第38回 ニチメン出身 凧九 【「団結」という言葉は新鮮だ、というんです】

Post date: 2011/08/25 11:17:04

「団結」という言葉は新鮮だ、というんです

ニチメン出身 凧九

なだいなだ氏と雨宮処凛(かりん)氏との対談を読んだ時に驚いた。

雨宮氏が「私たちにとって団結という言葉はとても新鮮です。」と言っている。当時33歳の雨宮氏は、就職氷河期世代の一人、1975年生まれの作家だ。

かつて、私にとっては「団結」という言葉は、とても親しいものだった。

労働者・組合員の「団結」であった。

しかし、やがて労働組合運動が低迷し、衰退してゆくと、「団結」という言葉も遠くなり、まれに耳にするようになる。私が会社を退社して、家にいるようになったから、聞こえてこなくなったのかもしれないが、「団結」という言葉も死語になったようにさえ思われた。こうしたなかで、現在の格差社会への道が、少しづつ準備されていたのだろうか。「労働者」も「団結」も、若者のなかでは、古臭い言葉、あるいは忘れられた言葉になっているだろう、と思っていたから、「団結」という言葉が新鮮だと語られることは、私にとってまさに新鮮な驚きだった。

彼女は続けて次のように言う。

「周囲の人間は競争相手だ、という教育を、生まれたときからずっと受けてきましたから、むしろ団結なんて悪いことという感じでしたね。競争原理のなかでは、人を思いやったり優しさを見せるということは、自分がそのまま引きずりおろされるということを意味しています。そんな強迫観念的な状況の中で、みんなすごく疲れている。だから、団結や連帯という言葉は、ほっとする安心感を与えてくれる新鮮な言葉なんですよ。ばらばらに分断されて、隣人は蹴落として少しでも先に行くことが市場価値だという状況のなかで、若い世代が団結できなかったことも事実だと思います。

それが、周囲の友人からホームレスになる人が出るような現実が起こり始めて、どうやらその背景には派遣法「改正」だとか、小泉政権で進められた規制緩和などが絡んでいるようだと気づき始めて、情報が共有され始めた途端に団結が可能になってきた。それは2005年頃からのことで、ちょうど景気が回復してきたと言われた頃です。」

「団結」や「連帯」を「ほっとする安心感を与えてくれる新鮮な言葉」として捉える世代、あるいは若い人たちが出てきた。

その人たちは、言葉だけではなかった。

「最近、ガソリンスタンドがどんどんセルフ化していて、そのために首を切られる人が増えています。20代の知人も非常に労働時間を減らされ、その収入で暮らしているのに、月給が8万円くらい減ってしまいました。アルバイトの労働時間を減らし、その穴を正社員がサービス残業で埋めている。過労で事故を起こして怪我をする人もいる。その現状に疑問を持ち、彼らはユニオンを結成しました。が、労組結成を通告したら、すぐに解雇通知がきたんです。自分たちの権利をもとに交渉したんですが、解雇を撤回しないので、解雇予定日に皆で乗り込んでいって占拠してストライキをしました。それでも解雇が撤回されなかったので、労働審判に持ち込み、つい先日、解雇を撤回させました。」

こうした行動のなかでこそ、「団結」も「連帯」も、「新鮮なもの」として捉えることが出来たのだろう。言葉だけが、単純に蘇るものでもない。

「フリーターは、労働基準法に守られていないと思っている人も多いし、雇う方も、フリーターならいつ首にしてもいいと思っている場合があります。昔のフリーターと違って、今は正社員になれないので、バイトの収入で生活をまかなっている人が多い。首にされたら本当に生活に困ってしまう。そういった一番不安定な立場に置かれた人こそ労働組合が必要なのです。フリーターでも二人集まれば組合が作れるということや、団体交渉もできるという情報を広めています。経営側がそういう意識なので、あちこちでアルバイトが解雇されていますが、ユニオンをつくって解雇を撤回される例が増えています。いきなり解雇されたその日のうちに、いきなり組合を作った、<名古屋いきなりユニオン>という組合もあります。

組合が立ち上がったら、皆で応援する雰囲気が出てきているのが、とてもいいですね。」

この明るい行動力には、脱帽だ。

行動せざるおえないところまで、追い詰められているという側面もありながら、その現実を打ち返すエネルギーがある。

以前、小林多喜二の小説『蟹工船』が、若い人たちにずい分読まれていると話題になった。どうしてだろう、と私は疑問に思ったものだが、雨宮氏はそれについても説明している。

「二年ほど前に、フリーターの人たちとお酒を飲みながら、鎌田慧さんの『自動車絶望工場』の話をしていたんですよ。あれってすごく悲惨な話じゃないですか。でも、そのときみんなは「あれが羨ましい」って言うんですね。あの時代にはまだ直接雇用の道があったし、寮費はただだったし、給料もそこそこあった。でも今の派遣労働者は、自動車工場に行っても、期間工のさらに下に位置づけられていて、同じ仕事をしていても期間工より給料が少ない。むかしの暴力飯場でもテレビはただですよ。今の派遣の寮では、テレビも冷蔵庫もレンタル料を取られます。今のほうが、こまかく管理されてお金を取られている。直接雇用への道は閉ざされている。2006年、『自動車絶望工場』ですら憧れの話になってしまった私たちは、何を読めばいいのか、それはもうプロレタリア文学しかないんじゃないかという話になって、『蟹工船』が出てきました。「それってカニコーじゃん」と会話で出てくるようになったり、漫画化されたり、その漫画がネットカフェに置かれたりして、みんなが読むようになっていった。これって本当に自分たちと同じ状況だよねと。話の中に出てくる周旋屋というのは、まさに今の派遣業者そのものです。今は横文字になったりして洗練されているけれど、構造はまったく同じです。」

現実をよく知らなかったと思った。働く環境が苛酷になってきているのだ。

それにしても、「あまみや かりん」という人は、ずいぶんしっかりしている。

写真があった。その女性は、長い髪をさげた頭にちょこんと帽子をのせ、フリフリのワンピースと、膝まである横縞の長い靴下を履いて、胸に長いネックレスをたらしている。帽子を取って、エプロンでもつければ、秋葉原で話題になったカフェのウエイトレスで、「お帰りなさい、ご主人様」というセリフがぴったりしそうだ。

経歴に眼をやると、「作家、反貧困ネットワーク副代表」とあって、また驚いた。その姿といい発言や経歴といい、新しい時代が来ているのかもしれない。

以上