上げている。
「どうして」
「……? そう思っただけだよぅ」
だとしたら、とアルファは俯いた。
「困っちゃったね。きっと、このまま起きられなくなっちゃう」
「……」
「やだな。ハルが起きないと、散歩のお友達が減っちゃうな。寂しいよ」
「……うん」
胸に何かがつかえて、上手く出てこない。
カイトはそんな思いでアルファを眺めた。
「今日も?」
「ああ……まだ、寝ているんじゃないかな」
「じゃ、起こしに行かなきゃ! 行ってもいい?」
「ああ。ハルもアルファが来てくれたら飛び起きるよ」
「ふふふ」
二人は宿までの道を歩く。
――アルファとは顔見知りだが、多くを知っているわけではない。
カイトは彼の背中を見ながら思う。
不思議な縁で出会い、不思議な感覚を持つ冒険者。
――どうして出会ったんだっけ? そう、確か彼が店番を……
「おじゃましまーす」
アルファは宿の扉を器用に開け、鼻をすんすんと鳴らしている。
「お部屋二階?」
「ああ」
ぽてぽてと歩きながら、彼は「こんにちは冒険者!」と顔見知りに挨拶している。
カイトは表情を引き締めた。
そんなアルファがハルを心配し、「失われている」と感じたのだ。
――何かある。よくないことが、絶対に。
「ハル、おはようの時間過ぎたよ! ハルぅ」
彼女は体を丸めてベッドに入っていた。
アルファがぺろりとその頬を舐めても、ハルは目覚めない。
カイトは急に不安になってその額に手を当てた。
「……大丈夫、良かった」
――自然な熱であった。
「うーん」
もぞもぞとアルファはハルの布団に潜り込み、「ハールー。起きてー」と鼻で彼女の頬を突いている。
「変なの」
「どうかしたか?」
「別なわんこの匂いがするよ」
「……どこから?」
「夢の中」
アルファはころんとお腹を向けて「カイトもお昼寝する?」と舌を出す。
「ハルが向こうで起きてるかもしれないよ」
「俺も夢が見れるかな」
「きっと見れるよ」
アルファはカイトの右の袖を噛んでハルへと引き寄せた。
「んしょ」
そして自分は真ん中で丸くなる。
「おやすみなさい、カイト」
「……ああ、おやすみ」
そう言われると、不思議と眠気が襲ってきた。
魔法だ、と気づいた時には瞼が重くなって――
気がつけば白黒の夢の中に居た。
「……ここは?」
見回せば、見慣れた宿の光景だ。違うのは、隣にアルファがいることか。
「誰かの夢の中だね」
彼はすんすんと鼻を鳴らし「ハルの匂いもする」と歩き始めた。
「おい、アルファ。何処に――」
「ハルを探しに行こうよ!」
「え? ……あ、ああ!」
夢の中だというのに、現実のそれと何も変わらなかった。
ただ、全ての「気配」が希薄で、現実感は確かにない。
「ここ、リューンじゃない……?」
いつもの宿だと思ってはいたのだが、出入り口を開けた先に広がっていたのは見慣れた街ではなかった。
もっと小規模な町だ。
持ち主の居ない猫車が寂しく転がっている。
「アルファ……ここは本当に夢の中なのか?」
「そうだよぅ」
「俺と君が、同じ夢を見ている、と?」
「そうだよぅ」
アルファは「むうん」と唸ってカイトを見た。
「よくない感じがするね。早く行こう!」
走るよと告げて、しかしとても緩やかな足取りでアルファは走り出す。
――とても可愛らしい。
カイトはアルファを追いながら町を見る。
『クィロスの町へようこそ』
『お土産にクィロスオニオンはいかが?』
「……クィロス。知らない町だな」
きっとリューンからは遠く離れているのだろうと考えた。
通りには誰も居ない。
人間も、鳥も、猫も、犬も。
何も居ない。
静けさが重く圧し掛かっている。
「待て、アルファ」
アルファがこちらを振り返った。
「どうしたの?」
「魔法の気配がする――」
「向こう? だったらハルの匂いがする方向だね」
「気をつけろ」
カイトは自らの剣――魔法の媒体――を引き抜き、その方向を睨んだ。
「強い、何かが……巣食ってる」
「違うよ」
「え?」
「きっと、夢見ているんだよ」
「……」
カイトは自身に存在しない直感を信じた。
「行こう」
「うん!」
きっとそこは金の穂の揺れる麦畑なのだろう。しかし今は白と黒の波しか見えない。
カイトはそこに足を踏み入れた。
夢であるならば。
そこに彼女がいるならば。
「ハル!」
彼女は何かに寄りかかって目を瞑っていた。
「ハルっ!!」
己の神経をハルとその周囲の異常に割きながら、カイトは彼女に駆け寄った。
「ハル、しっかりしろ……!」
触れて気づく。
彼女の着ているのは自分が買ってやった紅いドレスであるはずなのに、その裾が白黒に侵食されている。
