第47回 お粗末すぎる96条改憲に始まる実情

Post date: 2013/07/13 13:09:27

お粗末すぎる96条改憲に始まる実情

凧九(ニチメン出身)

改憲手続きを定めた憲法96条は、改憲案の発議には、衆参両院の総議員数2/3以上の賛成が必要だ、としています。これを2/3から「過半数」に変えて、改憲をしやすくする、というのが自民党の主張です。この夏の参議院選挙の争点の一つに挙げました。

「96条の会」設立のニュ-ス

先月23日のことでした。早稲田通りを歩いていると、ふと新聞の大きな活字が

目に入りました。早速買って読むと、「改憲・護憲派声そろえ、96条守らねば憲法破壊」という見出しです。東京新聞でした。

改憲を主張する学者も、護憲を主張する学者も、各自の主張を越えて、共に96条の改憲は反対だと「96条の会」を立ち上げた、というニュースです。意見の違う研究者たちが、一つにまとまるということは、稀有なことです。それほどの危機が 現実になってきているということでしょう。憲法学と政治学の研究者でつくるこの「96条の会」の発起人の一人、小林節教授は、有名な改憲論者です。

彼は「『憲法を国民に取り戻す』と言いながら、権力者が国民を利用しようとしている」と安倍首相を批判。国民の義務規定を増やした自民党の憲法法案についても「憲法は国民でなく権力者を縛るもの、という立憲主義を理解しておらず、議論にならない」と切り捨てた、と新聞は報じています。

立憲主義憲法ということ

「立憲主義」という言葉は、あちこちで耳にすることが多くなっています。憲法を理解するうえで、重要な言葉です。立憲主義とは、「個人の権利・自由を確保するために、国家権力を制限すること」で、この考えに基づいて現憲法が造られています。簡単に言えば、小林教授の言っているように、「憲法は権力者を縛るもの」です。ところが、自民党の憲法法案は、「国民を縛るもの」に変えているので、小林教授は怒っているのです。

しかし現憲法が、立憲主義憲法であることを知らない議員が多いようです。こと

に改憲を主張し自民党の改憲案を作成した人たちが、知らないというのは驚きます。その例を見てみましょう。

ケネディ演説から憲法を作った?

1) 自民党改憲案の起草委員会メンバーである片山さつき参議院議員とツイッターでやりとりしたという想田和弘(映画作家)氏が、その様子を次のように公表しています。

片山 「国民が権利は天から付与される、義務は果たさなくていいと思ってしまうような天賦人権論をとるのは止めよう、というのが私たちの基本的考え方です。国があなたに何をしてくれるのか、ではなくて国を維持するには自分に何ができるか、を皆が考えるような前文にしました!」

想田 「こんな考えで憲法が作られたら戦前に逆戻りだってことに、本人も気づいていない」

片山 「戦前?!これは1961年のケネディ演説。日本国憲法改正論議で第3章、国民の権利及び義務を議論するとき、よく出てくる話ですよ」

想田 「国のために国民が何をするべきかを憲法が定めるなら、徴兵制も玉砕も滅私奉公も全部合憲でしょう。違いますか?また、ケネディの就任演説と憲法の前文を同レベルで論じることそのものが、驚愕です。憲法と演説は違います。 つーか、そのケネディ演説ですら天賦人権説を採っているんですよw。あなたみたいな不勉強で国家主義的な政治家が出てくることを見越したから、第97条が日本国憲法には盛り込まれたのでしょう。あなたがた自民党改憲チームが97条を削除したのも頷けます」

片山 「国家のありようを掲げ、国家権力がやっていいこと、統治機構などを、規定。私は芦部教授の直弟子ですよ。あなたの憲法論はどなたの受け売り?」

想田 「だったら先生の本くらい読めばいいのに」

以上の議論から想田氏は≪彼女が「立憲主義とは何か」を全く理解していないか、理解しているけれども積極的に放棄したいか、いずれかであることが窺えます≫と述べています。

ちなみに、芦部信喜は、日本の憲法学の泰斗です。日本映画でいえば、黒澤明や

小津安二郎に当たるといえば、分かり易いでしょうか(想田)。

そして、近代立憲主義では、憲法とは「個人の権利・自由を確保するために国家権

力を制限する」(芦部信喜『憲法』岩波書店)ものであると位置づけられています。

2) 自民党改憲案の起草委員会事務局長の磯崎陽輔参議院議員は、

「立憲主義」という言葉について、学生時代に「私は、芦部信喜先生に憲法を習い

ましたが、そんな言葉は聞いたことがありません。いつからの学説でしょうか」

とツイッターでつぶやいていました。(2012年5月28付)

3) 2013年3月29日の参議院予算委員会で、民主党の小西洋之議員が安倍首

相に質問しました。個人の尊重を謳い人権の保障を包括的に定めている条文は何か? 首相は答えることができませんでした。憲法13条を問うたのです。

安倍首相は、芦部信喜についても問われ、「私は憲法学の権威でもございませんし、学生だったこともございませんの、存じ上げておりません」と答えました。

青井未帆(学習院大学教授)氏は、このことにふれて ≪もしかすると憲法の一

般的な教科書も読まずに、憲法を改正しようと気勢をあげているのではないかとの疑念もわく。改憲に臨む態度としてあまりにも真摯さに欠ける。驚きを通り越して、すっかり悲しくなる≫といいます。このように、自民党などによって、九条と同じくらい重大な立憲主義と人権規定の改悪がされようとしています。私たちは、自民党改憲案を中心に、改憲の内容と問題点を知ることが必要です。そして、様々な人たちと話し合ってゆきましょう。 以 上