第14回 東邦商会出身 サーチン 【6人の女性たち】

Post date: 2011/08/25 6:18:45

6人の女性たち

サーチン(元東邦商会)

守芙美子さん、逆井征子さん、小関道子さん、本間節子さん、木村敦子さん、織田裕子さん、本当にあなた方はよく頑張った。心底から敬意を表します。知力、体力、気力を絞りぬいて闘ってきたこの12年半は、ずっしりと重く尊い時間として、6人の皆さんの人生に輝くような数ページとして残ることでしょう。

そればかりではありません。「女性が差別を認めさせるのはかくも辛いものであるか」(報告集会で志田弁護士が発言)と、実感のこもった言葉にもあったように、あなた方の長く辛い時間のおかげで、「(コース別の違法性を裁判所が認めて、女性差別の)やっと重い扉がギイーッと開きかけた」(黒岩弁護士)のです。あなた方は女性解放の先駆者として歴史に残る大事業をいま成し遂げつつあります。

女性差別の片棒を担がされているわれわれ野郎どもも、今後とも女性たちと手を携えて、開きかかった扉をもっと大きく開け広げなければならないと自覚を迫られています。

2008年1月31日、東京高等裁判所第101号法廷で西田裁判長の判決文の朗読が続けられています。裁判長の早口は耳を素通りするだけでなく、後期高齢者どころか今や終末期高齢者に片足突っ込んだ私の頭脳にも、ほとんど痕跡を残すことなく飛び去っていきます。

読み上げが始まっていきなり「取り消す」とか「却下する」という言葉に、“なぬ?”とばかり耳をそばだて、嫌な感じがしたのですが、間もなく名前と金額が読み上げられ始めました。おや、もしかすると、という期待に変わり始めました。

しかし、逆井さんと織田さんのお二人については、どうやら「棄却」されたらしい。

年寄りの繰言だが、どうも裁判官の文章というのはわかりにくい。センテンスとセンテンスを、日本語としてこなれていない関係代名詞で繋いでいくものだから、一つのセンテンスが長々と繋がっていくのです。専門家ならともかく、これじゃ普通の人にはわかりっこない、などと自分の頭の悪さを棚に上げ、腹の中で裁判官に悪態をつきながら聞いていると、時折り、「性の違いによって生じたもの」だとか、「違法な行為であり」だとか、「給与の格差を実質的に是正するものとは認められず」とかの言葉が、妙にはっきりと聞こえてきます。

おおっ、これは女性たち、やったかも・・・。

女性たちが勝利を収めたようだが、なんとなくそうでもないような煮えきらぬ気分で、裁判官が立ち去ったあと約百人の支援傍聴の人々とともに、私も椅子を立ちました。

6時半から弁護士会館で報告集会が開かれました。

まず原告の6人が順番に判決についての感想を述べます。

―男女差別があるということが認められて嬉しい。

―労基法4条違反を明言したのは画期的だし、差別が認められたのはよかった。

―問題はまだあるが、差別が認められたのはよかった。

―自分のことについては、切り捨てられて納得できないが、全体としてはよかった。

最初に挨拶に立った逆井さん総括します。1)コース別(賃金体系の裁判としては)初めての判決で、裁判所は差別を認定した。2)裁判所は兼松が男女同一労働同一賃金を定めた労基法4条に違反したことを、初めて認めた。3)転換制度についても、格差を是正するものではないと認定した、と的確に整理しつつ、いずれもよかったと判決を評価しました。しかし、4)自分のことについて請求を棄却されたことは口惜しいと、率直に胸のうちを明かしてくれました。

逆井さんの口惜しさは、少なからぬ欠陥を残した判決に、6人の原告全員が百パーセント喜びきれない、複雑な心情をも代弁していると思われます。

主任弁護士の中野麻美さんは最後に報告するなかで、「裁判所は外圧から自由ではなかった」と述べました。一定の前進がはっきり認められるなかで、請求金額の約1/3の賠償額しか認めなかったことや、こじ付け的に逆井さん、織田さんの請求権を切り捨ててしまったことなど、中途半端な判決に終わったことをこのように表現していました。

外圧とはむろん、財界や財界と密につるんでいる政権与党のことですが、彼らの力はまだまだ強く、本来3權分立で独立した権威を持つはずの司法の世界にずかずかと介入してきます。逆井さん、織田さんの請求権を切り捨て、全体の請求額も大幅にへずるなどしたのは、裁判所が財界、政府に気兼ねをし、少しでも労使間のバランスを取ろうとした結果であろうと考えざるを得ません。

集会の途中でどなたかがケイタイかラジオかでニュースを聞いていたらしく、兼松が上告すると言っていると知らせてくれました。集会はそのことで特に動揺することもなく、平静に続けられましたが、12年半闘い続け、疲労の極にあろうかと懸念される女性たちに、これでもかとばかりにパワハラを振るい続ける、人間の皮をかぶった兼松のけだものたちに、会場は静かな怒りに燃え上がりました。

中野弁護士が言われたように、こちらからも上告して徹底的に闘いたい、という気持ちが会場内にたぎってくるように感じられました。すべて、改めて相談の上きめられるようですが、どちらにしても今日の勝利で終わるわけにはいかなくなったことは明らかです。6人の女性たち、もう一度すべての自分たちの力と、すべての支援する力を一つに纏め上げ、絞りぬいて完全勝利のゴールになだれ込んでいきましょう。

東邦商会労組が1966年9月から4年半にわたる、偽装解散による不当解雇反対の労働争議のとき、上記兼松(江商)の女性たちから、こころざし篤く絶えることない支援を頂き、勝利の和解を勝ち取ることができました。時はめぐって今度は私たちが支援する番です。口惜しいかな数人はすでに亡く、私は終末期高齢者で力もありませんが、枯れ木も山の賑わいです。ボチボチと一緒に、闘い抜いていきましょう。