渡辺研究室 


我々の研究室では情報理論の研究を行っています.特に,暗号•セキュリティに関連するテーマを主に取り組んでいます.近年の情報通信技術の発展に伴い,情報セキュリティは益々重要になってきています.現在インターネット等で広く使われている公開鍵暗号は現実的時間内には解読されないという意味での,いわゆる計算量的安全性が保証されています.一方,我々が研究対象としている情報理論的暗号は,攻撃者の計算資源に仮定をおかずに安全性が保証されることから,近年注目を集めています.しかしながら,そのような強い安全性を有するシステムを実現するためには,正規ユーザが相関のある信号を観測する等,様々なリソースを必要とし,それらのリソースを所望のタスクを実現するために如何に効率よく使うかといったことが重要になってきます.本研究室では,所望のタスクを安全に実現するための効率の理論限界を情報理論の立場から解明することを目指しています.

渡辺の経歴と業績については個人のページ参照.

研究室配属を希望する学生へ

当研究室は2015年2月に立ち上がりました.卒業研究配属を希望する学生は,以下のアドバイスを参考にして下さい.研究室見学は随時受け付けております(メールでアポをとって下さい).

当研究室では,主に理論研究を行っています.従って,論理的思考能力とある程度の数学的素養が必要になります.ただし,そんなに難しい数学を知っている必要はなく,学部の微積,統計,情報理論,情報セキュリティの講義で習ったことを理解していれば十分です.研究テーマごとに必要な知識は変わってくるので,今後習得していけば問題なく,数学を勉強することが好きであることが重要だと思います.

理論研究ときくと,難しそう,特別な閃きがないと研究が進まない等,敬遠してしまう学生もいるかと思いますが,そのような懸念は無用で,真理を追求したいという情熱があれば,誰にでもできることだと思います.理論研究といっても,学生の段階で独創的な理論を構築するといった必要はなく(学生でなくてもそのようなことができれば非常に幸運である),先行研究を補足•拡張するといった簡単なものでも,重要で魅力的な研究テーマは多数眠っています.また,理論的な結果だけでは十分な考察が得られていない場合,数値計算等を行うといった研究テーマも考えられます.卒業研究の段階では比較的簡単なテーマを選択し,進学するにつれ,徐々に高度なテーマに進んでいけば,将来的には世界トップレベルの研究をすることも可能です.

理論研究の魅力は,研究成果が長い間(場合によっては永遠に)残ることだと思います.例えば,物理学の基本原理は何百年も昔のニュートンの時代から(量子力学等,精密化はあったものの)変わっていないわけです.近年,情報通信技術はめまぐるしい早さで発展していますが,その根幹となる原理を解明しておけば,それはずっと使えるわけです.このような考えに賛同される方を歓迎します.

当研究室では海外の研究者とも共同研究を行っています.海外の研究者と交流したい,将来は海外に出たいといった方も大歓迎です.

学外から大学院生として研究室配属を希望する学生へ

本研究室では学外からの進学者も大歓迎です.基本的なアドバイスは学内の学生と同様です.大学院を受験する前に,渡辺に連絡し研究室見学を行って下さい.

現在,以下のようなプロジェクトに取り組んでいます:

秘密鍵共有

秘密鍵共有とは,正規のパーティ間で安全な通信を実現するための鍵(パスワード等)を共有する問題で,暗号における最も基本的な問題のひとつに挙げられます.現在インターネット等で広く使われている公開鍵暗号に基づく方法では,現実的時間内には解読されないという意味での,いわゆる計算量的安全性が保証されています.一方,我々の研究で対象としているのは,情報理論的に安全な鍵共有法で,攻撃者の計算資源に仮定をおかずに安全性が保証されることから近年注目を集めています.しかしながら,そのような強い安全性を有するシステムを実現するためには,様々なリソースを必要とし,それらのリソースを如何に効率よく使うかといったことが重要になります.我々の研究では,与えられたリソースから秘密鍵を効率的に生成するためのプロトコルの提案や,秘密鍵の生成効率の限界の探究を行っています.

秘匿関数計算

秘匿関数計算とは二人(もしくは複数)のパーティが各自データを所有している状況において,全員のデータを処理した関数値を,互いのデータの内容を開示することなく計算するためのプロトコルで,Yaoによる先駆的研究で導入されました.例えば,Yaoによって例示されたミリオネア問題では,二人の富豪が,互いの財産の額を開示することなく,どちらがより大きな財産を所有しているか判定します.このようなプロトコルは,仲介者を介さずにオークション等が実現できることから,注目を集めています.情報理論的に安全な秘匿関数計算の実現でも,鍵共有と同様にパーティ間で様々なリソースを必要とし,タスク実現のためのリソースの使用効率が重要な指針となります.我々の研究では,与えられたリソースを使って秘匿計算可能な関数の特徴付けや,秘匿計算の実現効率の限界の探究等を行っています.

分散関数計算•通信複雑量

分散関数計算や通信複雑量の問題では,二人(もしくは複数)のパーティが所有しているデータの関数値を,一方向もしくは双方向の通信を行うことで計算することを目的とします.この問題では,一カ所に集められたデータを処理するのではなく,データを分散処理することによって生じる困難性を解明することが目的となり,計算複雑量とも関連があることから,計算機科学の分野でも活発に研究されています.例えば,パーティAがnビットのビット列X=(X1,…,Xn),パーティBがnビットのビット列Y=(Y1,…,Yn)を所有している状況において,XとYの内積(ただし和と積はmod 2で行う)を分散計算するには,たった1ビットの出力(内積の結果)を得るためにA-B間でnビット以上の通信をする必要があることが知られています.我々の研究では,分散計算することが困難な関数の特徴付けや,必要な通信量を評価するための手法の開発を行っています.

多端子ネットワークにおける有限長解析

多端子情報理論とは,多ユーザネットワークシステムの効率を解析するための理論で,近年の無線LANや携帯電話通信網のような,多数のユーザが参加する多入力•多出力のネットワークの発展に伴い,益々注目を集めています.また近年,情報理論では「有限長解析」や「二次オーダ解析」と呼ばれる手法が活発に研究されています.学部講義で習う情報理論では,遅延を許容し,十分に長いブロック長で符号化した際の通信システムの性能解析(通信路容量やエントロピーによって特徴付けする)を行います.一方,有限長解析や二次オーダ解析では,遅延を考慮し,有限のブロック長で符号化した際の性能を(近似)解析します.我々の研究では,有限長解析や二次オーダ解析の手法を多ユーザネットワックに発展させるための研究を行っています.