3つの主要な研究テーマに興味を持って,日々研究に取り組んでおります!
最近は,ベイズ統計学とのコラボレーションにも興味を持っております.
これらのテーマに関心がある方や,疑義・議論点がある方は,お気軽にご連絡ください.
傾向スコア法とその実践上の問題解決
傾向スコアは Rosenbaum and Rubin (1983) で提案されて以降,多くの理論的な研究がなされ,また多くの実データへの適用がなされています.逆確率重みづけ (IPW) 推定量は,傾向スコアを利用する推定手法の一つであり,Augmented IPW (AIPW) 推定量などに拡張可能です.
IPW推定量の問題点として,傾向スコアの逆数で重みづけるため,0や1付近に傾向スコアが多く分布する状況 (poor overlap) では不安定になる可能性があります.一つの解決戦略として,推定対象を平均治療効果 (Average Treatment Effect; ATE) から ATE for the Overlap population (ATO; Li et al., 2018) に修正する方針があります.Orihara et al. (2024) では,ATOに対するAIPW推定量の一つを構成し,その理論的・数値的な性能を評価しました.興味深い結果として,ATOに対するAIPW推定量の精度は,IPW推定量のそれと大きな差異がないことがわかりました.合わせて,Orihara et al. (2024) では傾向スコアモデルを複数用意することによる,多重頑健推定量の構成可能性を議論しています.
関連する話題として,IPW推定量でしばしば利用される (傾向スコアの変動を考慮しない) ロバスト分散推定量を使用すると,ATE以外の推定対象に対する漸近分散に基づく信頼区間は,必ずしも保守的にならないことを証明しました (Orihara and Taguri, 2025).この結果は,Cox MSMモデルにも拡張可能であり,同様の議論が成立します (Morita et al., 2026).
層別推定量にも関心を持っております.Imbens and Rubin (2015) でも議論されている通り,層別推定量はIPW推定量の近似推定量とみなすことができ,IPW推定量よりも安定的にATEを推定できる可能性があります.Orihara and Hamada (2021) では,層別推定量の層数をMSEの観点で選択する,新たな規準を提案しました.しかし,これでは選択したことを考慮した統計的推測が困難です.そこで Orihara and Momozaki (2025) では,ベイズ統計学の枠組みを利用することで,その不確実性も考慮した新たなベイジアン層別推定量を提案しています.
未観測交絡因子の問題解決
未観測交絡因子の問題は,観察研究でよく遭遇する重要な研究テーマです.
操作変数 (IV) 法は,未観測交絡因子が存在しても適用可能な統計解析手法です.妥当なIVがあれば,いくつかの仮定の下で因果効果を識別・推定可能ですが,直接アウトカムと関連するような妥当ではないIVを事前に除外するなどの,適切な対処が必要です.Orihara et al. (2024) では,Negative control outcome (NCO) を利用することで,妥当ではないIVを解析から除外できる,新たな方法を提案しました.合理的なNCOがあれば,提案法は過不足なく妥当ではないIVを除外できることを示しており,その意味で既存手法より頑健な方法となっております.また Orihara et al. (2026) では,媒介変数と関連するIVを利用することで,媒介変数とアウトカム間に未観測交絡因子が存在しても制御された直接効果 (Controlled Direct Effect; CDE) を適切に識別・推定可能な,新たな二重頑健推定量を提案しました.
IV法は,一般には生存時間型アウトカムへの適用が困難であり,更なる方法論開発が望まれます.Orihara et al. (2025) では,計量経済分野でよく利用されるControl function法をベースとした,Cox回帰モデルに適用可能な新たなIV法を提案しました.しかし,パラメータ識別条件が非現実的です.そこで Orihara et al. (2026) ではまず,(未観測) 交絡の新たな捉え方として,データに存在するクラスター構造から交絡が生じる,という考え方を検討しました.このとき,そのクラスター構造を特定しつつモデルを構築することで,(未観測) 交絡因子の影響を調整しながら適切な治療効果 (ハザード比など) を推定する,nonparametric Bayesianに基づく方法を提案しました.クラスター構造が存在しなければ,もちろん提案法は機能しませんが,通常我々は未観測情報を特定することは困難なため,合理的な解析法の一つであると考えております.
HP作成者の独断と偏見が詰まった,未観測交絡因子への対処法に関するフローチャート (2024.11.13作成)
ベイズ統計学と因果推論の融合
最近は,Bayesian causal inferenceにも興味を持っております.特に,傾向スコアを利用する際に生じる,feedback problemの問題解決に取り組んでおります.本質的な問題は,傾向スコアとアウトカムの「同時」尤度を考えなければならない点にあると考えており,それを合理的に解決しうるアプローチに着手しております.Orihara et al. (2025) では,最初に傾向スコアとアウトカムモデルの事後分布を個別に構成し,それをEntropic Tiltingを利用して事後的に結びつける,Posterior coupling法を新たに提案しました.提案法は合理的な結果を示しており,feedback problemの解決方針の一つとして考えることができます.