講義(Lectures)

流体若手夏の学校2015では、

”流体騒音と燃焼不安定”

~その予測と制御に向けて~

のテーマで4名の講師の先生方をお招きし、ご講演を予定しております。

【流体騒音】

東京大学生産技術研究所 加藤 千幸 先生

豊橋技術科学大学 飯田 明由 先生

流体の基礎と流体騒音の数値解析

概要 : 流体関連機器の高速化、高回転数化などに伴って流れから発生する騒音である流体騒音の予測と低減が重要な課題となっている。従来は実験や経験に基づく予測(騒音レベルの推定)が主として行われていたが、最近では計算機の発達に伴い、数値計算による流体騒音の予測も盛んに試みられている。

本講義では、まず、流体騒音の予測の基礎となる、乱流の発生やその数値解析などについて講義した後、流体騒音の数値解析方法の分類、各種解析方法の得失、ならびに、実際の解析事例などを紹介する。

流体騒音の計測技術と制御

概要:自動車や新幹線などの高速輸送機器,エアコンや電子機器などの冷却ファンの開発では流れから発生する音が問題となることが多い. 空力騒音を計測するには流れ場と音場の同時計測技術,流れと音の相関解析技術が必要となる.

本講義では流れと音の同時計測技術について解説する.低騒音風洞,熱線流速計,静圧変動計測計などの基礎的な技術からダイナミックPIVや非定常感圧塗料を用いた最新の計測技術を紹介する.また,プラズマアクチュエータを用いた空力騒音の制御技術を紹介する.

【燃焼不安定】

宇宙航空研究開発機構 立花 繁 先生

東京理科大学 後藤田 浩 先生

ガスタービンエンジン燃焼不安定問題の解決に向けた研究開発

概要:ジェットエンジンや発電用ガスタービンエンジンの低エミッション(NOx, PM 等)化が進むにつれ、燃焼振動と呼ばれる不安定現象の発生が大きな問題となっ ている。燃焼振動は、燃焼器内の火炎発熱変動と音響的な変動(速度・圧力 変動)との相互干渉によって発生し、多くの場合、大振幅の圧力振動を伴う。エンジン構造部品の疲労破壊や致命的な破損につながる恐れがあるため、燃焼安定化はエンジン開発の主要課題となっており、そのための研究開発が盛んに進められている。

本講義では、現象理解の基礎となる乱流予混合火炎の特性や燃焼不安定の発生条件について解説した上で、光学計測や数値計算を利用した燃焼安定性診断、及び、燃焼振動の抑制制御について実際の研究例を紹介する。最後に将来の課題解決に向けて注目される研究開発動向を展望する。

参考論文:

1.Lieuwen, T., Yang, V., Combustion Instabilities in Gas Turbine Engines: Operational Experience, Fundamental Mechanisms, and Modeling, AIAA, Reston, VA, 2005.

2.Tachibana et al. (2015) Combust. Flame 162, 2621-2637.

3.Tachibana et al. (2015) Proc. Combust. Inst. 35, 3299-3308.

4.Tachibana, et al. (2007) Proc. Combust. Inst. 31, 3225–3233.

複雑系科学による燃焼不安定の非線形特性の解明と工学的応用

概要:複雑な非線形現象を数理方程式として記述し, その解の分岐構造やカオス・フラクタル構造を解明する力学系理論は, 数物系のみならず, 生命医学系や電子情報系などの幅広い分野で取り入れられている. 力学系理論は応用数学分野で体系化が進んでいるが, ここ最近, 燃焼不安定を対象とした実験的・理論的研究に取り入れられ, 流体分野でも研究例が報告されつつある. 講演者も, 近年進展の著しい複雑系科学の理論と数理技術を用いて, ガスタービンエンジン燃焼不安定の新しい研究手法の開発を進めている.

本講義では, 力学系理論, 神経ネットワークの構造に着目したニューラルネットワーク, グラフ理論をもとにした複雑ネットワークなどの複雑系科学の基礎を解説する. そして, 複雑系科学による燃焼不安定の静的・動的性質の解明, 短期的な予測と検知・回避の可能性について解説する.

参考論文:

[1] V. Nair, G. Thampi, R. I. Sujith, Journal of Fluid Mechanics 756, 470, 2014.

[2] K. Kashinath, I. C. Waugh, M. P. Juniper, Journal of Fluid Mechanics 761, 399, 2014.

[3] H. Gotoda, M. Amano, T. Miyano, T. Ikawa, K. Maki, S. Tachibana, Chaos 22, 043128, 2012.

[4] H. Gotoda, Y. Shinoda, M. Kobayashi, Y. Okuno, S. Tachibana, Physical Review E 89, 022910, 2014.

[5] S. Domen, H. Gotoda, T. Kuriyama, Y. Okuno, S. Tachibana, Proceedings of the Combustion Institute 35, 3245, 2015.

また、参加者による話題提供(一人10分程度)を予定しております。