「ハル、おはようの時間だよぅ」
アルファがぺろぺろと頬を舐めても彼女は目覚めない。
それどころか見る見る間に彼女は色を失っていく。
「っ……」
時間は残されていない。
『彼女を早く起こさなければ』。
カイトはハルを背負う。
まるで彼女の存在などないかのように軽い。
「くそっ」
毒づき歩き出そうとした時、ソレに気づいた。
自分に向けられている、真っ直ぐな殺意。
「……!」
白黒の視界が揺れ動いた。
まるで命を飲み込む濁流の様に。
そこにカイトは怒りの感情を視る。
「っ……」
進むのを躊躇したカイトの横で、アルファが吼えた。
「駄目だよ! ハルを巻き込んじゃあ!」
空間の歪みが強くなる。
「君の悲しみにハルを巻き込んじゃ駄目なんだよう!」
「『君』……?」
カイトはアルファの臨む方向を見つめた。
強い魔力――その向こうに確かに何者かの姿を捉えることが出来た。
視覚的にではない。もっと心のどこかでぼんやりと感じる、気配。
それが何なのか、否、誰なのかアルファには分かっているのだ。
「っ! アルファ、避けろっ!」
カイトの神経にどす黒い魔力が触れた刹那、虚空から鋭い物が飛び出して来た。
「うわあ」
それを飛び退くことで回避したアルファであったが、彼の元居た場所はざっくりと貫かれていた。
漆黒の茨の蔓、その先端に。
「危ないなぁ」
「大丈夫か」
「平気だよう」
カイトは背負っていたハルを片手で支え、虚空に剣を向ける。
「穿て、『魔法の矢』!」
切っ先から撃ち出された高密度の魔力が、黒い茨の根元に突き刺さった。
何かが焦げる臭いが生々しい。
「カイト、傷つけちゃ駄目だよ!」
「何故っ!」
「ここは夢の中だよ、あれを倒しちゃったら、出られなくなっちゃうよ!」
「はっ……」
冷静さを完全に失っていた。
ハルを何とかするつもりが、共倒れになるところだった。
アルファまで巻き込んで。
「なら――どうする。この数を、逃げ切るって言うのか?」
白黒の夢を突き破って現れる無数の茨が、カイトの死角を探して蠢いている。
「うーん」
アルファはじりじりと後退しながら「ハルと一緒に起きなきゃいけないんだけどなぁ」と眉間にしわを寄せた。
「カイトは鋭すぎるよ。裂いて、壊して、崩しちゃう」
「……なら、アルファ」
背中のハルを意識する。
「君達だけで逃げろ。俺は、ここでいい」
「何言ってるの!」
「ハルと君が戻れれば、それで」
「良くないよ! ぜぇったいに、良くないよ!」
アルファは吼える。
「ねぇ、『君』も分かってるんでしょう? カイトもハルも巻き込んじゃ駄目なんだよ、君の悲しみは――分かる、けれど!」
「アルファ。教えてくれ、『君』って誰なんだ」
「……! そ、そっか、カイトには『わんこの言葉』は分からないよね」
彼はぶるりと身を震わせた。
「あれはわんこだよ。これはその子の夢だよ」
「夢の主……」
「悲しいんだ。大事な人が居なくなって、悲しいんだ。でも、だからって!」
冒犬者は大きく吼える。
「だからって誰かを代わりにして良いことなんてないよ!」
空間が歪む。
白黒の世界が、黒へと傾いていく。
「ちっ」
自分が迎撃しなければ――そう覚悟を決めた時、
「……カイト」
と小さな声が耳朶を叩いた。
「ハルっ」
「……」
吐息。
それに気づいたのか、周りの風景もぴたりと動きを止めた。
「来た、んだね……」
「お前を起こしにな」
「ごめんね……心配、かけちゃって」
「馬鹿。そうじゃない……!」
彼女の手が、カイトの服を掴んだ。
「心配かけていると思うなら……絶対に、手を離すな」
「うん……」
彼女はうっすらと目を開けて空を見る。
「……ごめんね、私、君のパートナーには、なれないよ……起きなきゃいけない理由が、あるから……」
とたん、空間を震わせる慟哭。
びりびりと響く、悲しみの咆哮。
失ったものと、失うものへの焼け付いた感情。
「ハルは――渡すわけには、いかない」
くるりと剣を回し、空へと突きつける。
「絶対にだ!」
黒い茨が向かってくる。
「むぅ、駄目だったらー!」
アルファはカイトの前に躍り出て、その茨の切っ先に噛み付いた。
「むぐむぐ」
「アルファ!」
「むぐー!」
彼は必死に訴えようとしている。
しかしそれが伝わるとは、カイトには思えなかった。
「……カイト」
ハルの声がする。
その顔を見ることはできなかったが、容易に想像がついた。
――穏やかで、消えてしまいそうな、笑顔。
「あの子、相棒が死んじゃったんだって」
「……だから、お前を呼んだ、って?」
「寂しいって」
「俺だって寂しいよ」
カイトは襲ってきた茨を剣で叩き落しながら言う。
