太古の「共生」:葉緑体の起源と進化

細胞内共生説によれば、植物(陸上植物+藻類)の持つ葉緑体は、「無色」の真核生物の祖先がシアノバクテリア様の原核生物を細胞内に取り込むことにより獲得されたと考えられています。これまでの研究により、最初の葉緑体が「どんなものだったか」についての理解は驚くほど進みましたが、そもそも葉緑体が「どのように」獲得されたのかについては、まだまだ未解明な部分が多く残されています。このような問題に対して、現在でもバクテリアを捕食する藻類を用いた捕食装置の構造や、葉緑体が進化して初めて獲得したと考えられている形質(例えば光合成アンテナ装置など)の解析を通して、始原的な葉緑体がどの様に進化してきたのかを明らかにしたいと考えています。

現在進行形の「共生」:サンゴ・褐虫藻共生生態系の進化と多様性

細胞内共生により光合成機能が進化し、拡張された例は太古の葉緑体獲得に限りません。サンゴ礁を形成するサンゴを始め、イソギンチャクやクラゲなどを含む刺胞動物の中には、褐虫藻と呼ばれる渦鞭毛藻の一種を細胞内共生させ、その共生藻が産生した光合成産物を自らの成長に利用しているものが知られています。しかし近年、海水温上昇などの環境変動により、こうした動物と植物との共生が「破綻」してしまい、サンゴの白化が起こるなど深刻な被害が報告されるようになっています。このような問題に取り組むためには、共生を維持するための機構がどのように進化し、現在のような多様な共生系が生まれてきたのかをより深く理解することが重要です。このために、刺胞動物のモデル種であるセイタカイソギンチャクと褐虫藻をモデルとして用い、共生の維持と破綻に関わる遺伝子や細胞機能の解析を行っています。