第43回 ダイヤのお竜 【ミュージカルドラマ・「glee」讃】

Post date: 2012/08/11 12:40:38

ダイアのお竜

いま、米ドラマ「glee」(NHK2ch.Eテレ。土曜日、午後11時〜12時。放映中)がいい。オリンピック中継のために放映なしだったりすると、オリンピックを呪いたくなる。

アメリカの地方高校のグリークラブ(ロックミュージカルをやるようなクラブ)の話で、落ちこぼれの集団という設定にしては高校生たちの歌もダンスも上手くて、出演者たちは厳しいオーディションで選ばれた精鋭たちであることがわかる。

このグリーは、ゲイ、黒人、ユダヤ系、アジア系、ヒスパニック系、車椅子の障害者と、「アメリカの差別」を抱えているメンバーばかり。白人で美人の女の子もいるが、妊娠してしまって人気者から脱落してしまう。みんな哀しい「負け組」だ。

かかわる教師や親たちも、病的な潔癖症で異性との交際に支障があったり、異常な出世欲に溺れていたり、不妊に悩んでいたり、過食症だったりとそれぞれ鬱屈を抱えている。

「幸せいっぱい」の人物など一人も登場しない。毎回辛口のドラマが続く。

と言えば、暗い内容となるのが相場だが、どうしてどうして、笑いっぱなしの1時間。

ミュージカル好きで、ヒューマンドラマ・ファンの私にはなんとも堪(こた)えられない。少し前の「ビバリーヒルズ高校白書」もよかったが、「アメリカ社会の弱者たち」を主人公にした「glee」は、「ビバリー」にない視点が映えるドラマ作りで、その違いにアメリカ社会の深化(あるいは変化か)を見る思いだ。世界中の警察みたいに軍隊を送り続けているのもアメリカだが、こんなドラマを作れるのもアメリカ。この国の懐の深さだ。

さて第一話。(4月7日放映)

潰されそうなgleeクラブの指導者に就任し、生徒とともに部を盛り上げることに生きがいを感じ始めてシュースター先生だが、それもつかの間、教師をやめなければならなくなったというところからドラマは展開する。やっと落ちこぼれの生徒たちが「やる気」をおこし猛練習を始めた矢先だったのだが、妊娠した先生の妻が今後の生活費のために会計士に転職しろというのだ。先生は不本意ながら、辞めることを決意する。

夢・・そもそも彼はミュージカルスターを目指していた・・と現実のギャップに苦しむのは洋の東西を問わない。自由の国・アメリカの不自由!

そんなシュースター先生に、彼を密かに愛する女性教師は言う、「生まれてくるあなたの子どものためにも、あなたはやりたいことを貫くべきではないか」と。

彼が教職に踏みとどまる決意をするところでこの回は終わる。

単純な話とは言え、初回から「生きることの意味」を問う秀作に仕上がっていた。

毎回の歌とダンスシーンの素晴らしさも特筆されていい。

つい先日の8月4日の回では、オリビア・ニュートン・ジョンがゲスト出演して、悪役キャラ満開の女性教師・スー先生と例の「フィジカル」を歌い踊る美しいシーンがあった。

ビートルズ、マドンナ、MC・ハマー・・・そしてアギレラ、ガガ、etc.が歌ったキラ星のような名曲の数々を、生徒たちや教師たちが歌い上げる。選曲がいい。

例えば、差別をテーマにした回では、「イマジン」がコーラスされるといった風に。

歌がドラマを盛り上げ、ドラマによって歌の意味が新たに深められる。

全米でNo.1の人気ドラマで(2009年放映)、サントラのCDも全て売上げ第一位だったそうだが、さもありなん。

「glee」はともすればモノクロになりそうな毎日を、鮮やかな色に変えてくれる、魔法の青春ドラマだと思う。