「むぐー!」
アルファも何事かハルに告げようとしているのだが、口に咥えた茨のせいでよく聞こえない。
「私も……いつか、消えてしまうんだなって考えたら……」
「ハル?」
「どうしても、離れられなくなっちゃって……馬鹿だね、私ったら」
「本当に大馬鹿だ」
カイトはその身に魔力を溜め始める。
「お前が死んだら俺が悲しむ。俺が死んだら、お前が悲しむだろう? そんなもの、ずっと先のことにしてやる――お前のそんな恐れが消えてなくなるほど、ずっとずっと先にしてやる」
「……」
「だから、……」
カイトは言葉を切り、「アルファ、やっぱりハルを頼む」と彼女の身を預けた。
「っぷは!」彼は一度茨を外し、「何する気なの?」と身を震わせた。
「俺は、大丈夫だから」
「カイト」
「信じてくれ」
アルファの頭を撫でる。
「言ってくれたじゃないか。居なくなったら悲しいなって」
「……絶対だよう?」
「ああ」
アルファはその小さい体にハルを背負った。
「……迷う魂をどうにかするのは、俺の役目じゃないのは分かってる」
剣が魔力の共鳴に震え始める。
「でも、アルファが救いたいというなら――俺だって!」
空間が、茨の力ではなく、カイトの魔力で歪む。
「それに応えてみたい……!」
茨は臆し、カイトから一斉に離れた。
きりきりと何かが軋む音がする。
「カイト……!」
ハルの呼び声、それに続く「ハル、動いちゃダメだよう!」というアルファの声。
「言いたい事があれば……出てこい、今、ここで!」
カイトの魔力の本流は、まるで鎖の様に茨に絡みつく。
「はぁあああああっ!」
剣を釣竿のように振り回し、鎖を手繰る。
「あ!」
アルファが吼えるのと同時に、空間から巨大な"前足"が出現した。
「カイト、あのわんこだ!」
「ああっ……!」
ばたばたと逃げようとする『彼』をカイトは魔力を集中させて逃がさない。
「どうして逃げる! ハルをパートナーにしたかったんだろう、なら傍に来い! それとも……失うことが怖いのか?」
『……!!』
「だから閉じ込めようと? ――そんなもの、パートナーじゃない!」
「そうだよう! こっちにおいでよう!」
頭が見えた。
それは黒い靄の塊だったが、確かに犬の顔をしていた。
「騙すようなことはもう駄目だよぅ――僕達、きっと、友達になれるよ!」
アルファは尾を振る。
「だって、君も冒犬者なんでしょう?」
その言葉は、やけに響いた。
夢の主はそれに呼応するように大きく吼え――
空間を抜け出して、カイトへと覆いかぶさるように飛びついた。
「っ!」
飛びのいたが、間に合わない。
「カイト――!」
ハルの悲鳴と、アルファの呼び声が重なった。
気がつくと、目の前に犬が座っていた。
きちんと足を揃えて、小さくちょこんと座っている。
あまり犬種に詳しくないカイトであったが、それがアルファとは違うことくらいは分かった。
「……」
彼は何事か言っているが、カイトにはその言葉が理解できなかった。
ただ――必死に、何かを訴えかけていることだけは十分理解できる。
「……俺もお前みたいになるのかもしれないな」
跪き、頭を撫でる。
「ハルを失ったら、どうにかして代わりを探そうとしてしまうんだろうな」
犬は気持ち良さそうに目を細めた。
「でもそれはきっと――俺も、ハルも、誰も幸せにならない」
思い出される葬列。
白と黒の葬列。
でもそれは、どこかでは非日常ではなく、いつもの色なのだと思い知らされた。
涙することではない。
悲しむことだけれど。
「お前、まだ生きてるんだろう? だったら、生きなきゃいけないな」
「……」
「きっと、こんなことをしていたら、お前の大事な人も、ゆっくり眠れないよ」
「……」
黒い瞳がカイトをじいっと見つめ、『彼』は一回だけ吼えた。
「――カイト!」
「……ん」
カイトが振り向くと、アルファがてこてこと歩いてくるところだった。
「おはよう、アルファ」
「おはよぅ。もう出発?」
「ああ」
「よかったー、間に合って」
「今回は長くなるから……ちょっと寂しくなるな」
「ねー」
アルファはにんまりと口を弓形に曲げた。
「あの子によろしくね」
「ああ」
「いきたかったなぁ、クィロス」
「仕方ない、アルファも仕事があるもんな」
「うーん、残念ー」
そのふわふわの頭を撫でていると、「カイトー!」と跳ねる声が聞こえてきた。
「皆準備できたってー!」
「ああ」
カイトは立ち上がり、「じゃあ、またな」と背を向けた。
「いってらっしゃーい!」
アルファの前足が、そんな二人を送る。
鮮やかな赤色のドレスが、カイトの隣で翻っていた。